【R18】さよなら、婚約者様

mokumoku

文字の大きさ
上 下
44 / 44

番外編 終

しおりを挟む
「ハルヴァ殿ー!」
「ディオス様」
ハルヴァが庭で枯れた花を摘んでいるとディオスが仕事から帰ってきた。
子どもたちも巣立ち、ハルヴァはユナが拾ってきた猫を飼うことにした。

足にスリスリと身体を擦り付けてくるのがまた可愛らしい。
ハルヴァの飼っている猫は女の子で、ハルヴァがどこに行くにもふらりと後をつけてくるのだ。

「ふふ…ディオス様が帰ってきた」

ハルヴァが微笑みかけると猫は目を細めて喉をゴロゴロと鳴らす。
子どもの成長は嬉しくて寂しい。
今まで輪の中にいる時は不安で心配で…周りなんか見えていなかった。とにかく目まぐるしく、時には「早く終わらないかな」なんて思ったりして…

でもこうして…輪から外れると

なんだかポッカリと胸に穴が空いたような心地になった。
子どもたちは皆、それぞれの道に歩いていった。

とても喜ばしく、嬉しいことだ。

「寂しいな」
ディオスがハルヴァの肩を抱いてそう呟いた。

子どもたちがいる間は、庭がわーわーと騒がしかった。
枯れた花は付きっぱなしで、時折「やりたい!」と騒いで摘んでくれるが、途中で他の遊びをするので、いつも何処かに枯れた花がついていた。
その時は(庭をキレイに保ちたいなぁ…)とハルヴァは思っていた。

今は美しい庭にハルヴァとディオス二人きりだ。

「はい、寂しいけど…でもここからまた人生が始まりますね」
ハルヴァはニッコリ笑ってそう言った。
ディオスは年をとって、なんだか顔つきが優しくなった。
彼の心が外に表れるようになったのだろう。

「そうだな」
「旅行に行きましょうか」

ディオスはハルヴァを背後から抱き締める。
「うん、どこに行きたい?」
「…温かいところがいいな…この子も連れて」
ハルヴァは猫を撫でながらそう言って笑うと、ディオスが彼女に優しくキスをする。優しくて温かい日差しの下で



これから先、しばらくするとまた庭では大騒ぎが始まるに違いないのだ。
ディオスとハルヴァの子が子を生んで、きっとここに連れてくるだろう。
その時また、二人は育児の追体験をして幸せを噛みしめるのだ。


「きっとこの先、幸せなことばかり起きるよ」
そう言って二人は笑い合った。









それから半世紀以上が経った。
はじめは魔女の復活を警戒していた軍だったが、1年以上何も起こらないと警戒を和らげ、10年以上何もない今は念のため警戒を解いてはいない、と言っていいような状況だ。

もうかつて…この地に魔女がいたことを知る者はいない。
物語のような出来事だ。
「他の地区にはいるが、うちにはいない」
皆、そんな認識でいる。


「きっと良くなるよ」


誰が言っただろうか?
その時は、ただその場しのぎの言葉だったのかもしれない。

良く晴れた空の下で小鳥が数羽飛んでいった。



この先どうなるか…誰もわからない。

でもきっとこの先はよくなる。
きっとこれからも明るい未来が先に待っているはずだ。



温かい風が木を優しく揺らした。

どこかで誰かが楽しそうに笑う声がする。
みんな、幸せに暮らしているに違いない。


奪うのではなく与えるのだ。
救われたがるのではなく救うのだ。


「聖なる力を持った子どものお話をしてあげましょうね」


次の日が楽しみで眠れない子どもに母が寝る前に一つ童話を話す。



小さい頃には見えない真実が、自分が親になり子に語る時に見えてくる。


きっとこの先、ドンドン良くなっていくに違いない。
その時例えあなたはそこにいなくても…命は紡がれていく。


ハルヴァが見ることはない未来は、彼女がきっと思い描いた通りだ。ハルヴァの母が見ることができなかった未来は彼女が土台を作り上げたからそこにある。

みんなみんな、一生懸命生きてきた。

例えばそれは誰かに大きな影響を齎すものではないのかもしれない。誰も彼女たちの名前は知らないかもしれない。

しかしそれは小さく細く、いつまでも続いていく。



「母様……ネルヴァの手が変……」
新生児の様子をじっと興味深そうに見つめていた娘が、慌てて夕飯の準備をする母のもとに駆けて来た。
母は手をエプロンで拭いながら新生児のもとにゆっくりと歩いていく。
「あらあら…大丈夫よ、聖なる子どもの話学校で聞いたでしょ?」
「あれは…ただの物語でしょ?」
娘の声にゆっくりと母は首を振る。
「たまに…こういうことがあるの。内緒ね?」
母はニッコリ笑ってそう言うと新生児の手を優しく握った。


すると新生児の光は小さくなって母の手に吸い込まれていくように見えた。
娘はそれを見て目を丸くしている。
「赤ちゃんはね、手を握っているでしょう?」
「……うん…」
「幸せを握って生まれてくるからね、それがうちではたまに光を握ってくるのよ。幸せを…みんなに分けるためなのかもしれないね」
母は娘の膝にできた痣を優しく撫でる。
「元気になるおまじないしようね」
「うん!」
母が優しく娘の膝を撫でていると玄関の扉が開く音がした。
「ただいまー!」
「あ!父様だ!」

母は元気に駆けていく娘の背中を眺めてニッコリと幸せそうに笑った。


「おかえりなさい」


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(311件)

ぱら
2024.11.22 ぱら

番外編もありがとうございます!

二人の幸せな姿を見れて良かった(*´˘`*)

サラちゃんも結婚(若いイケオジはいったい何歳なのかな?)して良かった(*´˘`*)

人が少しずつ努力で勝ち得た未来、何かジンと来ます(⸝⸝⸝ᵒ̴̶̷ - ᵒ̴̶̷⸝⸝⸝)

魔女は何で居なくなったのかな?人の幸せ(光)を奪って独り占めしてたのに出来なくなったからかな?🤔

幸せと一緒に産まれる赤ちゃんがきっとこれからも護られて幸せになっていくんだろうなぁ🥰

mokumoku
2024.11.22 mokumoku

こちらこそありがとうございます🥹✨
サラの「若い」基準は一体何歳なのか…😂
実は魔女がいなくなったのか、とその理由についても私の中で答えがあるのですが色々な考察をしていただけて嬉しいのでこのまま明かさずにいようかな?と思います♡
でも一つだけ言えることはきっともう魔女は現れないだろうと言うことです☺️✨✨
みんな幸せになりました♡

解除
ぱんださん
2024.11.21 ぱんださん

ディオスがソファに厚めにタオル敷いてたのが、後からじわじわ来ています。
準備万端。掃除簡単。
いろんなお話で、貴族や王族の皆さんがソファとか書斎の机とか馬車とか、ベッド以外でしている場面あると(掃除するのやだな…)と使用人目線になってたので、彼の行動が庶民にはリアルで私もかくありたいと思いました。

mokumoku
2024.11.21 mokumoku

感想ありがとうございます♡
実は私も「この後片付けるの大変なんじゃ…」と思ってしまうタイプでして…🤣
優しいディオスならきっと後片付けのことも考えてくれているはず!とタオルを敷きました!笑
ありがとうございます♡

解除
にゃにゃ
2024.11.21 にゃにゃ

番外編ありがとうございます🫶
久々のディオスとハルヴァ
(੭*´ᵕ`)`ω'*)ギュ~ッ♡

おばあちゃんから悲しい死を迎えたお母さん
ハルヴァの産まれた日

魔女めーー
ヽ(*`皿´*)ノキィィ──!!!!
聖なる力は受け継がれていく
\\\\٩( 'ω' )و ////

産まれた時に赤子は希望を握りしめて産まれてきて
産まれてきたからには幸せになる権利があるのですが
それが叶わない
魔女( ゚皿゚)キ─︎─︎ッ!!


立ち向かった遺伝子がハルヴァに そして脈々とと受け継がれていくのですね

二人の子どもたちもステキな子どもたち
サラも‼️

ステキなお話ありがとうございますございました✨

mokumoku
2024.11.21 mokumoku

こちらこそありがとうございます🥹✨
ハルヴァはどうやらそういう家系出身だったようですね🤔
サラが幸せになるのを書きたかったので私は感無量…😭😭イケオジと幸せにね…😭
とても嬉しいお言葉…ありがとうございます♡

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

あなたの嫉妬なんて知らない

abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」 「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」 「は……終わりだなんて、」 「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ…… "今日の主役が二人も抜けては"」 婚約パーティーの夜だった。 愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。 長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。 「はー、もういいわ」 皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。 彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。 「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。 だから私は悪女になった。 「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」 洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。 「貴女は、俺の婚約者だろう!」 「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」 「ダリア!いい加減に……」 嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。