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序
21節『観察・戦闘遊戯』
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学校の玄関は今も開け放されているが明かりはない。最終下校時刻ではないのに最低限の照明すら落ちたこの状況は不自然だった。
(勝手知ったる、この場所で私と戦うなんて)
雨宮は足を踏み入れるなり全身の神経を鼓膜へと集中させた。彼女の位置から死角となる場所へと視線をやり、素早く周囲を見回す。息をつく間はない。浮かぶイメージは明鏡止水。足音も呼吸も全てを消失させ、己を闇へと消し去る。そのまま姿勢をかがめると前に向かって跳ねた。
「――!」
死角に潜んだ男は、その瞬間雨宮を見失った。扉のところに確かにいたはず、そう思って辺りを見回せば、手にした武器が吹き飛ばされた。
「なっ」
彼には突如、空気が揺らいだとしか見えなかっただろう。男が振り返るより早く、振りかざされた衝撃に彼の思考はぷつんと切れる。
(これで一人はおしまい)
男が倒れたことで、その場にいる黒服全員が物音に反応する。雨宮も明鏡止水を断ち、最短の位置にいる男めがけて滑り込む。身長の高低差を活かした真下からの攻撃。男は速さに対応できずに武器を構えることなく峰撃たれる。
「こいつっ」
勢いを殺すことなく後ろから迫る男を立ち上がり様に倒すと四方から囲い込まれる。彼女はかがむだけで左右からの攻撃を避けると、前方の男を一突きで倒して突破口を開いた。
(これで四人)
雨宮は男達に向き直ると今度は動くことなく相手を切り結んだ。宙へと飛んでいく棍棒。弧を描く前に次々と黒服が倒されていく。
(こいつ、踊っている――?)
距離を取りながら一人が思った。その様は、美しいと。流麗な巫女の舞、彼女の間合いに入ったものは皆、羽虫に落とされるがごとくだと。しかも、彼女が持っていた物は刀ではなく鞘だった。
「真剣はどこだ!?」
思わず叫んでしまった。それが彼の仇になった。遠方から放たれた彼女の鞘が正確に彼の眉間を貫き、場に立つ男は誰もいなくなる。
雨宮が息をついたその時――
「動くな」
ここまで隠れ続けていた男が銃を構えたまま姿を現した
もはや彼女に武器はなく、徒手空拳に勝機はない、そう彼は直感した。だが、彼女は男にちらりと視線をやるだけだ。
「撃てないと思うのか? あいにく五体満足で連れてこいとは言われてない」
「そう。残念ね」
男は銃を構えたまま雨宮に近づいていく。彼女はそのまま動かず、男に背後を取られるのを黙って見つめた。両手を後ろに縛られようとした時、彼女は男の足を踏もうとする。
「悪あがきを――」
言った直後だった。当たらないと思った足が、何か鋭利な音を響かせた。はっとした時、男の腕に鋭い痛みが走る。
「か、刀!? いつからそこに!」
「最初から」
倒れた男の背後に隠された刀が彼女に柄を踏まれ、てこの要領で立ち上がり男の腕を貫いた。薄い刃を彼女は指先で捉えると、そのまま持ち上げて柄を掴む。
「最初の男を倒す時点で、得物をここに放置していたのか!」
「作戦よ。実は私も五体満足で済まそうと思ってなかったの」
「なめやがって」
銃を彼女に向けるが、一瞬にして銃身が二つに弾け飛んだ。直後に踏み込んだ彼女に男は体に強い衝撃を受ける。刃ではなく、その反対側を向けて鳩尾に打ち込まれたのだ。倒れ伏した男に彼女はそのまま刀を男の首へと向けた。
「八人目も……おしまい」
雨宮は虚ろな目をしたまま、男を見下すと落ちている鞘を取りに行った。
カチン。鋭利な金属音が静かな一階の広間に響いた。
(勝手知ったる、この場所で私と戦うなんて)
雨宮は足を踏み入れるなり全身の神経を鼓膜へと集中させた。彼女の位置から死角となる場所へと視線をやり、素早く周囲を見回す。息をつく間はない。浮かぶイメージは明鏡止水。足音も呼吸も全てを消失させ、己を闇へと消し去る。そのまま姿勢をかがめると前に向かって跳ねた。
「――!」
死角に潜んだ男は、その瞬間雨宮を見失った。扉のところに確かにいたはず、そう思って辺りを見回せば、手にした武器が吹き飛ばされた。
「なっ」
彼には突如、空気が揺らいだとしか見えなかっただろう。男が振り返るより早く、振りかざされた衝撃に彼の思考はぷつんと切れる。
(これで一人はおしまい)
男が倒れたことで、その場にいる黒服全員が物音に反応する。雨宮も明鏡止水を断ち、最短の位置にいる男めがけて滑り込む。身長の高低差を活かした真下からの攻撃。男は速さに対応できずに武器を構えることなく峰撃たれる。
「こいつっ」
勢いを殺すことなく後ろから迫る男を立ち上がり様に倒すと四方から囲い込まれる。彼女はかがむだけで左右からの攻撃を避けると、前方の男を一突きで倒して突破口を開いた。
(これで四人)
雨宮は男達に向き直ると今度は動くことなく相手を切り結んだ。宙へと飛んでいく棍棒。弧を描く前に次々と黒服が倒されていく。
(こいつ、踊っている――?)
距離を取りながら一人が思った。その様は、美しいと。流麗な巫女の舞、彼女の間合いに入ったものは皆、羽虫に落とされるがごとくだと。しかも、彼女が持っていた物は刀ではなく鞘だった。
「真剣はどこだ!?」
思わず叫んでしまった。それが彼の仇になった。遠方から放たれた彼女の鞘が正確に彼の眉間を貫き、場に立つ男は誰もいなくなる。
雨宮が息をついたその時――
「動くな」
ここまで隠れ続けていた男が銃を構えたまま姿を現した
もはや彼女に武器はなく、徒手空拳に勝機はない、そう彼は直感した。だが、彼女は男にちらりと視線をやるだけだ。
「撃てないと思うのか? あいにく五体満足で連れてこいとは言われてない」
「そう。残念ね」
男は銃を構えたまま雨宮に近づいていく。彼女はそのまま動かず、男に背後を取られるのを黙って見つめた。両手を後ろに縛られようとした時、彼女は男の足を踏もうとする。
「悪あがきを――」
言った直後だった。当たらないと思った足が、何か鋭利な音を響かせた。はっとした時、男の腕に鋭い痛みが走る。
「か、刀!? いつからそこに!」
「最初から」
倒れた男の背後に隠された刀が彼女に柄を踏まれ、てこの要領で立ち上がり男の腕を貫いた。薄い刃を彼女は指先で捉えると、そのまま持ち上げて柄を掴む。
「最初の男を倒す時点で、得物をここに放置していたのか!」
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銃を彼女に向けるが、一瞬にして銃身が二つに弾け飛んだ。直後に踏み込んだ彼女に男は体に強い衝撃を受ける。刃ではなく、その反対側を向けて鳩尾に打ち込まれたのだ。倒れ伏した男に彼女はそのまま刀を男の首へと向けた。
「八人目も……おしまい」
雨宮は虚ろな目をしたまま、男を見下すと落ちている鞘を取りに行った。
カチン。鋭利な金属音が静かな一階の広間に響いた。
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