彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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52話 閑話3 新しい道へ、愛しい者達と

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仲間の元に戻った俺だけど、俺がいなくてもみんなちゃんと生きていけるようになっていた。
周りに住む大人達が、足りないところを補ってくれるようになっていた。
わからないことを教えてくれる大人が、たくさん、いる。

俺が目指していた町が、できていた。

こいつらが路頭に迷うことは、もう、ない。

「お帰りなさい、サフィ様!」
「おう」
「兄貴~!今日の収穫です。見てくだせえ、ほら、こんなに!」
「おう、すげえな」

こんなに満たされてるのに、なんで足りないと思うのかなあ。

「なあ、カラン」
「はい、サリス様」
「ここはもう、俺がいなくても大丈夫だろ?」
「そうですね」
それならば、考えていることがある。

「俺はさ、この国を豊かにしたいのよ」
王太子と共に、リクの治めるこの国が、国ごと幸せになればいい。
それが、俺とリクの理想的なかかわり方、なんじゃないかな。
俺が、リクにしてやれることはもう少ないから。

「はい。いつか、そう言い出すこともあるかと思ってました。私はサリス様にどこまでもついていきますからね。必ず連れて行ってください」
カランはそう言うと、俺をギュッと抱きしめた。
「ん」
ここは、思い出が多すぎるから。

ああ、カランの胸は広いな。
カランの唇は、甘いな。



『サフィもとうとうビアイラを出るか』
うじうじするのは性じゃねえ。
だから気分転換しに行こうと思ってな。

「おう。ちょっと世直しの旅にでも出ようと思ってな。必殺仕◯人とかちょっと憧れるだろ?」
無茶な貴族は地方に追いやられていて、ビアイラの領主みたいのは結構いるんだ。
俺はリクのために国の隅々まで、平和にしたいんだから。
ほら、お国のトップの人が隅の隅まで目を配るのって難しいだろ?
俺なら、このチートな力を使って手伝ってやれるし。

「必◯仕事人が何かわかりませんけど、サリス様との新婚旅行だと思えば楽しみですね」
「そ、そうか」
そういう考え方もできるわけか。
さすがカランは前向きだな、うん。

実はカランと籍を入れてだな。名実ともに夫夫ふうふ?になった俺達だ。
なんかな、元々甘々だったカランがな、ゲロ甘になってな、うん。
カランにはいっぱい支えられてるんだ。


『まあ、気をつけて行ってこい』
「うん。行ってきます!」



カランを伴侶としてシフォンに紹介もできたし、森を抜けたらまずは船にでも乗るかと歩いていたら、真っ黒の物体が飛んできた。
普通なら発動する結界も作動しなかったし、俺の馬鹿力で踏ん張ることもできなかった。

地面と『こんにちは』する前にカランに受け止められて、び、び、びっくりしたー!!
黒い物体もコロリと地面に転がった。

「リク。今頃なんの用だ」
へ?リクなの?

「サフィ様」
なんかめっちゃ泣いてるんだけど。
んで、なんでそんなに泥だらけなんだよ。
「ど、どうしたんだ、リク」
近寄ろうとした俺の前に、カランが出た。

そうだった。
俺のつらい時を、ずっと側で支えてくれたカラン。
籍も入れて、今では俺の大切な旦那様だ。
俺が勝手にリクを受け入れたら、カランに失礼だ。
俺の一存で決めてはいけないこともある。

「カラン?俺、サフィ様の」
「リク!」
カランがリクの言葉を遮った。

「リク、サリス様と私は籍を入れて夫夫になりました」
「え?」
「だからここに、貴方の帰る場所はありません」
カランの強い言葉に、俺の胸の奥がぎゅっと縮んだ。
息が、できないほど。

「サリス様は、お前がいなくなってから随分苦しんだ。だから、あれだけの恩を受けながらサリス様を捨てた薄情なお前を、私は受け入れることはできない」

カランの後ろに隠れた俺の、身体がカタカタと震える。

「俺はサフィ様を捨てたりしていない!!」
「馬鹿を言え!!なら、何故あれほどまでにサリス様が苦しんだんだ!!妻を傷つける敵から守るのは、夫の務めだ。私はお前を認めない」
「俺が、サフィ様の、敵?」

リクが膝をついた。
目が虚で、俺は、急に不安になった。
だって、あの時のリクに似ている。

ダメだとわかっていて、カランの服を掴んだ。

「……とはいえ私の妻は美しいので、腕の立つ護衛の1人くらいは雇ってもいいかと思っております」

「え?」
リクが、真っ直ぐ、カランを見た。

よかった。
目は、淀んでいない。

「サリス様を守る者として、サリス様に仕えることができるなら」

「できます!!やります!!サフィ様の側に、置いてください」

「サリス様、どうしますか?」
「カラン、いいの?」
嬉しい。
また、2人が側にいてくれるなら、俺、幸せだ。

「私は妻に弱いのでね。妻の願いはなんでも叶えてやりたいのです。サリス様の今年の誕生日は既に終わってしまいましたが、来年、サリス様が望むなら……彼を許し同じく伴侶の1人として迎えることも、やぶさかではありませんよ」
え、いいの?

「カラン?」
リクが信じられないものを見るように、目を見開いている。

「サリス様」
「は、はい!」
「今年一年、たくさん、可愛らしく、おねだりしてくださいね」
「は、はひ」
そ、そうくるかあ。



なんだか、やたらと嬉しい。
どうしたんだ、俺。
ふんふんふん、ふふふふふん。

「くふふ。ふふふっ。なんて言うかさ、◯殺仕事人じゃなくなっちまったな!これじゃあさ、水戸黄◯じゃん!」
ヤバい。めっちゃ、嬉しい。
カランって、俺のこと喜ばせる天才じゃね?

必殺◯事人から水◯黄門になっちまって、なんかほのぼの旅になったっていうか。
ほのぼの旅で、よかったっていうか。

「あー、じゃあ、助さん、格さん、行きますかね」

「スケさん?」
「カクさん?」
「おう、俺のことは御老公様って呼べよ」
「え、なんですか、それ」

「あはははっ。なーんてな!」
わーい!楽しすぎる!!
この場合、実際印籠を持っているのは、リクなんだけどな!

「まあ、サリス様が笑っていてくれるなら、なんでもいいんですけどね」
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