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第1章 雨宮凛

初デート②

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 天津屋の店長は俺を見るなり「また来たアルか」と面倒そうな顔をして言ったが(客が来たのにどうかと思う)、隣に居るのが話題のRINだとわかると一転して態度を変え、タダで料理を出してくれた。
 普段とはエラい違いである。タダで料理を出した代わりに、と色紙を慌てて買ってきて、凛にサインを要求するあたりはさすがだ。凛はタダ飯を食らうことには申し訳なさそうだったが、サインに関しては快く承諾していた。『天津屋さんへ』と書かれたサインは、すぐさま店の中に飾られていた。
 店長は「なんか都会の有名店みたいネー!」ととても喜んでいた。まあ、凛以外のサインが飾られる事は無いだろう。一方、凛も天津屋の味には満足した様で、「こんな美味しい中華は初めて!」と大絶賛だった。
 お互いに好印象。良い事だ。
 天津屋で食事を終えた俺達は、商店街をぶらぶらと歩いた。基本遊ぶ場所が無いので、散歩くらいしかやる事がない。本屋に寄って凛が載ってる雑誌を見てからかったり、駄菓子屋でアイスを買って、商店街の外れにある寂れた神社で食べたり。
 中には凛を見て驚いたり騒いだりする人もいたけど、先週みたいに問題が起こるレベルではない。
 こうして歩いていみると、本当に遊ぶ事がない。喫茶アイビスに連れて行こうかとも考えたが、やめた。もしかしたら愛梨と純哉が今日も勉強しているかもしれない。何て言うか、初デートなんだから出来れば部外者は交えたくなかった。四人で集まったら先週と同じだし。

「ほんとに、なーんにも無いね」

 アイスを食べ終えた凛が、大きく伸びをして立ち上がった。彼女は俺の手からアイスのゴミを取ると、自分のと一緒にゴミ箱まで持って行って捨ててくれた。

「だから、そう言ったじゃんか」

 俺がこの一年、暇を持て余してきた所以である。暇を潰したいなら自分の部屋か友達の部屋で遊ぶか、後はバイトくらいしかない。そんな場所だ。

「皆服とか何処に買いに行ってるの?」
「まあ、大体先週行った町まで出るか、イワンモールじゃないかな」
「イワン?」
「バスで少し行ったとこにあるショッピングモールみたいなとこかな。美容室もそこにあるし、ゲーセンもあるし映画館もある」

 田舎にいくと必ずある全国チェーンのあれだ。

「あ、私そこ行きたいかも」

 目を輝かせて言う。
 そんな目を見せられると断れない。ただ、イワンモールはこのあたりじゃ唯一のデートスポットや遊びスポットと言っても過言ではない。結構学校の連中もいるので、誰かに見られたら面倒事になりそうである。

「ほら、早く!」

 そんな危惧をよそに、凛は楽しそうな顔で、俺の手を引いてくる。
 彼女が楽しめているのなら、多少の面倒事なら何とかしてやろう。そんな気にさせてくるから、不思議だ。
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