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第1章 雨宮凛
出会い②
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「じゃあ、どういうストーリーがお好みで?」
「んー……失恋の辛さに耐えきれず、ここから飛び降り自殺をしようとしていた、とか!」
自殺が前提かよ。失恋ぐらいで自殺して溜まるかっていうんだ。
「ほら、辛いなら私が話を聞いてあげるから。だから死なないで?」
「死なねーよ!」
「相談料はー……」
「話聞けよ! ていうか金取るのかよ!」
何で徹夜明けの朝方からこんなテンションでツッコミまくらないといけないのだと思いつつも、一方の彼女は可笑しそうに笑っていた。その笑顔が可愛いと思ってしまったのはここだけの話である。
不意にふわりと彼女の良い匂いが風に乗り、俺の鼻を擽ったのでドキっとする。
「君……ここの町の人じゃないだろ?」
俺は溜息を吐いて、訊いてみた。ノリにしても、雰囲気にしても、それは一目瞭然だった。
「わかる?」
「まあ、狭い町だし。それに君は凄く目立つから、こんな町にいれば気付くと思う」
「えー、そう? 地味めで攻めたつもりだけどな」
言いながら、彼女は自分の白いワンピースを見る。
地味め? むしろ天使みたいですごく目立つのだけれど。
「そういう意味じゃなくて、何つーか……オーラとか? そういうの」
「芸能人的な?」
「ん? あー、それそれ」
俺がそう答えると、彼女はうむうむと満足そうに笑っていた。
何でいきなり芸能人が出てくるんだか。そして何故俺の返答に満足そうに彼女は頷いてるんだかわからない。
「子供の頃、よく遊びに来てたの。お祖父ちゃんの家がこっちで」
「そうなのか。今回もお祖父ちゃんの家に遊びに来たのか?」
「え? まあそんな感じかな」
少しはぐらかされた気がした。深入りする権利もその気もないけれど。
「君は?」
彼女はこちらに視線を向けて、首をかしげて訊いた。
「俺は東京生まれなんだ。親の仕事の都合で去年からこっちにいる」
「そうなんだ? 私も東京生まれ」
偶然だね、と彼女は特段驚く事もなく、力なく微笑んだ。もう少し驚いてくれてもいいのに、と思う俺だが、東京の人口を考えると同郷だったとしても大して珍しい話ではない。たとえばこれが遠く離れた外国だったなら、同じ国出身というだけで盛り上がれたことだろう。
「はぁ」
不意に黙り込んで、彼女は自分の膝に顔を埋めながら、溜息を吐いた。
「どうした?」
「私さー……東京、あんまり好きじゃないんだ」
「どうして? 少なくともここより遊ぶとこあるし楽しいんじゃないかな。俺、こっち来てから何もする事なくて時間持て余してるよ」
東京では高校生はいつでも遊び場に行けたし、いつでも流行の最先端に触れられた。遊ぶ事には困らない地だった。
それが、去年の夏、いきなり父の転勤が決まり、こんなど田舎に引っ越してくる羽目になった。
いや、正確にはその転勤に乗じて俺も引越したのだのだが、それについては今は話すことではないだろう。
ここは駅まで行けば商店街があるから少しは遊ぶところはあるが、都内に比べたら遊ぶ場所も皆無に近く、つまらない場所だった。勿論、その代わりに時間はゆったりと流れ、空気が綺麗だったりと全てがマイナスなわけではない。ただ、遊びたい盛りのティーンにとっては、つまらない町といわざるを得ない。
「うん、そうなんだろうけど……私には自由なんて無かったし、遊びにもいけなかったから。監視されてるみたいで」
「監視?」
「う、ううん。何でもないっ」
気にしないで、と彼女は慌てて首を横に振り、また黙り込んだ。そしてまた朝方で動きのない町を眺め、深く溜息を吐くのだった。
俺も特に話を切り出す題材もなく、黙ったまま町を眺めた。
「綺麗な町……静かで、蝉の鳴き声も素敵。良いところだと思うけどな?」
「まぁ、それだけが取り柄の町だし。これでここが汚かったら誰もここに住まない」
そう言うと、そうかな、と彼女が笑った。
それから二人で無言のまま景色を眺めていると、唐突に彼女がこちらを向いて、訊いてきた。
「ねえ、君を初対面と見込んで、相談していい?」
「んー……失恋の辛さに耐えきれず、ここから飛び降り自殺をしようとしていた、とか!」
自殺が前提かよ。失恋ぐらいで自殺して溜まるかっていうんだ。
「ほら、辛いなら私が話を聞いてあげるから。だから死なないで?」
「死なねーよ!」
「相談料はー……」
「話聞けよ! ていうか金取るのかよ!」
何で徹夜明けの朝方からこんなテンションでツッコミまくらないといけないのだと思いつつも、一方の彼女は可笑しそうに笑っていた。その笑顔が可愛いと思ってしまったのはここだけの話である。
不意にふわりと彼女の良い匂いが風に乗り、俺の鼻を擽ったのでドキっとする。
「君……ここの町の人じゃないだろ?」
俺は溜息を吐いて、訊いてみた。ノリにしても、雰囲気にしても、それは一目瞭然だった。
「わかる?」
「まあ、狭い町だし。それに君は凄く目立つから、こんな町にいれば気付くと思う」
「えー、そう? 地味めで攻めたつもりだけどな」
言いながら、彼女は自分の白いワンピースを見る。
地味め? むしろ天使みたいですごく目立つのだけれど。
「そういう意味じゃなくて、何つーか……オーラとか? そういうの」
「芸能人的な?」
「ん? あー、それそれ」
俺がそう答えると、彼女はうむうむと満足そうに笑っていた。
何でいきなり芸能人が出てくるんだか。そして何故俺の返答に満足そうに彼女は頷いてるんだかわからない。
「子供の頃、よく遊びに来てたの。お祖父ちゃんの家がこっちで」
「そうなのか。今回もお祖父ちゃんの家に遊びに来たのか?」
「え? まあそんな感じかな」
少しはぐらかされた気がした。深入りする権利もその気もないけれど。
「君は?」
彼女はこちらに視線を向けて、首をかしげて訊いた。
「俺は東京生まれなんだ。親の仕事の都合で去年からこっちにいる」
「そうなんだ? 私も東京生まれ」
偶然だね、と彼女は特段驚く事もなく、力なく微笑んだ。もう少し驚いてくれてもいいのに、と思う俺だが、東京の人口を考えると同郷だったとしても大して珍しい話ではない。たとえばこれが遠く離れた外国だったなら、同じ国出身というだけで盛り上がれたことだろう。
「はぁ」
不意に黙り込んで、彼女は自分の膝に顔を埋めながら、溜息を吐いた。
「どうした?」
「私さー……東京、あんまり好きじゃないんだ」
「どうして? 少なくともここより遊ぶとこあるし楽しいんじゃないかな。俺、こっち来てから何もする事なくて時間持て余してるよ」
東京では高校生はいつでも遊び場に行けたし、いつでも流行の最先端に触れられた。遊ぶ事には困らない地だった。
それが、去年の夏、いきなり父の転勤が決まり、こんなど田舎に引っ越してくる羽目になった。
いや、正確にはその転勤に乗じて俺も引越したのだのだが、それについては今は話すことではないだろう。
ここは駅まで行けば商店街があるから少しは遊ぶところはあるが、都内に比べたら遊ぶ場所も皆無に近く、つまらない場所だった。勿論、その代わりに時間はゆったりと流れ、空気が綺麗だったりと全てがマイナスなわけではない。ただ、遊びたい盛りのティーンにとっては、つまらない町といわざるを得ない。
「うん、そうなんだろうけど……私には自由なんて無かったし、遊びにもいけなかったから。監視されてるみたいで」
「監視?」
「う、ううん。何でもないっ」
気にしないで、と彼女は慌てて首を横に振り、また黙り込んだ。そしてまた朝方で動きのない町を眺め、深く溜息を吐くのだった。
俺も特に話を切り出す題材もなく、黙ったまま町を眺めた。
「綺麗な町……静かで、蝉の鳴き声も素敵。良いところだと思うけどな?」
「まぁ、それだけが取り柄の町だし。これでここが汚かったら誰もここに住まない」
そう言うと、そうかな、と彼女が笑った。
それから二人で無言のまま景色を眺めていると、唐突に彼女がこちらを向いて、訊いてきた。
「ねえ、君を初対面と見込んで、相談していい?」
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