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第2章 花精霊族解放編
第31話 事情聴取
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名前はシャルル。14歳の女性で職業は農民。
出身はヤツマガ村。
後は聞いたことがなかったのでよく分からないが種族名は花精霊族と言うらしい。
それがアスターゼが助けた少女の情報であった。
ちなみにこの場所は、南大陸サッソスニアのメドラナ帝國領だと言う。
そう聞いたものの地図がないので具体的な位置がさっぱり分からないアスターゼであった。
ヤツマガ村には古くから伝わる因習があって、半年に1度、村の近くの沼地に現れた水蛇に生贄を差し出さねばならなくなったと言う。
生贄は村の長である憑依者のお告げで決められるらしい。
シャルルはごくごく普通の両親の下に生まれ、下に妹と弟がいる。
両親も兄弟も皆、職業は農民であると言う話だ。
村に伝わる因習自体は、前世にいた時からよく耳にする民間伝承のような話だなとアスターゼは思っていた。異世界にもあるものなんだなと考えつつも、生贄であるシャルルが逃げ出してしまった場合はどうなるのか考えていた。
ヒュドラが村に現れて新たな生贄を求めるのか、それともシャルルを諦めずに追い続けるのか。
思わず独り言がアスターゼの口からついて出る。
「しかし何だって半年に1人だけ生贄を求めるんだろうな。村人全員喰ってしまえばいいんじゃないか」
何か理由があるのか考えてみたが、特に何も浮かばない。
村を滅ぼせば、国から討伐隊が派遣されると考えての要求なのかも知れない。
あのヒュドラがどの程度の知能を持っているかによるが、意外と頭が回るタイプなのだろうか。
「領主にお願いしてヒュドラを討伐してもらうことはできないの?」
「昔、村の皆でお願いしに行ったそうなんですけど、動いてもらえなかったみたいです」
「なんでだろうな。戦った感じ、集団で掛かれば勝てない相手じゃなさそうだけど……」
「す、すごいですッ! アスターゼさんはやっぱりお強いんですねッ!」
目をキラキラと輝かせながら無垢な視線を投げかけてくるシャルルにアスターゼは、たじたじである。
「俺より1個しか違わないんだから普通に話してくれていいよ」
「そ、そんなッ!? 命の恩人にそんなことできません!」
中々頑固なところのある娘であるが、アスターゼに無理強いさせる気など毛頭ない。彼は前世から、そう思うならそうすれば良いと思うタイプの人間なのだ。
「でも生贄を喰えなくてヒュドラがどうでるかが問題だな……」
「私が悪いんです……。覚悟を決めていたつもりだったんです。でも……でも実際目の当たりにしたら怖くて……気づいたら祠から逃げ出していたんです」
「それは仕方がないと思う。恐怖心に打ち勝つなんて訓練をつまなきゃできることじゃない」
「アスターゼさん……私はどうしたらいいんでしょうか……?」
訪れる沈黙の中、シャルルは意を決したように呟いた。
それはアスターゼへの問いと言うより自分自身への問い掛けのように思えた。
「そう言う時はね。自分を偽る必要なんてないんだ。何でもかんでも自分で解決しようって言う考え方は傲慢だよ」
アスターゼは前世の自分のことを思い出していた。
あの救いのない日々のことを。
「君はどうしたいんだ?」
アスターゼの問い掛けにシャルルは心の内から溢れ出るような熱を帯びた言葉を吐いた。
「……私は……死にたくないですッ! 生きて村から出てまだ見たことのない素敵な場所を見て回りたい」
アスターゼは、くりっとした大きな瞳に涙をためているシャルルの頭をがしがしと撫でる。転生前も現在も、年齢的にはシャルルの年上に当たるので、ここは格好をつけておくところだろう。
「大丈夫。あいつは俺が倒す! 報酬は……そうだな。俺はこの辺りの地理に疎いから是非とも近くの街なんかに案内してもらいたいところだね」
「……はいッ! ありがとうございます!」
「今日は休んで明日にでもその沼地の祠へ行くとしよう。一応、ヒュドラが村を襲っていないかだけは確認しておこうか」
シャルルの案内で森を抜け、ヤツマガ村へとたどり着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。建ち並ぶ家々からは灯りが漏れ、風に乗って人々のすすり泣くような声が聞こえてくる。アスターゼがヒュドラを撃退してから、盟約違反だとこの村へ襲撃したと言う形跡はない。
「まぁ、あの傷なら当然か」
明日どうやってヒュドラを棲み処から引きずり出すかを考え始めるアスターゼであった。
出身はヤツマガ村。
後は聞いたことがなかったのでよく分からないが種族名は花精霊族と言うらしい。
それがアスターゼが助けた少女の情報であった。
ちなみにこの場所は、南大陸サッソスニアのメドラナ帝國領だと言う。
そう聞いたものの地図がないので具体的な位置がさっぱり分からないアスターゼであった。
ヤツマガ村には古くから伝わる因習があって、半年に1度、村の近くの沼地に現れた水蛇に生贄を差し出さねばならなくなったと言う。
生贄は村の長である憑依者のお告げで決められるらしい。
シャルルはごくごく普通の両親の下に生まれ、下に妹と弟がいる。
両親も兄弟も皆、職業は農民であると言う話だ。
村に伝わる因習自体は、前世にいた時からよく耳にする民間伝承のような話だなとアスターゼは思っていた。異世界にもあるものなんだなと考えつつも、生贄であるシャルルが逃げ出してしまった場合はどうなるのか考えていた。
ヒュドラが村に現れて新たな生贄を求めるのか、それともシャルルを諦めずに追い続けるのか。
思わず独り言がアスターゼの口からついて出る。
「しかし何だって半年に1人だけ生贄を求めるんだろうな。村人全員喰ってしまえばいいんじゃないか」
何か理由があるのか考えてみたが、特に何も浮かばない。
村を滅ぼせば、国から討伐隊が派遣されると考えての要求なのかも知れない。
あのヒュドラがどの程度の知能を持っているかによるが、意外と頭が回るタイプなのだろうか。
「領主にお願いしてヒュドラを討伐してもらうことはできないの?」
「昔、村の皆でお願いしに行ったそうなんですけど、動いてもらえなかったみたいです」
「なんでだろうな。戦った感じ、集団で掛かれば勝てない相手じゃなさそうだけど……」
「す、すごいですッ! アスターゼさんはやっぱりお強いんですねッ!」
目をキラキラと輝かせながら無垢な視線を投げかけてくるシャルルにアスターゼは、たじたじである。
「俺より1個しか違わないんだから普通に話してくれていいよ」
「そ、そんなッ!? 命の恩人にそんなことできません!」
中々頑固なところのある娘であるが、アスターゼに無理強いさせる気など毛頭ない。彼は前世から、そう思うならそうすれば良いと思うタイプの人間なのだ。
「でも生贄を喰えなくてヒュドラがどうでるかが問題だな……」
「私が悪いんです……。覚悟を決めていたつもりだったんです。でも……でも実際目の当たりにしたら怖くて……気づいたら祠から逃げ出していたんです」
「それは仕方がないと思う。恐怖心に打ち勝つなんて訓練をつまなきゃできることじゃない」
「アスターゼさん……私はどうしたらいいんでしょうか……?」
訪れる沈黙の中、シャルルは意を決したように呟いた。
それはアスターゼへの問いと言うより自分自身への問い掛けのように思えた。
「そう言う時はね。自分を偽る必要なんてないんだ。何でもかんでも自分で解決しようって言う考え方は傲慢だよ」
アスターゼは前世の自分のことを思い出していた。
あの救いのない日々のことを。
「君はどうしたいんだ?」
アスターゼの問い掛けにシャルルは心の内から溢れ出るような熱を帯びた言葉を吐いた。
「……私は……死にたくないですッ! 生きて村から出てまだ見たことのない素敵な場所を見て回りたい」
アスターゼは、くりっとした大きな瞳に涙をためているシャルルの頭をがしがしと撫でる。転生前も現在も、年齢的にはシャルルの年上に当たるので、ここは格好をつけておくところだろう。
「大丈夫。あいつは俺が倒す! 報酬は……そうだな。俺はこの辺りの地理に疎いから是非とも近くの街なんかに案内してもらいたいところだね」
「……はいッ! ありがとうございます!」
「今日は休んで明日にでもその沼地の祠へ行くとしよう。一応、ヒュドラが村を襲っていないかだけは確認しておこうか」
シャルルの案内で森を抜け、ヤツマガ村へとたどり着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。建ち並ぶ家々からは灯りが漏れ、風に乗って人々のすすり泣くような声が聞こえてくる。アスターゼがヒュドラを撃退してから、盟約違反だとこの村へ襲撃したと言う形跡はない。
「まぁ、あの傷なら当然か」
明日どうやってヒュドラを棲み処から引きずり出すかを考え始めるアスターゼであった。
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