10 / 55
10話 sideクリス
しおりを挟む
最初はうまくいっていた。
父さんに新しい家に連れてこられた時、あの世界の中だと気がついた。
それも主人公の立ち位置で、僕は歓喜した。
漫画の中では理由は描かれていなかったけど、きっと父さんに愛されているんだと思っていたのに、まずその前提が違っていたとは思わなかった。
母さんと父さんは愛し合っているって。だから僕も愛されていて、大切にされるだろうって。
でもそこが全く違っていたなんて。
実際には本妻が病床について落ち込んでいた父さんに、母さんがつけこんだ結果僕が生まれたらしいのだ。
父さんは悪い人ではないから、母さんや僕のことを見捨てたりはしなかった。
だから親子2人、本妻さんが亡くなるまで普通に、いや少し贅沢な生活ができるくらいの援助があった。
けれど父さんが心底愛しているのは本妻マリアンティーヌと息子のサリスフィーナだけだった。
僕達2人のせいでサリスフィーナが父さんに反抗するようになると、父さんは僕達から距離を置くようになり、僕の不遇出発という漫画の裏側はこんな風になっていたんだと感動すらしたのだけど。
それでも、結果は変わらないはずだ。
この漫画は、クリスの不遇の状態から始まる英雄譚には変わりないのだ。ちょっと思っていたよりも不遇過ぎるスタートだったのが、案外胸にきたけど。
本宅に越して今まで、漫画の通り進んでいたのに。
「僕も兄さんを探しに行きます」
どこから話がズレてしまったのだろうか。
やっぱり母さんが兄さんを森に捨てに行かなかったからなのかな。
兄さんが勝手に川に流されちゃったから、いけなかったのかもしれない。
でも、自分の母親が人殺しみたいになるのが嫌だったんだよ。
それによってもたらされる非難に耐えられるのかなって思ってしまったんだ。
それで父さんから距離を置かれたことが、それなりにネックになっていたんだと気づいた。そんな柔なメンタルなのに、それ以上耐えられるのかって。
だから少しでも不遇感を減らそうと、母さんが兄さんを捨てにいったりしないように、なるべく一緒にいるようにしたのが間違いだったんだな。
最近母さんに近づかなくなった僕に、母さんが変な顔をすることがあるけど、心を鬼にすることに決めた。一時的にではあるけど、批判の的になる覚悟も決めた。
母さんが父さんに嫌われて処分されることになっても、それが本当のストーリーなんだ。それで兄さんから罵詈雑言を浴びせられても仕方ない。
そうしないと僕のストーリーが始まらないんだから。
本来なら僕も漫画の通り、そろそろオオウルカミの始祖の怨念と出会い、彼を成仏させることによって加護を得るはずなんだ。
だから、森に行かないといけない。
そして洗礼までの2年ちょいで練習して、それなりの使い手になっていないとならないんだ。
そうしないと姫様とのクライマックスにたどり着けないからな。
学院で第1王子と知り合って仲間になれば、なんでも手に入るようになるし、その後の人生楽しいことばかりだ。
この家にいても結構贅沢できてるけど、金だけじゃなくて、名誉も欲しいしかわいいお姫様を手に入れて羨望の眼差しで見られたい。
なんならハーレムを築いてもいいんだしな。
世界を手に入れて、頂点に立ってみたい。男だったらそのぐらいの野望は持っていて当たり前だろう。
そして僕は、その未来を約束されてるんだ。
そのための不遇スタートなんだから、耐えないとダメだよね、うん。
「兄さんは森にいると思うんだ」
僕がそう言うと、護衛5人と森に入った。
ストーリーと同じ、森の中腹にある黒く淀んだ池を探すけれど見つからない。
黒く淀んだ池で死んだオオウルカミに用事があるのに、汚れた池がないのだ。
まだ現れていないのかな?
それとも兄さんの怪我から順番に物語は進むのかな。
けど、そうこうしているうちに、僕の歳は重ねてしまうわけで……どちらにしても、これからもこまめに見に来なくちゃいけないだろう。
そもそも母さんが兄さんを捨てなかったから、話が進まないんだ。
それが悪い。
早く兄さんを見つけて、母さんに捨ててもらわないとな。
そのために、早く兄さんをみつけなくっちゃ。
ーーーーーーーーーー
クリスはこの世界が漫画世界だと思っているだけの、良くも悪くもない普通の子です
現時点では漫画の通りサリスフィーナを悪人だと思っています
父さんに新しい家に連れてこられた時、あの世界の中だと気がついた。
それも主人公の立ち位置で、僕は歓喜した。
漫画の中では理由は描かれていなかったけど、きっと父さんに愛されているんだと思っていたのに、まずその前提が違っていたとは思わなかった。
母さんと父さんは愛し合っているって。だから僕も愛されていて、大切にされるだろうって。
でもそこが全く違っていたなんて。
実際には本妻が病床について落ち込んでいた父さんに、母さんがつけこんだ結果僕が生まれたらしいのだ。
父さんは悪い人ではないから、母さんや僕のことを見捨てたりはしなかった。
だから親子2人、本妻さんが亡くなるまで普通に、いや少し贅沢な生活ができるくらいの援助があった。
けれど父さんが心底愛しているのは本妻マリアンティーヌと息子のサリスフィーナだけだった。
僕達2人のせいでサリスフィーナが父さんに反抗するようになると、父さんは僕達から距離を置くようになり、僕の不遇出発という漫画の裏側はこんな風になっていたんだと感動すらしたのだけど。
それでも、結果は変わらないはずだ。
この漫画は、クリスの不遇の状態から始まる英雄譚には変わりないのだ。ちょっと思っていたよりも不遇過ぎるスタートだったのが、案外胸にきたけど。
本宅に越して今まで、漫画の通り進んでいたのに。
「僕も兄さんを探しに行きます」
どこから話がズレてしまったのだろうか。
やっぱり母さんが兄さんを森に捨てに行かなかったからなのかな。
兄さんが勝手に川に流されちゃったから、いけなかったのかもしれない。
でも、自分の母親が人殺しみたいになるのが嫌だったんだよ。
それによってもたらされる非難に耐えられるのかなって思ってしまったんだ。
それで父さんから距離を置かれたことが、それなりにネックになっていたんだと気づいた。そんな柔なメンタルなのに、それ以上耐えられるのかって。
だから少しでも不遇感を減らそうと、母さんが兄さんを捨てにいったりしないように、なるべく一緒にいるようにしたのが間違いだったんだな。
最近母さんに近づかなくなった僕に、母さんが変な顔をすることがあるけど、心を鬼にすることに決めた。一時的にではあるけど、批判の的になる覚悟も決めた。
母さんが父さんに嫌われて処分されることになっても、それが本当のストーリーなんだ。それで兄さんから罵詈雑言を浴びせられても仕方ない。
そうしないと僕のストーリーが始まらないんだから。
本来なら僕も漫画の通り、そろそろオオウルカミの始祖の怨念と出会い、彼を成仏させることによって加護を得るはずなんだ。
だから、森に行かないといけない。
そして洗礼までの2年ちょいで練習して、それなりの使い手になっていないとならないんだ。
そうしないと姫様とのクライマックスにたどり着けないからな。
学院で第1王子と知り合って仲間になれば、なんでも手に入るようになるし、その後の人生楽しいことばかりだ。
この家にいても結構贅沢できてるけど、金だけじゃなくて、名誉も欲しいしかわいいお姫様を手に入れて羨望の眼差しで見られたい。
なんならハーレムを築いてもいいんだしな。
世界を手に入れて、頂点に立ってみたい。男だったらそのぐらいの野望は持っていて当たり前だろう。
そして僕は、その未来を約束されてるんだ。
そのための不遇スタートなんだから、耐えないとダメだよね、うん。
「兄さんは森にいると思うんだ」
僕がそう言うと、護衛5人と森に入った。
ストーリーと同じ、森の中腹にある黒く淀んだ池を探すけれど見つからない。
黒く淀んだ池で死んだオオウルカミに用事があるのに、汚れた池がないのだ。
まだ現れていないのかな?
それとも兄さんの怪我から順番に物語は進むのかな。
けど、そうこうしているうちに、僕の歳は重ねてしまうわけで……どちらにしても、これからもこまめに見に来なくちゃいけないだろう。
そもそも母さんが兄さんを捨てなかったから、話が進まないんだ。
それが悪い。
早く兄さんを見つけて、母さんに捨ててもらわないとな。
そのために、早く兄さんをみつけなくっちゃ。
ーーーーーーーーーー
クリスはこの世界が漫画世界だと思っているだけの、良くも悪くもない普通の子です
現時点では漫画の通りサリスフィーナを悪人だと思っています
20
お気に入りに追加
1,745
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
モラトリアムは物書きライフを満喫します。
星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息
就職に失敗。
アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。
自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。
あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。
30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。
しかし……待てよ。
悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!?
☆
※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる