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第十五話
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「マ、マルク君が、勝ったのか……?」
ギルベインさんが恐る恐ると顔を上げて、森の上空を見回す。
「ハ、ハハハ! よくやったじゃないか、マルク君! あんなおっかない奴を、ああもあっさりと倒してしまうなんてね!」
ギルベインさんは途端に笑顔になって、ガッツポーズまで取っていた。
「昔からあなたは、本当に調子がいい奴ね……」
ロゼッタさんは、ギルベインさんの様子を見て、呆れたようにそう呟く。
『いや……喜ぶのはまだ早いぞ。あの精霊の魔鏡で、奴はマルクの魔弾の直撃は免れたはずである。空を見よ』
ネロが顔を上げて、そう口にする。
ネロの視線の先を見上げると、傷だらけのダルクが宙に浮かんでいた。
ダルクの背からは黒い翼が生え、手の先には禍々しい鉤爪が生えている。
「まだ、生きてる……! それに、あの姿……」
『精霊融合であろうな。契約精霊の姿を自身に重ねて融合させておるのだ。あの力があれば、ニンゲンであろうと……精霊並みの頑丈さを得ることができる。鏡で直撃を逸らし、同時に精霊融合によって身体が損壊することを免れたのだ』
「私の契約精霊……〈風禍のパズズ〉ですよ。やれやれ……本当に、驚かされました。まさか、私の反射魔法を、力押しで突破するとはね。名は覚えましたよ、少年……マルク。あなたは、我らの計画の邪魔になる」
ダルクは滞空しながらそう語る。
「いずれまたお会いしましょう。次に会ったときが、あなたの最期だと……」
「〈炎球〉!」
僕はルーン文字を浮かべ、ダルク目掛けて炎の球を放った。
「おわぁっ!」
ダルクが必死の形相で、一気にがくんと高度を落として僕の〈炎球〉を回避した。
「お、おい、私がまだ、喋っているのに、なんて卑劣な……! 第一、これだけの距離があって、私にもこの翼があるのに、仮にもそんな初歩の魔法攻撃なんて当たるわけがないでしょう!」
「ネロ……今って、撃ったら駄目だったの?」
『構わん、やれ、マルク。我らを襲撃した狙いこそわからんが、どうせロクな奴ではあるまい』
「うん」
僕はネロの言葉に頷いて、再び腕を上げてルーン文字を浮かべた。
「〈炎球〉! 〈炎球〉! 〈炎球〉!」
僕にはこれしかできないが……ネロの領域内では、ひたすらこの魔法を練習してきたのだ。
基礎のシンプルな魔法故に、連発するのもそう難しくはない。
「せ、せっかく人が、好敵手として認めてやったというのに! クソ、これだけの威力を保って、連発できたのか! だが、さすがにこの距離で当てられると……!」
ダルクが上昇と落下を繰り返し、ジグザクと飛行しながら僕の〈炎球〉を避けて遠ざかっていく。
距離が開くにつれて、僕の魔法の精度の方は落ちていく。
さすがに逃げられたかと思った、そのときだった。
「まったく、冷や冷やさせてくれま……げぶぅっ!」
ダルクが急降下の制御を誤り、その身体を木へと激しく打ち付けた。
「い、行けない、〈浚い風〉!」
風がダルクを包み込み、彼の身体を運ぼうとする。
しかしそれより早くに、僕の〈炎球〉の方が先に当たった。
丁度ダルクが張り付いていた辺りに直撃して、炎の球体が爆ぜて木をへし折った。
「ぎぃやぁあああっ!」
ダルクの悲痛な叫び声が響く。
「あ、当たったみたいです!」
「マルク君……君、本当に恐ろしいね……。まぁ、もう、君が何かをやらかしてくれることにも、慣れてきたけどね、うん」
ギルベインさんが半ば呆れたようにそう口にした。
「……ゴブリンどころじゃなくなってしまったわね。ひとまず別班と合流しましょう、彼らの安否が気に掛かるわ」
ロゼッタさんの提案通り、ゴブリンの拠点の反対側に回り込んでいた、ガンドさん率いる別チームと合流することになった。
ぐるりと回り込んだ場所には、ガンドさん達が血塗れで倒れていた。
ぐったりしている彼らを見て驚いたが、どうやら命に別状はないらしく、皆意識はしっかりしていた。
「お、恐ろしく強い男が現れて……儂らは、まともに戦うこともできんかった。奴は……ダルクと、そう名乗っておった。凄まじい力量の……風魔法の使い手じゃった……」
ガンドさんは、怯えた様子でそう語ってくれた。
「突然謎の爆炎がゴブリン共の拠点から上がって……それで、ダルクの気がそちらへ向いたのだ。あれがなければ、儂らは今頃……!」
「ガンド、その謎の爆炎だが……その、マルク君が放った魔法だ」
ギルベインさんが、やや気まずげにそう口にした。
「なんじゃと!? まだこんな幼い子が!?」
ガンドさんは酷く驚いた様子だった。
「と、とにかく、ダルクは爆炎の方へ向かっていった……。幸いなことに、お前さんらとは入れ違ったのかもしれんな。奴は……明らかに、儂らとは格が違う……見つかって皆殺しにされる前に、都市へと戻り、奴の襲撃を知らせねば……!」
「……そのダルクも、マルク君が倒してくれた」
「ほえ……?」
ガンドさんは目を点にして僕の顔を見つめる。
「ギルベイン殿……儂をからかおうとしておるのか? こんな状況で人が悪いぞ」
「事実だ。私は嘘を吐くなら、私の手柄にするよ」
「その言葉には説得力があるが……。マルク、お前さん、とんでもなく強いんじゃな……」
ガンドさんはまじまじと僕を見つめながら、そう口にした。
ギルベインさんが恐る恐ると顔を上げて、森の上空を見回す。
「ハ、ハハハ! よくやったじゃないか、マルク君! あんなおっかない奴を、ああもあっさりと倒してしまうなんてね!」
ギルベインさんは途端に笑顔になって、ガッツポーズまで取っていた。
「昔からあなたは、本当に調子がいい奴ね……」
ロゼッタさんは、ギルベインさんの様子を見て、呆れたようにそう呟く。
『いや……喜ぶのはまだ早いぞ。あの精霊の魔鏡で、奴はマルクの魔弾の直撃は免れたはずである。空を見よ』
ネロが顔を上げて、そう口にする。
ネロの視線の先を見上げると、傷だらけのダルクが宙に浮かんでいた。
ダルクの背からは黒い翼が生え、手の先には禍々しい鉤爪が生えている。
「まだ、生きてる……! それに、あの姿……」
『精霊融合であろうな。契約精霊の姿を自身に重ねて融合させておるのだ。あの力があれば、ニンゲンであろうと……精霊並みの頑丈さを得ることができる。鏡で直撃を逸らし、同時に精霊融合によって身体が損壊することを免れたのだ』
「私の契約精霊……〈風禍のパズズ〉ですよ。やれやれ……本当に、驚かされました。まさか、私の反射魔法を、力押しで突破するとはね。名は覚えましたよ、少年……マルク。あなたは、我らの計画の邪魔になる」
ダルクは滞空しながらそう語る。
「いずれまたお会いしましょう。次に会ったときが、あなたの最期だと……」
「〈炎球〉!」
僕はルーン文字を浮かべ、ダルク目掛けて炎の球を放った。
「おわぁっ!」
ダルクが必死の形相で、一気にがくんと高度を落として僕の〈炎球〉を回避した。
「お、おい、私がまだ、喋っているのに、なんて卑劣な……! 第一、これだけの距離があって、私にもこの翼があるのに、仮にもそんな初歩の魔法攻撃なんて当たるわけがないでしょう!」
「ネロ……今って、撃ったら駄目だったの?」
『構わん、やれ、マルク。我らを襲撃した狙いこそわからんが、どうせロクな奴ではあるまい』
「うん」
僕はネロの言葉に頷いて、再び腕を上げてルーン文字を浮かべた。
「〈炎球〉! 〈炎球〉! 〈炎球〉!」
僕にはこれしかできないが……ネロの領域内では、ひたすらこの魔法を練習してきたのだ。
基礎のシンプルな魔法故に、連発するのもそう難しくはない。
「せ、せっかく人が、好敵手として認めてやったというのに! クソ、これだけの威力を保って、連発できたのか! だが、さすがにこの距離で当てられると……!」
ダルクが上昇と落下を繰り返し、ジグザクと飛行しながら僕の〈炎球〉を避けて遠ざかっていく。
距離が開くにつれて、僕の魔法の精度の方は落ちていく。
さすがに逃げられたかと思った、そのときだった。
「まったく、冷や冷やさせてくれま……げぶぅっ!」
ダルクが急降下の制御を誤り、その身体を木へと激しく打ち付けた。
「い、行けない、〈浚い風〉!」
風がダルクを包み込み、彼の身体を運ぼうとする。
しかしそれより早くに、僕の〈炎球〉の方が先に当たった。
丁度ダルクが張り付いていた辺りに直撃して、炎の球体が爆ぜて木をへし折った。
「ぎぃやぁあああっ!」
ダルクの悲痛な叫び声が響く。
「あ、当たったみたいです!」
「マルク君……君、本当に恐ろしいね……。まぁ、もう、君が何かをやらかしてくれることにも、慣れてきたけどね、うん」
ギルベインさんが半ば呆れたようにそう口にした。
「……ゴブリンどころじゃなくなってしまったわね。ひとまず別班と合流しましょう、彼らの安否が気に掛かるわ」
ロゼッタさんの提案通り、ゴブリンの拠点の反対側に回り込んでいた、ガンドさん率いる別チームと合流することになった。
ぐるりと回り込んだ場所には、ガンドさん達が血塗れで倒れていた。
ぐったりしている彼らを見て驚いたが、どうやら命に別状はないらしく、皆意識はしっかりしていた。
「お、恐ろしく強い男が現れて……儂らは、まともに戦うこともできんかった。奴は……ダルクと、そう名乗っておった。凄まじい力量の……風魔法の使い手じゃった……」
ガンドさんは、怯えた様子でそう語ってくれた。
「突然謎の爆炎がゴブリン共の拠点から上がって……それで、ダルクの気がそちらへ向いたのだ。あれがなければ、儂らは今頃……!」
「ガンド、その謎の爆炎だが……その、マルク君が放った魔法だ」
ギルベインさんが、やや気まずげにそう口にした。
「なんじゃと!? まだこんな幼い子が!?」
ガンドさんは酷く驚いた様子だった。
「と、とにかく、ダルクは爆炎の方へ向かっていった……。幸いなことに、お前さんらとは入れ違ったのかもしれんな。奴は……明らかに、儂らとは格が違う……見つかって皆殺しにされる前に、都市へと戻り、奴の襲撃を知らせねば……!」
「……そのダルクも、マルク君が倒してくれた」
「ほえ……?」
ガンドさんは目を点にして僕の顔を見つめる。
「ギルベイン殿……儂をからかおうとしておるのか? こんな状況で人が悪いぞ」
「事実だ。私は嘘を吐くなら、私の手柄にするよ」
「その言葉には説得力があるが……。マルク、お前さん、とんでもなく強いんじゃな……」
ガンドさんはまじまじと僕を見つめながら、そう口にした。
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