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「チケット…買ってもらってしまって…カフェ代も…」
「結婚するからなんの問題もない」
ハルヴァが申し訳なさそうに言うとディオスはキョトンとした顔で言った。
「……えへへ」
ハルヴァは照れたように笑うとディオスの手をそっと握る。
「……ハルヴァ殿」
「ずっと一緒だから…落ち着いてくださいましね?」
ハルヴァは迫るディオスの胸をそっと指先で押すとニッコリ笑う。
「……うう…わ、わかってる」
(ああ…これがデートというのだ)
ディオスはハルヴァの手をギュッと握りしめて目を閉じた。
相変わらずバッキバキではあるが欲に脳を支配されることも少なくなり、ディオスは心の奥底からハルヴァとの時間を楽しんでいた。
「ディオス様、こっちこっち」
美術館に入り、いつもより浮足立ったハルヴァに引っ張られるように進むと…あるブースに行列ができていた。
「みんな並んでる…海、人気ですね」
「うん、俺たちも並ぼう」
自分を見上げてニッコリ笑うハルヴァを見てディオスは超絶ご機嫌だった。
「あれ?ハルヴァ?ハルヴァじゃない?」
そんな声が聞こえてハルヴァが顔を上げた。
「……あ、ひ…久しぶり」
ハルヴァがその女性に声をかける。
そこには男性と腕を組んだ女性が立っていた。
「ハルヴァの彼氏?」
「え?……う、ううん。婚約者…あの、ディオス様…私の幼馴染のマリッサ・レルヴォーとその恋人のエドガー・サルヴォレインです」
ハルヴァはディオスに向かって二人を紹介した。
(ハルヴァ殿…幼馴染がいたのか…)
「あ、どうも…ディオス・バルディガルです」
ディオスが挨拶をするとマリッサはニッコリ笑い、エドガーは素っ気ない態度で軽く会釈をしてきた。
その様子にディオスは(この男…ハルヴァ殿を狙っているのではなかろうな?)と思いなんとも嫌な気分になっていく…
「ハルヴァ?久しぶりに話でもしない?」マリッサがトコトコと愛らしい動作でハルヴァに近寄るとそう言った。
ディオスにも確認のためか小首を傾げてきたので…ディオスはハルヴァの幼馴染にいい印象を持ってもらおう、と爽やかに微笑み返す。
(ハルヴァ殿の幼馴染なら結婚後も交流があるだろうし)
「あ、私たち…今並んでるから」
「えー?せっかく会ったのに」
「ごめん、これが見たかったから…やっとここまで進んだし」
「あはは!ハルヴァ、相変わらず頑固だよね、そんなんじゃまた上手くいかないと思うよ?」
ディオスはハルヴァが繋ぐ手を緩めたのでギュッと強く握り返した。ハルヴァが見上げてくる。
「……すみません、俺が見たいと言ったので…ハルヴァさんは俺に気を使ってくれてると思います。また日を改めてご挨拶させてください」
ディオスはマリッサたちに向けて言うとハルヴァの腰を抱き寄せた。
エドガーに牽制したかったのだ。
(幼馴染だかなんだか知らんが…ハルヴァは俺の婚約者だ)
先ほどから一言も喋らないエドガーは本当にマリッサの恋人なのか?
チラチラとハルヴァのことを盗み見るような動作を送っているのがディオスには気に食わなかった。
ディオスはエドガーを目で殺すとハルヴァの歩みを促した。
「じゃあ、またね!ディオスさん!」
マリッサの明るい声にディオスは軽く会釈をするとハルヴァを見た。ハルヴァは先ほどの元気を無くしてしまったように俯いていたので「大丈夫か?疲れた?」とディオスはハルヴァの肩を抱いた。
「……だ、大丈夫…ねえ?今ディオス様はどんな気分?」
「…ん?俺?…幸せだ。ほら、ハルヴァ殿」ディオスは段差があったのでハルヴァの腰を抱き寄せるようにエスコートをした。
目の前の水槽に海がすっぽりと収まっている。
ザザ…と波の音を聴きながらディオスはハルヴァとの今後に思いを馳せていた。
(来月ハルヴァ殿とドレスを選びに行って…教会もどこにするか決めなければ…ドレスは拘れば数ヶ月は制作にかかるようだし…)
水槽の中の海には様々な生き物がいて、底を覗き込むと目を光らせた深海魚がウネウネと身を動かして互いの生命を取り合っている。
ディオスはそれを見ていると自分が海の底に一人で放り込まれて立たされているような、寂しい気分になったのでハルヴァをちらりと見た。
すると…ハルヴァはポロポロと落ちる涙を懸命に手の甲で拭いながら声を殺して泣いているではないか!?
ディオスはそれを見て慌てるとハルヴァをギュッと抱き寄せて「もう出ようか?」と提案する。
ハルヴァはコクコクと頭を振り、二人は美術館を後にした。
「大丈夫か?ハルヴァ殿、どうした?」
ディオスは美術館の前にあるベンチに無理矢理ハルヴァを座らせるとハルヴァの顔を覗き込んだ。
ハルヴァはハンカチで目元を押さえると「だ、大丈夫です…あの、なんだか急に」と言ったけれどディオスは心配だった。
(……ま、まさかエドガーではあるまいな)
ディオスはエドガーに会ったせいでハルヴァの心が乱れたのではないか?と思う。
(なんだかハルヴァ殿の友人が意味深なことを言っていたような…なんだったか?くそ…ちゃんと聞いておけばよかった!)
「く…いや、今日はもう帰ろうか?」
ディオスはまたエドガーに会ってはたまらん、とハルヴァにそう提案した。彼女もコクリと頷いてくれたのでディオスはホッ…と安堵のため息をついたが…
(ハルヴァ殿は今どんな気分なんだろう)
と悲しい気持ちにもなった。
ディオスには到底越えられない壁を感じたからだ。
自分の知らないハルヴァを知っている男エドガー…
(俺とは全然違う…スリムで背の高い男だった。知的そうで、流行りのスーツを着てた)
ディオスは自分の流行もクソもないスーツを見て、どうにもならない事実にそっとため息をついた。
「結婚するからなんの問題もない」
ハルヴァが申し訳なさそうに言うとディオスはキョトンとした顔で言った。
「……えへへ」
ハルヴァは照れたように笑うとディオスの手をそっと握る。
「……ハルヴァ殿」
「ずっと一緒だから…落ち着いてくださいましね?」
ハルヴァは迫るディオスの胸をそっと指先で押すとニッコリ笑う。
「……うう…わ、わかってる」
(ああ…これがデートというのだ)
ディオスはハルヴァの手をギュッと握りしめて目を閉じた。
相変わらずバッキバキではあるが欲に脳を支配されることも少なくなり、ディオスは心の奥底からハルヴァとの時間を楽しんでいた。
「ディオス様、こっちこっち」
美術館に入り、いつもより浮足立ったハルヴァに引っ張られるように進むと…あるブースに行列ができていた。
「みんな並んでる…海、人気ですね」
「うん、俺たちも並ぼう」
自分を見上げてニッコリ笑うハルヴァを見てディオスは超絶ご機嫌だった。
「あれ?ハルヴァ?ハルヴァじゃない?」
そんな声が聞こえてハルヴァが顔を上げた。
「……あ、ひ…久しぶり」
ハルヴァがその女性に声をかける。
そこには男性と腕を組んだ女性が立っていた。
「ハルヴァの彼氏?」
「え?……う、ううん。婚約者…あの、ディオス様…私の幼馴染のマリッサ・レルヴォーとその恋人のエドガー・サルヴォレインです」
ハルヴァはディオスに向かって二人を紹介した。
(ハルヴァ殿…幼馴染がいたのか…)
「あ、どうも…ディオス・バルディガルです」
ディオスが挨拶をするとマリッサはニッコリ笑い、エドガーは素っ気ない態度で軽く会釈をしてきた。
その様子にディオスは(この男…ハルヴァ殿を狙っているのではなかろうな?)と思いなんとも嫌な気分になっていく…
「ハルヴァ?久しぶりに話でもしない?」マリッサがトコトコと愛らしい動作でハルヴァに近寄るとそう言った。
ディオスにも確認のためか小首を傾げてきたので…ディオスはハルヴァの幼馴染にいい印象を持ってもらおう、と爽やかに微笑み返す。
(ハルヴァ殿の幼馴染なら結婚後も交流があるだろうし)
「あ、私たち…今並んでるから」
「えー?せっかく会ったのに」
「ごめん、これが見たかったから…やっとここまで進んだし」
「あはは!ハルヴァ、相変わらず頑固だよね、そんなんじゃまた上手くいかないと思うよ?」
ディオスはハルヴァが繋ぐ手を緩めたのでギュッと強く握り返した。ハルヴァが見上げてくる。
「……すみません、俺が見たいと言ったので…ハルヴァさんは俺に気を使ってくれてると思います。また日を改めてご挨拶させてください」
ディオスはマリッサたちに向けて言うとハルヴァの腰を抱き寄せた。
エドガーに牽制したかったのだ。
(幼馴染だかなんだか知らんが…ハルヴァは俺の婚約者だ)
先ほどから一言も喋らないエドガーは本当にマリッサの恋人なのか?
チラチラとハルヴァのことを盗み見るような動作を送っているのがディオスには気に食わなかった。
ディオスはエドガーを目で殺すとハルヴァの歩みを促した。
「じゃあ、またね!ディオスさん!」
マリッサの明るい声にディオスは軽く会釈をするとハルヴァを見た。ハルヴァは先ほどの元気を無くしてしまったように俯いていたので「大丈夫か?疲れた?」とディオスはハルヴァの肩を抱いた。
「……だ、大丈夫…ねえ?今ディオス様はどんな気分?」
「…ん?俺?…幸せだ。ほら、ハルヴァ殿」ディオスは段差があったのでハルヴァの腰を抱き寄せるようにエスコートをした。
目の前の水槽に海がすっぽりと収まっている。
ザザ…と波の音を聴きながらディオスはハルヴァとの今後に思いを馳せていた。
(来月ハルヴァ殿とドレスを選びに行って…教会もどこにするか決めなければ…ドレスは拘れば数ヶ月は制作にかかるようだし…)
水槽の中の海には様々な生き物がいて、底を覗き込むと目を光らせた深海魚がウネウネと身を動かして互いの生命を取り合っている。
ディオスはそれを見ていると自分が海の底に一人で放り込まれて立たされているような、寂しい気分になったのでハルヴァをちらりと見た。
すると…ハルヴァはポロポロと落ちる涙を懸命に手の甲で拭いながら声を殺して泣いているではないか!?
ディオスはそれを見て慌てるとハルヴァをギュッと抱き寄せて「もう出ようか?」と提案する。
ハルヴァはコクコクと頭を振り、二人は美術館を後にした。
「大丈夫か?ハルヴァ殿、どうした?」
ディオスは美術館の前にあるベンチに無理矢理ハルヴァを座らせるとハルヴァの顔を覗き込んだ。
ハルヴァはハンカチで目元を押さえると「だ、大丈夫です…あの、なんだか急に」と言ったけれどディオスは心配だった。
(……ま、まさかエドガーではあるまいな)
ディオスはエドガーに会ったせいでハルヴァの心が乱れたのではないか?と思う。
(なんだかハルヴァ殿の友人が意味深なことを言っていたような…なんだったか?くそ…ちゃんと聞いておけばよかった!)
「く…いや、今日はもう帰ろうか?」
ディオスはまたエドガーに会ってはたまらん、とハルヴァにそう提案した。彼女もコクリと頷いてくれたのでディオスはホッ…と安堵のため息をついたが…
(ハルヴァ殿は今どんな気分なんだろう)
と悲しい気持ちにもなった。
ディオスには到底越えられない壁を感じたからだ。
自分の知らないハルヴァを知っている男エドガー…
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