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最終回
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「ハルヴァ殿…仕事を辞めては?」
「え?なんで?……面倒くさい?送り迎え…」
ディオスがある日の仕事帰り、ハルヴァに向かってそう言った。
ハルヴァは愕然としながらディオスを見た。
「いやいや、違う。ハルヴァ殿が辛いのではないかと……朝早も早いし、夜も遅い」
ディオスはハルヴァを抱き寄せると首元にキスをした。
「……んー、私……苦しむ人が少なくなって欲しいの」
ハルヴァはディオスの頬に手を寄せるとそう言った。
「……そうか」
「もう少しだけ…患者さんのために働きたいの」
ハルヴァが触れた頬が温かい。
力が湧いてくるようだ。
ディオスはハルヴァに聖母の姿を見たような気がして瞬きをした。そこにはいつも通り微笑むハルヴァが少しだけ小首を傾げている。
「帰ったら…一緒に風呂にはいるか」
「うん」
ディオスはハルヴァをギュッと抱き寄せるとそう囁いた。
この先の未来を思い、二人は笑い合う。
「…ディオス様、人間はとても弱くて…とても強いと思いませんか?」大切そうに大きな腹部を撫でるハルヴァがディオスを見て言った。
「ん?そうか?」
ディオスは呑気に眉を下げるとハルヴァの腹に耳を当てる。
「はい、みんな…絶望の中、諦めない。決められた未来が見えていたとしても…」
北の医学界から人工皮膚の開発が発表された。
その皮膚で全身を覆い戦争に挑めば、もう溶ける心配をすることはない。
万が一血を浴びたとしても皮膚を脱ぎ捨てれば良いのだ。
ハルヴァが退職する直前、子を抱いてジョンの退院を祝いにきたキミアナが興味もなさそうに人工皮膚の話をした。
人工皮膚は皮膚が消失した部分に貼り付ければ自身の皮膚となり、健康な皮膚の上に重ねれば、それは保護膜のようになる。と
ジョンの治療にも使われた皮膚が軍にも採用されたんだ…と。
すっかり皮膚が再生したジョンがそんなキミアナを見て口を開けて笑っている。
「大佐!」と顔を真赤にしているキミアナの肩をサイモンが優しく抱き寄せながら「おい、義父だ。義父!」とたしなめた。
「ハルヴァ、今までありがとう。お世話になった」
ジョンのハッキリとした言葉を聞いてハルヴァは肩の荷が下りた気がして笑うと、なぜだか同時に泣きそうな気持ちにもなった。
あんなに辞めたいと思っていた仕事なのに、いざ退職となると…なんだかまだ働いていたいような…スッキリするような心地になった。
「ハルヴァ!」
そんなハルヴァの肩をポンッとサラが優しく叩く。
「サラ…寂しいかも」
「バカね…友だちだからまたすぐに会えるよ」サラは片目をパチンと瞑ると戯けたように言う。
看護長はある時からすっかり大人しくなり、ハルヴァへの物言いも柔らかくなった。
先輩は先日退職をし、今は何をしているかわからない。
たくさん増えた後輩も皆、自分を慕ってくれて「先輩は聖女みたいだ」とからかってくる。
だからハルヴァは少しだけ退職が寂しかった。
「私、いい職場で働けてよかった」
ハルヴァが心からサラにそう言うと
「うん、私も。……これからもっと良くするから…育児終わったら戻ってきてよ!ハルヴァがいないと寂しいからさ!」と彼女は笑いながら言った。
「うん」
ハルヴァがそう言うとサラは爽やかに笑って「まあ、この病院…患者の平均年齢が低いのだけが不満だけどね!」と言ったのでハルヴァは笑ってしまう。
そんな事を思い出しているとポコン、と中から赤子が蹴った。
「おおー!」
ディオスが感動からか声を上げている。
「元気…男の子かな?」
「さあなぁ…どうだろうか」ディオスはハルヴァの腹に耳を当てたままそう言うと「どちらでもいい、元気に生まれてこい」と赤子に語りかけるように言った。
魔女交渉部隊から外れたディオスは今は新兵たちに剣術を教えている。
「また戦争のための準備か?」
との問にディオスは「ないように鍛えている。魔女は弱い者を好まない。弱いと叩きに来る」と答えた。
それを聞いたハルヴァは未来がとても明るい気がした。
「人間はすごいから…きっと大丈夫」
ハルヴァが腹に手を置くと仄かにそこが光った気がしたが気の所為だろう。
今日はとても天気がいい。
まるでこの先の明るい未来を示しているかのようだ。
「ふふ、幸せ」
ハルヴァがそう呟くとディオスはニッコリ笑いながら優しくハルヴァの肩を抱き寄せた。
「俺も……ハルヴァ殿」
さようなら、婚約者様。
今は私の大切な家族、ディオス様。
これからは、ずっと一緒ね。
拝見婚約者殿
お元気ですか?
なんて、俺が言う資格はない。
なぜこんな風になってしまうのか
気持ちが悪いだろうが俺は君を愛している。
結婚したら
恋人同士のように出かけたい。
本当はキミに触りたい。
手紙を読んでは貰えないことは
わかっている。
もう何通目だろう
でも俺は君を、心の底から愛しているんだよ。
本当なんだ。
信じてはもらえないかも
しれないけれど
でもいつか
必ず君を
幸せにしたい。
絶対に幸せしたいんだ。
でも俺は合わせ子だから
気持ち悪いよな、
信じられないだろう
でも君を
君だけを愛してる
本当なんだ
ずっとずっと……
君だけだ
俺は
ディオス・バルディガス
「え?なんで?……面倒くさい?送り迎え…」
ディオスがある日の仕事帰り、ハルヴァに向かってそう言った。
ハルヴァは愕然としながらディオスを見た。
「いやいや、違う。ハルヴァ殿が辛いのではないかと……朝早も早いし、夜も遅い」
ディオスはハルヴァを抱き寄せると首元にキスをした。
「……んー、私……苦しむ人が少なくなって欲しいの」
ハルヴァはディオスの頬に手を寄せるとそう言った。
「……そうか」
「もう少しだけ…患者さんのために働きたいの」
ハルヴァが触れた頬が温かい。
力が湧いてくるようだ。
ディオスはハルヴァに聖母の姿を見たような気がして瞬きをした。そこにはいつも通り微笑むハルヴァが少しだけ小首を傾げている。
「帰ったら…一緒に風呂にはいるか」
「うん」
ディオスはハルヴァをギュッと抱き寄せるとそう囁いた。
この先の未来を思い、二人は笑い合う。
「…ディオス様、人間はとても弱くて…とても強いと思いませんか?」大切そうに大きな腹部を撫でるハルヴァがディオスを見て言った。
「ん?そうか?」
ディオスは呑気に眉を下げるとハルヴァの腹に耳を当てる。
「はい、みんな…絶望の中、諦めない。決められた未来が見えていたとしても…」
北の医学界から人工皮膚の開発が発表された。
その皮膚で全身を覆い戦争に挑めば、もう溶ける心配をすることはない。
万が一血を浴びたとしても皮膚を脱ぎ捨てれば良いのだ。
ハルヴァが退職する直前、子を抱いてジョンの退院を祝いにきたキミアナが興味もなさそうに人工皮膚の話をした。
人工皮膚は皮膚が消失した部分に貼り付ければ自身の皮膚となり、健康な皮膚の上に重ねれば、それは保護膜のようになる。と
ジョンの治療にも使われた皮膚が軍にも採用されたんだ…と。
すっかり皮膚が再生したジョンがそんなキミアナを見て口を開けて笑っている。
「大佐!」と顔を真赤にしているキミアナの肩をサイモンが優しく抱き寄せながら「おい、義父だ。義父!」とたしなめた。
「ハルヴァ、今までありがとう。お世話になった」
ジョンのハッキリとした言葉を聞いてハルヴァは肩の荷が下りた気がして笑うと、なぜだか同時に泣きそうな気持ちにもなった。
あんなに辞めたいと思っていた仕事なのに、いざ退職となると…なんだかまだ働いていたいような…スッキリするような心地になった。
「ハルヴァ!」
そんなハルヴァの肩をポンッとサラが優しく叩く。
「サラ…寂しいかも」
「バカね…友だちだからまたすぐに会えるよ」サラは片目をパチンと瞑ると戯けたように言う。
看護長はある時からすっかり大人しくなり、ハルヴァへの物言いも柔らかくなった。
先輩は先日退職をし、今は何をしているかわからない。
たくさん増えた後輩も皆、自分を慕ってくれて「先輩は聖女みたいだ」とからかってくる。
だからハルヴァは少しだけ退職が寂しかった。
「私、いい職場で働けてよかった」
ハルヴァが心からサラにそう言うと
「うん、私も。……これからもっと良くするから…育児終わったら戻ってきてよ!ハルヴァがいないと寂しいからさ!」と彼女は笑いながら言った。
「うん」
ハルヴァがそう言うとサラは爽やかに笑って「まあ、この病院…患者の平均年齢が低いのだけが不満だけどね!」と言ったのでハルヴァは笑ってしまう。
そんな事を思い出しているとポコン、と中から赤子が蹴った。
「おおー!」
ディオスが感動からか声を上げている。
「元気…男の子かな?」
「さあなぁ…どうだろうか」ディオスはハルヴァの腹に耳を当てたままそう言うと「どちらでもいい、元気に生まれてこい」と赤子に語りかけるように言った。
魔女交渉部隊から外れたディオスは今は新兵たちに剣術を教えている。
「また戦争のための準備か?」
との問にディオスは「ないように鍛えている。魔女は弱い者を好まない。弱いと叩きに来る」と答えた。
それを聞いたハルヴァは未来がとても明るい気がした。
「人間はすごいから…きっと大丈夫」
ハルヴァが腹に手を置くと仄かにそこが光った気がしたが気の所為だろう。
今日はとても天気がいい。
まるでこの先の明るい未来を示しているかのようだ。
「ふふ、幸せ」
ハルヴァがそう呟くとディオスはニッコリ笑いながら優しくハルヴァの肩を抱き寄せた。
「俺も……ハルヴァ殿」
さようなら、婚約者様。
今は私の大切な家族、ディオス様。
これからは、ずっと一緒ね。
拝見婚約者殿
お元気ですか?
なんて、俺が言う資格はない。
なぜこんな風になってしまうのか
気持ちが悪いだろうが俺は君を愛している。
結婚したら
恋人同士のように出かけたい。
本当はキミに触りたい。
手紙を読んでは貰えないことは
わかっている。
もう何通目だろう
でも俺は君を、心の底から愛しているんだよ。
本当なんだ。
信じてはもらえないかも
しれないけれど
でもいつか
必ず君を
幸せにしたい。
絶対に幸せしたいんだ。
でも俺は合わせ子だから
気持ち悪いよな、
信じられないだろう
でも君を
君だけを愛してる
本当なんだ
ずっとずっと……
君だけだ
俺は
ディオス・バルディガス
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