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「ハルヴァさん、もしかしたら知っているかもしれないが…俺の母は浮気性でな」サイモンがポツリとそう言った。
ハルヴァは顔を上げて涙をハンカチで拭うと「存じ上げております…」と呟くように言った。
「……俺は昔、キミアナと付き合っていたんだが…アイツ、浮気したんだよなぁ」サイモンは遠い目でそう言うと「でも俺、ディオスはそんな奴じゃないと思うんだよな」とハルヴァを見た。
「どうするハルヴァさん?ちゃんとディオスと向き合うのか?傷付くかもしれないが…向き合わなければ上手くはいかないだろうね。……俺たちみたいに」
サイモンとキミアナは元々同期の兵士だった。
男勝りでサバサバしたキミアナの時折見せる寂しそうな表情にサイモンは母を見た。
護ってやりたいと思った。
だから大切に育むつもりだったのだ。
彼女との愛を。
「出世を約束されてる位優秀な俺の部下だった。元々研究室に行く予定で、部隊も経験していたような男だったんだよな、キミアナが関係を持ったのは。理由を尋ねたら『なんとなく』と言われたよ。傍にいたつもりだったが…俺は女性を幸せにすることはできないのかもしれないな」サイモンはそう言って寂しそうに笑った。
「今日はごめんね。親父から…ちょっとディオスの様子を見てくれって…ちょっと馴れ馴れしくしすぎたよな」
「そんな…」
「……でもハルヴァさん、君はどう想ってる?後悔しないようにするといいよ…例え、周りがなんと言おうとも」
「え?ディオス様が?」
サイモンに家まで送ってもらうと、お手伝いさんから「ディオス様がお待ちです、お仕事中のようですが」と言われてハルヴァは目を丸くした。
ちょうど連絡しようと思っていたからだ。
(……婚約解消の話だったらどうしよう…いや、でもそれでいいのよ。だってこのままじゃ…誰も幸せにならないから)
ハルヴァは自分に言い聞かせるように廊下を歩き、客間のドアを開けた。
ディオスが椅子に座って待っていてハルヴァは胸が苦しくなった。会えた喜びに震えそうになる。
「お待たせしました」
ハルヴァは泣き出しそうな気持ちを抑えてそう挨拶をした。
「あ、待ってない。あの…さっきは」
「大丈夫です。どうしましたか?なにか用事でも?」
ハルヴァは向かいの席に腰を下ろしながら極めて冷静にそう尋ねた。
内心心臓がはち切れんばかりに鳴っている。
自分は、婚約解消したいのかしたくないのか。
「あの…急に席を外してすまなかった…そ、それを謝罪しに…」
「…あ、そんなこと…大丈夫ですよ」
ディオスは額の汗を拭いながらそう言うと山のように砂糖を紅茶に入れていく。ハルヴァは(そんなに入れて大丈夫かな…?)と思ったけれどディオスはそんなことはお構いなしにグルグルと紅茶を混ぜた。
「……」
「……」
ディオスが左手にカップを持って、それを傾けると盛大に咳き込み始めた。ハルヴァは思わず駆け寄ると、ディオスの背中を撫でる。
「大丈夫ですか?」
ハルヴァがディオスの顔を覗き込みながら背中を擦った時、目が合った。ディオスは目を見開くとその瞳の奥に欲を現していく。
ハルヴァはそれを見ると胸がぎゅっと苦しくなった。
(例え愛していなくても私はあなたの子が欲しい)
ハルヴァはそう思った。
婚約解消したくない……
例えこの先…愛されなかったとしても
ディオスはカップをそっと置くと、ハルヴァの手を握った。
それがとても優しげで大切なものに触れるようだった。
「私と結婚してください」
ハルヴァは目からポロポロと涙を溢れさせながら言う。
もう、どうしようもないくらいにディオスへの気持ちが抑えきれないのだ。と察した。
めちゃくちゃにされて捨てられても構わないからハルヴァはとにかくディオスとの子どもが欲しかった。
「今…今すぐにでも…ハ、ハルヴァ殿……!」
ディオスは左手でハルヴァの頬を伝う涙を拭うと彼女の口に吸い付いた。優しく床に押し倒される。
「……んんー…」
ハルヴァは悦びに背筋をゾクゾクさせると声を漏らす。
それに応えるようにディオスは舌を差し込んでハルヴァの口内を優しく舐めた。
ねっとりと舌を舐め上げられるとハルヴァは心地よさに身を捩ってしまう。
「あ…愛してるハルヴァ殿、俺は…君が」
「…ディオス様」ハルヴァはディオスに抱きついて胸に頬をつけた。
幸せで幸せでたまらない…
「ハルヴァ殿…ハルヴァ殿、これからは君を色んなところに連れて行って、手を繋いで歩こう。恋人同士のようにそして」ディオスはハァハァと息を荒げながらそう言うとカチャカチャとベルトを外している。
取ってつけたような口説き文句でもハルヴァは泣きそうな位嬉しかった。
(本当にそうだといいな。結婚したら恋人のように…でも、恐らくそれはないんだろうな)
なぜ今まで放置されていたのに、結婚したら恋人のような関係になることができるというのか?
けれどもハルヴァは「……うん、嬉しい」と言った。
そうなればいいな、と願いをこめて。
「……あ、明日行こう!約束する。君が好きな所に、なんでも買ってやるしなんでも食べたいものを言え。そうしたら俺が全部」
ディオスがハルヴァを口説きながら彼女のスカートの中に手を入れてきた。
下着に片手をかけたので脱がしやすいように腰を浮かせる。
ハルヴァはその時、ふと(なぜさっきから片手で作業するんだろう?)と疑問を感じた。
そう言えばディオスはカップを持つ時もハルヴァの涙を拭うときも全て片腕で行っている。
ふとディオスの右を見るとその手はテーブルの下にのびていた。
床まで垂れたテーブルクロスの向こう側になぜかディオスは手を入れているのだ。
その時、ハルヴァは好奇心からテーブルクロスの中を覗いた。
そこには身を小さくするキミアナがいてハルヴァは驚くと同時に光を見た。
それを見た瞬間、ハルヴァは気を失った。
ハルヴァは顔を上げて涙をハンカチで拭うと「存じ上げております…」と呟くように言った。
「……俺は昔、キミアナと付き合っていたんだが…アイツ、浮気したんだよなぁ」サイモンは遠い目でそう言うと「でも俺、ディオスはそんな奴じゃないと思うんだよな」とハルヴァを見た。
「どうするハルヴァさん?ちゃんとディオスと向き合うのか?傷付くかもしれないが…向き合わなければ上手くはいかないだろうね。……俺たちみたいに」
サイモンとキミアナは元々同期の兵士だった。
男勝りでサバサバしたキミアナの時折見せる寂しそうな表情にサイモンは母を見た。
護ってやりたいと思った。
だから大切に育むつもりだったのだ。
彼女との愛を。
「出世を約束されてる位優秀な俺の部下だった。元々研究室に行く予定で、部隊も経験していたような男だったんだよな、キミアナが関係を持ったのは。理由を尋ねたら『なんとなく』と言われたよ。傍にいたつもりだったが…俺は女性を幸せにすることはできないのかもしれないな」サイモンはそう言って寂しそうに笑った。
「今日はごめんね。親父から…ちょっとディオスの様子を見てくれって…ちょっと馴れ馴れしくしすぎたよな」
「そんな…」
「……でもハルヴァさん、君はどう想ってる?後悔しないようにするといいよ…例え、周りがなんと言おうとも」
「え?ディオス様が?」
サイモンに家まで送ってもらうと、お手伝いさんから「ディオス様がお待ちです、お仕事中のようですが」と言われてハルヴァは目を丸くした。
ちょうど連絡しようと思っていたからだ。
(……婚約解消の話だったらどうしよう…いや、でもそれでいいのよ。だってこのままじゃ…誰も幸せにならないから)
ハルヴァは自分に言い聞かせるように廊下を歩き、客間のドアを開けた。
ディオスが椅子に座って待っていてハルヴァは胸が苦しくなった。会えた喜びに震えそうになる。
「お待たせしました」
ハルヴァは泣き出しそうな気持ちを抑えてそう挨拶をした。
「あ、待ってない。あの…さっきは」
「大丈夫です。どうしましたか?なにか用事でも?」
ハルヴァは向かいの席に腰を下ろしながら極めて冷静にそう尋ねた。
内心心臓がはち切れんばかりに鳴っている。
自分は、婚約解消したいのかしたくないのか。
「あの…急に席を外してすまなかった…そ、それを謝罪しに…」
「…あ、そんなこと…大丈夫ですよ」
ディオスは額の汗を拭いながらそう言うと山のように砂糖を紅茶に入れていく。ハルヴァは(そんなに入れて大丈夫かな…?)と思ったけれどディオスはそんなことはお構いなしにグルグルと紅茶を混ぜた。
「……」
「……」
ディオスが左手にカップを持って、それを傾けると盛大に咳き込み始めた。ハルヴァは思わず駆け寄ると、ディオスの背中を撫でる。
「大丈夫ですか?」
ハルヴァがディオスの顔を覗き込みながら背中を擦った時、目が合った。ディオスは目を見開くとその瞳の奥に欲を現していく。
ハルヴァはそれを見ると胸がぎゅっと苦しくなった。
(例え愛していなくても私はあなたの子が欲しい)
ハルヴァはそう思った。
婚約解消したくない……
例えこの先…愛されなかったとしても
ディオスはカップをそっと置くと、ハルヴァの手を握った。
それがとても優しげで大切なものに触れるようだった。
「私と結婚してください」
ハルヴァは目からポロポロと涙を溢れさせながら言う。
もう、どうしようもないくらいにディオスへの気持ちが抑えきれないのだ。と察した。
めちゃくちゃにされて捨てられても構わないからハルヴァはとにかくディオスとの子どもが欲しかった。
「今…今すぐにでも…ハ、ハルヴァ殿……!」
ディオスは左手でハルヴァの頬を伝う涙を拭うと彼女の口に吸い付いた。優しく床に押し倒される。
「……んんー…」
ハルヴァは悦びに背筋をゾクゾクさせると声を漏らす。
それに応えるようにディオスは舌を差し込んでハルヴァの口内を優しく舐めた。
ねっとりと舌を舐め上げられるとハルヴァは心地よさに身を捩ってしまう。
「あ…愛してるハルヴァ殿、俺は…君が」
「…ディオス様」ハルヴァはディオスに抱きついて胸に頬をつけた。
幸せで幸せでたまらない…
「ハルヴァ殿…ハルヴァ殿、これからは君を色んなところに連れて行って、手を繋いで歩こう。恋人同士のようにそして」ディオスはハァハァと息を荒げながらそう言うとカチャカチャとベルトを外している。
取ってつけたような口説き文句でもハルヴァは泣きそうな位嬉しかった。
(本当にそうだといいな。結婚したら恋人のように…でも、恐らくそれはないんだろうな)
なぜ今まで放置されていたのに、結婚したら恋人のような関係になることができるというのか?
けれどもハルヴァは「……うん、嬉しい」と言った。
そうなればいいな、と願いをこめて。
「……あ、明日行こう!約束する。君が好きな所に、なんでも買ってやるしなんでも食べたいものを言え。そうしたら俺が全部」
ディオスがハルヴァを口説きながら彼女のスカートの中に手を入れてきた。
下着に片手をかけたので脱がしやすいように腰を浮かせる。
ハルヴァはその時、ふと(なぜさっきから片手で作業するんだろう?)と疑問を感じた。
そう言えばディオスはカップを持つ時もハルヴァの涙を拭うときも全て片腕で行っている。
ふとディオスの右を見るとその手はテーブルの下にのびていた。
床まで垂れたテーブルクロスの向こう側になぜかディオスは手を入れているのだ。
その時、ハルヴァは好奇心からテーブルクロスの中を覗いた。
そこには身を小さくするキミアナがいてハルヴァは驚くと同時に光を見た。
それを見た瞬間、ハルヴァは気を失った。
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