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28話 おかえりなさい
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おい、サプライズ、どこ行った。
いや、ある意味サプライズだったけどな!
ダボスに呼ばれて帰ってみれば、そこら中に唸って倒れ込んでいる男衆がいて、直ぐに言葉が出てこなかった。
「何があったんだ?」
我にかえって慌てて浄化をかけて、腫れているところを冷やしていく。
癒しのない俺ができることなんて限られている。
そのことがこんなに悔しく思えるのは初めてだ。弟を羨ましいと思うのも、初めてのことだった。
気休めの気功で治ってくれと念を送れば
「兄貴に触ってもらうと、痛みが引いてくれるっす」
と言われたから、必死に撫でまくってる。
「今日だけですよ。今日だけは我慢しますが、次はありません」
とか、なぜだかリクが敬語で呟くと男達が
「サフィ様、もう痛くありません」
と立ち上がろうとして地面に戻るの繰り返しで少し面倒くさい。
聞けば、今回のことは想定内の出来事だったそうで、だったら、だったら
「一言相談しろよ!隠す方法なんていくらでもあるだろうが!戦う方法だってもっとあんだよ!」
なんだかわけのわからない感情が、目からどんどん溢れ出て落ちる。
いつの間にか、俺にとって大事な家族みたいになってたらしい。
「戦っちまったら、次は軍が出てきちゃうんすよ。兄貴は俺らのために絶対戦ってくれちまうでしょう?だから知らせるわけには行かなかったっす」
俺を思ってくれているのがわかるマークスの言葉は、この惨状にありながら俺を温めた。
「床や壁に隠しても、スキル持ちが鑑定して根こそぎ持っていっちまうんですよ。マジックバッグごと持って行かれたら、それこそおしまいですからね」
そう言って笑うヒサゴは晴れやかな表情だ。
「そうですよ、たったこんだけ殴られて蹴られただけで、俺らはもう自由です。今までの税はこれで勘弁してもらえましたから、来年はもっと蓄えて、女たちの市民権を買いましょう」
腕を掲げて、それを証明する書きつけを見せる彼らの言葉は、どれも俺の知らない情報ばかりだった。
もし俺が感情のままに動いたら、解決せずに悪化するなんて知らなかった。
そんなに怪我してまで。それなのに俺を守ろうとしてくれた彼らの思いに。
どこか作り物みたいに感じていたこの世界のことを、俺がきちんと知ろうとしなかったせいで、みんなが危険に晒されたのに、俺……俺は……
「おや、取り込み中だったかな」
急に入ってきた声に、シン……と場が静まった。
「え?え?」
俺の中の俺がぐるぐると感情を揺らして、想いは形のある言葉として出てこなかった。
「とう、さん?」
やっと絞り出した言葉に、彼は破顔した。
「随分、苦労させたね」
父さんから返ってきたのも、そんな一言だった。
本当はもっと思ってたこともあったはずなのに。
母さんを裏切ってた父さんを恨んだりもしてたのに。
俺を置いて行って寂しかったとか、許すもんかって、ずっと。
なのに。
今日はなんだか泣いてばっかりだ。
ぎゅっと抱き合って、待ちに待った父さんの温もりを確かめる。
「サリス様、よかったですね」
カランの他数名の使用人達がそっと涙を拭っているのが確認できるのが、恥ずかしい。
「それにしても、この惨状はなんですか」
カランの言葉はどうやらリクに向けられているようだ。
「ま、待って。リクは悪くないんだ。みんなも、悪くない。俺が被害に合わないように、みんなが守ってくれたんだ」
俺の言葉になぜかカランの顔が歪んだ。
「けれど、貴方ならもっと何かできたのではないですか」
カランのリクに対する言葉が苛立ちを含んで収まらない。
「いや、俺も市民権は持っていないからな」
「は?」
カランが呆気にとられるのも分からなくはない。
磨き上げるまではたしかに浮浪者だったけど、今のリクを見て市民権のない浮浪者だなんて考える人はいないと思う。
どこからどう見ても、貴族っぽいもんな。
「リクは俺が拾ったんだよ。ここにいるみんな、俺が拾ってきて、俺、寂しかったから一緒に住んでもらいたくて、そのために食べる物とか作ろうと思ったんだ。なのにそのせいでこんなことになっちゃった」
涙も鼻水もダラダラで、言ってることも支離滅裂で、ただ溢れ出る目的のない言葉を、父さんはじっと聞いていた。
「サリス様は周りに利を配るのが下手ですからね」
「私達もサリス様から与えられていることに気がつくのに随分と時間がかかりましたから」
父さんの後ろの人達が、うんうんと頷き合っている。
なんのことだろ。
「なるほど。本当はサフィがみんなを守りたかったんだね」
しばらくして父さんが言った言葉に俺は頷いた。
そういうことだったみたいだ、と。
父さんの言葉がストンと心に落ち着いた。
「ならばサフィは学ばなければならない。貴族との駆け引きの仕方を。彼らを真の意味で守る術を。でもとても過酷な道だ。サフィにできるかい?大切にされて育ったサフィにはとても辛いことだと思うよ」
いなかった3年間(会えなかった期間を含めると4年)を知らない父さんは、俺が甘やかされまくっていたと思っているようだ。
そのせいであまり乗り気ではないのか、いい顔をしていない。
まあ、甘やかされてはなかったけれど、ワガママを押し通して我慢はしてなかったから同じようなものか。
「それでも守る方法があるなら、知りたい」
俺は小さく呟いた。
「サリス様お一人でそんな場所には出せません。どうぞ私めも一緒にお連れください。サリス様のおかげで自分の学費は自分で賄えますから、ご迷惑もおかけしません」
「俺もです!俺も自分の事は自分でなんとかできます。一緒に連れて行ってください。俺も、サフィ様の守るものを一緒に守っていきたい」
カランとリクがそう声を上げると
「仕方ねえなあ。サフィ様とリク兄のために、俺たちがここを守っておくから」
男衆が胸をドンとたたいた。
うん、なんかみんながわかってるみたいだから今更聞きづらいんだけど、どういうこと?
いや、ある意味サプライズだったけどな!
ダボスに呼ばれて帰ってみれば、そこら中に唸って倒れ込んでいる男衆がいて、直ぐに言葉が出てこなかった。
「何があったんだ?」
我にかえって慌てて浄化をかけて、腫れているところを冷やしていく。
癒しのない俺ができることなんて限られている。
そのことがこんなに悔しく思えるのは初めてだ。弟を羨ましいと思うのも、初めてのことだった。
気休めの気功で治ってくれと念を送れば
「兄貴に触ってもらうと、痛みが引いてくれるっす」
と言われたから、必死に撫でまくってる。
「今日だけですよ。今日だけは我慢しますが、次はありません」
とか、なぜだかリクが敬語で呟くと男達が
「サフィ様、もう痛くありません」
と立ち上がろうとして地面に戻るの繰り返しで少し面倒くさい。
聞けば、今回のことは想定内の出来事だったそうで、だったら、だったら
「一言相談しろよ!隠す方法なんていくらでもあるだろうが!戦う方法だってもっとあんだよ!」
なんだかわけのわからない感情が、目からどんどん溢れ出て落ちる。
いつの間にか、俺にとって大事な家族みたいになってたらしい。
「戦っちまったら、次は軍が出てきちゃうんすよ。兄貴は俺らのために絶対戦ってくれちまうでしょう?だから知らせるわけには行かなかったっす」
俺を思ってくれているのがわかるマークスの言葉は、この惨状にありながら俺を温めた。
「床や壁に隠しても、スキル持ちが鑑定して根こそぎ持っていっちまうんですよ。マジックバッグごと持って行かれたら、それこそおしまいですからね」
そう言って笑うヒサゴは晴れやかな表情だ。
「そうですよ、たったこんだけ殴られて蹴られただけで、俺らはもう自由です。今までの税はこれで勘弁してもらえましたから、来年はもっと蓄えて、女たちの市民権を買いましょう」
腕を掲げて、それを証明する書きつけを見せる彼らの言葉は、どれも俺の知らない情報ばかりだった。
もし俺が感情のままに動いたら、解決せずに悪化するなんて知らなかった。
そんなに怪我してまで。それなのに俺を守ろうとしてくれた彼らの思いに。
どこか作り物みたいに感じていたこの世界のことを、俺がきちんと知ろうとしなかったせいで、みんなが危険に晒されたのに、俺……俺は……
「おや、取り込み中だったかな」
急に入ってきた声に、シン……と場が静まった。
「え?え?」
俺の中の俺がぐるぐると感情を揺らして、想いは形のある言葉として出てこなかった。
「とう、さん?」
やっと絞り出した言葉に、彼は破顔した。
「随分、苦労させたね」
父さんから返ってきたのも、そんな一言だった。
本当はもっと思ってたこともあったはずなのに。
母さんを裏切ってた父さんを恨んだりもしてたのに。
俺を置いて行って寂しかったとか、許すもんかって、ずっと。
なのに。
今日はなんだか泣いてばっかりだ。
ぎゅっと抱き合って、待ちに待った父さんの温もりを確かめる。
「サリス様、よかったですね」
カランの他数名の使用人達がそっと涙を拭っているのが確認できるのが、恥ずかしい。
「それにしても、この惨状はなんですか」
カランの言葉はどうやらリクに向けられているようだ。
「ま、待って。リクは悪くないんだ。みんなも、悪くない。俺が被害に合わないように、みんなが守ってくれたんだ」
俺の言葉になぜかカランの顔が歪んだ。
「けれど、貴方ならもっと何かできたのではないですか」
カランのリクに対する言葉が苛立ちを含んで収まらない。
「いや、俺も市民権は持っていないからな」
「は?」
カランが呆気にとられるのも分からなくはない。
磨き上げるまではたしかに浮浪者だったけど、今のリクを見て市民権のない浮浪者だなんて考える人はいないと思う。
どこからどう見ても、貴族っぽいもんな。
「リクは俺が拾ったんだよ。ここにいるみんな、俺が拾ってきて、俺、寂しかったから一緒に住んでもらいたくて、そのために食べる物とか作ろうと思ったんだ。なのにそのせいでこんなことになっちゃった」
涙も鼻水もダラダラで、言ってることも支離滅裂で、ただ溢れ出る目的のない言葉を、父さんはじっと聞いていた。
「サリス様は周りに利を配るのが下手ですからね」
「私達もサリス様から与えられていることに気がつくのに随分と時間がかかりましたから」
父さんの後ろの人達が、うんうんと頷き合っている。
なんのことだろ。
「なるほど。本当はサフィがみんなを守りたかったんだね」
しばらくして父さんが言った言葉に俺は頷いた。
そういうことだったみたいだ、と。
父さんの言葉がストンと心に落ち着いた。
「ならばサフィは学ばなければならない。貴族との駆け引きの仕方を。彼らを真の意味で守る術を。でもとても過酷な道だ。サフィにできるかい?大切にされて育ったサフィにはとても辛いことだと思うよ」
いなかった3年間(会えなかった期間を含めると4年)を知らない父さんは、俺が甘やかされまくっていたと思っているようだ。
そのせいであまり乗り気ではないのか、いい顔をしていない。
まあ、甘やかされてはなかったけれど、ワガママを押し通して我慢はしてなかったから同じようなものか。
「それでも守る方法があるなら、知りたい」
俺は小さく呟いた。
「サリス様お一人でそんな場所には出せません。どうぞ私めも一緒にお連れください。サリス様のおかげで自分の学費は自分で賄えますから、ご迷惑もおかけしません」
「俺もです!俺も自分の事は自分でなんとかできます。一緒に連れて行ってください。俺も、サフィ様の守るものを一緒に守っていきたい」
カランとリクがそう声を上げると
「仕方ねえなあ。サフィ様とリク兄のために、俺たちがここを守っておくから」
男衆が胸をドンとたたいた。
うん、なんかみんながわかってるみたいだから今更聞きづらいんだけど、どういうこと?
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