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第1章 雨宮凛
図書室と勉強と過去②
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「何で翔くんに見られるかな~。さっき帰ったと思ったのに」
どちらともなく、宛もなく歩き始めた。
「教科書忘れて取りに戻って、ついでに勉強しようと思っただけ。見られたらまずいのか?」
ついでにの後は嘘だ。凛を捜していただけである。
「まずくはないけど……あんまり見られたくなかったかな」
「何で?」
「中間テストで翔くんより良い点取ってびっくりさせようと思ってたから」
拗ねた様に彼女は言った。なんだ、その理由。
「じゃあ、テストで勝負する?」
我ながら懐かしい台詞を自分でも吐いてみた。確か前の彼女……玲華もこんな風な流れで勝負を持ちかけてきたのだ。
「……やめとく。勝負って意識されると勝てないのわかってるから」
「そんなのやって見なきゃわかんねーじゃん」
俺がそう言うと、凛は立ち止まった。
「……わかるよ」
とても悲しそうに笑って、彼女は言い切った。まるで、もう何度も同じ未来を見たかの様に……諦め切った表情。
「何で? 何でそう言い切れんの?」
何か、引っかかった。彼女のその表情に何か引き留められた。
「だって……」
そして、一瞬……ほんの一瞬だけ、彼女の表情から悔しさが滲み出た。何とも無い様な笑みの間の悔しさ。ただ、それはほんの一瞬で、次に見た時には普段からよく見せる、眉根を少し寄せ困った様な笑みになっていた。
「翔くんってワセ高だったんでしょ?」
「え?」
何で知ってるんだ?
凛には俺が都内のどこの高校に通っていたか言ってないはずだ。
ワセ高とは、早稲大学付属高校の略称。全国ではトップクラスの私大付属高校で、俺は昨年までそこの生徒だった。全国数ある高校でもトップクラスの偏差値を誇る高校ではあるが、俺はここの生徒として何も誇りを持てなかった。そこは、俺の第一志望高校ではなかったからだ。
「あ……えっと、愛梨から聞いた」
「ああ……」
なるほど。愛梨は結構凛と一緒に居る事が多い。愛梨が女の子と行動を共にするのも珍しい光景だ。愛梨は愛梨でそれに対して不安や疑問を抱いている様だけど。その時、俺はどこの高校にいたのかも聞いたのだろう。
「特進って言っても堀高の私と、ワセ高の翔くんとじゃ結果見えてるでしょ? 偏差値だって二十近く違うし」
確かに……堀之内高校は特進と言えども偏差値換算だと五十台半ばだった。鳴那高も偏差値で言えば五十半ばなので同じくらいだ。対して、俺が去年まで通ってたワセ高は七十前半だったから、確かに二十くらい違う。ただ、そんな俺も第一志望の海成には落ちたわけで。あんまり偏差値とか学歴とかの話は好きじゃなかった。
「授業中はいつも寝てるのに、いつもトップクラスの成績だって愛梨や純哉君も文句言ってたよ」
「……やめてくれ」
行きたい高校に行けず、第二志望の高校に入ったものの、張り合う相手と勉強の情熱を失って、更に引っ越しで田舎の高校に来て……それでトップクラスだと言われても、正直うれしくとも何ともない。惨めになるだけだった。
鳴那高の皆には悪いけれど、この高校のレベルの問題なら少し勉強すれば解けてしまうのだ。だから普段授業では何もやらず、当てられそうだったらざっと教科書を眺めれば答えが書いてある。成績は落としたくないから勉強はするけど、一位になりたいわけじゃない。そんなものに拘るのがいかに無意味か、高校受験で学んだ。
「ごめん……」
凛は、なぜかわからないが謝った。俺に嫌な事を思い出させたと思ったのだろうか。別に凛は何も悪くない。悪いのは、未だ後悔を断ち切れない俺自身だ。
そのまま俺達は黙って歩く。下を歩く人は誰もいない。二人だけ世界に取り残された様に、足音が二つ。
「ねえ」
目的もなく歩いていたら、不意に凛が呼び止めた。
「教室で勉強しない? 明日遊び切る為には、今日中に数学の範囲終わらせておきたいし」
今までの流れを無視するかの様に、凛はあっけらかんとして言った。彼女なりに気を利かせたのだろう。というか、翌日テストでも遊ぶ約束は有効なのな。
「ああ、いいよ」
断る理由もなかったので、俺達は教室に向かった。
どちらともなく、宛もなく歩き始めた。
「教科書忘れて取りに戻って、ついでに勉強しようと思っただけ。見られたらまずいのか?」
ついでにの後は嘘だ。凛を捜していただけである。
「まずくはないけど……あんまり見られたくなかったかな」
「何で?」
「中間テストで翔くんより良い点取ってびっくりさせようと思ってたから」
拗ねた様に彼女は言った。なんだ、その理由。
「じゃあ、テストで勝負する?」
我ながら懐かしい台詞を自分でも吐いてみた。確か前の彼女……玲華もこんな風な流れで勝負を持ちかけてきたのだ。
「……やめとく。勝負って意識されると勝てないのわかってるから」
「そんなのやって見なきゃわかんねーじゃん」
俺がそう言うと、凛は立ち止まった。
「……わかるよ」
とても悲しそうに笑って、彼女は言い切った。まるで、もう何度も同じ未来を見たかの様に……諦め切った表情。
「何で? 何でそう言い切れんの?」
何か、引っかかった。彼女のその表情に何か引き留められた。
「だって……」
そして、一瞬……ほんの一瞬だけ、彼女の表情から悔しさが滲み出た。何とも無い様な笑みの間の悔しさ。ただ、それはほんの一瞬で、次に見た時には普段からよく見せる、眉根を少し寄せ困った様な笑みになっていた。
「翔くんってワセ高だったんでしょ?」
「え?」
何で知ってるんだ?
凛には俺が都内のどこの高校に通っていたか言ってないはずだ。
ワセ高とは、早稲大学付属高校の略称。全国ではトップクラスの私大付属高校で、俺は昨年までそこの生徒だった。全国数ある高校でもトップクラスの偏差値を誇る高校ではあるが、俺はここの生徒として何も誇りを持てなかった。そこは、俺の第一志望高校ではなかったからだ。
「あ……えっと、愛梨から聞いた」
「ああ……」
なるほど。愛梨は結構凛と一緒に居る事が多い。愛梨が女の子と行動を共にするのも珍しい光景だ。愛梨は愛梨でそれに対して不安や疑問を抱いている様だけど。その時、俺はどこの高校にいたのかも聞いたのだろう。
「特進って言っても堀高の私と、ワセ高の翔くんとじゃ結果見えてるでしょ? 偏差値だって二十近く違うし」
確かに……堀之内高校は特進と言えども偏差値換算だと五十台半ばだった。鳴那高も偏差値で言えば五十半ばなので同じくらいだ。対して、俺が去年まで通ってたワセ高は七十前半だったから、確かに二十くらい違う。ただ、そんな俺も第一志望の海成には落ちたわけで。あんまり偏差値とか学歴とかの話は好きじゃなかった。
「授業中はいつも寝てるのに、いつもトップクラスの成績だって愛梨や純哉君も文句言ってたよ」
「……やめてくれ」
行きたい高校に行けず、第二志望の高校に入ったものの、張り合う相手と勉強の情熱を失って、更に引っ越しで田舎の高校に来て……それでトップクラスだと言われても、正直うれしくとも何ともない。惨めになるだけだった。
鳴那高の皆には悪いけれど、この高校のレベルの問題なら少し勉強すれば解けてしまうのだ。だから普段授業では何もやらず、当てられそうだったらざっと教科書を眺めれば答えが書いてある。成績は落としたくないから勉強はするけど、一位になりたいわけじゃない。そんなものに拘るのがいかに無意味か、高校受験で学んだ。
「ごめん……」
凛は、なぜかわからないが謝った。俺に嫌な事を思い出させたと思ったのだろうか。別に凛は何も悪くない。悪いのは、未だ後悔を断ち切れない俺自身だ。
そのまま俺達は黙って歩く。下を歩く人は誰もいない。二人だけ世界に取り残された様に、足音が二つ。
「ねえ」
目的もなく歩いていたら、不意に凛が呼び止めた。
「教室で勉強しない? 明日遊び切る為には、今日中に数学の範囲終わらせておきたいし」
今までの流れを無視するかの様に、凛はあっけらかんとして言った。彼女なりに気を利かせたのだろう。というか、翌日テストでも遊ぶ約束は有効なのな。
「ああ、いいよ」
断る理由もなかったので、俺達は教室に向かった。
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