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55話 動くファガル
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「グェイン殿下、協力に感謝します」
ファガル達一行はグェインの住まう宮に迎え入れられた。
通常、城に勤務しているものはいつも通り登城してから合流する予定だ。
彼らは主に教会の護衛戦士の解放のために動く。
「いや、我らの計画と貴殿らが動くことによって得られる利益が一致したに過ぎない。我らは動き出すための確証を得られなかった。感謝なら、我らもしている」
がっちりと握手を交わして、お互いの持つ情報を照らし合わせていく。
「突入の時間を決めれば、証言によって明らかになっている宴の参加者を拘束する者達も同時に動きます。この度の所業に精霊王は大層御立腹で、精霊王自らが断罪するそうです。彼らを内宮の庭園に集めよと命じられております」
そして我らに確証はなくとも、精霊が敵だと認識している者は精霊達によってそこに集められるのだ。
彼らが手を出せないのは、内宮のみだ。
あそこを、影も形も残さぬくらいに破壊せねばならない。
「なんと、精霊王が自ら」
「はい」
机にいくつかの資料を置き、場所や拘束する人員などをザッと照らしていると、廊下が慌ただしくなり扉が開いた。
「グェイン殿下、これを!こちらがアルベルト殿下がエレーナ様から預かってきた内宮の内面図の詳細となっています!」
手に入れたくても手に入らなかった、内宮奥の内面図だと?
「アルベルトは無事だったか?」
内面図を受け取りながら、グェインがヒュージンにアルベルトの無事を確認する。
「はい、急に姿が見当たらなくなり心配しましたが、精霊の導きの元、エレーナ様のところへ訪れていたようです」
「……母上のところへ」
それは、ヒュージンも嫌な汗をかいたことだろう。
「なるほど、これを見ると正面から入ってもシャリオのいる場所には届かないわけか」
高位の貴族と王族の部屋は隔離されている。
そこに到るまで、いくつも仕切りが施されているようだ。
「だが、潜り込んでいる者達と合流もしたいですね。貴重な戦力です」
「壁を壊すか?シャリオが模様を破棄した後なら魔術も使えると言っていたが」
今のままだと魔道具を持ち込んでも、打ち込んだ魔術を吸収されてしまい無効化されてしまうのだ。
「守りを厳重にした箱の中に、衝撃波の魔道具を忍ばせて行きましょう。魔力を吸収する陣が消え、影響が無くなれば魔道具も使えるかと」
なるほど、壁ごと吹き飛ばすのか。
どのみち破壊するつもりなのだ。それもいいだろう。
「戦士の押し込められている部屋の天井には、四隅と北を0時にした場合の4時と10時それぞれ7の距離に要石がある」
シャリオの持って帰ってきた要石で見える範囲は、その部屋の内部だけだった。
「私が撃ち落として参ります」
「頼んだ」
「は!」
魔術を使えないため、原始的な方法にはなるが弓の名手を幾人か集めたのだ。
天井の要石は壊すか落とすかするしかない。
「そちらは私が向かいましょう。服と武器は数日間かけて届けてありますから、いつものように清掃に向かうふりをして乗り込みます」
「とすると10時頃の突入がいいか」
デヨーテが頷いた。
内宮は魔術に頼りきっているためか、出入り口に監視の為の騎士が5人ほどいるだけだ。
中もひっそりとしていて、宴でもない限り人はまばらにしかいない。
既に入れ替わっている戦士の内の8割は、突入と同時に城へ向かい王族の確保に動くことになる。
「では、拘束部隊にも時間を知らせる鳥を飛ばずこととしようか」
いよいよ、明日。
多くが城に詰めている、その時を狙う。
シャリオ、無事でいてくれ。
☆
アルベルトを先頭に、ぐるりと囲う木の迷路を抜けると、中央に大きな平家の建物が現れた。
こんなところに、これほど大きな建物が隠されていたとは。
「母上~!」
アルベルトが小声で声をかけながら、ぴょんぴょんと飛び上がり手を振ると、ほんの少し小さく開いていた扉が大きく開いた。
駆け出したアルベルトが小柄な女性にしっかりと抱きついている。
あの方がエレーナ様なのだろう。
「母上……お久しぶりです。お元気そうで安心しました」
「グェインも、立派になりましたね」
その会話から、アルベルトだけではなくグェインも母と会えていなかったことを知れた。
「こちらが内宮に続く扉です。どうか、ご武運を」
エレーナ様の案内で小さな扉の前に到着した。
その後ろには武装した女達が立っている。
彼女達はエレーナ様が人質などに取られないよう戦うのだそうだ。
城と内宮奥、そしてこの部屋は繋がっているからだと。
むしろ内宮の庭に出た方が安全かもしれない。
「アルベルトはここで母上を守ってくれ」
「はい、兄上!お任せください!」
「精霊達よ。しばし、ここで女達を頼むぞ」
そう言葉にすれば、皆についていた精霊がふわりと浮いて離れていく。
見えるのは私だけだが、私の視線の先に精霊が離れていくことがわかったのだろう。
皆も深く息を吐いてそれを見つめた。
「ここから先は、皆、精霊の加護を一度捨てて向かわなければならない戦場となる」
ここには剣士のみで魔術師はいない。
それぞれの武器を手に、彼らが頷いた。
こんな戦い方は今までしてきたことが無い。
各々が磨いてきた腕のみが、戦う力となるのだ。
「では参るぞ」
「は!」
グェインの掛け声で、皆が扉を抜けた。
☆
扉を潜ると大人が3人ほと並んで歩ける程度の通路だった。
壁にも天井にもやはり模様が入っている。
模様を削っていくのは、魔術を完全に無効化できる最も有効な手段だが、時間がかかり過ぎる。
要石を取り除くか破壊する方法は、魔術の効力を弱めることができるだけだが、瞬時に広範囲に効果がある。
今は要石を破壊する方に留めるしかない。
「全員方位陣は持っているな」
「は!」
彼らは返事と共に、弓を構えた。
その周りを剣を抜いて警戒する者と、消滅寸前の精霊を確保するために水晶を掲げる者で囲む。
要石の位置を見れるのは私だけだ。
「これより5m、四隅と、北を基準に3時の方位8の距離!」
「は!」
ファガルの声が響くと、一斉に矢が放たれる。
要石がコロリと落ちると、掲げられた水晶が光った。
「精霊確保!」
「よし!つぎの区間に行く」
場所を正方形に区切り、ひとつひとつ進むのが歩みは鈍くても1番確実にシャリオに辿り着ける筈だ。
焦りは禁物。
「四隅と2時に3、8時に6!」
「は!」
一斉に放たれる矢と落ちる要石。
次々に要石を確保して、精霊王から預かった精霊を休ませるための水晶も既に3つが充溢している。
そして目の前に現れた小さな扉。
エレーナ様の部屋を抜けた扉と同じものだ。
この先にシャリオのいる部屋があるかもしれない。
「グェイン殿下、離れていてください」
「わかった」
先鋒に特化している何人かが、扉に集まる。
細く開いた扉の隙間から中を確認すると、ゆっくりと開いた扉の先へ静かに飛び出した。
辺りを警戒した彼らから合図を受け、我らも順に扉から出た。
扉に続いていたのは同じく通路であったが、広く高い、城内と同じ立派な通路だ。
「あれが『紅の間』では?」
確かに赤一色の禍々しさで溢れている。
「要石の場所を確認しておく」
「は!」
弓を使う者を2組に分け、1組は室内へ、残りの組みはこの通路の要石を駆逐するのだ。
彼らも模様の規則性に気づき始めているようで、私の指す場所と彼らの思う場所が一致している。
「あとは頼んだぞ」
「お任せください」
「ファガル様、開きます!」
☆
重厚な扉を開いて現れた先にいたのは、一目で高価だとわかる拘束具を首や手首に飾られた裸のシャリオと、同じく何も身につけずシャリオを押し倒している男だった。
冷静に動きを合わせることなど頭から消え去り、飛び出していた。
「ファガル!殺したらダメだ!!」
シャリオの声に握っていた剣を放り出す。
そのまま握り込んだ拳を男に打ち込めば、寝台から勢いよく転がった。
私のシャリオによくも!!
何度も何度も、顔に、腹に打ちつける。
何度も何度も打ちつけて、何度目の拳か、振り上げたその背中にシャリオがしがみついてきた。
「もういいよ。もういいんだ、ファガル。来てくれて、ありがとう」
「っ!!」
「ファガルはちゃんと俺を助けてくれたんだから、もういいんだ。もう……泣くな」
守れてない!
私はシャリオを守れてなんかいない!
自分の不甲斐なさが、情けなくて仕方ない!
「それとも、誰かに汚された俺なんかじゃ、ファガルは愛せない?」
「そんなこと、あるわけがないだろう!!」
私は顔を上げて、ハッと気がついた。
泣きたいのも、辛いのも、シャリオの方が上に決まっているのに、シャリオを労る言葉すらかけていなかった。
「シャリオ、例えどんなことがあっても、シャリオの全てを愛している」
「それなら……何も問題なんか、ないだろう?」
一瞬だけ見せた、普段のシャリオよりも、少し弱気な笑み。
それに気を取られているうちに、シャリオは立ち上がっていた。
シャリオはすぐに状況を確認すると、自らを拘束する鎖を握り込む。
細い鎖だが、明らかに金属であるのにボロボロと砕けて落ちた。
ラウジュが慌ててどこかから調達してきた服を手渡すと、シャリオが足を通す。
転がってボロボロになっていた男は、素早く身支度を整えられたあと、後ろ手に拘束されていた。
「ここで魔術は使えないのでは?」
小さく誰かが呟いた。
「これだけ術式を弱めてくれたら流石に使えるよ……ここにまだ精霊がいなくても、俺自身が精霊の血を引く契約者なんだからな」
そしてその背に広がる、美しい羽。
「さあ、ファガル行くぞ。まだ、やらないといけないことがあるだろう?俺達にしかできないことが」
強く前を見据えるシャリオの姿に、惚けたように彼を見上げた。
「さあ立て、ファガル!精霊王が降臨できる場を、整えなければならない」
凛とした声に、その場にいた全員が動き出した。
この巨大な悪の巣を壊しつくすために。
ファガル達一行はグェインの住まう宮に迎え入れられた。
通常、城に勤務しているものはいつも通り登城してから合流する予定だ。
彼らは主に教会の護衛戦士の解放のために動く。
「いや、我らの計画と貴殿らが動くことによって得られる利益が一致したに過ぎない。我らは動き出すための確証を得られなかった。感謝なら、我らもしている」
がっちりと握手を交わして、お互いの持つ情報を照らし合わせていく。
「突入の時間を決めれば、証言によって明らかになっている宴の参加者を拘束する者達も同時に動きます。この度の所業に精霊王は大層御立腹で、精霊王自らが断罪するそうです。彼らを内宮の庭園に集めよと命じられております」
そして我らに確証はなくとも、精霊が敵だと認識している者は精霊達によってそこに集められるのだ。
彼らが手を出せないのは、内宮のみだ。
あそこを、影も形も残さぬくらいに破壊せねばならない。
「なんと、精霊王が自ら」
「はい」
机にいくつかの資料を置き、場所や拘束する人員などをザッと照らしていると、廊下が慌ただしくなり扉が開いた。
「グェイン殿下、これを!こちらがアルベルト殿下がエレーナ様から預かってきた内宮の内面図の詳細となっています!」
手に入れたくても手に入らなかった、内宮奥の内面図だと?
「アルベルトは無事だったか?」
内面図を受け取りながら、グェインがヒュージンにアルベルトの無事を確認する。
「はい、急に姿が見当たらなくなり心配しましたが、精霊の導きの元、エレーナ様のところへ訪れていたようです」
「……母上のところへ」
それは、ヒュージンも嫌な汗をかいたことだろう。
「なるほど、これを見ると正面から入ってもシャリオのいる場所には届かないわけか」
高位の貴族と王族の部屋は隔離されている。
そこに到るまで、いくつも仕切りが施されているようだ。
「だが、潜り込んでいる者達と合流もしたいですね。貴重な戦力です」
「壁を壊すか?シャリオが模様を破棄した後なら魔術も使えると言っていたが」
今のままだと魔道具を持ち込んでも、打ち込んだ魔術を吸収されてしまい無効化されてしまうのだ。
「守りを厳重にした箱の中に、衝撃波の魔道具を忍ばせて行きましょう。魔力を吸収する陣が消え、影響が無くなれば魔道具も使えるかと」
なるほど、壁ごと吹き飛ばすのか。
どのみち破壊するつもりなのだ。それもいいだろう。
「戦士の押し込められている部屋の天井には、四隅と北を0時にした場合の4時と10時それぞれ7の距離に要石がある」
シャリオの持って帰ってきた要石で見える範囲は、その部屋の内部だけだった。
「私が撃ち落として参ります」
「頼んだ」
「は!」
魔術を使えないため、原始的な方法にはなるが弓の名手を幾人か集めたのだ。
天井の要石は壊すか落とすかするしかない。
「そちらは私が向かいましょう。服と武器は数日間かけて届けてありますから、いつものように清掃に向かうふりをして乗り込みます」
「とすると10時頃の突入がいいか」
デヨーテが頷いた。
内宮は魔術に頼りきっているためか、出入り口に監視の為の騎士が5人ほどいるだけだ。
中もひっそりとしていて、宴でもない限り人はまばらにしかいない。
既に入れ替わっている戦士の内の8割は、突入と同時に城へ向かい王族の確保に動くことになる。
「では、拘束部隊にも時間を知らせる鳥を飛ばずこととしようか」
いよいよ、明日。
多くが城に詰めている、その時を狙う。
シャリオ、無事でいてくれ。
☆
アルベルトを先頭に、ぐるりと囲う木の迷路を抜けると、中央に大きな平家の建物が現れた。
こんなところに、これほど大きな建物が隠されていたとは。
「母上~!」
アルベルトが小声で声をかけながら、ぴょんぴょんと飛び上がり手を振ると、ほんの少し小さく開いていた扉が大きく開いた。
駆け出したアルベルトが小柄な女性にしっかりと抱きついている。
あの方がエレーナ様なのだろう。
「母上……お久しぶりです。お元気そうで安心しました」
「グェインも、立派になりましたね」
その会話から、アルベルトだけではなくグェインも母と会えていなかったことを知れた。
「こちらが内宮に続く扉です。どうか、ご武運を」
エレーナ様の案内で小さな扉の前に到着した。
その後ろには武装した女達が立っている。
彼女達はエレーナ様が人質などに取られないよう戦うのだそうだ。
城と内宮奥、そしてこの部屋は繋がっているからだと。
むしろ内宮の庭に出た方が安全かもしれない。
「アルベルトはここで母上を守ってくれ」
「はい、兄上!お任せください!」
「精霊達よ。しばし、ここで女達を頼むぞ」
そう言葉にすれば、皆についていた精霊がふわりと浮いて離れていく。
見えるのは私だけだが、私の視線の先に精霊が離れていくことがわかったのだろう。
皆も深く息を吐いてそれを見つめた。
「ここから先は、皆、精霊の加護を一度捨てて向かわなければならない戦場となる」
ここには剣士のみで魔術師はいない。
それぞれの武器を手に、彼らが頷いた。
こんな戦い方は今までしてきたことが無い。
各々が磨いてきた腕のみが、戦う力となるのだ。
「では参るぞ」
「は!」
グェインの掛け声で、皆が扉を抜けた。
☆
扉を潜ると大人が3人ほと並んで歩ける程度の通路だった。
壁にも天井にもやはり模様が入っている。
模様を削っていくのは、魔術を完全に無効化できる最も有効な手段だが、時間がかかり過ぎる。
要石を取り除くか破壊する方法は、魔術の効力を弱めることができるだけだが、瞬時に広範囲に効果がある。
今は要石を破壊する方に留めるしかない。
「全員方位陣は持っているな」
「は!」
彼らは返事と共に、弓を構えた。
その周りを剣を抜いて警戒する者と、消滅寸前の精霊を確保するために水晶を掲げる者で囲む。
要石の位置を見れるのは私だけだ。
「これより5m、四隅と、北を基準に3時の方位8の距離!」
「は!」
ファガルの声が響くと、一斉に矢が放たれる。
要石がコロリと落ちると、掲げられた水晶が光った。
「精霊確保!」
「よし!つぎの区間に行く」
場所を正方形に区切り、ひとつひとつ進むのが歩みは鈍くても1番確実にシャリオに辿り着ける筈だ。
焦りは禁物。
「四隅と2時に3、8時に6!」
「は!」
一斉に放たれる矢と落ちる要石。
次々に要石を確保して、精霊王から預かった精霊を休ませるための水晶も既に3つが充溢している。
そして目の前に現れた小さな扉。
エレーナ様の部屋を抜けた扉と同じものだ。
この先にシャリオのいる部屋があるかもしれない。
「グェイン殿下、離れていてください」
「わかった」
先鋒に特化している何人かが、扉に集まる。
細く開いた扉の隙間から中を確認すると、ゆっくりと開いた扉の先へ静かに飛び出した。
辺りを警戒した彼らから合図を受け、我らも順に扉から出た。
扉に続いていたのは同じく通路であったが、広く高い、城内と同じ立派な通路だ。
「あれが『紅の間』では?」
確かに赤一色の禍々しさで溢れている。
「要石の場所を確認しておく」
「は!」
弓を使う者を2組に分け、1組は室内へ、残りの組みはこの通路の要石を駆逐するのだ。
彼らも模様の規則性に気づき始めているようで、私の指す場所と彼らの思う場所が一致している。
「あとは頼んだぞ」
「お任せください」
「ファガル様、開きます!」
☆
重厚な扉を開いて現れた先にいたのは、一目で高価だとわかる拘束具を首や手首に飾られた裸のシャリオと、同じく何も身につけずシャリオを押し倒している男だった。
冷静に動きを合わせることなど頭から消え去り、飛び出していた。
「ファガル!殺したらダメだ!!」
シャリオの声に握っていた剣を放り出す。
そのまま握り込んだ拳を男に打ち込めば、寝台から勢いよく転がった。
私のシャリオによくも!!
何度も何度も、顔に、腹に打ちつける。
何度も何度も打ちつけて、何度目の拳か、振り上げたその背中にシャリオがしがみついてきた。
「もういいよ。もういいんだ、ファガル。来てくれて、ありがとう」
「っ!!」
「ファガルはちゃんと俺を助けてくれたんだから、もういいんだ。もう……泣くな」
守れてない!
私はシャリオを守れてなんかいない!
自分の不甲斐なさが、情けなくて仕方ない!
「それとも、誰かに汚された俺なんかじゃ、ファガルは愛せない?」
「そんなこと、あるわけがないだろう!!」
私は顔を上げて、ハッと気がついた。
泣きたいのも、辛いのも、シャリオの方が上に決まっているのに、シャリオを労る言葉すらかけていなかった。
「シャリオ、例えどんなことがあっても、シャリオの全てを愛している」
「それなら……何も問題なんか、ないだろう?」
一瞬だけ見せた、普段のシャリオよりも、少し弱気な笑み。
それに気を取られているうちに、シャリオは立ち上がっていた。
シャリオはすぐに状況を確認すると、自らを拘束する鎖を握り込む。
細い鎖だが、明らかに金属であるのにボロボロと砕けて落ちた。
ラウジュが慌ててどこかから調達してきた服を手渡すと、シャリオが足を通す。
転がってボロボロになっていた男は、素早く身支度を整えられたあと、後ろ手に拘束されていた。
「ここで魔術は使えないのでは?」
小さく誰かが呟いた。
「これだけ術式を弱めてくれたら流石に使えるよ……ここにまだ精霊がいなくても、俺自身が精霊の血を引く契約者なんだからな」
そしてその背に広がる、美しい羽。
「さあ、ファガル行くぞ。まだ、やらないといけないことがあるだろう?俺達にしかできないことが」
強く前を見据えるシャリオの姿に、惚けたように彼を見上げた。
「さあ立て、ファガル!精霊王が降臨できる場を、整えなければならない」
凛とした声に、その場にいた全員が動き出した。
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