11 / 44
第1章 辺境編
第11話 魔物襲来
しおりを挟む
ヴィックスは暇なように見えて、実は様々な業務をこなしている。
アスターゼが生まれる前に滞在していた領都からスタリカ村へ赴任してからは、交代番での村の警備、ノーアの大森林付近の見回りと魔物の討伐、村で起こる事件や諍いへの介入や仲裁がそれに当たる。
アスターゼは将来のことについて両親に相談した後、ヴィックスの言う通り、彼を騎士から聖騎士へと転職させた。
自分の状態を確認したヴィックスの喜びようは天を衝かんばかりの勢いで、アスターゼはそんな父親を見たのは初めてのことであった。
ヴィックスが領都へ出かけたのは、その翌日のことであった。
ヴィックスに剣術の稽古をつけてもらっていたアスターゼ、アルテナ、エルフィスは剣術の師匠がいなくなったので、その時間を乱取りに当てていた。
交代でお互い戦い合う。
剣と剣がぶつかり合い火花を散らしていた。真剣でのやり取りだが、誰も手を抜く者はいない。
最近はエルフィスも騎士へと転職して、稽古に加わっていたが、やはりダントツの実力を持つのは聖騎士のアルテナであった。
稽古を始めた当初から聖騎士として剣を振るっているだけあって動きは飛びぬけている。自身も転職できると知ってすぐに騎士へと転職したアスターゼもアルテナに着いて行くのが精一杯だ。そんな感じであるから、エルフィスなどは簡単にあしらわれている。
そんなところに、同い年のコロッサスがやってきた。何やら叫んでいるようだが、余程慌てているようで何を言っているのか分からない。彼は3人の下まで来ると、膝に手を置いて上がった息を整えようとしている。
確か彼の職業は農民だったはずだが、丸々と太った彼にそれ程の体力はないようだ。ゲーム的に言えば、アスターゼの感覚では職業ごとに体力や力などに補正が掛かっているはずなのだ。農民はきつい労働だけあって体力に大きく補正が掛かっているとアスターゼは感じていた。彼は農民に転職したこともあるのだ。
「そんなに急いでどうしたんだ?」
コロッサスとも仲が良いエルフィスが心配そうな声色で尋ねるも息の上がったコロッサスは中々答える素振りを見せない。
と言うか疲労で話せないのだろう。
アスターゼは持っていた皮の水袋を手渡してやるとコロッサスはそれを奪い取るように受け取り、ゴクゴクと一気に流し込む。そしてようやく落ち着きを取り戻したのか、ことの詳細を話始めた。
要約すると、北に広がるノーアの大森林から魔物の群れが押し寄せてきたらしい。ヴィックスが領都へ発ったばかりだと言うのにタイミングが悪いこともあるものだ。
「村に駐屯している守備兵がいるんじゃないのか?」
「皆、森の方へ向かったらしい。戦える者は武器を持って村の入り口に集まるようにだってよ」
「戦えない者は?」
「村の集会所へ集まれって……」
その話からすれば、ニーナはライラを預けて前線へ向かっているだろう。
アルテナ騎士団のメンバーはどうしているだろうかとアスターゼは心配になる。
彼らはまだまだ幼く、団員は10歳以下ばかりなのだ。
「だってさ。アルテナ、行くぞ!」
「うん分かった!」
アルテナは即答する。
彼女も聖騎士としての自覚が出てきたものだ。
「ええ? お前らも行くのか?」
当然のように参戦を決めたアスターゼに驚きの声を上げたのはコロッサスであった。
「当たり前だろ。戦える者は村の入り口に集まれって言ったのはお前だろ?」
「そうだけど……」
「エル、お前はどうする?」
「俺も行くぜ。今の力を試してみたいと思ってたんだ!」
「そう言う訳だ。俺たちは現場へ向かう。お前は避難してろ」
「エルは神官だろ? 危ないんじゃないのか?」
コロッサスはエルフィスが現在、騎士に転職していることなど知らない。
アスターゼとはそれ程、仲は良くないがエルフィスの心配をする辺り悪い奴ではないのかも知れない。
「心配すんなって! じゃあ行こうぜ!」
エルフィスの掛け声と共に三人が村の入り口に向かって走り出した。
コロッサスはただ茫然とそれを見送るのみである。
3人は全力疾走で村内を駆け抜けていく。
1番速いのはアルテナだ。
ゲームのようなパラメータがあるとすれば、恐らく全ての能力が突出しているのは間違いないだろう。
やがて村の入り口にたどり着くと、そこでは村長が大声で指示を飛ばしていた。
その指示に従ってノーアの大森林の方角へ走って行く者、回復薬を運んでいる者など様々だ。普段の姿からは想像もつかないこともあって3人が3人共にポカンとした表情になってしまう。
「お主らッ! どうして来た? 子供は避難しておるがよい!」
「僕たちはいつも父のヴィックスに剣術の稽古を受けています。3人共戦えます!」
「もしかするとノーアの護り神が出たのかも知れん。それにアルテナ以外は戦えまい。特にエルフィス。お主は神官じゃろう?」
「エルについても心配無用です。無理だと判断すれば撤退しますよ。行くぞッ!」
村長の制止を無視してアスターゼは2人に合図を送る。
今までは広大な村内に出没する獣やはぐれの亜人くらいしか相手にしたことはない。
初めての魔物戦にアスターゼは胸の高鳴りを抑えきれなかった。
こんな高揚感はいつ以来だろうか?
武者震いで震える手を握りしめながらアスターゼは森へ向かって走った。
この戦いで、この世界の理解がまた少し進むだろう。
魔物とはどんな存在で、どの程度の強さなのか。
自分がしてきた修行に意味はあって、その強さが魔物に通じるのか。
3人はそれぞれの胸に色々な感情を秘めながら魔物を抑えている守備兵たちの下へと急いだ。
アスターゼが生まれる前に滞在していた領都からスタリカ村へ赴任してからは、交代番での村の警備、ノーアの大森林付近の見回りと魔物の討伐、村で起こる事件や諍いへの介入や仲裁がそれに当たる。
アスターゼは将来のことについて両親に相談した後、ヴィックスの言う通り、彼を騎士から聖騎士へと転職させた。
自分の状態を確認したヴィックスの喜びようは天を衝かんばかりの勢いで、アスターゼはそんな父親を見たのは初めてのことであった。
ヴィックスが領都へ出かけたのは、その翌日のことであった。
ヴィックスに剣術の稽古をつけてもらっていたアスターゼ、アルテナ、エルフィスは剣術の師匠がいなくなったので、その時間を乱取りに当てていた。
交代でお互い戦い合う。
剣と剣がぶつかり合い火花を散らしていた。真剣でのやり取りだが、誰も手を抜く者はいない。
最近はエルフィスも騎士へと転職して、稽古に加わっていたが、やはりダントツの実力を持つのは聖騎士のアルテナであった。
稽古を始めた当初から聖騎士として剣を振るっているだけあって動きは飛びぬけている。自身も転職できると知ってすぐに騎士へと転職したアスターゼもアルテナに着いて行くのが精一杯だ。そんな感じであるから、エルフィスなどは簡単にあしらわれている。
そんなところに、同い年のコロッサスがやってきた。何やら叫んでいるようだが、余程慌てているようで何を言っているのか分からない。彼は3人の下まで来ると、膝に手を置いて上がった息を整えようとしている。
確か彼の職業は農民だったはずだが、丸々と太った彼にそれ程の体力はないようだ。ゲーム的に言えば、アスターゼの感覚では職業ごとに体力や力などに補正が掛かっているはずなのだ。農民はきつい労働だけあって体力に大きく補正が掛かっているとアスターゼは感じていた。彼は農民に転職したこともあるのだ。
「そんなに急いでどうしたんだ?」
コロッサスとも仲が良いエルフィスが心配そうな声色で尋ねるも息の上がったコロッサスは中々答える素振りを見せない。
と言うか疲労で話せないのだろう。
アスターゼは持っていた皮の水袋を手渡してやるとコロッサスはそれを奪い取るように受け取り、ゴクゴクと一気に流し込む。そしてようやく落ち着きを取り戻したのか、ことの詳細を話始めた。
要約すると、北に広がるノーアの大森林から魔物の群れが押し寄せてきたらしい。ヴィックスが領都へ発ったばかりだと言うのにタイミングが悪いこともあるものだ。
「村に駐屯している守備兵がいるんじゃないのか?」
「皆、森の方へ向かったらしい。戦える者は武器を持って村の入り口に集まるようにだってよ」
「戦えない者は?」
「村の集会所へ集まれって……」
その話からすれば、ニーナはライラを預けて前線へ向かっているだろう。
アルテナ騎士団のメンバーはどうしているだろうかとアスターゼは心配になる。
彼らはまだまだ幼く、団員は10歳以下ばかりなのだ。
「だってさ。アルテナ、行くぞ!」
「うん分かった!」
アルテナは即答する。
彼女も聖騎士としての自覚が出てきたものだ。
「ええ? お前らも行くのか?」
当然のように参戦を決めたアスターゼに驚きの声を上げたのはコロッサスであった。
「当たり前だろ。戦える者は村の入り口に集まれって言ったのはお前だろ?」
「そうだけど……」
「エル、お前はどうする?」
「俺も行くぜ。今の力を試してみたいと思ってたんだ!」
「そう言う訳だ。俺たちは現場へ向かう。お前は避難してろ」
「エルは神官だろ? 危ないんじゃないのか?」
コロッサスはエルフィスが現在、騎士に転職していることなど知らない。
アスターゼとはそれ程、仲は良くないがエルフィスの心配をする辺り悪い奴ではないのかも知れない。
「心配すんなって! じゃあ行こうぜ!」
エルフィスの掛け声と共に三人が村の入り口に向かって走り出した。
コロッサスはただ茫然とそれを見送るのみである。
3人は全力疾走で村内を駆け抜けていく。
1番速いのはアルテナだ。
ゲームのようなパラメータがあるとすれば、恐らく全ての能力が突出しているのは間違いないだろう。
やがて村の入り口にたどり着くと、そこでは村長が大声で指示を飛ばしていた。
その指示に従ってノーアの大森林の方角へ走って行く者、回復薬を運んでいる者など様々だ。普段の姿からは想像もつかないこともあって3人が3人共にポカンとした表情になってしまう。
「お主らッ! どうして来た? 子供は避難しておるがよい!」
「僕たちはいつも父のヴィックスに剣術の稽古を受けています。3人共戦えます!」
「もしかするとノーアの護り神が出たのかも知れん。それにアルテナ以外は戦えまい。特にエルフィス。お主は神官じゃろう?」
「エルについても心配無用です。無理だと判断すれば撤退しますよ。行くぞッ!」
村長の制止を無視してアスターゼは2人に合図を送る。
今までは広大な村内に出没する獣やはぐれの亜人くらいしか相手にしたことはない。
初めての魔物戦にアスターゼは胸の高鳴りを抑えきれなかった。
こんな高揚感はいつ以来だろうか?
武者震いで震える手を握りしめながらアスターゼは森へ向かって走った。
この戦いで、この世界の理解がまた少し進むだろう。
魔物とはどんな存在で、どの程度の強さなのか。
自分がしてきた修行に意味はあって、その強さが魔物に通じるのか。
3人はそれぞれの胸に色々な感情を秘めながら魔物を抑えている守備兵たちの下へと急いだ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜
ree
ファンタジー
古代宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教…人々の信仰により生まれる神々達に見守られる世界《地球》。そんな《地球》で信仰心を欠片も持っていなかなった主人公ー桜田凛。
沢山の深い傷を負い、表情と感情が乏しくならながらも懸命に生きていたが、ある日体調を壊し呆気なく亡くなってしまった。そんな彼女に神は新たな生を与え、異世界《エルムダルム》に転生した。
異世界《エルムダルム》は地球と違い、神の存在が当たり前の世界だった。一抹の不安を抱えながらもリーンとして生きていく中でその世界の個性豊かな人々との出会いや大きな事件を解決していく中で失いかけていた心を取り戻していくまでのお話。
新たな人生は、人生ではなく神生!?
チートな能力で愛が満ち溢れた生活!
新たな神生は素敵な物語の始まり。
小説家になろう。にも掲載しております。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界転生記 〜神話級ステータスと最高の努力で成り上がる物語〜
かきくけコー太郎・改
ファンタジー
必死に生活をしていた24歳独身サラリーマンの神武仁は、会社から帰宅する途中で謎の怪物に追いかけられてゴミ箱の中に隠れた。
そして、目が覚めると、仁は"異世界の神"と名乗る者によって異世界転生させられることになる。
これは、思わぬ出来事で異世界転生させられたものの、その世界で生きることの喜びを感じて"ルーク・グレイテスト"として、大切な存在を守るために最強を目指す1人の男の物語。
以下、新連載です!楽しんでいってください。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/586446069/543536391
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる