夏風

歩夢

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飛翔

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 放課は何もなかった。

 それぞれ課外活動を行うことは許されていたが、私は彼等の余りある集団行動への活動エネルギーに加担する余力などなく、結局早々に家に帰って空を飛ぶばかりの毎日だった。

 街は、いや、きっとこの規模ならば村と呼んだ方が相応しく、遠くに見える村々を囲む巨大な雷の壁が、この世界の小ささの根拠だ。空をふと見上げると、朱く染まり始めた青紫色が美しく、太陽は雷の壁を透して暖かく村全体を照らしていた。

 目を細めて止まるところのない青と朱の繋がりを見つめていると、肩に軽い衝撃があった。

「よっ」

 可憐。私と同じ読みを持つ同じ歳の少女。学校では最も近しい人間と言っても言い過ぎではなかった。

「横、空いてる?」

「嫌味? 私の隣を歩こうと思う人がいると思うの?」

「嘘だよ。冗談だよっ。怒んないでよ」

「別に怒ってない」

「なら良かった」

 私は左肩に掛けた鞄を掛け直し、可憐の方を横目で見つめる。

 私とは対照的に、髪が短く、快活で、容姿端麗で、友達も多い。私とは何もかもが違う。なのに、読みが共通で、しかも何故か彼女だけが私に懐いてるみたいに近づいてくる。

 何というか、もうそういう諸々の条件だけで、私の心は少しずつ終わっている。

 溜息が自然と出る。予想通り、意外そうな顔で彼女は私を見る。

 次には何というのだろう? 前みたいに「どうしたの?」だろうか。いや、それは前も言ったし、ほとんど毎日のように溜息を見せているから、いい加減に飽きられてくるだろうか。

 そのうちこいつも、私の前からいなくなるのだ。飽きてそのうち。

「なあ~んて、考えてない?」

 はっ?

 声にならず、驚いて可憐の顔を見ると、彼女は一年振りにクイズに正解したみたいな喜んだ表情で、少しだけ見えた白い歯がきらっと陽光に煌めいた。

「何が?」と私は言う。目一杯の不機嫌顔で。

 可憐は何も答えず、ふふ~ん、と鼻を鳴らすと、私を置いて先を歩いていく。

 私は困惑したままそこにいたが、距離が空き始めて彼女が振り向いて、言った。

 横顔が眩しかった。

 でもきっとこれは、夕陽のせいじゃない。


「ねえ。今日は空、飛ばないの?」

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