上 下
15 / 41

第十五話

しおりを挟む
「マ、マルク君が、勝ったのか……?」

 ギルベインさんが恐る恐ると顔を上げて、森の上空を見回す。

「ハ、ハハハ! よくやったじゃないか、マルク君! あんなおっかない奴を、ああもあっさりと倒してしまうなんてね!」

 ギルベインさんは途端に笑顔になって、ガッツポーズまで取っていた。

「昔からあなたは、本当に調子がいい奴ね……」

 ロゼッタさんは、ギルベインさんの様子を見て、呆れたようにそう呟く。

『いや……喜ぶのはまだ早いぞ。あの精霊の魔鏡で、奴はマルクの魔弾の直撃は免れたはずである。空を見よ』

 ネロが顔を上げて、そう口にする。
 ネロの視線の先を見上げると、傷だらけのダルクが宙に浮かんでいた。
 ダルクの背からは黒い翼が生え、手の先には禍々しい鉤爪が生えている。

「まだ、生きてる……! それに、あの姿……」

『精霊融合であろうな。契約精霊の姿を自身に重ねて融合させておるのだ。あの力があれば、ニンゲンであろうと……精霊並みの頑丈さを得ることができる。鏡で直撃を逸らし、同時に精霊融合によって身体が損壊することを免れたのだ』

「私の契約精霊……〈風禍のパズズ〉ですよ。やれやれ……本当に、驚かされました。まさか、私の反射魔法を、力押しで突破するとはね。名は覚えましたよ、少年……マルク。あなたは、我らの計画の邪魔になる」

 ダルクは滞空しながらそう語る。

「いずれまたお会いしましょう。次に会ったときが、あなたの最期だと……」

「〈炎球〉!」

 僕はルーン文字を浮かべ、ダルク目掛けて炎の球を放った。

「おわぁっ!」

 ダルクが必死の形相で、一気にがくんと高度を落として僕の〈炎球〉を回避した。

「お、おい、私がまだ、喋っているのに、なんて卑劣な……! 第一、これだけの距離があって、私にもこの翼があるのに、仮にもそんな初歩の魔法攻撃なんて当たるわけがないでしょう!」

「ネロ……今って、撃ったら駄目だったの?」

『構わん、やれ、マルク。我らを襲撃した狙いこそわからんが、どうせロクな奴ではあるまい』

「うん」

 僕はネロの言葉に頷いて、再び腕を上げてルーン文字を浮かべた。

「〈炎球〉! 〈炎球〉! 〈炎球〉!」

 僕にはこれしかできないが……ネロの領域内では、ひたすらこの魔法を練習してきたのだ。
 基礎のシンプルな魔法故に、連発するのもそう難しくはない。

「せ、せっかく人が、好敵手として認めてやったというのに! クソ、これだけの威力を保って、連発できたのか! だが、さすがにこの距離で当てられると……!」

 ダルクが上昇と落下を繰り返し、ジグザクと飛行しながら僕の〈炎球〉を避けて遠ざかっていく。
 距離が開くにつれて、僕の魔法の精度の方は落ちていく。
 さすがに逃げられたかと思った、そのときだった。

「まったく、冷や冷やさせてくれま……げぶぅっ!」

 ダルクが急降下の制御を誤り、その身体を木へと激しく打ち付けた。

「い、行けない、〈浚い風〉!」

 風がダルクを包み込み、彼の身体を運ぼうとする。
 しかしそれより早くに、僕の〈炎球〉の方が先に当たった。
 丁度ダルクが張り付いていた辺りに直撃して、炎の球体が爆ぜて木をへし折った。

「ぎぃやぁあああっ!」

 ダルクの悲痛な叫び声が響く。

「あ、当たったみたいです!」

「マルク君……君、本当に恐ろしいね……。まぁ、もう、君が何かをやらかしてくれることにも、慣れてきたけどね、うん」

 ギルベインさんが半ば呆れたようにそう口にした。

「……ゴブリンどころじゃなくなってしまったわね。ひとまず別班と合流しましょう、彼らの安否が気に掛かるわ」

 ロゼッタさんの提案通り、ゴブリンの拠点の反対側に回り込んでいた、ガンドさん率いる別チームと合流することになった。
 ぐるりと回り込んだ場所には、ガンドさん達が血塗れで倒れていた。
 ぐったりしている彼らを見て驚いたが、どうやら命に別状はないらしく、皆意識はしっかりしていた。

「お、恐ろしく強い男が現れて……儂らは、まともに戦うこともできんかった。奴は……ダルクと、そう名乗っておった。凄まじい力量の……風魔法の使い手じゃった……」

 ガンドさんは、怯えた様子でそう語ってくれた。

「突然謎の爆炎がゴブリン共の拠点から上がって……それで、ダルクの気がそちらへ向いたのだ。あれがなければ、儂らは今頃……!」

「ガンド、その謎の爆炎だが……その、マルク君が放った魔法だ」

 ギルベインさんが、やや気まずげにそう口にした。

「なんじゃと!? まだこんな幼い子が!?」

 ガンドさんは酷く驚いた様子だった。

「と、とにかく、ダルクは爆炎の方へ向かっていった……。幸いなことに、お前さんらとは入れ違ったのかもしれんな。奴は……明らかに、儂らとは格が違う……見つかって皆殺しにされる前に、都市へと戻り、奴の襲撃を知らせねば……!」

「……そのダルクも、マルク君が倒してくれた」

「ほえ……?」

 ガンドさんは目を点にして僕の顔を見つめる。

「ギルベイン殿……儂をからかおうとしておるのか? こんな状況で人が悪いぞ」

「事実だ。私は嘘を吐くなら、私の手柄にするよ」

「その言葉には説得力があるが……。マルク、お前さん、とんでもなく強いんじゃな……」

 ガンドさんはまじまじと僕を見つめながら、そう口にした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

仏の顔も三度まで、てめえら全員地獄に叩き落とす~死んで終わりと思うなよ~

猫三郎
ファンタジー
お人好しの高校生、三仏 優人はクラスでも都合のいいように使われて日々パシりにいそしんでいたが、ある日いつものように雑用を押し付けられて教室にのこっていると不思議な光に包まれる、一緒にクラスにいた幼馴染のマキとクラスメイト数人で異世界に呼ばれた。 異世界にいくと自分達は勇者として世界を救う役割を与えられる。優人以外は強力な力を授かるが優人はスキルをもらえず周りから酷い扱いを受けながらも生来の優しさとマキの助けで周りのサポートをしていたが、ある日事件が起きて優人の心は完全に壊されてしまう。その瞬間隠されていた力が目覚めることになる。目覚めた力を使い自分を虐げてきたもの達へ復讐をしていく 「死んで終わりと思ったか死んでからが本番だ覚悟しやがれ!」

そして、腐蝕は地獄に――

ヰ島シマ
ファンタジー
盗賊団の首領であったベルトリウスは、帝国の騎士エイブランに討たれる。だが、死んだはずのベルトリウスはある場所で目を覚ます。 そこは地獄―― 異形の魔物が跋扈する血と闘争でまみれた世界。魔物に襲われたところを救ってくれた女、エカノダもまた魔物であった。 彼女を地獄の王にのし上げるため、ベルトリウスは悪虐の道を進む。 これは一人の男の死が、あらゆる生物の破滅へと繋がる物語。 ―――― ◇◇◇ 第9回ネット小説大賞、一次選考を通過しました! ◇◇◇ ◇◇◇ エブリスタ様の特集【新作コレクション(11月26日号)】に選出して頂きました ◇◇◇

女の子が異世界に

オウガ
ファンタジー
ある日、帰り仕度をしているとクラスメイトに巻き込まれて異世界に召喚された。 勇者として選ばれた馬鹿なクラスメイト、最初は助けたけど馬鹿すぎて愛想がつきどうせならと異世界を旅することに

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ
ファンタジー
王国の兵士だったダンは5年間所属した王国軍を退団することにした。元々、実家からの命で軍に入隊していたが、ここでの調べ物が終わったのと丁度よく堂々と暗殺されかけた事実があったため、団長へと除隊嘆願書を提出して軍を去ることにしたのだ。元兵士となったダンは次の行き先を目指す。「まずは東かな……」  自覚あまりなしの主人公の話となります。基本物理でなんとかする。魔法ありの世界ですが、魔法はちょっと苦手。なんだかんだと仲間が集まってきますが、その仲間達はだいたい主人公の無茶ぶりに振り回されることとなります。  それと書いていませんでしたが不定期更新となります。温かい目で更新をお待ちください。 *小説家になろう様にて公開を始めました。文章を読みやすく修正したりしていますが、大筋では変えておりません。 小説家になろう様にてネット小説大賞にエントリーしました。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙
ファンタジー
真実を司りし神ウェルスの名のもとに、 魔法公証人が秘められし真実を問う。 舞台は多くのダンジョンを近郊に擁する古都レッジョ。 多くの冒険者を惹きつけるレッジョでは今日も、 冒険者やダンジョンにまつわるトラブルで騒がしい。 魔法公証人ルロイ・フェヘールは、 そんなレッジョで真実を司る神ウェルスの御名の元、 証書と魔法により真実を見極める力「プロバティオ」をもって、 トラブルを抱えた依頼人たちを助けてゆく。 異世界公証人ファンタジー。 基本章ごとの短編集なので、 各章のごとに独立したお話として読めます。 カクヨムにて一度公開した作品ですが、 要所を手直し推敲して再アップしたものを連載しています。 最終話までは既に書いてあるので、 小説の完結は確約できます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...