6 / 40
6話 10歳の苛立ち sideイフト
しおりを挟む
「バンダイさん、リースいますか」
もう3日もリースの顔をみていない。リースの顔を見ないと頑張れない。
最後に会ったのは山でだった。
何度も『山に行くなら同行したい』と言っても、リースが声を掛けてくれることはない。
リースに会いたい。
そう思ってリースの家に行くと、リースの父さんが水を運んでいるところだった。
いつもはリースがやってるのに、もしかして具合でも悪いのだろうか。心配だ。
「ああイフトか。リースは独り立ちしたぞ。アンミーン山の方に家を構えたらしい」
「え。い、いつですか」
そんなの聞いてない!
この間山で会った時に、引っ越したことすら教えてもらえなかった、なんて。
なんで……?
リースが独り立ちするなら、その手伝いには絶対呼んでくれるって思っていた自信があっただけに、とてつもなくショックだ。
独り立ちの時に手伝いを頼んだ友には、一生の付き合いも頼むという意味があるのだから。
「もう10日も経つかな。イフトにも声をかけようとしたんだが、1人でいいって言われちまってなあ。俺達も手伝わせてもらえなかったんだよ。あんなに軟そうに見えて、アレも一端の男だったってことだ」
バンダイさんが嬉しそうに言ってる言葉は、頭に入ってこなかった。
なんで?
なんでリースは俺に声かけてくれなかったんだ?
そんな問いばかり、ぐるぐると頭を回っていた。
☆
小さな頃、リースは俺の憧れだった。
俺の母親は強かったがあまり丈夫ではなかった。
そのせいか俺の生まれるのが早かったとかで、俺は随分小さく生まれたのだ。
独立の儀を受けるまでに大きくならないと、得られる魔力も少ない。その後生きていくのは大変だろうと、俺について周囲はそういう認識だったと思う。
だから一緒に仲間に入れてくれる友人は少なかった。仲良くなったところで利益になるものがないからな。
そんな時、どんなにグズでもトロくても見捨てないで付き合ってくれたのがリースだったのだ。
時々本当に俺がトロ過ぎて嫌な顔はされたけど。
当時同年代の代表になるのはリースだろうとリースの気を引きたい奴らはたくさんいたのに、リースが始終気に留めていたのは自分だった。
それがとてつもなく嬉しかった。
俺はリースのものだ。
仮にリースに理不尽なことを言われても、一生リースの下僕でいい。
そう、思っていた。
まあ、理不尽な目にあったことなんかないんだけど。
でも少しでもリースの役に立ちたくて、リースに追いつきたくて、捨てられたくなくて。
大きくなるために必死で食べた。食べるために運動も頑張った。
いろいろなことができるようになるまで人よりも時間はかかったが、リースが根気よく付き合ってくれたから頑張れたんだ。
努力の甲斐もあって、独立の儀を迎える時には俺の身体は大きい方になっていた。
儀式が終わると、大人たちに身体を巡る魔力が多いと褒められて、ホッとした。
これでずっとリースと一緒にいられると、リースの側にいるのに相応しい人間になれたと、胸を撫で下ろした。
やれることも増えて、リースの周りに集まるヤツらからも一目置かれるようになっていた俺は、誰よりもリースの1番近くで生きていくんだと、これからもそのために頑張ると決心したのに。
それなのに。
現実は非情だった。
リースの身体は大きくて、リースに入り込む魔力の量は歴代で1番多かったらしい。
しかしそれを伝えにきた大人の顔には、喜びはなかった。
「あれでは長く持たないかもしれん」
なんて。
たくさん血を吐いて今も意識が戻らない、とか。
リースが死ぬかもしれないと聞いて、目の前が暗くなった。
それじゃあ、俺は何のために頑張ってきたんだ。
リースがいないのに、俺が生きてる意味ってなんだ。
でも、リースは生きていてくれた。
目覚めたリースは痛ましく見る周囲を、誰よりも理解していたのだと思う。
あっさりと、それはもうあっさりと、全てを捨てて1人で生きていく決意を決めていたのだ。
それまでどんなに俺がダメダメでも決して見捨てたりしなかったのに、俺のことまで『お前ももう一人前だな』なんてスッパリと切り捨てたんだ。
よくよく考えてみたら、リースの家族っていうのはみんな優秀で、弱者に優しいんだよ。
だから、弱者から抜けた俺には興味がなくなってしまったのかもしれないと、リースの前では頑張り過ぎないように気をつけることになった。
リースの役に立ちたいけど、リースの関心は独り占めしたい。
そしていつか、リースに頼られる存在に、なれたらいいのに。
俺は考えた。
リースの方からこっちに来ることはなくなっても、俺の方からリースについていってはいけないなんてことはないだろ?
俺はリースが何も言わないのをいいことに、今まで通り付き纏うことにした。
『教えて、教えて』ってできないヤツのフリをして。
俺がリースから離れるなんて、そんなの耐えられるわけがないんだから。
俺はリースの物だし、リースの下僕でいたいんだ。
それでいい、そう、思っていたのに。
思ってるだけじゃダメだったんだ。
もっと積極的にリースに付き纏わないと、俺なんかはリースに簡単に捨てられてしまう存在なんだ。
俺がリースのことを想う、何百分の1ですら想っていてもらえてなかったんだ。
そう、思い知った。
もう3日もリースの顔をみていない。リースの顔を見ないと頑張れない。
最後に会ったのは山でだった。
何度も『山に行くなら同行したい』と言っても、リースが声を掛けてくれることはない。
リースに会いたい。
そう思ってリースの家に行くと、リースの父さんが水を運んでいるところだった。
いつもはリースがやってるのに、もしかして具合でも悪いのだろうか。心配だ。
「ああイフトか。リースは独り立ちしたぞ。アンミーン山の方に家を構えたらしい」
「え。い、いつですか」
そんなの聞いてない!
この間山で会った時に、引っ越したことすら教えてもらえなかった、なんて。
なんで……?
リースが独り立ちするなら、その手伝いには絶対呼んでくれるって思っていた自信があっただけに、とてつもなくショックだ。
独り立ちの時に手伝いを頼んだ友には、一生の付き合いも頼むという意味があるのだから。
「もう10日も経つかな。イフトにも声をかけようとしたんだが、1人でいいって言われちまってなあ。俺達も手伝わせてもらえなかったんだよ。あんなに軟そうに見えて、アレも一端の男だったってことだ」
バンダイさんが嬉しそうに言ってる言葉は、頭に入ってこなかった。
なんで?
なんでリースは俺に声かけてくれなかったんだ?
そんな問いばかり、ぐるぐると頭を回っていた。
☆
小さな頃、リースは俺の憧れだった。
俺の母親は強かったがあまり丈夫ではなかった。
そのせいか俺の生まれるのが早かったとかで、俺は随分小さく生まれたのだ。
独立の儀を受けるまでに大きくならないと、得られる魔力も少ない。その後生きていくのは大変だろうと、俺について周囲はそういう認識だったと思う。
だから一緒に仲間に入れてくれる友人は少なかった。仲良くなったところで利益になるものがないからな。
そんな時、どんなにグズでもトロくても見捨てないで付き合ってくれたのがリースだったのだ。
時々本当に俺がトロ過ぎて嫌な顔はされたけど。
当時同年代の代表になるのはリースだろうとリースの気を引きたい奴らはたくさんいたのに、リースが始終気に留めていたのは自分だった。
それがとてつもなく嬉しかった。
俺はリースのものだ。
仮にリースに理不尽なことを言われても、一生リースの下僕でいい。
そう、思っていた。
まあ、理不尽な目にあったことなんかないんだけど。
でも少しでもリースの役に立ちたくて、リースに追いつきたくて、捨てられたくなくて。
大きくなるために必死で食べた。食べるために運動も頑張った。
いろいろなことができるようになるまで人よりも時間はかかったが、リースが根気よく付き合ってくれたから頑張れたんだ。
努力の甲斐もあって、独立の儀を迎える時には俺の身体は大きい方になっていた。
儀式が終わると、大人たちに身体を巡る魔力が多いと褒められて、ホッとした。
これでずっとリースと一緒にいられると、リースの側にいるのに相応しい人間になれたと、胸を撫で下ろした。
やれることも増えて、リースの周りに集まるヤツらからも一目置かれるようになっていた俺は、誰よりもリースの1番近くで生きていくんだと、これからもそのために頑張ると決心したのに。
それなのに。
現実は非情だった。
リースの身体は大きくて、リースに入り込む魔力の量は歴代で1番多かったらしい。
しかしそれを伝えにきた大人の顔には、喜びはなかった。
「あれでは長く持たないかもしれん」
なんて。
たくさん血を吐いて今も意識が戻らない、とか。
リースが死ぬかもしれないと聞いて、目の前が暗くなった。
それじゃあ、俺は何のために頑張ってきたんだ。
リースがいないのに、俺が生きてる意味ってなんだ。
でも、リースは生きていてくれた。
目覚めたリースは痛ましく見る周囲を、誰よりも理解していたのだと思う。
あっさりと、それはもうあっさりと、全てを捨てて1人で生きていく決意を決めていたのだ。
それまでどんなに俺がダメダメでも決して見捨てたりしなかったのに、俺のことまで『お前ももう一人前だな』なんてスッパリと切り捨てたんだ。
よくよく考えてみたら、リースの家族っていうのはみんな優秀で、弱者に優しいんだよ。
だから、弱者から抜けた俺には興味がなくなってしまったのかもしれないと、リースの前では頑張り過ぎないように気をつけることになった。
リースの役に立ちたいけど、リースの関心は独り占めしたい。
そしていつか、リースに頼られる存在に、なれたらいいのに。
俺は考えた。
リースの方からこっちに来ることはなくなっても、俺の方からリースについていってはいけないなんてことはないだろ?
俺はリースが何も言わないのをいいことに、今まで通り付き纏うことにした。
『教えて、教えて』ってできないヤツのフリをして。
俺がリースから離れるなんて、そんなの耐えられるわけがないんだから。
俺はリースの物だし、リースの下僕でいたいんだ。
それでいい、そう、思っていたのに。
思ってるだけじゃダメだったんだ。
もっと積極的にリースに付き纏わないと、俺なんかはリースに簡単に捨てられてしまう存在なんだ。
俺がリースのことを想う、何百分の1ですら想っていてもらえてなかったんだ。
そう、思い知った。
25
お気に入りに追加
973
あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる