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第2章 久瀬玲華
罠②
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「って、全く手つけてないじゃねーか」
プリントをパラパラ見てみると、白紙だった。
「だから、助けてって言ってるでしょーが」
言いながら、玲華は早速数学の問題に取り掛かっていた。
まさか、本当に玲華が追い詰められてたとは、少し意外だった。なんでもかんでも軽くこなしてしまうのが久瀬玲華だと思っていたからだ。
(やれやれ。筆跡でバレてもしらないからな)
そう心中でぼやきながらも、俺も英語の問題に取り掛かった。
うん、難しいが、解けないことはない。何とかなりそうだ。
ただ、学校で読んでいるものよりはるかに難しい論文形式なので、頭が痛くなってくる。
(うっわ⋯⋯これ、よく見たらTIEFLテストの過去問じゃないか)
TIEFLテストは、英語を母国語としない人のための英語力を判定するテストだ。具体的には、アメリカやカナダの大学・大学院に留学する際に、英語力を証明するためのテスト。当然、難関私大の受験英語よりも難しい。
大きな溜め息を吐いて、英文の嵐に挑んだ。
「ていうか、なんでこんなとこで暮らしてるの? 他のスタッフさんとかは?」
「ペンションを貸し切ってるから、他の人達はみんなそこ。撮影場所から近いし」
「玲華だけ1人?」
「うん。まあ、私は1人になりたかったし、課題もあるから」
それを要求して飲んでもらえるくらいには、玲華の力は強いらしい。と、勝手に思っていたら、学業の邪魔をしないというのがREIKA復帰の条件だったそうだ。事務所はその要求をのまざるを得ないのだろう。
(学業に支障でまくってると思うけどな)
こうして真っ新な課題を見ていて思う。そもそも支障が出てるから俺がこうして呼ばれているだけで⋯⋯本当に、迷惑だ。
「ほんとはさ⋯⋯できると思ってた。役作りも、撮影も、課題も。それが、こんなに切羽詰まると思ってなくて。だから、本当にありがと」
「⋯⋯⋯⋯」
彼女にしては、素直だった。
というより、もしかすると本当に切羽詰まっているのかもしれない。
学祭に来て嵐を巻き起こすくらいなら、課題やればいいのに。
そんなことを思ったが、黙って課題をやる。喋りながらでは絶対に終わらない。
そこから無音でシャーペンの音だけがカリカリと部屋に響いた。
なんだか、こうして2人で勉強していると、付き合っていた頃を思い出す。あの頃もこうしてよく一緒に勉強していた。
「なんだかさ、こうしてると昔みたいだよね」
玲華がぽつりと言う。
「よくこうして一緒に勉強してた」
彼女も同じ事を思っていたのかもしれない。
「そうだな」
それだけ応えて、課題に集中する。今は昔のことを思い出している場合ではない。早く終わらせて、ここから出ないと。
色々まずい気がするし、凛に対して罪悪感が半端ない。
「あ、飲み物ほしいよね」
言いながら、玲華は立ち上がって冷蔵庫まで行って、戻ってくる。
「はい、どうぞ」
ブラックコーヒーのペットボトルをテーブルに置く。
「ちゃんと君の為にブラックも買ったんだからね」
少し、得意げ。
俺が来ることを想定してたんじゃないか。
「⋯⋯さんきゅ」
俺はそれだけ言って、コーヒーを受け取る。
「ていうか君、よくそんなもの飲めるよね。この前飲んでみたけど、苦すぎて捨てちゃった」
「俺はもう砂糖入りのが無理だよ」
「ほー? 大人ぶっちゃって」
くすっと笑って、再びテーブルで向かい合う。
「あ、でもあの時のブラックは美味しかった」
「⋯⋯?」
「君の唇から伝ってきたブラックコーヒーは、とっても甘かったよ?」
瞬時にこの前の出来事を思い出してしまった。同時に、あの時の微糖の味まで。玲華の唇につい視線がいってしまう。
「あ、思い出したんだ?」
にやにやとこちらを覗き込む。
「君の唇を伝えば、今もそのブラックコーヒーを美味しく感じるかな?」
「⋯⋯手伝うのやめるぞ」
なるべく冷静に。
動揺を見せずに、断る。
「はいはい、ごめんね」
玲華は肩をすくませて、演技じみた溜め息を吐いた。
こうして誘惑? を避けつつ、課題を進めた。
プリントをパラパラ見てみると、白紙だった。
「だから、助けてって言ってるでしょーが」
言いながら、玲華は早速数学の問題に取り掛かっていた。
まさか、本当に玲華が追い詰められてたとは、少し意外だった。なんでもかんでも軽くこなしてしまうのが久瀬玲華だと思っていたからだ。
(やれやれ。筆跡でバレてもしらないからな)
そう心中でぼやきながらも、俺も英語の問題に取り掛かった。
うん、難しいが、解けないことはない。何とかなりそうだ。
ただ、学校で読んでいるものよりはるかに難しい論文形式なので、頭が痛くなってくる。
(うっわ⋯⋯これ、よく見たらTIEFLテストの過去問じゃないか)
TIEFLテストは、英語を母国語としない人のための英語力を判定するテストだ。具体的には、アメリカやカナダの大学・大学院に留学する際に、英語力を証明するためのテスト。当然、難関私大の受験英語よりも難しい。
大きな溜め息を吐いて、英文の嵐に挑んだ。
「ていうか、なんでこんなとこで暮らしてるの? 他のスタッフさんとかは?」
「ペンションを貸し切ってるから、他の人達はみんなそこ。撮影場所から近いし」
「玲華だけ1人?」
「うん。まあ、私は1人になりたかったし、課題もあるから」
それを要求して飲んでもらえるくらいには、玲華の力は強いらしい。と、勝手に思っていたら、学業の邪魔をしないというのがREIKA復帰の条件だったそうだ。事務所はその要求をのまざるを得ないのだろう。
(学業に支障でまくってると思うけどな)
こうして真っ新な課題を見ていて思う。そもそも支障が出てるから俺がこうして呼ばれているだけで⋯⋯本当に、迷惑だ。
「ほんとはさ⋯⋯できると思ってた。役作りも、撮影も、課題も。それが、こんなに切羽詰まると思ってなくて。だから、本当にありがと」
「⋯⋯⋯⋯」
彼女にしては、素直だった。
というより、もしかすると本当に切羽詰まっているのかもしれない。
学祭に来て嵐を巻き起こすくらいなら、課題やればいいのに。
そんなことを思ったが、黙って課題をやる。喋りながらでは絶対に終わらない。
そこから無音でシャーペンの音だけがカリカリと部屋に響いた。
なんだか、こうして2人で勉強していると、付き合っていた頃を思い出す。あの頃もこうしてよく一緒に勉強していた。
「なんだかさ、こうしてると昔みたいだよね」
玲華がぽつりと言う。
「よくこうして一緒に勉強してた」
彼女も同じ事を思っていたのかもしれない。
「そうだな」
それだけ応えて、課題に集中する。今は昔のことを思い出している場合ではない。早く終わらせて、ここから出ないと。
色々まずい気がするし、凛に対して罪悪感が半端ない。
「あ、飲み物ほしいよね」
言いながら、玲華は立ち上がって冷蔵庫まで行って、戻ってくる。
「はい、どうぞ」
ブラックコーヒーのペットボトルをテーブルに置く。
「ちゃんと君の為にブラックも買ったんだからね」
少し、得意げ。
俺が来ることを想定してたんじゃないか。
「⋯⋯さんきゅ」
俺はそれだけ言って、コーヒーを受け取る。
「ていうか君、よくそんなもの飲めるよね。この前飲んでみたけど、苦すぎて捨てちゃった」
「俺はもう砂糖入りのが無理だよ」
「ほー? 大人ぶっちゃって」
くすっと笑って、再びテーブルで向かい合う。
「あ、でもあの時のブラックは美味しかった」
「⋯⋯?」
「君の唇から伝ってきたブラックコーヒーは、とっても甘かったよ?」
瞬時にこの前の出来事を思い出してしまった。同時に、あの時の微糖の味まで。玲華の唇につい視線がいってしまう。
「あ、思い出したんだ?」
にやにやとこちらを覗き込む。
「君の唇を伝えば、今もそのブラックコーヒーを美味しく感じるかな?」
「⋯⋯手伝うのやめるぞ」
なるべく冷静に。
動揺を見せずに、断る。
「はいはい、ごめんね」
玲華は肩をすくませて、演技じみた溜め息を吐いた。
こうして誘惑? を避けつつ、課題を進めた。
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