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25.湯けむりオブザデッド④
しおりを挟む山神の怒号が鳴り響く温泉。
岩盤は山神の拳に纏われた空気のベールによる素早い回転によって削り取られた後、飛散。
モッグモグモグは膨よかな腹部に大砲でも食らったかのような穴を空けた。
波紋が広がり、贅肉が円を無数に描いていく。
『ぐっ、わ、ごぼぼぼッッッ』
排水口が詰まったかのような声を出すモグモグに追撃を試みる山神…
しかし、空中へぶっ飛んだモグモグに対して山神は空を飛べるわけではないしそれを追うスピードを出せるスキルなど持ってはいない。
山神は一瞬、自らが考えなしに衝動的に殴ったことに対して悔いた。
まあそれは一瞬なわけだが、
悔いて悔いた。
怒り任せに何をやってしまったのだと悔いたのだ。
しかしその後悔はおやつの時間におやつを食べれなかった程度の後悔ではない。
怒りすらなくなってしまいそうなほどの深いものだ。
だからこそ、
それだからこそ、後悔は未練へ
未練は執着へ変わり打開を生んだ。
モグモグが飛んで行く方向からわずかに感じる匂い。
山神は可愛い女子の匂いを嗅ぎ分ける変態的なスキルも持っていた。
変態スキルはここでも過敏に反応する。
女風呂がある方向へ意識を集中させ、目を瞑り煩悩を解放、脳内の電気信号が、山神の細胞全体に、変態スキル発動の価値があることを伝達し、全細胞が応答、それを確認した山神はそのよこしまな思いを着火剤にして憎悪を生み直した。
『デブ…てめえは逃がさねえ…』
女子の匂いのする方向へ、御子のいる方向へ、裸を覗きたいなどというくだらない内容のその欲求は、異常なまでの変態スキルの向上を可能にした。
飛来。
水の波紋は竜巻のようになって
弾け飛び、
温泉の地を蹴った山神はそのまま
宙へ舞った。
舞うと行ってもその速度80キロオーバー
山神は自らがぶっ飛ばしたモグモグの追撃を開始した。
湯気は畝りをあげて天へ登り、それに絡まるようにして水も天高く登っていく。
その衝撃によって温泉内の水が回転し、渦を生んだ。
そこでゆっくり浸かっていた大猿のジョンソンとハニニは怯えるようにして脱出した。
勇者であるオノノフは、一人の少年が一人のデブをぶん殴ったことによってこの現象が起きていることを知り、その渦に巻き込まれながら感動していた。
『すごい、あの少年はとんでもない能力を持っている。ぜひ欲しいぞ。というよりおれのものにしたい!』
勇者オノノフは頰を茹で蛸のように真っ赤に染めて勢いよくその渦から脱出した。
オノノフは勇者歴五年だがあんな巨漢な男を全裸でなんの細工もなしに拳骨のみでぶん殴りその反動で周囲すら破壊する人間を見たことがなかったし、少年だというのだから尚のこと驚きを隠せず、岩盤の上でまだ感動していた。
ペタペタと水に濡れた道をを踏む音がオノノフの後ろからした。
湯けむりはその姿を見せない。
『いやあ、たぎってきたなあ、、わくわくがパラダイスロスト状態だ!フゥーッッッ』
そこへ、オノノフの後方から現れたのはテンション高めの全裸の男、その名もエントツ。
彼は擬人化した食材、伝説の珍味と名高いアタリメを追う珍味ハンターである。
『き、きみは、エントツくんじゃあないかっ!きもいな。相変わらず、きもい!あの少年と比べると尚更きもいよ』
オノノフは嫌悪していた。
過去にエントツには太ももを2度かじられており、2度とも『まずい。こんなまずい太もも、食べたことがない。太もも失格だ。ケチャップの沼に行って四年浸かって出直して来い』と言われたからだ。
エントツは真顔でオノノフの顔を見る
オノノフは眉間にシワを寄せて右肩にどういうわけか備え付けられているジッパーを
下ろした。
ガチャリン…と音がしてら中から白銀が露わになる。
それを思い切り左手で引き抜くと赤い鮮血がドボリドボリと漏れ出し、勢いよくソレが引き抜かれた。
刀。
太く異様な形の刀だ。
真ん中には口のようなものがあり、あちこちらに日々が入り、その日々も口のようにすら見え、血が吹き出している。
『今日こそは、お前を切って燻製してやるぞエントツくん』
『ほぉ、燻製か。美味だぞ。ぜひ味わってくれ。来世でな』
エントツは水しぶきを生んだ。
踵で水しぶきを生んだのだ。
ピチャリという音は遅れてくる。
その頃にはもう、オノノフの太ももは無くなっていた。
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