【R18】さよなら、婚約者様

mokumoku

文字の大きさ
上 下
37 / 44

番外編3

しおりを挟む
「お母様…また手が光ってきちゃった…」

少し大きくなったハルヴァは、そう言って夜中私たちの寝室にやって来た。
心細そうな顔をしたハルヴァを私は抱き締める。
「大丈夫だよ」
そう言いながらも私は物凄く不安だった…

(……なぜこの子の光は枯れないのか……)


「いい?今日も母様に光を分けて?」
「はい、わかりました!」

ハルヴァは朝起きて直ぐに手を握る私にニッコリ笑うと「んー!」と力を込める。
毎朝の日課だ。
目には見えないけれど、身体にぐんぐんと何かが入ってくるような気分に私は目の前をチカチカさせた。

「よーし!元気になった!じゃあ母様お仕事行くからね!ハルヴァも学校頑張るんだよ!」
私はハルヴァの手が光らなくなったのを確認して仕事に向かう。
もう少しで…あの子は10歳になる。

「……うっ……」

私は軍から支給された馬に轡を噛ませながら泣いた。
最近とんと涙もろい。
自分は思っていた。
こんなことになるのなら…なぜ産んだのか?と

それを浅はかにも娘に強いている。

自分は光を解消した、だから自分の子どももそうすれば良い、という驕りがあった。

何事も例外がある。

3年前からの相棒はそんな私の雰囲気を察し、顔を寄せてくれている。
私はそれを撫でながら「……なぜ私は最愛の存在に…こんな想いをさせているんだ」と呟いた。


ハルヴァはそれでもニコニコしている。
手が光ると今後どのような目に遭うのか…彼女には説明したしわかっているはずなのに「……でも母様は大丈夫だったし…私もきっと大丈夫だと思う」ハルヴァはニッコリ笑ってそう言うと庭に出て、萎れかけた草花に手を翳した。


私はそんなことを思い出し…ますます目頭を熱くした。


そんな調子で仕事に行ったのが悪かったのかもしれない。

当時私は魔女に接見した経験からか、戦地に行く任務からはずされており、代わりに街の警護についていた。
その日、私の気は緩んでいた。
後数日で10歳になるハルヴァのことを考えていて私は後ろから走ってくる男に気づかなかった。





「お母様!」

ハルヴァが私の寝室に駆け込んできた。
もう永くはないだろう。
たくさん血が流れたからだ。

私はあの日、後ろから走ってきた男に腹を刺された。
「魔女の手下め」
そう怒鳴りつけられながら。

(ああ、警護にはこのようなリスクがあった)

私は腹に生まれた新たな心音のような激痛と吐き気に膝をつく、男はその場で他の警護に捕獲されると私はその男の「お前たち手下のせいで俺の息子は死んだんだ!」という声を聞いた。


(お前の息子なんて知らねーよ)




私はもう助からないと思われたのかそこの指揮をとっていた上官に「どうしたい?病院か……それとも家か?」と尋ねられた。

私は「家に」と答え、目を閉じる。

最期に家族に会いたかった。






「お母様!お母様!」
泣きじゃくるハルヴァが夫に連れられて寝室にやってきた。
私は深い海の底から引きずり上げられるように薄っすらと目を開ける。
痛くてダルくて…今すぐ休みたい。
(駄目だ…休んでは)
私は今まで生きてきた中で一番強い欲望と戦った。
休みたい
駄目だ…
今すぐ眠りたい
駄目だ

「ハルヴァ、母様にお別れを」
涙声の夫に言われ、ハルヴァは珍しく大きな声を上げる。
「え!?駄目よ!……母様!」
夫が使用人と医者に「家族だけで…」と告げたのがなんだかハッキリ見える。
その時、私は思いついてしまった。

これはもしかすると私とハルヴァを救うアイデアかもしれない。

私は力を振り絞り声を上げた。

「……バ………ハ、ル……バ……」
いつもならすんなりと出る音がか細く鳴った。
まるで吐息のようだ。

鉛のように重い腕を持ち上げる。
しかし、それはピクリとしか動いていない。
(気付いてくれ…ハルヴァ)

夢の中の出来事のように、意識が朦朧とする。
ねっとりと絡みつくような空気が私の行動や言葉を抑え込み、思うようにはさせない、と宣言されているようだ。


「母様!」
ハルヴァは泣きじゃくりながら私の手を握った。
(そうだ…ハルヴァ!そうして欲しい…母様はお前に手を握って欲しいんだ!)
「母様……どうしたの?どこが痛いの?ハルヴァの光…分けてあげるよ…母様……母様……」
ハルヴァが泣きながら私の手に頬を当てている。
生暖かい涙が私の手に辺り、ひんやりと冷たくなった。


「ハ……ハルヴァ……っか、かあ……さまは……はらが……」
「お腹?」
ハルヴァはキョトンとした顔をした。
幼い彼女には何か腹痛のようなものだと思ったのかもしれない。
実際に私の腹部からは傷口から腹圧により身体の中身が飛び出している。
上にかけている布団に血がドンドン染み込んで、今やドッシリと私に重くのしかかってきている。
「お腹が痛いの?ハルヴァ……撫でてあげる、母様いつもしてくれるでしょ?痛いの、なくなるよ」
ハルヴァはそんなことか、というような顔をしてニッコリ笑う。
そして布団の中に手をいれるとそっと私の腹を触った。
しおりを挟む
感想 311

あなたにおすすめの小説

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら

黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。 最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。 けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。 そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。 極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。 それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。 辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの? 戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる? ※曖昧設定。 ※別サイトにも掲載。

愛してくれない婚約者なら要りません

ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...