青い月の下で

大川徹(WILDRUNE)

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破(青い月編)

16節『vs 雨宮雫』

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 雨宮瞳は迷っていた。雫に対して刀を振るうが、どうしても踏み込んでいけない。雫もそれに気付いてるのか、あしらうばかりで追い詰めない。激しい剣戟だが彼女にとっては遊んでいるようなものだ。

 「あ、自分から死ぬのは許さないですよ」
 「え?」

 「雨宮の血筋たるもの、そんな軟弱な様子では私もとどめをさしませんからね」

 戦いの最中でも飄々と雫は言ってのけた。

 「私の気が変わる前に本気を出しなさいな。でないと敗北は一瞬ですよ? それとも永久にここで踊る気でいます?」
 「私は……もう既に母さんを……」
 「現世で殺したから二度目はイヤだなんて冗談じゃないです。もういい加減、死者のことは気にせず目を覚ましなさい。あなたはもう、曲がりなりにもたくさんの人を救ってきたのでしょう? 顔も知らない大勢の人を」

 鋭利な音が響き合う中でも彼女の声は瞳にはよく聞こえた。

 「救えない人がいたことを忘れろとは言いません。けれど、人に救いを与えてきた分、あなたは幸せにならないといけない」
 「……幸せになっていいの?」
 「私はあなたを許します。これだけが言いたかった」

 言葉と裏腹に大仰に雫は刀を振り下ろす。それを避けて瞳は間合いを取ると、母と向き合った。緊張感の走る戦場は変わらぬものの瞳の心には今何かがストンと落ち、安心するかのように広がっていった。

 「ごめんなさい、お母さん……」
 「いいのよ」

 目頭が熱くなり指でこする瞳を雫は優しく見つめた。

 「けど、考えを改める気はないのね」
 「はい。月は壊して瞳の体を貰い受けます」

 旦那にも会いたいしと雫は思っていた。何なら、改めて子供を作ろうとでも。そもそも少女の姿でいるのは瞳の体に入った時に違和感なくするためだ。

 「いろいろと考えたんですけどね、氷見さん以外にも説得する人がもう一人いますから。私でも勝てないあの人相手じゃ、みなさん役不足なのです」
 「もし勝てるとしたら?」
 「無理ですよ。憑依体(ザコ)相手に何度も手こずるようだから、私はここであなた達と戦うことにしたのです。それが嫌だというのなら――」

 雫は刀を逆手に持ち、肩の上まで持ち上げて構えた。

 「私を倒して汚名を返上して見せなさい」

 瞳は刀を真正面に構え、切っ先を雫へと向ける。そばで樫崎と萩谷が戦い合う音が響く中、彼女達は一歩も動かずに機会を探った。意識を集中させると音が次第に遠のいていく。どちらが先に動くか緊張が弓を引き絞るかのように臨界まで高め上げられていく。

 「っ」

 雫が先に動いた。それを見た瞳が射出される矢のごとく踏み込んだ。
 勝負は一瞬でついた。

 常人では目にも止まらぬ斬撃の後――瞳がその場にくずおれた。
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