上 下
7 / 64
レジスタンス

しおりを挟む

 地下通路は狭く、広い。元々鉱山跡地を利用したせいか、やたらと狭い道が多く、天井や壁は金属で舗装されており、蛍光灯が一定間隔に設置されて、道を照らしている。

 だが、どれだけ表面を装飾しても、地中に隠れているという、鬱屈とした気分は消える事はない。

 それはここに住んでいる者であれば、誰でも感じる感覚の一つである。私もそうだった。私たちは常に、何かに怯え、何かから隠れている。見つけられると、悲惨な事になると、体でわかっているから。

 その感覚は、人類が経験してきた、細胞レベルでの「歴史」なのかもしれなかった。

 私は薄暗い道を通りながら、そんな事を思っていた。

 物思いに耽っていると、先程すれ違ったのか、背後から声をかけられた。

 振り返り、見ると、馴染みの顔だった。

「酋長が呼んでるぞ。久しぶりだな、ヴェロニカ」

 私は軽く息を吐いて、言った。「ザック」

「工業製品の方はどうなんだ? 最近は」

 私は拳を、少し離れたザックの方に突き出す格好を見せると、ザックも応えて拳を突き返す真似をした。

 ザックは廃棄された金属や旧文明の廃品を加工し直し、利用可能な製品に変える仕事をしている。

 製品加工部と呼ばれている部署だが、規模はそれ程大きくなく、ザックを含めても数名だけの、小さな部署だった。

 ザックは頭を掻いて、恥ずかしそうに言った。

「いやあ、相変わらずだな。折角作って、輸出しようにも、受け取り手がそんなになくてな。ヴェロニカのエネルギーみたいには、上手く取引を取り結べそうにない」

 あまり余裕のなさそうなザックの気配を感じ取り、私は話を変えた。

「酋長が呼んでるって?」

 ザックは真顔に戻り、答えた。

「ああ、元々それを伝える為に、遊戯室まで行く所だったんだが。食堂にもいなかったから、そこだろうってな。サラにはもう会ったんだろう? 元気そうか?」

 私は微笑み、頷いた。

「ああ。相変わらず。ただ、他の子とあまり交わりたいとは思っていないみたいで、それがちょっと気掛かりなんだが……。まあ、あの子の事だから、色々自分の中で考えることがあるんだと思う。また話を聞いてみるつもりだよ」

「そう言いながら、お前はまたすぐにいなくなるからな。前も二、三日滞在しただけで、また出掛けていった。そんなに居心地が良くないのか? は」

 私は少し沈黙し、嫌な間が流れ始める。

 ザックは気配を察知したのか、急に朗らかな声になって、言った。

「まあ、いいや。お前にもお前なりの事情ってやつがあるってことぐらいは、俺にも分かる。その内話してくれりゃいいよ。まあとりあえず、今は酋長の所に言ってくれ。待たせて怒られるのは俺だからな」

 そう言って白い歯を見せて笑うザックに、私も笑みを返して言った。

「わかった。ありがとな、ザック」

 ザックは軽く頷いて、「いいってことよ」と言って、背中を向けて、歩き始めた。

 私は遠ざかっていくザックの後ろ姿を少しの間見つめていたが、やがて酋長の元に向かう為に、再び歩き始めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

時の輪廻

taka
SF
2018年7月15日。神木透哉は、彼女の楠木葵と13時に新宿でデートの約束をしていた。しかし、葵は約束の時間になっても現れることはなかった。  13時を過ぎたころ東京湾を震源とする大地震が発生する。地震によって首都圏は壊滅した。なんとか生き延びた透哉だったが、葵は遺体すら見つからず、行方不明になっていた。  あれから10年の歳月が流れた。2028年7月15日。偶然にも10年前と同じスーパームーンが見える日だった。スーパームーンには願いが叶うという言い伝えがある。  透哉はビルの屋上で月に願った。首から下げていたペンダントが輝くと透哉の体を風が包みこみ、次第に透哉の意識は薄れていった。  気が付くと、10年前の2018年7月15日に戻っていた。戸惑いを隠せない透哉だったが、葵を探すべく行動を開始する。

SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀

黴男
SF
数百万のプレイヤー人口を誇るオンラインゲーム『SSC(Star System Conquest)』。 数千数万の艦が存在するこのゲームでは、プレイヤーが所有する構造物「ホールドスター」が活動の主軸となっていた。 『Shin』という名前で活動をしていた黒川新輝(くろかわ しんき)は自らが保有する巨大ホールドスター、『Noa-Tun』の防衛戦の最中に寝落ちしてしまう。 次に目を覚ましたシンの目の前には、知らない天井があった。 夢のような転移を経験したシンだったが、深刻な問題に直面する。 ノーアトゥーンは戦いによってほぼ全壊! 物資も燃料も殆どない! 生き残るためにシンの手にある選択肢とは....? 異世界に転移したシンキと、何故か一緒に付いてきた『Noa-Tun』、そして個性派AIであるオーロラと共に、異世界宇宙の開拓が始まる! ※小説家になろう/カクヨムでも連載しています

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

十六夜誠也の奇妙な冒険

シルヴィアたん
SF
平和な国ー日本ー しかしこの国である日ウイルスが飛来した。このウイルスに感染したものは狂人と化し人間を見つけては襲いかかる。 狂人に噛まれたものも狂人へと変わる、、、 しかしある一定の年齢までならこのウイルスに感染しない。 これはウイルスに感染せずなお狂人に噛まれなかった少年少女たちの物語。 十六夜誠也と仲間達はウイルスについて、日本の状態についてを知るために狂人と戦う。 第2章 最強の超感染体ウェイパーを倒し、日本も段々と人が増え平和を手にした誠也たち。だが新たに強力な超感染体が次々と現れる。

マイホーム戦国

石崎楢
SF
何故、こんなことになったのだろうか? 我が家が囲まれている!! 戦国時代に家ごとタイムスリップしたごく普通の家族による戦国絵巻?

アシュターからの伝言

あーす。
SF
プレアデス星人アシュターに依頼を受けたアースルーリンドの面々が、地球に降り立つお話。 なんだけど、まだ出せない情報が含まれてるためと、パーラーにこっそり、メモ投稿してたのにパーラーが使えないので、それまで現実レベルで、聞いたり見たりした事のメモを書いています。 テレパシー、ビジョン等、現実に即した事柄を書き留め、どこまで合ってるかの検証となります。 その他、王様の耳はロバの耳。 そこらで言えない事をこっそりと。 あくまで小説枠なのに、検閲が入るとか理解不能。 なので届くべき人に届けばそれでいいお話。 にして置きます。 分かる人には分かる。 響く人には響く。 何かの気づきになれば幸いです。

【なろう400万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間1位、月間2位、四半期/年間3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。

べちてん
SF
生まれつき体の弱い少女、夏凪夕日は、ある日『サンライズファンタジー』というフルダイブ型VRMMOのゲームに出会う。現実ではできないことがたくさんできて、気が付くとこのゲームのとりこになってしまっていた。スキルを手に入れて敵と戦ってみたり、少し食事をしてみたり、大会に出てみたり。初めての友達もできて毎日が充実しています。朝起きてご飯を食べてゲームをして寝る。そんな生活を続けていたらいつの間にかゲーム最強のプレイヤーになっていた!!

処理中です...