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「すみません…よく…」
ディオスは記憶にはない女性の顔を見てそう言った。
申し訳ないがわからない。
「会ったことがあるはずなのにね」
更に背後から声がしてディオスはそちらを振り返る。
少し警戒した。
(女が二人…俺は今何も持っていない…大丈夫か?)
ディオスは念の為木の側までジリジリと下がると背中を守った。
「何もしやしないわ」
少し年を重ねたであろう女性の声にディオスはますます首を傾げる。
(軍隊にこの年齢の女性はいないはずだ。少なくとも俺がいた実務部隊には…)
二人の女性…やはり何度見ても覚えがない。
それにディオスはハルヴァ以外の女性と仕事以外で深く関わった覚えもない。
「お父様は元気?ディオスくん」
そう言われて初めて…ディオスは少しだけ脳を刺激されたような気がした。
ディオスは人の顔を覚えるのが苦手だ。
特に女性がよく…覚えられない。
子どもの頃、父が他所で作った子どもたちと自分の兄弟が遊んでいる輪の中にディオスはどうしても入ることができなかった。
そんな彼は庭で土をほじくって暇を潰していた。
「みんなと遊ばないの?」
1人の女性が背後から話しかけてきた。
「……今、土をいじってるから」ディオスが答えになっているのかなっていないのかわからない返答をすると女性がディオスの手元に手を伸ばしてきた。
そこには大粒の赤い宝石がついた指輪をした女性の手が見えて、ディオスはその赤い宝石を見つめた。
「ディオス君…お父様元気?」
「……わかりません、多分元気」
「お父様に伝えて?こんなもの…貰ったって…人の心は精算できないのよって…」
ディオスはどういう意味かわからず顔を上げた。
「…あの、俺お父様とは」あまり話をしないんです、と伝えようと顔を上げると女性はもういなかった。
看護長は大粒の赤い宝石がついた指輪を見せながら「ディオス君…あの時のお話、お父様にしてくれた?自分だけ幸せになろうなんて…そうはいかないのよ?」と顔を引き攣らせながら言った。
「…………」
ディオスはその顔をじっと見つめる。
「ディオス様」
もう1人…看護長よりは若い女性が自分の名前を呼ぶ。
「本当に本当に私のことは覚えていないのですか?」
甘い声を出しながら彼女はディオスに近寄った。
ディオスは見ても覚えのない顔に「……すみません、俺…女性の顔がよく…」と眉を寄せた。
するとその女性は激昂したように眉を吊り上げながら「ハルヴァのことは覚えてるのに!?ふざけんなよ!なんで私じゃなくてハルヴァなんだよ!!!合わせ子のくせに…!誰でもいいんでしょ!?なんで私じゃないのよ!」と大きな声を上げた。
「……?すみません…よく…」
看護長がディオスのセリフを聞いてため息をついた。
「お父様と一緒ねぇ?ディオス君…親子揃って記憶力が悪いの」
「看護長!私もハルヴァと一緒にあの時いたんです!ディオス様だとわかっていれば!もっと手厚く看護しました!なんで言ってくれなかったの?ハルヴァは多分知ってたんだわ!あの子…本当にあざといんだから!ディオス様だと気付いていたのよ!」
「ちょ…」ディオスはよく把握しきれない会話に動揺しつつも、話を整理しようと声を上げたがそれはかき消されることになる。
「ディオス、貴様なにをしてる」
赤い髪をバサリと靡かせてキミアナ様が登場したからだ。
「キミアナ様…」
「ハルヴァ殿を悲しませるようなことをしていないだろうな…」
キミアナがカチャリと腰の剣に手をかけたのを見てディオスは頭を左右に振った。
「ふん…ならいい、…どうしましたか?ご婦人達、私の部下が何か?」キミアナは王子様のように二人の前で畏まると爽やかに笑った。
二人は少し動揺した素振りを見せると何事もなかったかのように立ち去ろうとしたが、ディオスが看護長とハルヴァの先輩の背中に向けて「俺と親父は別です。俺は…あの人ではない、血は繋がっていますが…別の存在なんです」と言った。
「だから…父に何かあるなら、本人に…それに俺は妻以外は抱けません。…親父とは違うので……それに、妻は俺のこと覚えていませんでした。……妻は誰にでも分け隔てなく癒やす素晴らしい女性です」と言った。
そうディオスが言い切った時「あれ?ディオス様…まだいらしたんですか?キミアナ様も」
ハルヴァがサラと一緒にルンルンと箒を持って入口にやってきた。
「看護長、先輩…まだいらしたんですか?夜勤明けですよね」サラが気遣うような素振りで内心(早く帰れよ)と思いながら二人に声を掛けていると、ディオスが「ハルヴァ殿…その、なんだ…仕事は?どんな感じだ?」と問いかけてきたので「え?へへへ…あまり上手く出来てなくて…でも、私…頑張りたいと思ってるんだ」とハルヴァは顔を上げた。
それを黙って見つめていたキミアナが「すみません、あの…お二人」と看護長とハルヴァの先輩に声を掛ける。
「…なんでしょうか」
「私、大佐の部屋に伺いたいのですが…案内をお願いしたいんです」と凛とした声で言った。
看護長は何やら口を開きかけたが「……わかりました」そう呟きキミアナを連れて医院に入って行った。
ハルヴァは首を傾げながらそれを見送ると、ディオスはハルヴァの頬に触れながら「あまり無理せず」と言ったのでハルヴァは「うん!」と元気よく返事をした。
ディオスは記憶にはない女性の顔を見てそう言った。
申し訳ないがわからない。
「会ったことがあるはずなのにね」
更に背後から声がしてディオスはそちらを振り返る。
少し警戒した。
(女が二人…俺は今何も持っていない…大丈夫か?)
ディオスは念の為木の側までジリジリと下がると背中を守った。
「何もしやしないわ」
少し年を重ねたであろう女性の声にディオスはますます首を傾げる。
(軍隊にこの年齢の女性はいないはずだ。少なくとも俺がいた実務部隊には…)
二人の女性…やはり何度見ても覚えがない。
それにディオスはハルヴァ以外の女性と仕事以外で深く関わった覚えもない。
「お父様は元気?ディオスくん」
そう言われて初めて…ディオスは少しだけ脳を刺激されたような気がした。
ディオスは人の顔を覚えるのが苦手だ。
特に女性がよく…覚えられない。
子どもの頃、父が他所で作った子どもたちと自分の兄弟が遊んでいる輪の中にディオスはどうしても入ることができなかった。
そんな彼は庭で土をほじくって暇を潰していた。
「みんなと遊ばないの?」
1人の女性が背後から話しかけてきた。
「……今、土をいじってるから」ディオスが答えになっているのかなっていないのかわからない返答をすると女性がディオスの手元に手を伸ばしてきた。
そこには大粒の赤い宝石がついた指輪をした女性の手が見えて、ディオスはその赤い宝石を見つめた。
「ディオス君…お父様元気?」
「……わかりません、多分元気」
「お父様に伝えて?こんなもの…貰ったって…人の心は精算できないのよって…」
ディオスはどういう意味かわからず顔を上げた。
「…あの、俺お父様とは」あまり話をしないんです、と伝えようと顔を上げると女性はもういなかった。
看護長は大粒の赤い宝石がついた指輪を見せながら「ディオス君…あの時のお話、お父様にしてくれた?自分だけ幸せになろうなんて…そうはいかないのよ?」と顔を引き攣らせながら言った。
「…………」
ディオスはその顔をじっと見つめる。
「ディオス様」
もう1人…看護長よりは若い女性が自分の名前を呼ぶ。
「本当に本当に私のことは覚えていないのですか?」
甘い声を出しながら彼女はディオスに近寄った。
ディオスは見ても覚えのない顔に「……すみません、俺…女性の顔がよく…」と眉を寄せた。
するとその女性は激昂したように眉を吊り上げながら「ハルヴァのことは覚えてるのに!?ふざけんなよ!なんで私じゃなくてハルヴァなんだよ!!!合わせ子のくせに…!誰でもいいんでしょ!?なんで私じゃないのよ!」と大きな声を上げた。
「……?すみません…よく…」
看護長がディオスのセリフを聞いてため息をついた。
「お父様と一緒ねぇ?ディオス君…親子揃って記憶力が悪いの」
「看護長!私もハルヴァと一緒にあの時いたんです!ディオス様だとわかっていれば!もっと手厚く看護しました!なんで言ってくれなかったの?ハルヴァは多分知ってたんだわ!あの子…本当にあざといんだから!ディオス様だと気付いていたのよ!」
「ちょ…」ディオスはよく把握しきれない会話に動揺しつつも、話を整理しようと声を上げたがそれはかき消されることになる。
「ディオス、貴様なにをしてる」
赤い髪をバサリと靡かせてキミアナ様が登場したからだ。
「キミアナ様…」
「ハルヴァ殿を悲しませるようなことをしていないだろうな…」
キミアナがカチャリと腰の剣に手をかけたのを見てディオスは頭を左右に振った。
「ふん…ならいい、…どうしましたか?ご婦人達、私の部下が何か?」キミアナは王子様のように二人の前で畏まると爽やかに笑った。
二人は少し動揺した素振りを見せると何事もなかったかのように立ち去ろうとしたが、ディオスが看護長とハルヴァの先輩の背中に向けて「俺と親父は別です。俺は…あの人ではない、血は繋がっていますが…別の存在なんです」と言った。
「だから…父に何かあるなら、本人に…それに俺は妻以外は抱けません。…親父とは違うので……それに、妻は俺のこと覚えていませんでした。……妻は誰にでも分け隔てなく癒やす素晴らしい女性です」と言った。
そうディオスが言い切った時「あれ?ディオス様…まだいらしたんですか?キミアナ様も」
ハルヴァがサラと一緒にルンルンと箒を持って入口にやってきた。
「看護長、先輩…まだいらしたんですか?夜勤明けですよね」サラが気遣うような素振りで内心(早く帰れよ)と思いながら二人に声を掛けていると、ディオスが「ハルヴァ殿…その、なんだ…仕事は?どんな感じだ?」と問いかけてきたので「え?へへへ…あまり上手く出来てなくて…でも、私…頑張りたいと思ってるんだ」とハルヴァは顔を上げた。
それを黙って見つめていたキミアナが「すみません、あの…お二人」と看護長とハルヴァの先輩に声を掛ける。
「…なんでしょうか」
「私、大佐の部屋に伺いたいのですが…案内をお願いしたいんです」と凛とした声で言った。
看護長は何やら口を開きかけたが「……わかりました」そう呟きキミアナを連れて医院に入って行った。
ハルヴァは首を傾げながらそれを見送ると、ディオスはハルヴァの頬に触れながら「あまり無理せず」と言ったのでハルヴァは「うん!」と元気よく返事をした。
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