3 / 6
せいしゅん、あやしい(リユユ 中等部卒業から高校)
しおりを挟む
さて、会は、和やかな卒業舞踏の生演奏を控えた楽団が調律を終えようとする直前、唐突に始まった断罪で、妙な雰囲気になっていた。6月の終わり。夏休みの直前。帝国でその頃から流行の希少な特定猛獣素材を使った弦の楽器の欠点は、素晴らしい音色を活かす演奏直前の調律が重要なことだ。6月の暑い日は特にそうらしい。
楽団員たちの落胆に思いをはせることなく、若き侯爵嫡男ギュキシムは高らかに、かつ、引き続きたどたどしく続けた。
「醜悪なそなたに似合わぬ愛らしきいもうと、パーミリアへのいじめ、バレないと思っていたのだろう。てんどうかいがいそにっくもらさず、という言葉を知っているか?」
――知りません。
場内の心の声はひとつになった、のではないか。
「どんな小さな悪事でもててんばつをまぬかれることは出来ない、という意味だ」
無表情なリユユを嘲り諭すようにギュキシムは付け加えた。
「ノートを破る、教科書を焼却炉に投げ込む、宿題の論文作成を押しつけ徹夜させる、階段から突き落とす。すべて証拠がある」
――え、嫌! パーミリアの丸っこい筆跡の誤字だらけの論文を私が提出?
多くの言いがかりの中で、特に論文が衝撃的で、呆然としたリユユだった。この1年、論文を提出する科目はどれも不本意な成績だったが、すりかえがあったのなら、納得がいく。
初めて動揺したリユユを見たギュキシムは満足したようだった。
「そなたのいじめの証拠の多くは、我が尊敬する父上、国王へへへいかの友人であり、現在の正統なフランサイエ伯爵令夫人、アーリーシャ様が提供してくださった」
義母は一代男爵家の令嬢だった。学生時代に国王陛下、フランサイエ伯爵、その他と「青春」を満喫したとのことだ。
せいしゅん。
意味深長に陰口をきく者は多い。15歳の学生が知っているくらいだから、相当だ。
そんなわけで、中等部を卒業したばかりのリユユは、かなりツッコミどころが多いずさんな理由で伯爵家を追い出され、婚約破棄された。そもそも婚約は侯爵家からの懇願で、幼少期から身仕舞いを整えること以外全てが拙いギュキシムを支えるために決まった取り決めだった。それを断ち切る闇の力。
有能な法律家と権力がある後ろ盾があれば、覆すのは簡単そうなあらだらけの放逐劇。しかし、「せいしゅん」の深い闇に、ヤバい匂いを感じたリユユは早々に撤退した。
「『せいしゅん』の愛し子に次期侯爵夫人の座、さらに女伯爵。使えない次期侯爵は適宜処分といったところかな」
2年後、平民として孤児院に入り、公立高校3年生の優等生としてがんばるリユユ・モチシャー(17)のところに、「後ろ盾」になりうる人物がやって来た。中等部2年のとき、儀式学の特別講義を担当した、フェリクス・グラウベンスタイテン=ミリラーグーミイ王弟殿下だ。
「煩わしい地方での業務の長期指揮を突然押し付けられたのは変だと思っていたが、まさか教え子の放逐劇の邪魔にならないように兄上が計らったとは。知るのが遅れて、助けられず、すまないことをした」
楽団員たちの落胆に思いをはせることなく、若き侯爵嫡男ギュキシムは高らかに、かつ、引き続きたどたどしく続けた。
「醜悪なそなたに似合わぬ愛らしきいもうと、パーミリアへのいじめ、バレないと思っていたのだろう。てんどうかいがいそにっくもらさず、という言葉を知っているか?」
――知りません。
場内の心の声はひとつになった、のではないか。
「どんな小さな悪事でもててんばつをまぬかれることは出来ない、という意味だ」
無表情なリユユを嘲り諭すようにギュキシムは付け加えた。
「ノートを破る、教科書を焼却炉に投げ込む、宿題の論文作成を押しつけ徹夜させる、階段から突き落とす。すべて証拠がある」
――え、嫌! パーミリアの丸っこい筆跡の誤字だらけの論文を私が提出?
多くの言いがかりの中で、特に論文が衝撃的で、呆然としたリユユだった。この1年、論文を提出する科目はどれも不本意な成績だったが、すりかえがあったのなら、納得がいく。
初めて動揺したリユユを見たギュキシムは満足したようだった。
「そなたのいじめの証拠の多くは、我が尊敬する父上、国王へへへいかの友人であり、現在の正統なフランサイエ伯爵令夫人、アーリーシャ様が提供してくださった」
義母は一代男爵家の令嬢だった。学生時代に国王陛下、フランサイエ伯爵、その他と「青春」を満喫したとのことだ。
せいしゅん。
意味深長に陰口をきく者は多い。15歳の学生が知っているくらいだから、相当だ。
そんなわけで、中等部を卒業したばかりのリユユは、かなりツッコミどころが多いずさんな理由で伯爵家を追い出され、婚約破棄された。そもそも婚約は侯爵家からの懇願で、幼少期から身仕舞いを整えること以外全てが拙いギュキシムを支えるために決まった取り決めだった。それを断ち切る闇の力。
有能な法律家と権力がある後ろ盾があれば、覆すのは簡単そうなあらだらけの放逐劇。しかし、「せいしゅん」の深い闇に、ヤバい匂いを感じたリユユは早々に撤退した。
「『せいしゅん』の愛し子に次期侯爵夫人の座、さらに女伯爵。使えない次期侯爵は適宜処分といったところかな」
2年後、平民として孤児院に入り、公立高校3年生の優等生としてがんばるリユユ・モチシャー(17)のところに、「後ろ盾」になりうる人物がやって来た。中等部2年のとき、儀式学の特別講義を担当した、フェリクス・グラウベンスタイテン=ミリラーグーミイ王弟殿下だ。
「煩わしい地方での業務の長期指揮を突然押し付けられたのは変だと思っていたが、まさか教え子の放逐劇の邪魔にならないように兄上が計らったとは。知るのが遅れて、助けられず、すまないことをした」
1
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約破棄と言われてもっ!~人違いですわぁ~
紫宛
恋愛
※素人作品です、ゆるふわ設定、息抜き作品、手直しするかも……。よろしくお願いいたします※
婚約破棄と言われましたが、どちら様?
私は、あなたとは婚約しておりませんわ!
わたくしの話を聞いて下さいませ!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
失意の中、血塗れ国王に嫁ぎました!
鍋
恋愛
私の名前はカトリーナ・アルティス。伯爵家に生まれた私には、幼い頃からの婚約者がいた。その人の名前はローレンス・エニュオ。彼は侯爵家の跡取りで、外交官を目指す優秀な人だった。
ローレンスは留学先から帰る途中の事故で命を落とした。その知らせに大きなショックを受けている私に隣国の『血塗れ国王』から強引な縁談が届いた。
そして失意の中、私は隣国へ嫁ぐことになった。
※はじめだけちょっぴり切ないかも
※ご都合主義/ゆるゆる設定
※ゆっくり更新
※感想欄のネタバレ配慮が無いです
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
薬屋の一人娘、理不尽に婚約破棄されるも……
四季
恋愛
薬屋の一人娘エアリー・エメラルドは新興領地持ちの家の息子であるカイエル・トパーヅと婚約した。
しかし今、カイエルの心は、エアリーには向いておらず……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
メイクした顔なんて本当の顔じゃないと婚約破棄してきた王子に、本当の顔を見せてあげることにしました。
朱之ユク
恋愛
スカーレットは学園の卒業式を兼ねている舞踏会の日に、この国の第一王子であるパックスに婚約破棄をされてしまう。
今まで散々メイクで美しくなるのは本物の美しさではないと言われてきたスカーレットは思い切って、彼と婚約破棄することにした。
最後の最後に自分の素顔を見せた後に。
私の本当の顔を知ったからって今更よりを戻せと言われてももう遅い。
私はあなたなんかとは付き合いませんから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる