彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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20話 sideクリス

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サリスフィーナが川に流されて、半年以上が過ぎた。そろそろ1年にもなる。

これだけ見つけられないのだ。
元になった話とは随分違うけど、僕も母さんも、もう兄さんは死んだんだろうなあと思っているのに、使用人達は時間を見つけては探しに行っているようだ。
まあ、確かに兄さんが僕をいじめてくれないと僕の物語がはじまらないから、生きててほしいとは思っているよ?
そんな時だった。

「旦那様!若様が、サリスフィーナ様が見つかりました!」

「本当か!」

珍しく家族3人揃っての夕食時に、使用人カランが飛び込んできた。母さんが不快感を叫ぶよりも先に、父さんが驚喜の声を上げる。
この町出身の町民にしてはカランはとてもカッコいい。さすが漫画の主流メンバーということなんだと思う。
この優秀な彼が最後には僕の物になるんだよな。

「はい、ヤビス町まで繋がった土地を通行に使用させていただきたいと、大農家様にご挨拶に伺ったところサリス様がいらっしゃいました。間違いありません!」

「お、おお。元気にしていたか?」
「はい、ケガをしている様子もなく、とてもお元気でいらっしゃいましたよ」

感涙の父さんには悪いけど
「じゃあ、兄さんはなんで帰って来なかったのかな」
喜びに水を差すような僕の発言に、カランがちらりと視線を寄越したけど、その視線はすぐに父さんに戻ってしまった。
そんな態度を取っていても、最後は僕の物になるんだよ?
まあ、カランの行く末を知っている僕は、少しだけ大人になってあげることにした。

「旦那様、それが問題なのです。サリス様を保護した方はサリス様のお引き渡しに応じてくださいませんでした。せめてサリス様が不便されないよう、こちらを離れサリス様の近くに行くことをお許しください」

「ちょっと!何もカランが行かなくてもいいじゃないか。使用人は他にもいるだろう?」
やっとカランを僕の周りに置けるように調整できたっていうのに!

カランがいるのといないのとでは、普段の生活ですら大きく違うのだ。
平民の子供とは思えないほどの所作と知識。
それに基づいた行動力はまだ13歳とは思えないくらいだ。
早くから手元に置きたいと思って何が悪い。

「いえ、私のお仕えする方はサリスフィーナ様です。私に教育を施し導いてくださったあの方から離れることなどあり得ません」
カランは僕をすっと凍った目で一瞥すると、すぐに父さんに向き直った。
「そうだな、自分の息子を取り戻すのだから、私も会いに行こう。案内を頼むぞ」

それからの食事は父さんとカランの打ち合わせになってしまって、僕達のことは放っておかれてしまった。

はじめはハードモードとは聞いていたけれど、ここまでなのか?
最後までサリスフィーナを裏切らなかったカランには、話には書かれなかった理由があったのか?

しかもサフィが跡取りを断念せざるを得ないようなケガもしていないということは、まだ物語が始まってすらいないってことだよね?

もう、イライラするなあ!
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