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番外編3
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「お母様…また手が光ってきちゃった…」
少し大きくなったハルヴァは、そう言って夜中私たちの寝室にやって来た。
心細そうな顔をしたハルヴァを私は抱き締める。
「大丈夫だよ」
そう言いながらも私は物凄く不安だった…
(……なぜこの子の光は枯れないのか……)
「いい?今日も母様に光を分けて?」
「はい、わかりました!」
ハルヴァは朝起きて直ぐに手を握る私にニッコリ笑うと「んー!」と力を込める。
毎朝の日課だ。
目には見えないけれど、身体にぐんぐんと何かが入ってくるような気分に私は目の前をチカチカさせた。
「よーし!元気になった!じゃあ母様お仕事行くからね!ハルヴァも学校頑張るんだよ!」
私はハルヴァの手が光らなくなったのを確認して仕事に向かう。
もう少しで…あの子は10歳になる。
「……うっ……」
私は軍から支給された馬に轡を噛ませながら泣いた。
最近とんと涙もろい。
自分は思っていた。
こんなことになるのなら…なぜ産んだのか?と
それを浅はかにも娘に強いている。
自分は光を解消した、だから自分の子どももそうすれば良い、という驕りがあった。
何事も例外がある。
3年前からの相棒はそんな私の雰囲気を察し、顔を寄せてくれている。
私はそれを撫でながら「……なぜ私は最愛の存在に…こんな想いをさせているんだ」と呟いた。
ハルヴァはそれでもニコニコしている。
手が光ると今後どのような目に遭うのか…彼女には説明したしわかっているはずなのに「……でも母様は大丈夫だったし…私もきっと大丈夫だと思う」ハルヴァはニッコリ笑ってそう言うと庭に出て、萎れかけた草花に手を翳した。
私はそんなことを思い出し…ますます目頭を熱くした。
そんな調子で仕事に行ったのが悪かったのかもしれない。
当時私は魔女に接見した経験からか、戦地に行く任務からはずされており、代わりに街の警護についていた。
その日、私の気は緩んでいた。
後数日で10歳になるハルヴァのことを考えていて私は後ろから走ってくる男に気づかなかった。
「お母様!」
ハルヴァが私の寝室に駆け込んできた。
もう永くはないだろう。
たくさん血が流れたからだ。
私はあの日、後ろから走ってきた男に腹を刺された。
「魔女の手下め」
そう怒鳴りつけられながら。
(ああ、警護にはこのようなリスクがあった)
私は腹に生まれた新たな心音のような激痛と吐き気に膝をつく、男はその場で他の警護に捕獲されると私はその男の「お前たち手下のせいで俺の息子は死んだんだ!」という声を聞いた。
(お前の息子なんて知らねーよ)
私はもう助からないと思われたのかそこの指揮をとっていた上官に「どうしたい?病院か……それとも家か?」と尋ねられた。
私は「家に」と答え、目を閉じる。
最期に家族に会いたかった。
「お母様!お母様!」
泣きじゃくるハルヴァが夫に連れられて寝室にやってきた。
私は深い海の底から引きずり上げられるように薄っすらと目を開ける。
痛くてダルくて…今すぐ休みたい。
(駄目だ…休んでは)
私は今まで生きてきた中で一番強い欲望と戦った。
休みたい
駄目だ…
今すぐ眠りたい
駄目だ
「ハルヴァ、母様にお別れを」
涙声の夫に言われ、ハルヴァは珍しく大きな声を上げる。
「え!?駄目よ!……母様!」
夫が使用人と医者に「家族だけで…」と告げたのがなんだかハッキリ見える。
その時、私は思いついてしまった。
これはもしかすると私とハルヴァを救うアイデアかもしれない。
私は力を振り絞り声を上げた。
「……バ………ハ、ル……バ……」
いつもならすんなりと出る音がか細く鳴った。
まるで吐息のようだ。
鉛のように重い腕を持ち上げる。
しかし、それはピクリとしか動いていない。
(気付いてくれ…ハルヴァ)
夢の中の出来事のように、意識が朦朧とする。
ねっとりと絡みつくような空気が私の行動や言葉を抑え込み、思うようにはさせない、と宣言されているようだ。
「母様!」
ハルヴァは泣きじゃくりながら私の手を握った。
(そうだ…ハルヴァ!そうして欲しい…母様はお前に手を握って欲しいんだ!)
「母様……どうしたの?どこが痛いの?ハルヴァの光…分けてあげるよ…母様……母様……」
ハルヴァが泣きながら私の手に頬を当てている。
生暖かい涙が私の手に辺り、ひんやりと冷たくなった。
「ハ……ハルヴァ……っか、かあ……さまは……はらが……」
「お腹?」
ハルヴァはキョトンとした顔をした。
幼い彼女には何か腹痛のようなものだと思ったのかもしれない。
実際に私の腹部からは傷口から腹圧により身体の中身が飛び出している。
上にかけている布団に血がドンドン染み込んで、今やドッシリと私に重くのしかかってきている。
「お腹が痛いの?ハルヴァ……撫でてあげる、母様いつもしてくれるでしょ?痛いの、なくなるよ」
ハルヴァはそんなことか、というような顔をしてニッコリ笑う。
そして布団の中に手をいれるとそっと私の腹を触った。
少し大きくなったハルヴァは、そう言って夜中私たちの寝室にやって来た。
心細そうな顔をしたハルヴァを私は抱き締める。
「大丈夫だよ」
そう言いながらも私は物凄く不安だった…
(……なぜこの子の光は枯れないのか……)
「いい?今日も母様に光を分けて?」
「はい、わかりました!」
ハルヴァは朝起きて直ぐに手を握る私にニッコリ笑うと「んー!」と力を込める。
毎朝の日課だ。
目には見えないけれど、身体にぐんぐんと何かが入ってくるような気分に私は目の前をチカチカさせた。
「よーし!元気になった!じゃあ母様お仕事行くからね!ハルヴァも学校頑張るんだよ!」
私はハルヴァの手が光らなくなったのを確認して仕事に向かう。
もう少しで…あの子は10歳になる。
「……うっ……」
私は軍から支給された馬に轡を噛ませながら泣いた。
最近とんと涙もろい。
自分は思っていた。
こんなことになるのなら…なぜ産んだのか?と
それを浅はかにも娘に強いている。
自分は光を解消した、だから自分の子どももそうすれば良い、という驕りがあった。
何事も例外がある。
3年前からの相棒はそんな私の雰囲気を察し、顔を寄せてくれている。
私はそれを撫でながら「……なぜ私は最愛の存在に…こんな想いをさせているんだ」と呟いた。
ハルヴァはそれでもニコニコしている。
手が光ると今後どのような目に遭うのか…彼女には説明したしわかっているはずなのに「……でも母様は大丈夫だったし…私もきっと大丈夫だと思う」ハルヴァはニッコリ笑ってそう言うと庭に出て、萎れかけた草花に手を翳した。
私はそんなことを思い出し…ますます目頭を熱くした。
そんな調子で仕事に行ったのが悪かったのかもしれない。
当時私は魔女に接見した経験からか、戦地に行く任務からはずされており、代わりに街の警護についていた。
その日、私の気は緩んでいた。
後数日で10歳になるハルヴァのことを考えていて私は後ろから走ってくる男に気づかなかった。
「お母様!」
ハルヴァが私の寝室に駆け込んできた。
もう永くはないだろう。
たくさん血が流れたからだ。
私はあの日、後ろから走ってきた男に腹を刺された。
「魔女の手下め」
そう怒鳴りつけられながら。
(ああ、警護にはこのようなリスクがあった)
私は腹に生まれた新たな心音のような激痛と吐き気に膝をつく、男はその場で他の警護に捕獲されると私はその男の「お前たち手下のせいで俺の息子は死んだんだ!」という声を聞いた。
(お前の息子なんて知らねーよ)
私はもう助からないと思われたのかそこの指揮をとっていた上官に「どうしたい?病院か……それとも家か?」と尋ねられた。
私は「家に」と答え、目を閉じる。
最期に家族に会いたかった。
「お母様!お母様!」
泣きじゃくるハルヴァが夫に連れられて寝室にやってきた。
私は深い海の底から引きずり上げられるように薄っすらと目を開ける。
痛くてダルくて…今すぐ休みたい。
(駄目だ…休んでは)
私は今まで生きてきた中で一番強い欲望と戦った。
休みたい
駄目だ…
今すぐ眠りたい
駄目だ
「ハルヴァ、母様にお別れを」
涙声の夫に言われ、ハルヴァは珍しく大きな声を上げる。
「え!?駄目よ!……母様!」
夫が使用人と医者に「家族だけで…」と告げたのがなんだかハッキリ見える。
その時、私は思いついてしまった。
これはもしかすると私とハルヴァを救うアイデアかもしれない。
私は力を振り絞り声を上げた。
「……バ………ハ、ル……バ……」
いつもならすんなりと出る音がか細く鳴った。
まるで吐息のようだ。
鉛のように重い腕を持ち上げる。
しかし、それはピクリとしか動いていない。
(気付いてくれ…ハルヴァ)
夢の中の出来事のように、意識が朦朧とする。
ねっとりと絡みつくような空気が私の行動や言葉を抑え込み、思うようにはさせない、と宣言されているようだ。
「母様!」
ハルヴァは泣きじゃくりながら私の手を握った。
(そうだ…ハルヴァ!そうして欲しい…母様はお前に手を握って欲しいんだ!)
「母様……どうしたの?どこが痛いの?ハルヴァの光…分けてあげるよ…母様……母様……」
ハルヴァが泣きながら私の手に頬を当てている。
生暖かい涙が私の手に辺り、ひんやりと冷たくなった。
「ハ……ハルヴァ……っか、かあ……さまは……はらが……」
「お腹?」
ハルヴァはキョトンとした顔をした。
幼い彼女には何か腹痛のようなものだと思ったのかもしれない。
実際に私の腹部からは傷口から腹圧により身体の中身が飛び出している。
上にかけている布団に血がドンドン染み込んで、今やドッシリと私に重くのしかかってきている。
「お腹が痛いの?ハルヴァ……撫でてあげる、母様いつもしてくれるでしょ?痛いの、なくなるよ」
ハルヴァはそんなことか、というような顔をしてニッコリ笑う。
そして布団の中に手をいれるとそっと私の腹を触った。
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