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第2章 花精霊族解放編
第39話 戦後
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ヒュドラとの戦闘で多くの家が焼け落ちた。
長屋のようになっていたバラック小屋は延焼したが、花精霊族の家は散居村のように比較的離れている家が多かったので全ての家が火災に巻き込まれることはなかった。ましてや人間の住む区画はもっと離れているため、全く被害はない。
現在は花精霊族の安否確認が行われているところだ。
この村で暮らす花精霊族の数は一○○弱程度だと言う。
火災がは早くに鎮火し、辺りに闇が戻ってきたため安否確認が進んでいるようだ。シャルルが言っていたが、花精霊族は夜目が利くらしいので、この暗闇の中でも何とかなっているのだろう。
しかし、周囲の騒然とした様子が伝わってくる。
アスターゼはそれも当然だと思いながら彼らの慌てた様子を窺っていた。
周囲を捜索、あるいは点呼している者たちが口々に話している声が風に乗って聞こえてくる。
花精霊族の長の姿がどこにも見えない、と。
当たり前である。
彼がヒュドラだったのだから。
彼は言っていた。
『首の1つ程度斬り落としたところで再生してしまうだろうよ』
アスターゼとシャルルしか知り得ないヒュドラの状況を知っている時点で怪しさは100%だったのだが、それに加えてアスターゼに対する抑えきれない憎悪が見え隠れしていた。
それにそれまで従順だった長がヒュドラの出現と時を同じくして、強硬な姿勢を取り始めたと言う話にも違和感があった。
「長は食べられてしまったのでしょうか……」
「だろうな……」
アスターゼの隣で心配そうな声を上げるシャルル。
ヒュドラがヤツマガ村に現れた頃には彼女はまだ生まれていなかったはずだ。
本当の長がどのような性格と外見をしていたのかは分からないが、何十年もの間バレずに長として振る舞って来たのだからヒュドラの特性【変化】は大したものだったのだろう。
そんな彼女の隣でアスターゼは考えていた。
ヒュドラが花精霊族の長に化けていたことを打ち明けるか否かを。
むしろ、これから訪れる人間との解放戦争に利用した方が良いのではないか。
花精霊族が必死で捜索している様子を見ると、良い長だったのだろう。
アスターゼはもったいなかったなと思ってしまう。
ヒュドラに喰われた長の職業が何であったのかは、今となっては分からないが、それなりの力を持っていたのだろう。
焚かれた篝火の近くでアスターゼはそんなことを考えていた。
「アスターゼさん、何か考えてます?」
「え? 別に何も」
シャルルはゆらゆらと揺らめく炎に照らされたアスターゼの表情から不穏な何かを感じ取ったのかも知れなかった。
「すみません。何だか無表情に見えたものですから、少し怖くって……」
「いや、いいよ。……それより次は人間共だな。花精霊族のNo2はどんな考えをもっているんだ?」
「私にも分かりません。よく知らない方ですし……」
「そうか。早いところ、種族としての総意を決定してもらいたいね」
いくらシャルルやその家族に戦う意志があったとしても、新しい長もそうだとは限らない。アスターゼは人間の支配から花精霊族を解放してあげたいとは思っているものの、肝心の彼らの意志が非暴力、服従と言ったものであれば無理強いすることはできない。
これは花精霊族の戦いであって、アスターゼの戦いではないのだ。
あくまでアスターゼは手を貸すと言う立場に過ぎない。
もし、花精霊族が立ち上がらないと言うのなら、アスターゼはシャルルを連れてアルテナを探しに行かねばならない。
本当はすぐにでも彼女の捜索を開始したいところなのだ。
ちなみにシャルルを連れていくのは、それが彼女の意志だからだ。
アスターゼが今後の展望を頭の中に描いていた時、人間たちが近づいてきた。
彼らも花精霊族たちと共に焼け落ちた家々の確認や姿を消した長の捜索を行っていたのだが、どうやらこちらへ来るからには別件なのだろう。
その兵士と思しき男は出会い頭にアスターゼに向かって質問をぶつけて来た。
「おい。お前がヒュドラを倒したのか?」
「ああ、倒したのは俺だ」
「ガキの癖に生意気なことだ。お前には村からの退去命令が出ていたはずだが何故ここにいる?」
男の態度は尊大なものであった。
黒い長髪を後ろで束ねており体格も良く、アスターゼを上から見下ろしている。
その目には侮蔑が色濃く表れていた。
「村から離れていたさ。だが異変を感じて戻ってきたまでだ」
「お前は選択を間違えた。村に入ってはいけなかったのだ」
「正気か? 俺が来なければ花精霊族だけでなく、お前らも殺されていたぞ?」
「はッ! 俺たちがそう簡単に殺られるはずがないだろう。自惚れるのも大概にしろ」
男は面白いことを聞いたと言うように鼻で笑い飛ばすと右手に携えていた槍をこれ見よがしに操り始めた。アスターゼは自分に向けられる圧力も高まっているように感じて、気づかれない程度に警戒の構えを取る。
「それはこっちのセリフだ。あまり俺をナメるよ? お前もヒュドラと同じ場所へ送ってやろうか?」
「口だけは達者なようだ。年長者を敬い礼を尽くすのが年下のあるべき姿よ」
「諂上欺下な民族の上、高慢無礼……そんな奴らを敬えとか寝言は寝て言え。敬うべき人物であれば自然と頭が下がるものだ」
二人の間で見えない火花が散っていた。
シャルルはその様子を見て「はわわわ」とオロオロしていることしかできない。
二人の視線が空中で絡まり合い、彼らはピクリとも動かなくなった。
シャルルはどうすることもできずにハラハラとしながら見守っていたところ、人間の兵士の一人から声が掛かる。
「おーい! サナトス、何してんだッ! 戻るぞッ!」
それに応えてサナトスと呼ばれた男がアスターゼに背を向ける。
「命拾いしたな。次会った時は殺す。村からさっさと出て行くんだな」
サナトスはアスターゼにそう一方的に告げると足早にその場を後にした。
「この村にも多少は腕が立ちそうな奴はいたんだな」
アスターゼが警戒を解くと、シャルルがその場にペタンと座り込んでしまった。
「ううぅ……。怖かったですぅ……」
そう情けない声を出す彼女にアスターゼは呆れたような視線と言葉を送る。
「そんなんじゃ独立なんてできないぞ? シャルルはもう月光騎士なんだからな」
長屋のようになっていたバラック小屋は延焼したが、花精霊族の家は散居村のように比較的離れている家が多かったので全ての家が火災に巻き込まれることはなかった。ましてや人間の住む区画はもっと離れているため、全く被害はない。
現在は花精霊族の安否確認が行われているところだ。
この村で暮らす花精霊族の数は一○○弱程度だと言う。
火災がは早くに鎮火し、辺りに闇が戻ってきたため安否確認が進んでいるようだ。シャルルが言っていたが、花精霊族は夜目が利くらしいので、この暗闇の中でも何とかなっているのだろう。
しかし、周囲の騒然とした様子が伝わってくる。
アスターゼはそれも当然だと思いながら彼らの慌てた様子を窺っていた。
周囲を捜索、あるいは点呼している者たちが口々に話している声が風に乗って聞こえてくる。
花精霊族の長の姿がどこにも見えない、と。
当たり前である。
彼がヒュドラだったのだから。
彼は言っていた。
『首の1つ程度斬り落としたところで再生してしまうだろうよ』
アスターゼとシャルルしか知り得ないヒュドラの状況を知っている時点で怪しさは100%だったのだが、それに加えてアスターゼに対する抑えきれない憎悪が見え隠れしていた。
それにそれまで従順だった長がヒュドラの出現と時を同じくして、強硬な姿勢を取り始めたと言う話にも違和感があった。
「長は食べられてしまったのでしょうか……」
「だろうな……」
アスターゼの隣で心配そうな声を上げるシャルル。
ヒュドラがヤツマガ村に現れた頃には彼女はまだ生まれていなかったはずだ。
本当の長がどのような性格と外見をしていたのかは分からないが、何十年もの間バレずに長として振る舞って来たのだからヒュドラの特性【変化】は大したものだったのだろう。
そんな彼女の隣でアスターゼは考えていた。
ヒュドラが花精霊族の長に化けていたことを打ち明けるか否かを。
むしろ、これから訪れる人間との解放戦争に利用した方が良いのではないか。
花精霊族が必死で捜索している様子を見ると、良い長だったのだろう。
アスターゼはもったいなかったなと思ってしまう。
ヒュドラに喰われた長の職業が何であったのかは、今となっては分からないが、それなりの力を持っていたのだろう。
焚かれた篝火の近くでアスターゼはそんなことを考えていた。
「アスターゼさん、何か考えてます?」
「え? 別に何も」
シャルルはゆらゆらと揺らめく炎に照らされたアスターゼの表情から不穏な何かを感じ取ったのかも知れなかった。
「すみません。何だか無表情に見えたものですから、少し怖くって……」
「いや、いいよ。……それより次は人間共だな。花精霊族のNo2はどんな考えをもっているんだ?」
「私にも分かりません。よく知らない方ですし……」
「そうか。早いところ、種族としての総意を決定してもらいたいね」
いくらシャルルやその家族に戦う意志があったとしても、新しい長もそうだとは限らない。アスターゼは人間の支配から花精霊族を解放してあげたいとは思っているものの、肝心の彼らの意志が非暴力、服従と言ったものであれば無理強いすることはできない。
これは花精霊族の戦いであって、アスターゼの戦いではないのだ。
あくまでアスターゼは手を貸すと言う立場に過ぎない。
もし、花精霊族が立ち上がらないと言うのなら、アスターゼはシャルルを連れてアルテナを探しに行かねばならない。
本当はすぐにでも彼女の捜索を開始したいところなのだ。
ちなみにシャルルを連れていくのは、それが彼女の意志だからだ。
アスターゼが今後の展望を頭の中に描いていた時、人間たちが近づいてきた。
彼らも花精霊族たちと共に焼け落ちた家々の確認や姿を消した長の捜索を行っていたのだが、どうやらこちらへ来るからには別件なのだろう。
その兵士と思しき男は出会い頭にアスターゼに向かって質問をぶつけて来た。
「おい。お前がヒュドラを倒したのか?」
「ああ、倒したのは俺だ」
「ガキの癖に生意気なことだ。お前には村からの退去命令が出ていたはずだが何故ここにいる?」
男の態度は尊大なものであった。
黒い長髪を後ろで束ねており体格も良く、アスターゼを上から見下ろしている。
その目には侮蔑が色濃く表れていた。
「村から離れていたさ。だが異変を感じて戻ってきたまでだ」
「お前は選択を間違えた。村に入ってはいけなかったのだ」
「正気か? 俺が来なければ花精霊族だけでなく、お前らも殺されていたぞ?」
「はッ! 俺たちがそう簡単に殺られるはずがないだろう。自惚れるのも大概にしろ」
男は面白いことを聞いたと言うように鼻で笑い飛ばすと右手に携えていた槍をこれ見よがしに操り始めた。アスターゼは自分に向けられる圧力も高まっているように感じて、気づかれない程度に警戒の構えを取る。
「それはこっちのセリフだ。あまり俺をナメるよ? お前もヒュドラと同じ場所へ送ってやろうか?」
「口だけは達者なようだ。年長者を敬い礼を尽くすのが年下のあるべき姿よ」
「諂上欺下な民族の上、高慢無礼……そんな奴らを敬えとか寝言は寝て言え。敬うべき人物であれば自然と頭が下がるものだ」
二人の間で見えない火花が散っていた。
シャルルはその様子を見て「はわわわ」とオロオロしていることしかできない。
二人の視線が空中で絡まり合い、彼らはピクリとも動かなくなった。
シャルルはどうすることもできずにハラハラとしながら見守っていたところ、人間の兵士の一人から声が掛かる。
「おーい! サナトス、何してんだッ! 戻るぞッ!」
それに応えてサナトスと呼ばれた男がアスターゼに背を向ける。
「命拾いしたな。次会った時は殺す。村からさっさと出て行くんだな」
サナトスはアスターゼにそう一方的に告げると足早にその場を後にした。
「この村にも多少は腕が立ちそうな奴はいたんだな」
アスターゼが警戒を解くと、シャルルがその場にペタンと座り込んでしまった。
「ううぅ……。怖かったですぅ……」
そう情けない声を出す彼女にアスターゼは呆れたような視線と言葉を送る。
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