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第2章 久瀬玲華
秋の小川
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翌日の授業中、凛が授業中にこっそりメモ帳のような小さなメッセージ用紙を渡してきた。
『昨日はごめんね! 今日は一緒に帰ろ?』
すぐにOKと書いて凛に返すと、にっこりと彼女は嬉しそうに笑って見せた。
学校で彼女と話す時間は正直言うと少ない。愛梨なんかはそこそこ話しているようだが、基本的に他の女の子に捕まってしまっている。
凛と話したいが為にそこの中に入っていくほど野暮ではないし、基本的にやり取りはLIMEや電話がメイン。もちろん、電話は電話でドキドキするし、凛と話してるだけでも俺は楽しかった。電話を切る前に言ってくれる「好き」という短い言葉が幸福感を与えてくれた。
ただ、やっぱり彼女に触れられないのは少しばかりつらいものがあった。
放課後になると、凛はせっせと帰り支度をして、友達に捕まらないように「じゃあね!」と挨拶をして、すぐさま教室を出た。
そのすぐ後に『校門で待ってる』と彼女からメッセージが届いたので、俺もすぐに昇降口に向かった。やっと二人で話せると思うと、それだけで歩みが速くなる。
校門までいくと、凛が笑顔で待ってくれていた。
「久しぶりー」
凛が嬉しそうに言う。
確かに、二人っきりで対面して話すのは、一週間ぶりな気がした。
「一八年ぶりくらいだっけ」
「長いねえ」
そんなどうでもいい話をすると、どちらともなく家路へと歩き出す。
道中、凛は最近あった事を奏でるように話した。
クラスの女の子が恋をしていて、告白しようか迷っている事。はたまた、好きな先輩にそうすれば振り向いてもらえるか、或いは彼氏と上手くいっていない子がいる事。
凛はたくさんの人から頼られているようだった。
「でもさー、まさか泣かれると思わなかったよね。さすがに私も焦っちゃった」
相談に乗っているうちに、また相談者が泣き出してしまったのだという。それで昨日はアイビスに来れなくなったのだ。
泣いているクラスメイトを放ったらかして彼氏に会うという選択肢を彼女は取れなかったようだ。勿論、そういった事情であれば、友達を優先して欲しいと思う。
「そういえば前もそんな事なかったっけ?」
少し前にそんな光景を見た記憶がある。
俺が訊くと、凛はニヤニヤして、言った。
「あー、やっぱり起きてたんだ?」
しまった。寝てて聴いてないって設定だった。
彼女が俺の席の横で悩み相談を初めて、それで片思いしてた子が泣き崩れていた時だ。ほんの一ヶ月前程度なのに、もう随分昔の事のように思えた。
「どこまで聞いてたの?」
「もうあんま覚えてないけど、凛が彼氏作ったことないって話をしてたのは覚えてる」
彼女はしまった、という顔をして赤面した。
「そ、そんな話もしてたっけ……」
「してたよ」
それから数時間後、俺と付き合う事になるとは思ってもいなかっただろう。俺だって、彼女からキスされるとは、夢にも思っていなかったし。
「高校入ってから恋愛なんてしてる余裕なかったからさ。仕事と勉強でてんてこ舞い。学校行って、撮影行って、の繰り返し。車の中から見るほかの高校生達が羨ましくってさ……」
凛は少し遠い目をして、思い返すようにいった。
「他の子からしたら、凛が羨ましかったと思うけど」
「かもね」
彼女は少し困ったように笑った。
そんな風にどうでもいい話をして、田舎道を二人で歩く。いつもは退屈だったこの通学路だが、凛が隣にいるだけで輝いて見えるから不思議だ。
空も暗くなってきた頃、田畑の中にある小川にかけられた小さな橋を渡る最中に、凛が不意に立ち止まった。
『昨日はごめんね! 今日は一緒に帰ろ?』
すぐにOKと書いて凛に返すと、にっこりと彼女は嬉しそうに笑って見せた。
学校で彼女と話す時間は正直言うと少ない。愛梨なんかはそこそこ話しているようだが、基本的に他の女の子に捕まってしまっている。
凛と話したいが為にそこの中に入っていくほど野暮ではないし、基本的にやり取りはLIMEや電話がメイン。もちろん、電話は電話でドキドキするし、凛と話してるだけでも俺は楽しかった。電話を切る前に言ってくれる「好き」という短い言葉が幸福感を与えてくれた。
ただ、やっぱり彼女に触れられないのは少しばかりつらいものがあった。
放課後になると、凛はせっせと帰り支度をして、友達に捕まらないように「じゃあね!」と挨拶をして、すぐさま教室を出た。
そのすぐ後に『校門で待ってる』と彼女からメッセージが届いたので、俺もすぐに昇降口に向かった。やっと二人で話せると思うと、それだけで歩みが速くなる。
校門までいくと、凛が笑顔で待ってくれていた。
「久しぶりー」
凛が嬉しそうに言う。
確かに、二人っきりで対面して話すのは、一週間ぶりな気がした。
「一八年ぶりくらいだっけ」
「長いねえ」
そんなどうでもいい話をすると、どちらともなく家路へと歩き出す。
道中、凛は最近あった事を奏でるように話した。
クラスの女の子が恋をしていて、告白しようか迷っている事。はたまた、好きな先輩にそうすれば振り向いてもらえるか、或いは彼氏と上手くいっていない子がいる事。
凛はたくさんの人から頼られているようだった。
「でもさー、まさか泣かれると思わなかったよね。さすがに私も焦っちゃった」
相談に乗っているうちに、また相談者が泣き出してしまったのだという。それで昨日はアイビスに来れなくなったのだ。
泣いているクラスメイトを放ったらかして彼氏に会うという選択肢を彼女は取れなかったようだ。勿論、そういった事情であれば、友達を優先して欲しいと思う。
「そういえば前もそんな事なかったっけ?」
少し前にそんな光景を見た記憶がある。
俺が訊くと、凛はニヤニヤして、言った。
「あー、やっぱり起きてたんだ?」
しまった。寝てて聴いてないって設定だった。
彼女が俺の席の横で悩み相談を初めて、それで片思いしてた子が泣き崩れていた時だ。ほんの一ヶ月前程度なのに、もう随分昔の事のように思えた。
「どこまで聞いてたの?」
「もうあんま覚えてないけど、凛が彼氏作ったことないって話をしてたのは覚えてる」
彼女はしまった、という顔をして赤面した。
「そ、そんな話もしてたっけ……」
「してたよ」
それから数時間後、俺と付き合う事になるとは思ってもいなかっただろう。俺だって、彼女からキスされるとは、夢にも思っていなかったし。
「高校入ってから恋愛なんてしてる余裕なかったからさ。仕事と勉強でてんてこ舞い。学校行って、撮影行って、の繰り返し。車の中から見るほかの高校生達が羨ましくってさ……」
凛は少し遠い目をして、思い返すようにいった。
「他の子からしたら、凛が羨ましかったと思うけど」
「かもね」
彼女は少し困ったように笑った。
そんな風にどうでもいい話をして、田舎道を二人で歩く。いつもは退屈だったこの通学路だが、凛が隣にいるだけで輝いて見えるから不思議だ。
空も暗くなってきた頃、田畑の中にある小川にかけられた小さな橋を渡る最中に、凛が不意に立ち止まった。
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