2 / 4
光の国
◇
しおりを挟む歩いているうちに色々と気付いて、思った。
まず、この建物は一つではなくて、部屋がいくつもある。その開けっぴろげになった空洞を潜ると、また傾いだ建物と、床はプールの底のようなタイル張りになっていて、時々そこに水が張っていたりして、藻みたいな草が瓦礫の間から生えていたりする。益々謎だ。
……自分にもしもここに来る前の記憶があったら、多分ーーそこまで考えて、頭の中に強烈な横槍のようなバリバリとしたノイズが走る。
そしてそのノイズの後、何かのイメージが脳の中で描かれ、自分が何かを思い出したことを悟る。
ああ、サレルテーナ劇場から来たんだ。しかしそれがどこにある何かなのかが分からない。しかも一人ではなかったような、そんな感じまでする。
同行者はいなかった? 一人で? そもそも山登りをするような格好で来るところなのか?
人がいなくて、天井はとにかく高いーー螺旋状に続いているようでいて、先の方は白い光で見えない。
眩しいな。これは多分夢だろう。夢だろうな。うん。
カッーーーーーーーーーーン……
変なことを考えていると、そんな音がした。遠い、とても遠い音だ。それから地面に落ちて、硬い音が続く。石ころでも落ちてきたような。とても高いところから、落とされたような。
落とされた? 何故そう思ったんだろう? いや、そう感じたのだ。何というか、今の音には生き物の意思のようなものが感じられた。試みに少し大きめの石を、下に向かって落としてみたら、どうなるだろう……というような。
自然、上を見る気になる。眩しいほどの白い光の影に、何かーー一瞬だけ、キラリと何かが明滅した気がする。
安心しろ、自分。何が起ころうと、それを確認しに行こうだなんて思わないから。そういう非活動精神だけは負ける気がしないんだ、誰にも。
座って缶詰を開ける。缶切りがなくても開けられる、初心者にとても優しい缶詰だった。
ズワイガニの缶詰だった。とても身が柔らかくて、何だか久しぶりに微笑んだような気がする。そうだ。人がいないからだ。一人で、広い場所で、外にいるのに、人に見られる心配がない食事。何という贅沢を自分は貪っているのだろう。もう夢でもいいや。
立ち上がって、ちょっと影に行って、用を足そうと思う……が、上が開きすぎていて、ちょっと躊躇う。
通路を少し行ったところに、トイレのようなマークがある場所を見つけた。男女のマーク。あれ? 男が赤で、女が青だっけ? 分かんない。どっちでもいい。出せればいいだけだから。
用を足して出てくる。普通のトイレだった。清潔でもなく、やっぱり斜めになっていてちょっと踏ん張る必要があったけれども。快適ではあった。
水は出なくて、いや、出はしたんだけれども、この廃墟全体を覆っている圧倒的なまでの白さの延長みたいな白い液体が、チョロチョロと少しだけ出た。まあ、少しは流れただろうと思うことにする。
それにしても、本当に白いな。
廃墟の中、埃が舞っていて、光の光線を可視化させている。その下にタイル張りの床。藻みたいな植物。出口が見当たらない。どこまでも道が続いている。前向きな建物だこと。
とりあえず、降りられるだけ降りてみることにする。
……水滴が落ちる音。ピチョン、ぴちょん……、ぽん、……水たまりがどこかにあるんだ。
下に向かって、斜めになったひび割れた床がすぐ下の床に落ちていて、それが螺旋階段のように間断なく続いている。
不思議と疲れを感じることがない。歩いても歩いても、ズックの重さが気になることも、脚に痛みを感じるようなことも……。
楽しいな、何だか。
ただ降りているだけなんだけど。
急に意識が暗くなる。何だろう。今度はなんだ?
私は自分が倒れたことを知る。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
異世界踊り子見習いの聞き語り マルチカダムの恩返し~魔輝石探索譚異聞~
3・T・Orion
ファンタジー
踊り子リビエラに弟子入り真っ最中のウィア。
憧れて…家族説き伏せ進んだ道…ではあるが、今日も目指すべき本職と言える踊り子の修練より…つい性分に合う雑用働きに力を入れてしまう。
勿論…任されている師匠家族の子守り役もキッチリこなすが、何故か子守り対象から外れたはずの2歳下のニウカが以前にも増し絡んで来る。
ニウカにも何か理由があるのかもしれない…が、自身の正義に反する理不尽をウィアは許さない。
異議は山ほど申し立てる!
ドタバタと過ごす日々ではあるが、出来るだけ穏便に過ごすべく努力は惜しまない。実家の宿屋手伝いで聞き集めた魔物話を聞き語る事で、心動かしたり…言い聞かせたり…。
基本的には…喧嘩売ってくるニウカをギャフンと遣り込めるべく、ウィアは今日も楽しみながら語り始める。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
恋人以上、永遠の主人
那月
ファンタジー
転生を繰り返し鬼を討つ宿命を背負った2人の物語
平安時代に跋扈した魑魅魍魎、滅ばなかった鬼が現代にまで。
かの有名な安倍晴明は言った。
「人間では間に合わぬ。お前達2人に鬼の呪をかけるゆえ、戦い続けろ。鬼が滅ぶその時まで、お前達が死ぬことは許されない」
呪によって、死んでもすぐに前世の記憶を持ったまま生まれ変わるようになった2人。
生まれては死ぬまで鬼と戦い、死んではまた生まれ変わる。
鬼との戦いは千年を超え、現代。
鬼は減るどころか増えた、強力になった。
なぜ?何かの前兆なのか?
2人は現代の人間達と協力し、鬼を討つ。平和はもちろん、自分達の終のために。
ここ最近急激に増え知能が高くなった鬼。
1体しかいないはずの、過去に倒したはずの大型鬼の出現。
統率の取れた行動を見せる鬼。
様々な鬼に関する謎に立ち向かう2人が行きつく先にあるものとは?
終は必ず来る
そう信じて2人は前に進み続ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる