【R18】さよなら、婚約者様

mokumoku

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番外編2

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自分の娘の…手のひらが光った時…私は正直そんなに驚きはしなかった。
(なんだ、やっぱりか)

私はそんな面持ちでそれを眺めた。
そんなことよりも…

「ねえ…見て?光を握っているみたいだ」

私は夫にそう言った。








光を失った私は暴れん坊な性分から軍隊にぶち込まれた。
怒りをエネルギーに私は力を付けていった。
女だから…の枕詞などとうになくなり、遠慮などされなくなり、男に塗れ揉まれ、男なんて…!と嫌気がさして来た頃…再び魔女に呼び出されたのだ。

18の年だった。

上官から呼び出されると船に乗るように命令された。
私は入り口に立つ魔女の血でできた船内にいるボーイに向かい、剣を抜こうとしたところを慌てて上官に止められる。
私は内心舌打ちをすると大人しく会議室に向かうことにした。

(気に食わない)

私は常にイライラしていた。
なぜ2度も魔女に会わなければならないのか、私の人生にいちいち水を差してくる魔女が憎くて憎くてたまらない。

腹の底から沸き上がる怒りのせいで、私は上官の命令を半分も聞いていなかった。

(これはチャンスだ)

私はイライラと興奮が入り交じった中でそう考えた。
魔女に直接対面する…そんな機会にはもう二度と恵まれないだろう。
当時私は結婚は愚か、恋人もいなかったし自分の中で守るものなど何もなかった。


(どうせいつか死ぬ…魔女め)

私はなんとなく自分が一番死に近い存在のような気がしていた。


私は船が岸壁に着いた頃、覚悟を決めてゆっくりと地面を踏みしめた。

「上手くやれよ」

背後から上官や司令官…自分よりずっと上の存在が声を掛けてくる。

「はい」


私はそう答えながら(くだらない)そう思った。

机上の論理でやいやい言う奴らより、圧倒的に現場に立つものが偉いのだ。
ふんぞり返り、ペンばかり持つバカどもめ…。
私が岩しか見えない小さな島で舌打ちをすると地面の調子がゴツゴツした岩から、大理石のような触感に変わる。
私は気配を感じた方に剣を一太刀振るう。


「ふふふ……」

砂のようなザラザラとした声だ。

ざっくりと肩が裂けた魔女がそこには居た。

私はそれを見て後ろに飛ぶ。


魔女はゆったりとした動作で肩をくっつけると「……貴様…手を見せてみろ?」と優しげな口調で言った。

「嫌だ」

私は再び剣を構えると


次の瞬間、目の前に魔女がいた。

それは眼球同士が触れ合ってしまいそうな位近い、だが影のような…存在感のない魔女の様子に私は一瞬怯みそうになったが(私には何もない、もう戻らなくてもいい!怯むな!)脚でしっかりと地面に立つ。


「光ってはおらんなぁ…じゃあなぜだろうなぁ…」


いつの間にか掴まれた腕の先についた手のひらを魔女がマジマジと見つめている。
とても巨大な魔女に掴まれて、私の脚は地面から3メートル程離れたところにあった。

「ぐぐぐ…」

自重で肩が外れそうだ。
私はぐるりと腰を曲げて脚を魔女の腕に掛けた。


すると怒号のような洞穴に強烈な風が吹いたような音がした。
私は耳から直接脳を揺らされているような気分になり、思わず目を瞑る。


魔女が笑っている。


魔女は一頻り笑うと「面白い…お前に家族をやろう」と言った。
「家族なんかいない、家族は思い合うものだ、自分のことばかりの同居人は家族じゃない!」
私は自分の実家を思い出しながらそう言った。

目の前にいる魔女に振り下ろしたかった剣はいつの間にやら地面に落ちていた。

目の前に広がる大きな目に私は踵を振り下ろしながら言った。
「私には何もない!お前のせいだ!」






私はそんな昔を思い出しながら小さな光る手を指先で摘みながら笑った。
「はははは、知っているか?赤子はみんな…手を握りしめながら生まれてくるんだよ?」
ポロポロと頬に涙が転がり落ちる。
「…大丈夫かい?」
夫が心配そうに私の顔を覗き込んで涙を拭ってくれる。

彼は私が腫らした頬を治してやった男の子だ。
まるで演劇や映画のようだ。

そんな運命的な出会いを私たちはして、二人はひと目で恋に落ちた。
でもそれは果たして私たちの意識によるものなのだろうか?





全て魔女の中だ。
私は最後に聞いた魔女の言葉を思い出す。

「お前に家族ができて…幸せの絶頂の時、また会おう」


魔女はそう言った。
あの頃の私は自分が幸せの絶頂になる時などないと思っていた。


「赤子は幸せを握って生まれてくるんだ…」

私は泣いた。

幸せだと泣いた。


光を握りしめた生まれたての赤子は私の頬にペタペタと触れる。
「……幸せを分けてくれるか…ハルヴァ」
私はまだこの世に生を受けたばかりの娘に向かい、そう言った。

ハルヴァはまだ見えていないであろう黒目がちな目をこちらに向けて「あー」と喃語を話す。

「しゃ、喋った!喋った…!生まれたばかりなのに!て、天才なのでは!?」

夫がただの喃語に興奮しながらグルグルと部屋を回るのを見て私は「幸せだ」と思ってしまった。


それは同時に終わりの合図でもあるのだ。
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