2 / 44
第1章 辺境編
第2話 就職の儀①
しおりを挟む
音無静がアスターゼとして転生してから6年の時が流れた。
結論からはっきり言ってしまおう。
この世界は静が暮らしていた地球上の世界ではなく、想像の斜め上を行くファンタジーな世界であった。様々な国家が存在しているのはな同じだが、人間以外にもハイエルフ族やエルフ族、亜人や獣人、魔物、魔獣と呼ばれる知的生物が存在し、生命の多様性は地球以上だと言えよう。更には映画や小説の中でしか見たことのない、魔術などと言う不可思議なものも存在している。
世界は6つの大陸に分かれており、アスターゼはその内の1つオラリオン大陸にあるドレッドネイト王国の辺境の村に暮らす騎士の子供として生まれたのだ。
読み書きを覚えるのは大変であったが、時間だけは十分にあったので何とか現地の言葉を習得することができた。
もちろん現在進行形で勉強中ではあるのだが。
アスターゼがこの世界が地球ではない――所謂異世界だ――と漠然と思い始めたのは、父親のヴィックスに地図を見せてもらった時だ。
どう見ても知っている世界地図とは異なっていたし、世界地図のない国が地球上に存在するのか大いに疑問だったからである。
そして村を訪れた神官が"神聖術"と呼ばれるものを使用した時、それは確信に変わった。
神聖術とは神の奇跡を体現した術式で神官や司祭、司教など聖職に就く者にしか扱えないらしい。主に外傷の治癒が可能で、悪魔や魔神などに特効のダメージを与える術だと言う。
術が発達しているからか、機械のような武器や道具はあるものの、科学は未成熟である。
それと大事なことがもう一つある。
それは、この世界に住む人間は職業と呼ばれる、どこかシステムめいたものに組み込まれているのである。かつての地球に存在した生業としての職業とは少し意味合いが異なり、言わばゲーム的なものを想像してもらえば良いだろう。
村の幼馴染たちと遊ぶ中で、彼らは将来何々になりたい!などと言うのは子供にありがちな言動であるが、この世界ではより現実味を帯びているのだ。
どんな職業が神から与えられるかで将来が決まってしまうと言っても過言ではない重要な要素なのである。
それが、本日行われる就職の儀と呼ばれるものであった。
今現在、この地方の領主の領都コンコールズにある、とある建物の大広間に集められた6歳児たちがこの儀式を受けるところなのである。
今日はスタリカ村からもアスターゼと同い年の7名の子供がその親に連れられて領都を訪れていた。ちなみに、アスターゼの母親ニーナは2歳になる妹ライラの面倒を見る必要があるため来ていない。
「6歳で就職ってブラックってレベルじゃねーぞ……」
アスターゼが思わず呟くと、それを耳聡くも聞きつけた幼馴染のエルフィスが言った。
「ぶらっくって何だよ。アス」
「いや、何でもねーよ。エル。どんな職業になるか心配になっただけだよ」
「はいはーい! あたしは学者さんになりたい~」
少し間延びした声を上げたのは、幼馴染のアルテナだ。
髪は脱色したような感じになっており、仄かな桜色になっている。
アスターゼは、前世で髪を紫に染めたおばちゃんくらいしか見たことがなかったので、彼女の髪色を初めて見た時は思わず二度見してしまった程だ。
辺境とは言ってもこの地方はドレッドネイト王国にとって隣国、テメレーア王国との境界となる重要な場所なので、それなりの兵力と人口が集まっている。
当然、この場にも儀式を受けるために集まった多くの6歳児が、自分の順番を今か今かと待ちわびている様子であった。
その保護者たちは部屋の後方で儀式を見守っている。
「アルテナ、学者なんてつまらねぇよ。ここは格好良く勇者とかになるのがいいんだ」
「え~? 勇者になったら亜人とか魔物とかと戦わなきゃいけないんでしょ? そんなの嫌だよ~」
「男は黙って戦いに向かうんだよ!」
「あたし、男じゃないもん!」
幼馴染の二人がわきゃわきゃと騒いでいる中、いつまで経っても始まらない儀式に会場は騒がしくなっていく。
6歳児に騒ぐなと言う方が無理なのだ。
「静粛に!」
大広間に立派な白い顎鬚を生やした司教がよく通る声を張り上げる。
同時に手に持った錫杖を勢いよく地面に叩きつけると、大きな音が響き渡り、子供たちは皆静かになった。
「これより就職の儀を執り行う。名前を呼ばれた者は前へ来るように」
司教はそう言うと、儀式の説明を始めた。
前の方が良く見えないので、アスターゼは近くにあった台の上に昇ってどんな状況なのか確認しようとする。部屋の前はステージのようになっており、そこには神官たちがズラリと並んでいた。
神官服を着ていない大人もいるようだが、彼らがどんな身分の者なのかまでは分からない。ステージ上には前世で言う魔法陣のような紋様が書かれた何かがあり、そのサークルへ一人ずつ入って儀式を執り行うようだ。
最初の子供の名前が呼ばれ、その子が魔法陣の上に乗った。
そして司教を中心に周囲にいる神官たちが何やら祈り始める。
すると、魔法陣が光り輝いたかと思うと、強烈な光で彼の姿は見えなくなった。
結論からはっきり言ってしまおう。
この世界は静が暮らしていた地球上の世界ではなく、想像の斜め上を行くファンタジーな世界であった。様々な国家が存在しているのはな同じだが、人間以外にもハイエルフ族やエルフ族、亜人や獣人、魔物、魔獣と呼ばれる知的生物が存在し、生命の多様性は地球以上だと言えよう。更には映画や小説の中でしか見たことのない、魔術などと言う不可思議なものも存在している。
世界は6つの大陸に分かれており、アスターゼはその内の1つオラリオン大陸にあるドレッドネイト王国の辺境の村に暮らす騎士の子供として生まれたのだ。
読み書きを覚えるのは大変であったが、時間だけは十分にあったので何とか現地の言葉を習得することができた。
もちろん現在進行形で勉強中ではあるのだが。
アスターゼがこの世界が地球ではない――所謂異世界だ――と漠然と思い始めたのは、父親のヴィックスに地図を見せてもらった時だ。
どう見ても知っている世界地図とは異なっていたし、世界地図のない国が地球上に存在するのか大いに疑問だったからである。
そして村を訪れた神官が"神聖術"と呼ばれるものを使用した時、それは確信に変わった。
神聖術とは神の奇跡を体現した術式で神官や司祭、司教など聖職に就く者にしか扱えないらしい。主に外傷の治癒が可能で、悪魔や魔神などに特効のダメージを与える術だと言う。
術が発達しているからか、機械のような武器や道具はあるものの、科学は未成熟である。
それと大事なことがもう一つある。
それは、この世界に住む人間は職業と呼ばれる、どこかシステムめいたものに組み込まれているのである。かつての地球に存在した生業としての職業とは少し意味合いが異なり、言わばゲーム的なものを想像してもらえば良いだろう。
村の幼馴染たちと遊ぶ中で、彼らは将来何々になりたい!などと言うのは子供にありがちな言動であるが、この世界ではより現実味を帯びているのだ。
どんな職業が神から与えられるかで将来が決まってしまうと言っても過言ではない重要な要素なのである。
それが、本日行われる就職の儀と呼ばれるものであった。
今現在、この地方の領主の領都コンコールズにある、とある建物の大広間に集められた6歳児たちがこの儀式を受けるところなのである。
今日はスタリカ村からもアスターゼと同い年の7名の子供がその親に連れられて領都を訪れていた。ちなみに、アスターゼの母親ニーナは2歳になる妹ライラの面倒を見る必要があるため来ていない。
「6歳で就職ってブラックってレベルじゃねーぞ……」
アスターゼが思わず呟くと、それを耳聡くも聞きつけた幼馴染のエルフィスが言った。
「ぶらっくって何だよ。アス」
「いや、何でもねーよ。エル。どんな職業になるか心配になっただけだよ」
「はいはーい! あたしは学者さんになりたい~」
少し間延びした声を上げたのは、幼馴染のアルテナだ。
髪は脱色したような感じになっており、仄かな桜色になっている。
アスターゼは、前世で髪を紫に染めたおばちゃんくらいしか見たことがなかったので、彼女の髪色を初めて見た時は思わず二度見してしまった程だ。
辺境とは言ってもこの地方はドレッドネイト王国にとって隣国、テメレーア王国との境界となる重要な場所なので、それなりの兵力と人口が集まっている。
当然、この場にも儀式を受けるために集まった多くの6歳児が、自分の順番を今か今かと待ちわびている様子であった。
その保護者たちは部屋の後方で儀式を見守っている。
「アルテナ、学者なんてつまらねぇよ。ここは格好良く勇者とかになるのがいいんだ」
「え~? 勇者になったら亜人とか魔物とかと戦わなきゃいけないんでしょ? そんなの嫌だよ~」
「男は黙って戦いに向かうんだよ!」
「あたし、男じゃないもん!」
幼馴染の二人がわきゃわきゃと騒いでいる中、いつまで経っても始まらない儀式に会場は騒がしくなっていく。
6歳児に騒ぐなと言う方が無理なのだ。
「静粛に!」
大広間に立派な白い顎鬚を生やした司教がよく通る声を張り上げる。
同時に手に持った錫杖を勢いよく地面に叩きつけると、大きな音が響き渡り、子供たちは皆静かになった。
「これより就職の儀を執り行う。名前を呼ばれた者は前へ来るように」
司教はそう言うと、儀式の説明を始めた。
前の方が良く見えないので、アスターゼは近くにあった台の上に昇ってどんな状況なのか確認しようとする。部屋の前はステージのようになっており、そこには神官たちがズラリと並んでいた。
神官服を着ていない大人もいるようだが、彼らがどんな身分の者なのかまでは分からない。ステージ上には前世で言う魔法陣のような紋様が書かれた何かがあり、そのサークルへ一人ずつ入って儀式を執り行うようだ。
最初の子供の名前が呼ばれ、その子が魔法陣の上に乗った。
そして司教を中心に周囲にいる神官たちが何やら祈り始める。
すると、魔法陣が光り輝いたかと思うと、強烈な光で彼の姿は見えなくなった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう!
そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね!
なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!?
欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!?
え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。
※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません
なろう日間週間月間1位
カクヨムブクマ14000
カクヨム週間3位
他サイトにも掲載
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる