青い月の下で

大川徹(WILDRUNE)

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23節『発狂する間男』

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 奥のフロアに到達するなり、防火扉を閉めて廊下から封鎖する。ほっと一息ついた時、萩谷に雨宮を引き剥がされた。彼女を治療するのかと思えば放り出し、僕の襟首を掴みあげる。

 「なんで来た。よくも計画を乱したな――貴様」
 「貴様――? え?」
 「そうだ、貴様だ! 散々離れろと忠告したにもかかわらず、ここまで来てしまった体たらく! こっちはさっきのベルがお前の仕業だと気付いているぞ!」
 
  普段とまるで異なる剣幕に、さすがに言葉を失う。胡散臭いと思ったが、こいつここまで猫をかぶっていたのか。

 「最悪なのはお前がついてきたために必要以上に戦闘が発生したことだ! 人払いどころか完全に相手に事の異常を気付かせた! 遠藤からも話を聞いた!」
 「なんだ、生きてたのか」
 「なんという無能! 無価値! 無意味! 貴様は一体どちらの味方だ!」

 そう言って彼は銃を取り出し、僕に向けた。

 「これは脅しではない。青鷺にも殺人権は与えられている。裏切者ではなく正当な萩谷家直轄の組織として」
 「僕は雨宮の味方だ。それ以上も以下でもない」
 「雨宮以外全滅させるつもりか!」

 引き金に手をかける。その時、雨宮が萩谷の袖を引っ張った。

 「待って」

 見れば、腕から血が出続けて床に垂れている。それに萩谷は一瞬硬直すると、すぐに銃を仕舞い、どこから出したか包帯を取り出した。手慣れた様子で治療をしていく。

 「雨宮を失えば、何もかもがおしまいだ。それは何よりも優先される。そもそも、すぐそこが決戦の場だ。勝負の時だ、雨宮の巫女。自分がすることはわかっているな?」
 「……はい」

 止血が済むと痛むだろうに刀を持って彼女は立ち上がった。なのに、彼女の目に感情はなく、ただの人形のよう。

 「後ろから攻め込まれないように僕は今から下の防火扉を全て閉めに行く。そして、樫崎。お前はそこの窓から見ていろ。ただ、絶対に余計なことをしないように、」

 そう言うなり彼は銃を手に取ると、

 「っ!?」

 撃った。僕の太ももから血が飛び散り、一瞬遅れて痛みが襲ってくる。僕は低いうめき声をあげて、床に転がり込んだ。足から流れる血が床を赤く染めていく。なんて痛みだ。こいつ、本当にやりやがった!

 「萩谷くん!」

 さすがに雨宮も驚くが、萩谷はさも当然という風に冷徹な目で僕を見下す。

 「待っていろ。動かなければ、まだ死にはしない。雨宮の用もすぐに終わる。そうなったら治療してやる」

 そして彼女を強引に引っ張り、扉の前に立たせた。

 「さあ、早く行くんだ!」
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