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第2章 花精霊族解放編
第44話 決着
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結局、社はあっさりと陥落し、酋長と副酋長は捕らえられた。
兵士たちは多くが討ち取られるか投降し、村の外へ逃亡した者も数知れずであった。社の混乱は村の中まで波及し、住民たちの中にも村から逃亡を図る者が出た。しかしトラットスが出した声明により、現在のヤツマガ村は落ち着きを取り戻している。
今、社の広間では話し合いが行われていた。
上座に座るのはトラットスであり、その周囲には花精霊族の中でも年長の部類に入る者たちが椅子に腰を下ろしている。
その中にはアスターゼの姿もあった。
そしてトラットスたちの目の前には酋長と副酋長が後ろ手で縛られて、胡坐をかいて座っている。
「我々にこんなことをしてただで済むとは思わんことだ」
副酋長はこんな状況であるにも関わらず尊大な態度を貫いている。
ここまで来るとむしろ大したものなのかも知れない。
「すでに村は制圧しました。これ以上の戦いは無益です。私たちは森へ帰ろうと思っています」
「ははッ! 我々に戦いを仕掛けたと言うことは背後に控えるメドラナ帝國を敵に回したと言うことだ。お前たちは蹂躙されるだろう」
「帝國が介入してくると言うのですか?」
「当然だッ! 我々はメドラナ帝國にこの地を治める許可を頂いている。この地を奪うのを帝國が黙って見ているはずがないッ!」
アスターゼは苦笑いを隠せなかった。
独立国家だと言ったり、従属していると言ったり、変わり身の早い民族である。
言動がコロコロと変わるこのような人間と友誼を結ぶことなど出来ないだろう。
「私たちはこの地を奪うつもりはありません。ここから離れて西の森林へ向かおうと思っています。そしてかつての生活を取り戻すつもりです」
「我々の背後にいる五○万とも言われる精鋭を抱えるメドラナ帝國がお前たちを地の果てまで追いかけるだろう」
一向に変化しない副酋長の強気な発言にトラットスはハァーッとため息をつきながらも、粘り強く交渉を続ける。
「宜しければ、私たちと和平を結びませんか? 友誼を結ぶのが嫌なら相互不可侵でも構いません」
「無駄だと言っているッ! お前たちは死ぬよりも苦しい生き地獄を味わうのだッ!」
トラットスは、副酋長から目を離すと未だ何も言わない酋長の方へと視線を向ける。酋長は怪我だと言われていたが、実際には監禁に近い状態で発見された。
「酋長殿は如何お考えか?」
「……わしは和平を選択したい。生き神として祭り上げられ、名目上は長をやってきたが実際は副酋長の傀儡に過ぎん。わしはここらで責任を取るべきだろう」
意外な言葉にアスターゼは酋長と呼ばれた老人をまじまじと見つめる。
その姿はよぼよぼだが、何故か凄まじいまでの生気が感じられる。
何か喚き散らしている副酋長の言葉を右から左へと聞き流しつつ、興味を抱いたアスターゼは酋長を鑑定した。
「203歳ッ!?」
思わず大声を出してしまったアスターゼに視線が集まる。
しかし当の本人はそれどころではなかった。
酋長は人間であるにも関わらず203歳と言う年月を生きてきた、まさに生き神であった。職業は仙人となっている。あくまで予想だが、人間から職業変更したら仙人になるのかも知れない。
「ほほほ……どこからともなく現れた異邦人よ……。お主はこの腐りきった村に新しい風を運んできてくれた。感謝致す」
酋長が和平の意思を示したことで、和平交渉は順調に進み始めた。
彼は副酋長の一派によって体良く扱われていたが、決して敬われていない訳ではなかったようだ。
酋長を支持する兵士たちと、民衆に支えられてヤツマガ村の人間と花精霊族の間に和平がもたらされた。
交渉自体は上手く行きすぎだと感じる程であったが、アスターゼは人間の業の深さ、一度生まれた差別心は消えることがないことをよくよく承知していた。
アスターゼはトラットスに助言した。
森の最奥部で何者にも干渉することなく暮らすようにと。
「アスターゼ殿にはお世話になった。今こうして自由を勝ち取れたのは全て貴方のお陰だ」
「いや、僕は花精霊族の皆が立ち上がらなければ、力を貸すことはなかったですよ。この結果は独力で得たものです。誇ってもいい」
「戦うことから逃げているだけでは駄目だとようやく気付かされたような気がしますよ」
「そうですね……。平和を愛すると言う考え方は悪いことじゃない。でもどうしても戦わなければいけない時もあるってことです」
「これからどうなさるのですか?」
「シャルルと共にはぐれた仲間を探そうと思っています」
「そう……ですか。シャルルのことは頼みます」
シャルルを連れていくことはトラットスや彼女の親には打ち明けてある。
彼女が自分の言葉でその意志を伝えた結果、反対されることはなかった。
「任せてください。世界を回るのは彼女の意志でもあります」
こうしてヤツマガ村は副酋長が偽のお告げをして村の存続を危ぶませた罪で処刑され、その一族も悉く処刑もしくは牢に入れられた。
今後は神を降ろせる後継者が現れるまで酋長が村を統治していくと言うことだ。
サナトスは真実を知ったと言う話だ。
彼は幼い頃、家族に連れられて砂漠国家ノルマンヌの都市から都市へ移動している時に、ヤツマガ村の奴隷狩りに襲われたらしい。
圧倒的な兵力差にも関わらず奮戦して多くの敵を道連れに、サナトスの家族は殺され、彼はヤツマガ村へ連れ去られたと言う。
村で槍の才能を開花させたサナトスは嘘を吹き込まれて、副酋長に都合良く使われていたのであった。
捕まった時幼かった彼に当時の記憶はほとんどないらしい。
花精霊族は沼地の奥の森林地帯に入り、森の最奥にあると言うエルフの国家と同盟関係を築くつもりらしい。元は精霊と言う同族とも言える種族である。アスターゼは上手くいくのではないかと考えている。また、アスターゼは聞き込みで知った北に位置する砂漠国家ノルマンヌの存在もトラットスに教えておいた。
彼らはメドラナ帝國と敵対し、度々帝國の国境を侵していると言う。
どのような関係を築くかには言及しない。
それは新しい花精霊族が決めていくことだからだ。
アスターゼはシャルルと共に森の入り口にいた。
目の前には花精霊族の仲間たちが揃っている。
仲間たちが別れを惜しんでいた。
シャルルは最後に家族に別れを告げると、彼らの方を向いたまま数歩後ずさった。
「じゃあ、行くねッ!」
シャルルは仲間たちに大きく手を振ると、くるりと背を向けて前へ歩み始める。
彼女が振り返ることはもうない。
「取り敢えず、メドラナ帝國へ入ろう。案内頼むぞ?」
「ふっふーん! 任せてください。私が役立つことを証明してみせますよッ!」
「でもずっと村にいたのにここら辺の地理が分かるのか?」
「ぎっくぅ! だだだだ大丈夫ですぅ。色々聞いてきましたし」
こうして、転生異世界人と花精霊族と言う変わったコンビの旅が始まったのであった。
兵士たちは多くが討ち取られるか投降し、村の外へ逃亡した者も数知れずであった。社の混乱は村の中まで波及し、住民たちの中にも村から逃亡を図る者が出た。しかしトラットスが出した声明により、現在のヤツマガ村は落ち着きを取り戻している。
今、社の広間では話し合いが行われていた。
上座に座るのはトラットスであり、その周囲には花精霊族の中でも年長の部類に入る者たちが椅子に腰を下ろしている。
その中にはアスターゼの姿もあった。
そしてトラットスたちの目の前には酋長と副酋長が後ろ手で縛られて、胡坐をかいて座っている。
「我々にこんなことをしてただで済むとは思わんことだ」
副酋長はこんな状況であるにも関わらず尊大な態度を貫いている。
ここまで来るとむしろ大したものなのかも知れない。
「すでに村は制圧しました。これ以上の戦いは無益です。私たちは森へ帰ろうと思っています」
「ははッ! 我々に戦いを仕掛けたと言うことは背後に控えるメドラナ帝國を敵に回したと言うことだ。お前たちは蹂躙されるだろう」
「帝國が介入してくると言うのですか?」
「当然だッ! 我々はメドラナ帝國にこの地を治める許可を頂いている。この地を奪うのを帝國が黙って見ているはずがないッ!」
アスターゼは苦笑いを隠せなかった。
独立国家だと言ったり、従属していると言ったり、変わり身の早い民族である。
言動がコロコロと変わるこのような人間と友誼を結ぶことなど出来ないだろう。
「私たちはこの地を奪うつもりはありません。ここから離れて西の森林へ向かおうと思っています。そしてかつての生活を取り戻すつもりです」
「我々の背後にいる五○万とも言われる精鋭を抱えるメドラナ帝國がお前たちを地の果てまで追いかけるだろう」
一向に変化しない副酋長の強気な発言にトラットスはハァーッとため息をつきながらも、粘り強く交渉を続ける。
「宜しければ、私たちと和平を結びませんか? 友誼を結ぶのが嫌なら相互不可侵でも構いません」
「無駄だと言っているッ! お前たちは死ぬよりも苦しい生き地獄を味わうのだッ!」
トラットスは、副酋長から目を離すと未だ何も言わない酋長の方へと視線を向ける。酋長は怪我だと言われていたが、実際には監禁に近い状態で発見された。
「酋長殿は如何お考えか?」
「……わしは和平を選択したい。生き神として祭り上げられ、名目上は長をやってきたが実際は副酋長の傀儡に過ぎん。わしはここらで責任を取るべきだろう」
意外な言葉にアスターゼは酋長と呼ばれた老人をまじまじと見つめる。
その姿はよぼよぼだが、何故か凄まじいまでの生気が感じられる。
何か喚き散らしている副酋長の言葉を右から左へと聞き流しつつ、興味を抱いたアスターゼは酋長を鑑定した。
「203歳ッ!?」
思わず大声を出してしまったアスターゼに視線が集まる。
しかし当の本人はそれどころではなかった。
酋長は人間であるにも関わらず203歳と言う年月を生きてきた、まさに生き神であった。職業は仙人となっている。あくまで予想だが、人間から職業変更したら仙人になるのかも知れない。
「ほほほ……どこからともなく現れた異邦人よ……。お主はこの腐りきった村に新しい風を運んできてくれた。感謝致す」
酋長が和平の意思を示したことで、和平交渉は順調に進み始めた。
彼は副酋長の一派によって体良く扱われていたが、決して敬われていない訳ではなかったようだ。
酋長を支持する兵士たちと、民衆に支えられてヤツマガ村の人間と花精霊族の間に和平がもたらされた。
交渉自体は上手く行きすぎだと感じる程であったが、アスターゼは人間の業の深さ、一度生まれた差別心は消えることがないことをよくよく承知していた。
アスターゼはトラットスに助言した。
森の最奥部で何者にも干渉することなく暮らすようにと。
「アスターゼ殿にはお世話になった。今こうして自由を勝ち取れたのは全て貴方のお陰だ」
「いや、僕は花精霊族の皆が立ち上がらなければ、力を貸すことはなかったですよ。この結果は独力で得たものです。誇ってもいい」
「戦うことから逃げているだけでは駄目だとようやく気付かされたような気がしますよ」
「そうですね……。平和を愛すると言う考え方は悪いことじゃない。でもどうしても戦わなければいけない時もあるってことです」
「これからどうなさるのですか?」
「シャルルと共にはぐれた仲間を探そうと思っています」
「そう……ですか。シャルルのことは頼みます」
シャルルを連れていくことはトラットスや彼女の親には打ち明けてある。
彼女が自分の言葉でその意志を伝えた結果、反対されることはなかった。
「任せてください。世界を回るのは彼女の意志でもあります」
こうしてヤツマガ村は副酋長が偽のお告げをして村の存続を危ぶませた罪で処刑され、その一族も悉く処刑もしくは牢に入れられた。
今後は神を降ろせる後継者が現れるまで酋長が村を統治していくと言うことだ。
サナトスは真実を知ったと言う話だ。
彼は幼い頃、家族に連れられて砂漠国家ノルマンヌの都市から都市へ移動している時に、ヤツマガ村の奴隷狩りに襲われたらしい。
圧倒的な兵力差にも関わらず奮戦して多くの敵を道連れに、サナトスの家族は殺され、彼はヤツマガ村へ連れ去られたと言う。
村で槍の才能を開花させたサナトスは嘘を吹き込まれて、副酋長に都合良く使われていたのであった。
捕まった時幼かった彼に当時の記憶はほとんどないらしい。
花精霊族は沼地の奥の森林地帯に入り、森の最奥にあると言うエルフの国家と同盟関係を築くつもりらしい。元は精霊と言う同族とも言える種族である。アスターゼは上手くいくのではないかと考えている。また、アスターゼは聞き込みで知った北に位置する砂漠国家ノルマンヌの存在もトラットスに教えておいた。
彼らはメドラナ帝國と敵対し、度々帝國の国境を侵していると言う。
どのような関係を築くかには言及しない。
それは新しい花精霊族が決めていくことだからだ。
アスターゼはシャルルと共に森の入り口にいた。
目の前には花精霊族の仲間たちが揃っている。
仲間たちが別れを惜しんでいた。
シャルルは最後に家族に別れを告げると、彼らの方を向いたまま数歩後ずさった。
「じゃあ、行くねッ!」
シャルルは仲間たちに大きく手を振ると、くるりと背を向けて前へ歩み始める。
彼女が振り返ることはもうない。
「取り敢えず、メドラナ帝國へ入ろう。案内頼むぞ?」
「ふっふーん! 任せてください。私が役立つことを証明してみせますよッ!」
「でもずっと村にいたのにここら辺の地理が分かるのか?」
「ぎっくぅ! だだだだ大丈夫ですぅ。色々聞いてきましたし」
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