【R18】さよなら、婚約者様

mokumoku

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番外編4

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「え?母様のお腹…何か……」
ハルヴァがそう言った時、寝室が光に包まれた。
私はあまりの光量に思わず目を堅くつぶる。

少しだけ眠っていただろうか…?

ハルヴァが私の足元で倒れ込むように寝息を立てている。

次に目を開けた瞬間…私は腹部を撫でる。そこは何事もなかったかのようにツルリとしていた。




その日からハルヴァの手は光を失った。


「つまらぬ子どもだ」


魔女がハルヴァをそう評価したと聞いた時、私と夫は心の底から安堵した。
よかった、と。

私は幸せな日々を過ごした。
家族と共に…
二人目の子どもが生まれた時にそれは終わったが……
魔女は約束通り私に家族を与え、奪った。

自分に逆らう人間を罰したのだ。





ハルヴァ、きっと世の中は良くなる。


攻撃ばかりではいなけない。
痛みは誰も幸せになどしない。


ハルヴァ、君ならきっとわかるはずだ。


与え、赦すことが大切なのだ、と。


母様は、気付くことができなかったけれど…



「ディオス様、見て?ほら…笑った」
「本当だ…かわいいなぁ……」

二人はコソコソと囁き合った。
目の前には生まれたばかりの二人の息子がスヤスヤと寝息を立てている。
ねながら口の端を引き上げている様が笑っているようだとハルヴァはディオスに言っているのだ。
「ほら、ハルヴァ君はちょっと休んでいろ、今日は俺が家事をやるから」
ディオスはハルヴァをソファに座らせると洗濯かごを持った。
「そんな…ディオス様せっかくのお休みなのに…」
腰を上げようとするハルヴァを手で制したディオスは「君はずっと休みがないじゃないか」と言って洗濯場まで歩いて行った。


ディオスは幸せだった。
愛する妻との子も無事に生まれ…今日は天気もいい。

自分の服よりも小さいハルヴァの服と、それよりももっと小さい我が子の服を並べて干すと得も言われぬ愛おしさのようなものがディオスを襲う。
彼はそれらを干し終えてぼんやりと近くの石に座り考えた。

(こんなに可愛いのならば…もう一人…いや、まだまだドンドン増やしていいのでは…?)と。


ディオスは再びギラついてしまいそうな目を擦りハルヴァのもとに戻った。ディオスは長い禁欲生活の中、スヤスヤとソファで眠るハルヴァを見て獣のような心地になっていく…

その時、ハルヴァがディオスに手を伸ばし頬に触れた。
「んん……」
無意識下で行われているのだろう…ハルヴァは夢見心地にいるような声を出している。
ディオスはその手に頬を寄せた。
(温かい……)

獣のような気持ちが消えていく。

ディオスは穏やかな心地になると同時に、先ほどまで衝動的でさえあった性欲が静かに落ち着いていく気がした。
(……いつでもいいか)

ついさっきまでハルヴァが抗っても行いたい程であった性衝動が消えて、彼女への愛おしさだけが残る。
チラリとベビーベッドを見ると息子はまだスヤスヤと穏やかに寝息を立てている。
ディオスはハルヴァを包み込むように自身も横になると目を閉じた。





「パーパ」
「エレオスー天才だ…お前は天才」
ディオスはある日、お喋りができるようになった息子に語りかけられてヘラヘラと笑った。
「そうねぇ、エレオスパパ帰ってきた」ハルヴァはそちらに行きたがる息子を抱いてディオスに受け渡す。
ディオスのガッチリした腕に抱かれたエレオスはディオスの目を突き刺しながら「これ、パーパ」と呟いた。
「ふふふ…エレオス、これはパパではなくパパの目…しかし人間の一番急所である部位を突くとはなかなかやるではないか…」バルディオスは瞼を突かれながら全力のポジティブ思考でエレオスを褒めると制服を脱ぐ。
「ディオス様、お風呂に入る?」
ハルヴァはディオスの服を受け取るとそう尋ねる。
出来ればエレオスも一緒に入れてくれると嬉しい…
「うん、エレオスも一緒に入るか?」とエレオス高い高いしながら聞くと意味もわかっていないであろうエレオスは笑いながら「うん」とはしゃいでいる。

ハルヴァは風呂場から聞こえる楽しげな声に耳を傾けながらタオルを取りに行く。
窓をコツコツと叩かれたのでそちらを振り返る。
そこには魔女の使い魔が窓にべったりと張り付いてこちらを眺めていた。
「また来た」
ハルヴァは10歳以降から時折自分を監視しに来るこの存在に、最早一種の愛着のようなものを感じていた。
子どもの頃は恐ろしかったこの使い魔も、他の動物と同じようにそれぞれ個性がある。
少し毛が長いもの、目が大きいもの、尻尾が長いもの。

ハルヴァはなんとなくそれぞれを見分けられるようになってきていた。
「今日は尻尾が来たの?」
ハルヴァはそう言いながら窓に近寄るとべったりと額を貼り付けている窓ガラスに手を当てた。
窓を開けると逃げるので、こうしていつもコミュニケーションをとる。

「いつ見たって私は平凡で…ううん、普通の人よりも何もない女よ。もうお母さんになったけど」

ハルヴァはなんの反応も示さない使い魔にクスクス笑いながら語りかけた。

「私の子見た?男の子なの、凄くかわいいのよ。ディオス様にそっくりでね…でも少し腕白だから性格は似てないかも」

しばらくそれを黙って聞いていた使い魔は勢いよく窓から離れるとフラフラどこかへ飛んで行った。

来た時の様子より少し…調子が悪そうに見えたのでハルヴァは心配したが「ハルヴァ殿ー!タオルを持ってくるのを忘れたー!」とディオスに浴室から声をかけられてハルヴァは慌ててタオルを届けにいったので、その気持ちは曖昧になってしまった。
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