26 / 192
第1章 雨宮凛
愛梨の詮索
しおりを挟む
翌日は強い雨となった。朝方から降り始め、登校時間には土砂降りになっていた。傘はさしていたが、靴の中に水が染みてきて不快だ。初秋の草の匂いが雨により強くなり、鼻を擽る。
いつもは近道で畑の合間を区切る農道なんかをショートカットするのだが、雨の日は靴が土でぐしゃぐしゃになってしまうので、大人しくコンクリートの道を歩いていく。
普段は流れの穏やかな川も、今日は雨の影響で水位も増して急な流れになっていた。
汚ねぇ水、と思いながら増水した川を眺めていると、橋の上で歩いている愛梨を発見した。後ろ姿でも、愛梨の怠そうな歩き方とスレンダースタイルは一発でわかる。
少し歩を進めて横に並んで「よう」と挨拶すると、開口一番が「雨うぜえ」だった。
「髪染めたら早速かよ。喧嘩売ってんのか」
愛梨はぼやく様に続けた。
言葉通り、愛梨の髪は昨日と違う髪色になっていた。
濃い赤に近い茶髪で、明るさが目立っていた昨日まで、というか凛と同じ系統の髪色ではなかった。髪型もポニーテールにしていた。やはり、昨日俺が言っていたことを気にしていたみたいだ。
ちなみにうちの学校の校則は緩い。染髪とピアスくらいでは特に何も言われない。田舎の公立高校なんてこんなものだ。
俺も東京の私立高校に通ってた時は校則で短かめの髪だったが、こちらの高校に通い始めて伸ばし始めた。
「別に……アンタに言われたから変えたわけじゃないからな。括ったのは雨だったからだ」
愛梨が俺の内心を読みとったかの様に付け加える。
それ、逆に肯定してると思うのだけれど。そう思いながらも、俺は何も反論せず頷いておいた。もう殴られるのは懲り懲りだった。
「で、昨日大丈夫だったのかよ」
愛梨が突然切り出してくる。
「なにが」
「凛」
ああ、そっちか。てっきり愛梨にやられたボディブローの話かと思った。
「まあ、大変だったけど何とか」
「鼻の下伸ばしてたわけか」
「ちげーよボケ」
朝から何なんだ、このやりとりは。
「ただ、何で嘘吐いてまで相沢に拘るんだろうな、あの子は」
「え?」
「昨日の昼休みに言ってた理由……多分本心じゃねーぞ」
愛梨は遠くを歩く同じ学校の生徒達をぼんやり眺めつつ言う。
愛梨も俺と同じ疑問を感じていたみたいだ。
「何でそう思った?」
「女の勘ってやつ」
「え、お前女だっけ」
「殺すぞ」
「ごめんなさい」
危ない危ない。つい癖で余計な事を言ってしまった。命は粗末にするもんじゃないのに。
「そういえば……相沢は好きな女とかいねーの? あ、凛以外で」
何でいきなり凛が出てくるんだかわからない。
「は? 何で?」
「いや、何となく。相沢のそういう浮いた話、聞いた事ないし」
それもそうだ。
俺は鳴那町に引っ越してきてから恋愛沙汰なんて全くないつまらない日々を送っている。
「鳴那に来てからの俺は、お前の知ってる通りだと思うけど」
恋愛沙汰どころか友達も少ない俺に何を求めてるんだか。転入当初は、都会から引っ越してきた物珍しさという点で人が集まってきたが、存在に慣れてしまえば影は薄くなった。
その理由は俺にあって、多分人に必要以上踏み込めないからだ。極端に敵視してくる奴以外とは誰とでもある程度仲良くなれるし、それなりにやり過ごせる。だが、それはあくまでも知人レベルの付き合いであり、友人とはほど遠い。オフで誰かと遊んだりする事も少ないし、誘われない様に避けていた様に思う。
俺は元来、あまり人付き合いが好きではないのだ。そんな付き合い方をしていると、徐々に連む連中が狭まり、最終的に残ったのが、純哉と愛梨だった。
なんて言うか……純哉はお調子者で友人は多いのだが、何故か俺を気に入っているし、あいつは極端に人の領域に入って来ようとしない。良い距離感を保ってくれて心地よい関係を築いている。
愛梨は元々純哉とよく連んでいたから自然と仲良くなったが、純哉みたいに決して相性が良いわけではない。ムカつくし恐いし暴力振るうし元ヤン疑惑あるし。ただ、何故か気を許してしまうところもある。女と意識しなくていいのが楽かもしれない。
そんな純哉と愛梨だけが、暇な休日なんかは三人でダラダラ過ごしたりする時もある。
「東京に居た時は? 彼女とか好きな子とか」
そろそろ校門が見えてきたのだが、何だかまた変な質問を受けた。
一般的には変ではないのだろうが、俺と愛梨の間では変だ。こいつと恋愛についてなんて今まで話した事がないし、こいつの彼氏の話は純哉と二人で居る時に純哉が話題として出すものなので、直接訊いたものではない。
「まあ……引っ越す少し前まではいたけどな。中学から同じ塾に通ってた」
「へえ……初耳」
「誰にも言ってねーからな」
「で、どんな子だったんだよ? なんで別れた?」
「もういいだろ」
愛梨が面白いおもちゃを見つけた様な顔になっていたし、何となく思い出すのも嫌だったので、会話を終わらせた。もう学校にも着いたし、嫌な話は終わりだ。
下駄箱から廊下、教室までの道のりで愛梨はずっと食いついてきたが、彼女にそれ以上教えてやる義務はない。
(なんで別れた、か……)
別れた理由は簡単だ。俺が、彼女──玲華とは釣り合わなかっただけだ。想い出す度に自分が情けなくなって……自己嫌悪に陥りそうになる。
誰にだってそういう事はある。
そう思いながら教室の前に出来た群衆をかぎ分けて教室の中に入ると、やはりと言うか、凛の周りに人だかりが出来ていた。教室が見せ物小屋状態になっているのは凛を見に来た観客共だ。
おそらくもう暫くはこんな日が続くだろう。
いつもは近道で畑の合間を区切る農道なんかをショートカットするのだが、雨の日は靴が土でぐしゃぐしゃになってしまうので、大人しくコンクリートの道を歩いていく。
普段は流れの穏やかな川も、今日は雨の影響で水位も増して急な流れになっていた。
汚ねぇ水、と思いながら増水した川を眺めていると、橋の上で歩いている愛梨を発見した。後ろ姿でも、愛梨の怠そうな歩き方とスレンダースタイルは一発でわかる。
少し歩を進めて横に並んで「よう」と挨拶すると、開口一番が「雨うぜえ」だった。
「髪染めたら早速かよ。喧嘩売ってんのか」
愛梨はぼやく様に続けた。
言葉通り、愛梨の髪は昨日と違う髪色になっていた。
濃い赤に近い茶髪で、明るさが目立っていた昨日まで、というか凛と同じ系統の髪色ではなかった。髪型もポニーテールにしていた。やはり、昨日俺が言っていたことを気にしていたみたいだ。
ちなみにうちの学校の校則は緩い。染髪とピアスくらいでは特に何も言われない。田舎の公立高校なんてこんなものだ。
俺も東京の私立高校に通ってた時は校則で短かめの髪だったが、こちらの高校に通い始めて伸ばし始めた。
「別に……アンタに言われたから変えたわけじゃないからな。括ったのは雨だったからだ」
愛梨が俺の内心を読みとったかの様に付け加える。
それ、逆に肯定してると思うのだけれど。そう思いながらも、俺は何も反論せず頷いておいた。もう殴られるのは懲り懲りだった。
「で、昨日大丈夫だったのかよ」
愛梨が突然切り出してくる。
「なにが」
「凛」
ああ、そっちか。てっきり愛梨にやられたボディブローの話かと思った。
「まあ、大変だったけど何とか」
「鼻の下伸ばしてたわけか」
「ちげーよボケ」
朝から何なんだ、このやりとりは。
「ただ、何で嘘吐いてまで相沢に拘るんだろうな、あの子は」
「え?」
「昨日の昼休みに言ってた理由……多分本心じゃねーぞ」
愛梨は遠くを歩く同じ学校の生徒達をぼんやり眺めつつ言う。
愛梨も俺と同じ疑問を感じていたみたいだ。
「何でそう思った?」
「女の勘ってやつ」
「え、お前女だっけ」
「殺すぞ」
「ごめんなさい」
危ない危ない。つい癖で余計な事を言ってしまった。命は粗末にするもんじゃないのに。
「そういえば……相沢は好きな女とかいねーの? あ、凛以外で」
何でいきなり凛が出てくるんだかわからない。
「は? 何で?」
「いや、何となく。相沢のそういう浮いた話、聞いた事ないし」
それもそうだ。
俺は鳴那町に引っ越してきてから恋愛沙汰なんて全くないつまらない日々を送っている。
「鳴那に来てからの俺は、お前の知ってる通りだと思うけど」
恋愛沙汰どころか友達も少ない俺に何を求めてるんだか。転入当初は、都会から引っ越してきた物珍しさという点で人が集まってきたが、存在に慣れてしまえば影は薄くなった。
その理由は俺にあって、多分人に必要以上踏み込めないからだ。極端に敵視してくる奴以外とは誰とでもある程度仲良くなれるし、それなりにやり過ごせる。だが、それはあくまでも知人レベルの付き合いであり、友人とはほど遠い。オフで誰かと遊んだりする事も少ないし、誘われない様に避けていた様に思う。
俺は元来、あまり人付き合いが好きではないのだ。そんな付き合い方をしていると、徐々に連む連中が狭まり、最終的に残ったのが、純哉と愛梨だった。
なんて言うか……純哉はお調子者で友人は多いのだが、何故か俺を気に入っているし、あいつは極端に人の領域に入って来ようとしない。良い距離感を保ってくれて心地よい関係を築いている。
愛梨は元々純哉とよく連んでいたから自然と仲良くなったが、純哉みたいに決して相性が良いわけではない。ムカつくし恐いし暴力振るうし元ヤン疑惑あるし。ただ、何故か気を許してしまうところもある。女と意識しなくていいのが楽かもしれない。
そんな純哉と愛梨だけが、暇な休日なんかは三人でダラダラ過ごしたりする時もある。
「東京に居た時は? 彼女とか好きな子とか」
そろそろ校門が見えてきたのだが、何だかまた変な質問を受けた。
一般的には変ではないのだろうが、俺と愛梨の間では変だ。こいつと恋愛についてなんて今まで話した事がないし、こいつの彼氏の話は純哉と二人で居る時に純哉が話題として出すものなので、直接訊いたものではない。
「まあ……引っ越す少し前まではいたけどな。中学から同じ塾に通ってた」
「へえ……初耳」
「誰にも言ってねーからな」
「で、どんな子だったんだよ? なんで別れた?」
「もういいだろ」
愛梨が面白いおもちゃを見つけた様な顔になっていたし、何となく思い出すのも嫌だったので、会話を終わらせた。もう学校にも着いたし、嫌な話は終わりだ。
下駄箱から廊下、教室までの道のりで愛梨はずっと食いついてきたが、彼女にそれ以上教えてやる義務はない。
(なんで別れた、か……)
別れた理由は簡単だ。俺が、彼女──玲華とは釣り合わなかっただけだ。想い出す度に自分が情けなくなって……自己嫌悪に陥りそうになる。
誰にだってそういう事はある。
そう思いながら教室の前に出来た群衆をかぎ分けて教室の中に入ると、やはりと言うか、凛の周りに人だかりが出来ていた。教室が見せ物小屋状態になっているのは凛を見に来た観客共だ。
おそらくもう暫くはこんな日が続くだろう。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる