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第1章 雨宮凛
愛梨と凛
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さて、四限終了のチャイムが鳴った。俺は今朝買ったパンの袋だけ持って、教師が教室を出るとすぐに席を立つ。凛も俺の後に続き、純哉も凛を守る様にして廊下に出た。
一瞬、凛が近寄ってきた純哉に対してびくっと警戒していた。
「よっ、凛ちゃん。俺、純哉ね。翔のマブダチ。よろしく」
マブダチ……さっきそのマブダチに俺はリンチされそうになったのだけれど。
凛は会釈して、よろしく、と返していた。
それからは一目RINを見ようと殺到してくる連中から純哉と共に凛を守りつつ、人気のない裏庭に向かった。途中、『お前等だけでRINを独り占めするのはずるい』という批判を受けたが、純哉の返答は『独占してんのは俺じゃねー。相沢翔だ!』と宣言して、俺に全ての罪を押し付けた。
凛は凛で『独り占めされちゃった』などとはにかんだせいで、余計に火の海がでかくなったのは言うまでもない。
そんな事がありながらも、授業終了直後に出た甲斐もあって、それほど苦労せずに裏庭にたどり着けた。
いや、関心の矛先がRINから俺への殺意に変わった点で移動しやすかったのかもしれない。本当に、今日は厄日だった。
「ささっ、凛ちゃんはこのベンチ使ってね。ぼろいけど」
寂れた裏庭に唯一あるベンチを純哉が手で払うと、まるで執事の様な仕草で恭しく接する。
ここは文化棟の裏側に位置する場所で、滅多に人は来ない。告白スポットとして有名だ。
「えっと、純哉君だっけ? ありがとう」
凛も笑顔で返す。
「うおっ……これ夢じゃないよな? あのRINが笑顔で俺の名前呼んでくれてるけどこれ夢じゃないよな⁉ うぉーっ! 感動して泣きそうだ!!」
純哉が俺に抱きついてくる。
鬱陶しいなと思ったが、変に刺激するとまた何をされるかわからないので放っておいた。っていうか暑い。
「大袈裟だってー。私、言う程有名じゃないみたいだし」
ちらっと皮肉を込めて、俺を見る。どうやらまだ根に持たれているらしい。
「こいつ、RINの熱狂的なファンだから」
「バカ! 言うな! 引かれるだろっ。ファンクラブに入ってたとか絶対に言うなよ!」
……自分で言ってんじゃねぇか。しかもそれ俺も初耳だ。
「そうなんだ? 応援してくれてありがとっ」
「ぐふっ……」
純哉が倒れた。
こいつ、もしかしたら今が一番幸せなのかもしれない。俺は元々RINを知らなかったから、モデルみたいな美人と偶然出会ったくらいの感覚なのだけれど、純哉にとっては本当の有名人なのだ。
「私のせいで迷惑掛けて、ごめんね?」
「いやいや、構わないぜ! 困った時はお互い様だ。それに教室に居たら間違いなく飯食い損ねただろ」
純哉が元気よく答えるが、凛は苦笑で返していた。教室に居たら女子の質問攻めと野次馬で昼休みどころではないだろう。
今までの休み時間がまさにそんな感じだった。だから必然的に俺等が話すのは授業中という事になり、授業中に話していると先生に当てられる。負のスパイラルだった。
「まー、一ヶ月も経てば皆凛ちゃんがいる生活にも慣れるだろ。にしても写真撮りまくるのはさすがにどうかと思うけどなー。シュウゾウ権みたいなんがあるんじゃないのか」
「肖像権、な」
一応訂正だけしておく。ムッと睨まれたが、社会に出て恥ずかしい思いをしなくて済んだのだからむしろ感謝して欲しい。肖像権をそんな熱血的な元テニスプレイヤーの権利にしてはならない。
「モデルとかタレントには、肖像権なんて無いんじゃないかなー。そうでなきゃ週刊誌とかやってけないじゃない?」
凛は溜息混じりに答えた。
確かに。あれはいつ見ても不思議だった。裁判起こしてもあまり勝ってる訴訟をみた事がないし。
「こういう話するの好きじゃないんだけどね」
「何で?」
「なんだか……自慢してるみたいじゃない?」
「別にそんな事ねーよ。凛ちゃんは同い年なのに頑張ってただけだ。ダラダラ過ごしてるだけの俺等とは違うんだから、良いと思うぜ」
純哉がもっともな事を言う。
なんだかんだこいつもとけ込むのが早い。もう俺より凛がいる事に慣れてるんじゃないだろうか。
実を言うと、未だ俺は凛が居る事に慣れてなかった。その証拠に、俺は純哉が入ってきてからあまり凛と会話していない。
一瞬、凛が近寄ってきた純哉に対してびくっと警戒していた。
「よっ、凛ちゃん。俺、純哉ね。翔のマブダチ。よろしく」
マブダチ……さっきそのマブダチに俺はリンチされそうになったのだけれど。
凛は会釈して、よろしく、と返していた。
それからは一目RINを見ようと殺到してくる連中から純哉と共に凛を守りつつ、人気のない裏庭に向かった。途中、『お前等だけでRINを独り占めするのはずるい』という批判を受けたが、純哉の返答は『独占してんのは俺じゃねー。相沢翔だ!』と宣言して、俺に全ての罪を押し付けた。
凛は凛で『独り占めされちゃった』などとはにかんだせいで、余計に火の海がでかくなったのは言うまでもない。
そんな事がありながらも、授業終了直後に出た甲斐もあって、それほど苦労せずに裏庭にたどり着けた。
いや、関心の矛先がRINから俺への殺意に変わった点で移動しやすかったのかもしれない。本当に、今日は厄日だった。
「ささっ、凛ちゃんはこのベンチ使ってね。ぼろいけど」
寂れた裏庭に唯一あるベンチを純哉が手で払うと、まるで執事の様な仕草で恭しく接する。
ここは文化棟の裏側に位置する場所で、滅多に人は来ない。告白スポットとして有名だ。
「えっと、純哉君だっけ? ありがとう」
凛も笑顔で返す。
「うおっ……これ夢じゃないよな? あのRINが笑顔で俺の名前呼んでくれてるけどこれ夢じゃないよな⁉ うぉーっ! 感動して泣きそうだ!!」
純哉が俺に抱きついてくる。
鬱陶しいなと思ったが、変に刺激するとまた何をされるかわからないので放っておいた。っていうか暑い。
「大袈裟だってー。私、言う程有名じゃないみたいだし」
ちらっと皮肉を込めて、俺を見る。どうやらまだ根に持たれているらしい。
「こいつ、RINの熱狂的なファンだから」
「バカ! 言うな! 引かれるだろっ。ファンクラブに入ってたとか絶対に言うなよ!」
……自分で言ってんじゃねぇか。しかもそれ俺も初耳だ。
「そうなんだ? 応援してくれてありがとっ」
「ぐふっ……」
純哉が倒れた。
こいつ、もしかしたら今が一番幸せなのかもしれない。俺は元々RINを知らなかったから、モデルみたいな美人と偶然出会ったくらいの感覚なのだけれど、純哉にとっては本当の有名人なのだ。
「私のせいで迷惑掛けて、ごめんね?」
「いやいや、構わないぜ! 困った時はお互い様だ。それに教室に居たら間違いなく飯食い損ねただろ」
純哉が元気よく答えるが、凛は苦笑で返していた。教室に居たら女子の質問攻めと野次馬で昼休みどころではないだろう。
今までの休み時間がまさにそんな感じだった。だから必然的に俺等が話すのは授業中という事になり、授業中に話していると先生に当てられる。負のスパイラルだった。
「まー、一ヶ月も経てば皆凛ちゃんがいる生活にも慣れるだろ。にしても写真撮りまくるのはさすがにどうかと思うけどなー。シュウゾウ権みたいなんがあるんじゃないのか」
「肖像権、な」
一応訂正だけしておく。ムッと睨まれたが、社会に出て恥ずかしい思いをしなくて済んだのだからむしろ感謝して欲しい。肖像権をそんな熱血的な元テニスプレイヤーの権利にしてはならない。
「モデルとかタレントには、肖像権なんて無いんじゃないかなー。そうでなきゃ週刊誌とかやってけないじゃない?」
凛は溜息混じりに答えた。
確かに。あれはいつ見ても不思議だった。裁判起こしてもあまり勝ってる訴訟をみた事がないし。
「こういう話するの好きじゃないんだけどね」
「何で?」
「なんだか……自慢してるみたいじゃない?」
「別にそんな事ねーよ。凛ちゃんは同い年なのに頑張ってただけだ。ダラダラ過ごしてるだけの俺等とは違うんだから、良いと思うぜ」
純哉がもっともな事を言う。
なんだかんだこいつもとけ込むのが早い。もう俺より凛がいる事に慣れてるんじゃないだろうか。
実を言うと、未だ俺は凛が居る事に慣れてなかった。その証拠に、俺は純哉が入ってきてからあまり凛と会話していない。
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