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番外編8
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「母様、俺のシャツは?これが一番デカイっけ?」
エレオスが朝、ハルヴァに少しぶっきらぼうに言った。
「あらあら…エレオスもう小さいの?」
ハルヴァは一番下の子を抱きながらエプロンで手を拭った。
エレオスが腕を伸ばすと彼のシャツはツンツルテンだ。
「今日商人を呼びましょうね」
「えー?今日サルバと遊ぶ予定なんだけど…」
「気持ちはわかるけど…あなたがいないとまたツンツルテンの買っちゃうかも、母様」ハルヴァがそう言って笑うとディオスが袖のボタンを閉めながら「サルバとはシャツを買ってから遊べばいいだろ?エレオス」と笑った。
足元には双子の姉妹が「とうさま!」「とうさま!」としがみついている。
ハルヴァとディオスが好き勝手した結果、もう5人の子宝に恵まれてしまった。
一番上のエレオスはもう中等部に通っている。
「んー……まあ、そうか」
エレオスは少し眉を寄せていたが、自分の中で納得がいったのかハルヴァからなかなか泣き止まない末っ子を受け取りくるくると回った。
「アストリオス~兄はお前が泣いてると悲しいよ…」
自分以外唯一の男児の末っ子に向けてエレオスは泣き真似をしながら高い高いをしてあげている。
彼がポンポンと背中を叩くと、アストリオスは「げふぅ」とげっぷをした。
「あら?さっきさせたはずだけど…」
「何回も出るんじゃない?それか母様が忘れてたか!あはは!」エレオスはハルヴァを誂うようにそう言って笑うとディオスから額を突かれている。
「いてて、冗談だよ」
「悪い男だ、女性には優しくしろ。モテないぞ」
ディオスはニコニコ笑いながらエレオスのツンツルテンな袖を折り上げてあげている。
エレオスは中等部になってからドンドン背が伸びていて、服があっという間に小さくなってしまう。
「ふふん、俺意外とモテるからさ、心配ないよ」
エレオスは慣れた手つきでアストリオスを片手で抱くと得意げにディオスへ言った。
「え?」
まだまだエレオスが子どもだと思っていたディオスは少し驚いたように声を上げる。
エレオスが女の子からアプローチされているのを知っていたハルヴァはディオスの反応を見て思わずクスクス笑った。
「おい、いいか?エレオス…大好きな…結婚したい女性としか付き合ってはいけないぞ?あたり構わず手を出したりだとか…」
ディオスは不安そうな面持ちでそう言うとエレオスの後をついて歩いている。
「わかってるよー!じいちゃんやおじさんみたいになるな、でしょ?ならないよ」
もうすっかり泣き止んだアストリオスがそんなエレオスを手をチュパチュパしゃぶりながら不思議そうに眺めている。
「いやいや…人間は魔が差したり」
「父様は魔が差したことある?」
エレオスはテーブルに置いてあるミルクを自分のカップに注ぎながらディオスに尋ねた。
「父様か?父様は…母様だけだから…はははは」
ディオスは照れくさそうにそう言うとハルヴァを見つめてニコニコ笑う。
エレオスはグイーっとミルクを一気に飲み干すと「……一人しか知らないなんてダサいってみんな言うけどさ」とディオスを見た。
ディオスは「ダサい」と言われて少し眉を下げている。
「俺はそうは思わなくて…父様と母様のこと見てるから…一人の女を大切にする方がかっこいいよ」
エレオスは凛とした声でそう言った。
顔も様子も…ますますディオスに似てきたな、とハルヴァは思う。でもエレオスはハキハキものを言うし社交的だ。
「俺も一人の女子のこと大切にしたいから…あたり構わずは付き合わないかな?俺、じいちゃんの孫だけど…父様の子どもだし」
エレオスはもう小柄なハルヴァの背丈は追い越してしまった。
そんな彼は少し陽気で優しくて、きっと同い年の女の子にモテるだろう。
ディオスはエレオスの言葉に目を潤ませている。
エレオスはそれを見て「あはは!」と笑うとアストリオスをベッドに置いた。
ディオスは「そうか」と安堵したように言うとミルヴァがディオスの足下にいる双子の手を握っている。
彼女の手のひらに光が吸い込まれていく。
「あーミルヴァ…エナの手、光っていた?」
「うん、吸った!」
ミルヴァがチューッと口を尖らせて戯けるのを見て、ハルヴァもクスクス笑う。
使い魔がうちに来なくなって…どれくらい経っただろうか…ハルヴァはポツリと考えた。
ある時、最近窓を叩かれていないことに気付く。
魔女は約束した通り、大人しく暮らしているようでここしばらく戦争も、娯楽も行われてはいない。
ミルヴァはフラフラと地面をふざけて歩きながら、足跡を光らせている。
「おいミルヴァ、それ他の子に見せるなよ」
エレオスが歯を磨きながらミルヴァに釘を刺している。
「わかってるよー」
調子よく答えるミルヴァはとても危なっかしい。
彼女は少しお調子者なので「内緒だよ」と見せてしまいそうな様子があるのだ。
「頼むぜ…みんな大変な目に合うんだからな」
エレオスは疑わしい眼差しをミルヴァに向けて言うと「それ以上言うなら見せちゃう…」と禍々しいオーラを出した彼女に睨みつけられて「わ、わかった…わかったよ」と口を拭う。
双子のもう一人のユナは手が光らない代わりになんだか時折何もないところを眺めたりしている。
ユナはフラフラと何かを追いかけながらまた再びディオスのところに戻ると、抱き上げられてご機嫌そうに笑った。
エレオスが朝、ハルヴァに少しぶっきらぼうに言った。
「あらあら…エレオスもう小さいの?」
ハルヴァは一番下の子を抱きながらエプロンで手を拭った。
エレオスが腕を伸ばすと彼のシャツはツンツルテンだ。
「今日商人を呼びましょうね」
「えー?今日サルバと遊ぶ予定なんだけど…」
「気持ちはわかるけど…あなたがいないとまたツンツルテンの買っちゃうかも、母様」ハルヴァがそう言って笑うとディオスが袖のボタンを閉めながら「サルバとはシャツを買ってから遊べばいいだろ?エレオス」と笑った。
足元には双子の姉妹が「とうさま!」「とうさま!」としがみついている。
ハルヴァとディオスが好き勝手した結果、もう5人の子宝に恵まれてしまった。
一番上のエレオスはもう中等部に通っている。
「んー……まあ、そうか」
エレオスは少し眉を寄せていたが、自分の中で納得がいったのかハルヴァからなかなか泣き止まない末っ子を受け取りくるくると回った。
「アストリオス~兄はお前が泣いてると悲しいよ…」
自分以外唯一の男児の末っ子に向けてエレオスは泣き真似をしながら高い高いをしてあげている。
彼がポンポンと背中を叩くと、アストリオスは「げふぅ」とげっぷをした。
「あら?さっきさせたはずだけど…」
「何回も出るんじゃない?それか母様が忘れてたか!あはは!」エレオスはハルヴァを誂うようにそう言って笑うとディオスから額を突かれている。
「いてて、冗談だよ」
「悪い男だ、女性には優しくしろ。モテないぞ」
ディオスはニコニコ笑いながらエレオスのツンツルテンな袖を折り上げてあげている。
エレオスは中等部になってからドンドン背が伸びていて、服があっという間に小さくなってしまう。
「ふふん、俺意外とモテるからさ、心配ないよ」
エレオスは慣れた手つきでアストリオスを片手で抱くと得意げにディオスへ言った。
「え?」
まだまだエレオスが子どもだと思っていたディオスは少し驚いたように声を上げる。
エレオスが女の子からアプローチされているのを知っていたハルヴァはディオスの反応を見て思わずクスクス笑った。
「おい、いいか?エレオス…大好きな…結婚したい女性としか付き合ってはいけないぞ?あたり構わず手を出したりだとか…」
ディオスは不安そうな面持ちでそう言うとエレオスの後をついて歩いている。
「わかってるよー!じいちゃんやおじさんみたいになるな、でしょ?ならないよ」
もうすっかり泣き止んだアストリオスがそんなエレオスを手をチュパチュパしゃぶりながら不思議そうに眺めている。
「いやいや…人間は魔が差したり」
「父様は魔が差したことある?」
エレオスはテーブルに置いてあるミルクを自分のカップに注ぎながらディオスに尋ねた。
「父様か?父様は…母様だけだから…はははは」
ディオスは照れくさそうにそう言うとハルヴァを見つめてニコニコ笑う。
エレオスはグイーっとミルクを一気に飲み干すと「……一人しか知らないなんてダサいってみんな言うけどさ」とディオスを見た。
ディオスは「ダサい」と言われて少し眉を下げている。
「俺はそうは思わなくて…父様と母様のこと見てるから…一人の女を大切にする方がかっこいいよ」
エレオスは凛とした声でそう言った。
顔も様子も…ますますディオスに似てきたな、とハルヴァは思う。でもエレオスはハキハキものを言うし社交的だ。
「俺も一人の女子のこと大切にしたいから…あたり構わずは付き合わないかな?俺、じいちゃんの孫だけど…父様の子どもだし」
エレオスはもう小柄なハルヴァの背丈は追い越してしまった。
そんな彼は少し陽気で優しくて、きっと同い年の女の子にモテるだろう。
ディオスはエレオスの言葉に目を潤ませている。
エレオスはそれを見て「あはは!」と笑うとアストリオスをベッドに置いた。
ディオスは「そうか」と安堵したように言うとミルヴァがディオスの足下にいる双子の手を握っている。
彼女の手のひらに光が吸い込まれていく。
「あーミルヴァ…エナの手、光っていた?」
「うん、吸った!」
ミルヴァがチューッと口を尖らせて戯けるのを見て、ハルヴァもクスクス笑う。
使い魔がうちに来なくなって…どれくらい経っただろうか…ハルヴァはポツリと考えた。
ある時、最近窓を叩かれていないことに気付く。
魔女は約束した通り、大人しく暮らしているようでここしばらく戦争も、娯楽も行われてはいない。
ミルヴァはフラフラと地面をふざけて歩きながら、足跡を光らせている。
「おいミルヴァ、それ他の子に見せるなよ」
エレオスが歯を磨きながらミルヴァに釘を刺している。
「わかってるよー」
調子よく答えるミルヴァはとても危なっかしい。
彼女は少しお調子者なので「内緒だよ」と見せてしまいそうな様子があるのだ。
「頼むぜ…みんな大変な目に合うんだからな」
エレオスは疑わしい眼差しをミルヴァに向けて言うと「それ以上言うなら見せちゃう…」と禍々しいオーラを出した彼女に睨みつけられて「わ、わかった…わかったよ」と口を拭う。
双子のもう一人のユナは手が光らない代わりになんだか時折何もないところを眺めたりしている。
ユナはフラフラと何かを追いかけながらまた再びディオスのところに戻ると、抱き上げられてご機嫌そうに笑った。
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