【R18】The Dark Side of the Prism's Triangle: 三角形のダークサイド～プリズム触手原点

第2章 １０歳から１４歳（原点編）

7-ただいま

　ジグムンドはうなずいた。

「そう。陛下もお若いころから騎士団長閣下の助けで、かなり無茶な『お楽しみ』をしてきた。閣下が納得しているなら、れでいい。しかし、我々調律魔術技術者にそのような助けを要求されると、大きな問題になりかねない」
「私たちの年齢……未成熟な状況で、小知恵ばかり発達してしまうと、無茶をしがちですよね。これはダスティさんの受け売りですけれど」

　ジグムンドは意外そうに、そして嬉しそうに笑った。

「その通り。おそらくガスパールさんの進講のとき、ジェレミーさんが学友として行くことになるだろう。私は年齢が離れすぎているので、おそらく適さない。そして女性研究者の同行は絶対に駄目だ」
「分かりました。心に留めておきます」

　ジグムンドは気遣わしげにうなずいた。

「取り越し苦労かもしれない。尊きお方だが……私とガスパールさんは少し心配している。ジェレミーさんも気をつけてくれ」

　***

「ジェレミー！」

　それからしばらくして、王都に戻った私は女性に声をかけられて振り向いた。
「義姉上、お久しぶりです」
　
　ガスパールの予測通り、魔王の砦は調律魔術を使わずとも鎮まった。私は他の遠征者たちと共に王都での凱旋パレードに参加するため、王宮内の待機場所にいた。
　そこには、兄マティアスの妻、アルテナの姿もあった。
　騎士団兵站部の制服に身を包み、姿勢よく立っている彼女に会うのは久しぶりだ。
　マティアスとアルテナは成人と同時に結婚して３年が経つ。アルテナは優秀な騎士で、マティアスの上司でもある。

　騎士団の起源は、馬を使った戦闘時代にさかのぼる。王を守るために集まった勇士たちが自らを「騎士団」と呼んだのだ。
　今では魔導具を使った交通機関が主流だが、彼らは伝統を重んじ「騎士」を名乗っている。
　騎士団は近衛、国防、兵站に分かれており、マティアスとアルテナは兵站部門に属している。

「今回は幸い、大きな被害なく砦が鎮められてよかった。今日マティアスは後方待機だ。こうやって会えるなら、彼も連れてくればよかったな」
「兄上に会えたらもっと良かったですが、義姉上にお会いできただけでも嬉しいです」 」

　私とそれほど身長が変わらないアルテナは、愛嬌のある顔立ちだ。
　おおらかで配慮を忘れない義姉。会ったのはほんの数回だ。しかし、義弟の私にいつもよくしてくれる。
　母は忌み嫌っている。理由が分からない。先妻の息子に関わることはすべて拒否したいのかもしれない。

　私はローブの隠しから個人的な連絡先を書いたカードを取り出して、アルテナに渡した。マティアスに会えたら渡そうとずっと思っていた。

「僕、いま寮に住んでいるので、割と自由が利きます。ご自宅を訪問しても良いですか」

　アルテナは温かく笑った。

「分かった。連絡を取り合おう。あのちびっ子が、もう連絡用魔導具を使いこなす年齢の研究者になったんだなあ」
「でも僕を一目で分かったじゃないですか」

　つい一人称が僕になってしまう。

「そりゃあ、分かるさ。義弟おとうとだからね」

　――兄たちと一緒だと、こんな簡単なことが、伯爵家の後継など面倒なことが絡むと、なぜこじれるんだろう。

　義姉と一緒に大笑いしながら、私の内心は苦い思いでいっぱいになった。

　***

　魔術大学はパレードの最後尾を務めた。それでも、沿道のひとびとは疲れを見せず歓呼の声を上げて私たちを労ってくれた。
　人混みの中に、ちらりとキャビと母たちが見えた。３人は手を取り合って泣いていた。
　私は無表情を保ちながら、ローブの隠しの中にしまっているお守りを思い出した。

　――おかげさまで、無事に帰ってきました。

　しかし、その喜びはつかの間だった。

　王国の腐敗と魔王は、その後の私たちの人生を混乱させ続けた。
　多くの予想外な出来事が私たちを翻弄することになる未来を、そのときの私は知る由もなかった。