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22話 18歳のジレンマ sideイフト
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もう何度も告白しては振られ続けている。
身体の相性は良くなってきてるし、周りももうできてるって認めてくれてるのに、何がダメなのだろうか。
『お前、人の目をもっと気にしろよ』なんて言われるけど、俺と一緒にいることの、何が恥ずかしいんだろうか。
最近では、親からもリースと早く籍を入れろって言われるようになって、少し焦ってたんだと思う。
結婚してないと、責任ある地位にはつけないからな。
だから、リースが嫉妬してくれるわけもないのに、嫉妬してくれたらいいと浅はかにも思ってしまった。
そして家の前までやってくる彼女達を利用しようと思って……失敗した。
リースが人からの視線が煩わしいと思ってこんなところに家を構えたと知っていたのに。
出ていけとか、出ていくとか、ちゃんとケンカになるだけ前よりはマシだが、それを言われる度に悲しさが突き刺さるんだよ。
黙って急にいなくなるよりは千倍もいいけど。
そう、俺は自分のことだけ、思っていたんだ。
だから、リースが死んでればよかったなんて言った時には、リースを殺して俺も死のうと思った。
リースのいない世界なんて生きてる意味なんかない。
でも、そんな簡単なことじゃなかった。
リースの中に複雑な苦しみがあると知って、今はそんな気持ちにはならなくなった。
男同士で結婚できることへの不思議なほどの抵抗感。
それが、記憶の混濁のせいだったなんて。
俺の知らないところで、リースはもっと悩んでいたんだろう。
リースの人が変わったのには、みんな気付いている。
でも、前のリースが消えたわけじゃないのも、わかっている。
それが、前世の記憶を思い出したからってことには気付いてなかったけど。
でも、だからこそ納得できた。
この村に馴染めないのは、そういうことだったんだって。
しかも、俺のこと、泣けるほど好きだったって。
そんなに、考えてくれていたんだって。
そうなんだ。そうだったんだ。
それなら、待てるよ。
リースが村に馴染めなくてもいい。
俺のこと好きだってリースの心が受け入れられるまで、いつまでも待てるよ。
それは初めてできた、心の余裕だった。
☆
「イフト、とうとう入籍するのか?」
役場で孤児基金の申し込みをしていると、担当から笑顔で祝われた。
「いんや、まだ。でも少し進展があったから、義務だけは果たそうかなって。2人分頼むよ」
もう、女と伴侶になることはない。
そういう意思表示だ。
リースには事後報告するとして、金だけ納めておけば、もうこれで、彼女達は来ないだろう。
もっと早く、リースの気持ちを尊重できればよかった。
俺はいつも、自分のことばっかりだ。
「そうか。魔力過多症ってのは、いろいろ難しいらしいからなあ。引いたら最後、街や王都に逃げられちまうって話だ。好きなら押す以外に方法はねえって聞くし、まあ、頑張れ」
「ありがとう」
そっか、引いたら最後なんだ。
……なんとなく、知ってた。
街でなら、リースの存在は浮かない。
むしろ、あの容姿と柔らかい物腰。
街の女からは引く手数多だろうな。リースは元々、女の方が好きらしいし。
ゆったりと酒を飲む時、静かに魔術を組んでいる時、長閑に畑を耕している時。
そんなリースを見ると、いつも不安だった。
今なら、その不安の意味がわかる。
軋轢を嫌い俺の我が儘を受け入れるリースの穏やかな気質が、静けさを好む雰囲気が、この村にはない性質だったからだ。
口は悪いけど。
村人の力を誇示してぶつかり合う激しさや、この村の陽気な賑やかさとは違う雰囲気。
その柔らかさは、この村では見向きもされなくても、街に出れば好ましい性質に映るだろう。
それにリースの容姿は目立つ。
誰でも、選びたい放題な、はずだ。
強い者が美しい。
そんな価値観で暮らしている、この村だけが特殊なんだ。
この村にずっと篭っているリースでは、リース自身の価値を正しく知ることができない。
ただ、それだけ。
リースが、自分の価値に気づいたら……。
だから、手放したら2度と戻ってこないって、わかっている。
俺が魔力過多症について知ったのは割と最近のことだ。
リースと同じく、身体の大き目な子供が独立の儀で魔力を暴走させた時、たまたま俺が立ち会い人をしていたから知れたのだ。
リースの他にも、現在8人の魔力過多症が村にはいるのだという。
リースみたいに死ぬほどのケースは初めてだったみたいだが、それほどではなくても今までもあったそうだ。
そして、彼らは一時的に記憶の障害や心の病に見舞われるらしい。
中には自殺しようとする人もいるらしくて、だからあの時のリースの家族の過保護っぷりが、ようやく納得できた。
まあでも、いずれ時間はかかっても、その混乱した記憶の折り合いをなんとかつけて、元に戻るものらしいが。
そしてその多くが、特別な魔術を世に生み出す偉人になっている。
その上、彼らはなぜか村を離れても魔力がなくなることはない。
村の長老組なんかはいずれリースがそういう存在になると知っていて、見守っていたのだ。
小売店の店主なんかは、随分と前からリースが才能を発現しつつあると知っていたらしい。
知らないのは子を持たない若い連中だけで、村の皆、リースの心の負担にならないよう、リースが壊れてしまわないよう、見守っていたのだ。
リースが未だ心の整理がつかないのは、それだけ有してる魔力の量が多いからだと思われる。
魔力が多ければ多いほど入り込む歪な記憶の量も多くなり、記憶の混濁に振り回されるかららしい。
そしてやはりリースは、既に特別な魔術をいくつも編み出していた。
リースはそれを世に出してはいけないと思っているらしいが、そんなことはない。
魔力過多症とは、そういうものを世に生み出す者達のことを指す言葉なのだから。
けど、それをリースに伝えないのは、リースが俺から離れる可能性を無くしたかったからで、でもそのせいでリースは苦しんでいるわけだ。
この話をすれば、リースは安心するとわかっているのに。
リースは家族の荷物と思われるのを嫌がった。
他人から普通ではないと見られる、その視線を嫌がった。
つまりリースを悩ませているのは、劣等感とか、疎外感みたいなものなのだと思う。
それが解消されれば、リースはこの村を、世界を受け入れられるんだろう。
でもそれは同時に、リースが偉人としてこの世界に羽ばたくという意味にもなるのだ。
その時俺は?
俺はどうなるんだろう。
そうなってもリースが俺を選んでくれる、そこまでの自信は、ない。
だから、だからリースには悪いけど、もう少しだけ、今のままでいたいと願っている。
身体の相性は良くなってきてるし、周りももうできてるって認めてくれてるのに、何がダメなのだろうか。
『お前、人の目をもっと気にしろよ』なんて言われるけど、俺と一緒にいることの、何が恥ずかしいんだろうか。
最近では、親からもリースと早く籍を入れろって言われるようになって、少し焦ってたんだと思う。
結婚してないと、責任ある地位にはつけないからな。
だから、リースが嫉妬してくれるわけもないのに、嫉妬してくれたらいいと浅はかにも思ってしまった。
そして家の前までやってくる彼女達を利用しようと思って……失敗した。
リースが人からの視線が煩わしいと思ってこんなところに家を構えたと知っていたのに。
出ていけとか、出ていくとか、ちゃんとケンカになるだけ前よりはマシだが、それを言われる度に悲しさが突き刺さるんだよ。
黙って急にいなくなるよりは千倍もいいけど。
そう、俺は自分のことだけ、思っていたんだ。
だから、リースが死んでればよかったなんて言った時には、リースを殺して俺も死のうと思った。
リースのいない世界なんて生きてる意味なんかない。
でも、そんな簡単なことじゃなかった。
リースの中に複雑な苦しみがあると知って、今はそんな気持ちにはならなくなった。
男同士で結婚できることへの不思議なほどの抵抗感。
それが、記憶の混濁のせいだったなんて。
俺の知らないところで、リースはもっと悩んでいたんだろう。
リースの人が変わったのには、みんな気付いている。
でも、前のリースが消えたわけじゃないのも、わかっている。
それが、前世の記憶を思い出したからってことには気付いてなかったけど。
でも、だからこそ納得できた。
この村に馴染めないのは、そういうことだったんだって。
しかも、俺のこと、泣けるほど好きだったって。
そんなに、考えてくれていたんだって。
そうなんだ。そうだったんだ。
それなら、待てるよ。
リースが村に馴染めなくてもいい。
俺のこと好きだってリースの心が受け入れられるまで、いつまでも待てるよ。
それは初めてできた、心の余裕だった。
☆
「イフト、とうとう入籍するのか?」
役場で孤児基金の申し込みをしていると、担当から笑顔で祝われた。
「いんや、まだ。でも少し進展があったから、義務だけは果たそうかなって。2人分頼むよ」
もう、女と伴侶になることはない。
そういう意思表示だ。
リースには事後報告するとして、金だけ納めておけば、もうこれで、彼女達は来ないだろう。
もっと早く、リースの気持ちを尊重できればよかった。
俺はいつも、自分のことばっかりだ。
「そうか。魔力過多症ってのは、いろいろ難しいらしいからなあ。引いたら最後、街や王都に逃げられちまうって話だ。好きなら押す以外に方法はねえって聞くし、まあ、頑張れ」
「ありがとう」
そっか、引いたら最後なんだ。
……なんとなく、知ってた。
街でなら、リースの存在は浮かない。
むしろ、あの容姿と柔らかい物腰。
街の女からは引く手数多だろうな。リースは元々、女の方が好きらしいし。
ゆったりと酒を飲む時、静かに魔術を組んでいる時、長閑に畑を耕している時。
そんなリースを見ると、いつも不安だった。
今なら、その不安の意味がわかる。
軋轢を嫌い俺の我が儘を受け入れるリースの穏やかな気質が、静けさを好む雰囲気が、この村にはない性質だったからだ。
口は悪いけど。
村人の力を誇示してぶつかり合う激しさや、この村の陽気な賑やかさとは違う雰囲気。
その柔らかさは、この村では見向きもされなくても、街に出れば好ましい性質に映るだろう。
それにリースの容姿は目立つ。
誰でも、選びたい放題な、はずだ。
強い者が美しい。
そんな価値観で暮らしている、この村だけが特殊なんだ。
この村にずっと篭っているリースでは、リース自身の価値を正しく知ることができない。
ただ、それだけ。
リースが、自分の価値に気づいたら……。
だから、手放したら2度と戻ってこないって、わかっている。
俺が魔力過多症について知ったのは割と最近のことだ。
リースと同じく、身体の大き目な子供が独立の儀で魔力を暴走させた時、たまたま俺が立ち会い人をしていたから知れたのだ。
リースの他にも、現在8人の魔力過多症が村にはいるのだという。
リースみたいに死ぬほどのケースは初めてだったみたいだが、それほどではなくても今までもあったそうだ。
そして、彼らは一時的に記憶の障害や心の病に見舞われるらしい。
中には自殺しようとする人もいるらしくて、だからあの時のリースの家族の過保護っぷりが、ようやく納得できた。
まあでも、いずれ時間はかかっても、その混乱した記憶の折り合いをなんとかつけて、元に戻るものらしいが。
そしてその多くが、特別な魔術を世に生み出す偉人になっている。
その上、彼らはなぜか村を離れても魔力がなくなることはない。
村の長老組なんかはいずれリースがそういう存在になると知っていて、見守っていたのだ。
小売店の店主なんかは、随分と前からリースが才能を発現しつつあると知っていたらしい。
知らないのは子を持たない若い連中だけで、村の皆、リースの心の負担にならないよう、リースが壊れてしまわないよう、見守っていたのだ。
リースが未だ心の整理がつかないのは、それだけ有してる魔力の量が多いからだと思われる。
魔力が多ければ多いほど入り込む歪な記憶の量も多くなり、記憶の混濁に振り回されるかららしい。
そしてやはりリースは、既に特別な魔術をいくつも編み出していた。
リースはそれを世に出してはいけないと思っているらしいが、そんなことはない。
魔力過多症とは、そういうものを世に生み出す者達のことを指す言葉なのだから。
けど、それをリースに伝えないのは、リースが俺から離れる可能性を無くしたかったからで、でもそのせいでリースは苦しんでいるわけだ。
この話をすれば、リースは安心するとわかっているのに。
リースは家族の荷物と思われるのを嫌がった。
他人から普通ではないと見られる、その視線を嫌がった。
つまりリースを悩ませているのは、劣等感とか、疎外感みたいなものなのだと思う。
それが解消されれば、リースはこの村を、世界を受け入れられるんだろう。
でもそれは同時に、リースが偉人としてこの世界に羽ばたくという意味にもなるのだ。
その時俺は?
俺はどうなるんだろう。
そうなってもリースが俺を選んでくれる、そこまでの自信は、ない。
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