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第2章 久瀬玲華
ライラック
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「ねえ、翔くん」
「ん?」
翌日、ホームルームが終わって放課後になった直後に、すぐさま凛が声をかけてきた。
いつもみたいに友達に捕まる前に行動に出たらしい。
「今日さ、行きたいとこあるんだけど……この後空いてる?」
「んあ? 俺は基本的に空いてるよ」
どうせ暇人だし、と言って付け加える。
暇だから喫茶アイビスに顔を出して、いつも純哉や愛梨と時間を潰しているのだ。最近は凛も友達といる事が多いし……とはもちろん言わない。
「よかった~」
凛は眉根を寄せて、ほっと安堵の息を吐いた。
「なに? どこ行きたいの?」
訊くと、凛はにやりと悪戯げに笑って、
「翔くんち、行ってみたいな」
教室のど真ん中で。帰り支度をしている生徒がたくさんいる放課後で。彼女は爆弾発言をした。
その声は何故かいつもより通っていて、教室の雑談が一瞬止まった。純哉と愛梨も、目を点にして固まっている。
「え……?」
「だから、翔くんち、行ってみたい」
彼女は悪戯な笑みを崩さないまま、まるで何かを楽しんでいるように、こちらを覗き込んで復唱する。
横で純哉が何かを言おうとしたが、愛梨が純哉の口を塞いで、そのままジタバタ暴れる純哉を、ずるずると教室の外まで引きずっていった。それを合図とするように、教室の時間が再び動きだす。
「えっと、それは……その、どういう意味?」
「そのまんまの意味」
だから! それはどういう意味だって訊いてんだよ!
男の家に来るってどういう意味かわかってんのか、こいつ!
元有名モデルで元芸能人とは思えないほどの無防備な発言に、思わず頭が痛くなる。
「あ、もしかして、部屋掃除してなかったりする? 私、そういうの気にしないから、安心して」
気にしろ! 俺は気にする!
幸い部屋は掃除したばかりだから綺麗なんだけど!
「何だったら、掃除手伝おっか?」
「汚くないから!」
「じゃあ、行っても大丈夫だよね?」
「ぐっ……」
なんだ、なんなんだこの詰め将棋感は。めちゃくちゃ俺の逃げ道がなくなっていくぞ。
「だから、それ、どういう意味でって言ってんだよ……」
「どういう意味って?」
凛は顎に手を当てて、少し考えるしぐさをした後、
「大切なもののため、かな?」
「それは何なんだよ」
「もちろん……君との青春♪」
どや顔である。
恥ずかしくなって教室の窓から飛び降りたくなった。
周囲のクラスメイト達から途端に冷やかしの声が飛んでくる。
ていうか、昨日はそのセリフを言って顔から火を噴いてたくせに、何で今日はそんな自信満々の顔してんだよ、と思って彼女を見ると、その顔はいつもと違った。そして、その顔には見覚えがあった。
今の凛の表情は、普段の雨宮凛ではなく、有名モデルRINのそれだったのだ。教室で皆がいる前だからなのか、完全にRINモードだからか、こんな演技がかった事でも恥ずかし気もなく言えるのだろう。
くそッ、これだから元げーのーじんってやつは!
「ほらー、相沢くん、カノジョにここまで言わせてるのに、何躊躇してんの?」
「いいじゃん、家連れてってあげるくらい! あのRINを家に呼べるんだよ?」
そーだそーだ、と言わんばかりに周りの女子が凛の肩を持ち始めた。男は男で、「なんでお前ばっかし!」とキレているし。
おいおい、なんなんだこの状況は。教室がほぼ全員敵になったぞ。
「だって、家に親いるし……」
「それが何か問題あるの? 私もご挨拶したいし……」
言いながら、彼女の笑みが再び悪戯なものに変わっていく。
あ、この発言はミスった。そう思ったが、もう手遅れだった。
「それとも、誰もいない時に呼びたかった、とか?」
凛がそう言うと、女子がその瞬間キャーキャー言いだして、俺をスケベだとか変態だとか面白おかしく言い出して、男連中からは「死ね!」と言われていた。
その空気に耐えきれず、俺は凛の手を取って、慌てて教室を飛び出た。
背後から罵詈雑言やら冷やかしの声が聞こえたが、振り向く事なくその場から逃げ続けた。隣の凛は、物凄く嬉しそうににこにこしていた。
「ん?」
翌日、ホームルームが終わって放課後になった直後に、すぐさま凛が声をかけてきた。
いつもみたいに友達に捕まる前に行動に出たらしい。
「今日さ、行きたいとこあるんだけど……この後空いてる?」
「んあ? 俺は基本的に空いてるよ」
どうせ暇人だし、と言って付け加える。
暇だから喫茶アイビスに顔を出して、いつも純哉や愛梨と時間を潰しているのだ。最近は凛も友達といる事が多いし……とはもちろん言わない。
「よかった~」
凛は眉根を寄せて、ほっと安堵の息を吐いた。
「なに? どこ行きたいの?」
訊くと、凛はにやりと悪戯げに笑って、
「翔くんち、行ってみたいな」
教室のど真ん中で。帰り支度をしている生徒がたくさんいる放課後で。彼女は爆弾発言をした。
その声は何故かいつもより通っていて、教室の雑談が一瞬止まった。純哉と愛梨も、目を点にして固まっている。
「え……?」
「だから、翔くんち、行ってみたい」
彼女は悪戯な笑みを崩さないまま、まるで何かを楽しんでいるように、こちらを覗き込んで復唱する。
横で純哉が何かを言おうとしたが、愛梨が純哉の口を塞いで、そのままジタバタ暴れる純哉を、ずるずると教室の外まで引きずっていった。それを合図とするように、教室の時間が再び動きだす。
「えっと、それは……その、どういう意味?」
「そのまんまの意味」
だから! それはどういう意味だって訊いてんだよ!
男の家に来るってどういう意味かわかってんのか、こいつ!
元有名モデルで元芸能人とは思えないほどの無防備な発言に、思わず頭が痛くなる。
「あ、もしかして、部屋掃除してなかったりする? 私、そういうの気にしないから、安心して」
気にしろ! 俺は気にする!
幸い部屋は掃除したばかりだから綺麗なんだけど!
「何だったら、掃除手伝おっか?」
「汚くないから!」
「じゃあ、行っても大丈夫だよね?」
「ぐっ……」
なんだ、なんなんだこの詰め将棋感は。めちゃくちゃ俺の逃げ道がなくなっていくぞ。
「だから、それ、どういう意味でって言ってんだよ……」
「どういう意味って?」
凛は顎に手を当てて、少し考えるしぐさをした後、
「大切なもののため、かな?」
「それは何なんだよ」
「もちろん……君との青春♪」
どや顔である。
恥ずかしくなって教室の窓から飛び降りたくなった。
周囲のクラスメイト達から途端に冷やかしの声が飛んでくる。
ていうか、昨日はそのセリフを言って顔から火を噴いてたくせに、何で今日はそんな自信満々の顔してんだよ、と思って彼女を見ると、その顔はいつもと違った。そして、その顔には見覚えがあった。
今の凛の表情は、普段の雨宮凛ではなく、有名モデルRINのそれだったのだ。教室で皆がいる前だからなのか、完全にRINモードだからか、こんな演技がかった事でも恥ずかし気もなく言えるのだろう。
くそッ、これだから元げーのーじんってやつは!
「ほらー、相沢くん、カノジョにここまで言わせてるのに、何躊躇してんの?」
「いいじゃん、家連れてってあげるくらい! あのRINを家に呼べるんだよ?」
そーだそーだ、と言わんばかりに周りの女子が凛の肩を持ち始めた。男は男で、「なんでお前ばっかし!」とキレているし。
おいおい、なんなんだこの状況は。教室がほぼ全員敵になったぞ。
「だって、家に親いるし……」
「それが何か問題あるの? 私もご挨拶したいし……」
言いながら、彼女の笑みが再び悪戯なものに変わっていく。
あ、この発言はミスった。そう思ったが、もう手遅れだった。
「それとも、誰もいない時に呼びたかった、とか?」
凛がそう言うと、女子がその瞬間キャーキャー言いだして、俺をスケベだとか変態だとか面白おかしく言い出して、男連中からは「死ね!」と言われていた。
その空気に耐えきれず、俺は凛の手を取って、慌てて教室を飛び出た。
背後から罵詈雑言やら冷やかしの声が聞こえたが、振り向く事なくその場から逃げ続けた。隣の凛は、物凄く嬉しそうににこにこしていた。
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