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「お久しぶりにございます、大佐」
「お久しぶりです、大佐」
二人は敬礼をするとそう述べた。
「もうたいさでは」「ない」「あのころも」
ジョンは少し項垂れて首を振った。どうやら二人はかつてジョンと働いていたようだ。
「いえ、私の中の貴方様は大佐でございます」
キミアナが凛とした声でそう言うとジョンがゆっくりと話し出した。
「そうか」「では」「わたしの」「めいれいを」「きいてもらう」ジョンはそう言うとゆっくり二人を見上げた。
「父さん元気だった?」
ディオスとキミアナが帰ってから、一人の青年がジョンを訪ねてやってきた。彼は目元だけを開けて顔に布を巻きつけていたので恐らく今まで戦争に行っていたのだろう。
青年はジョンの前に椅子を引き寄せてドカリと腰を下ろすと口もとの布を引き下ろした。
「いきてた」「よかった」
「死なないよ、父さんより先には」青年は口もとだけで笑うと、軽口を叩き「どうしたのさ…明日空けとけって…」そう言った。
「ジョンさん、どうしたの?」
そこにひょっこりとハルヴァがやって来た。
青年は軽く会釈をする。
「こんにちは。ジョンさん、息子さん?口もとが似てるね」ハルヴァはそう言ってニコニコ笑いながらジョンの前に膝をついた。
「そう」「むすこ」
「父がいつもお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ。この前ジョンさんがいなかったら本当大変だった…あ、そう言えばあの後どうなったの?私のこと、帰らせてくれたよね?明日やだなー…」
「そう」「はるばも」「おとこをつれて」「いくことに」「なった」
「え?」
「あ、まさかそれで俺、呼び出された?」青年は頭に被った布をスルスルと外しながら笑うとジョンが「そう」と言った。
彼は大きな瞳と高い鼻を持っていてかなりの美青年だ。
素顔を晒した青年は爽やかに笑うと「なーるほどね!俺はサイモン、明日よろしく」とハルヴァに挨拶をした。
ジョンは「なにか」「あるな」「なんだ」「それは」と小さな声で言った。それは誰にも届かなかったであろう。
ハルヴァはサイモンが差し出した手をそっと握ると「よ、よろしくお願いいたします」と頭を下げて(は、初めて男の人の手を握った!)とコッソリ胸をドキドキさせていた。
「ハルヴァさん!おはよう!」
当日、颯爽とサイモンはやって来て玄関でハルヴァの手をとった。「お、おはようございます。あの、まだディオス様とキミアナ様はいらしてなくて…」
今日はハルヴァの家にディオスが迎えに来ることになっている。
「ははは!だろうね、早いもんな!マナー違反だ!俺は!ははは!」
サイモンはそう言うと笑うとそっとハルヴァの腰を抱いた。
「え?あの…」
「……俺のことを見上げて、ハルヴァさん…」
「え…?」ハルヴァは戸惑いながらも言われた通りサイモンを見上げた。
その時ボキボキと妙な音がしたのでそちらを向くとディオスとキミアナが寄り添い合うように立っていて、ハルヴァは胸が苦しくなり俯いた。
「ハルヴァさん、俺の隣にどうぞ」サイモンは馬車でもしっかりとハルヴァをエスコートしてくれて、スマートに自身の隣に誘導してくれた。
ハルヴァはなんだかムズムズする気持ちを抱えながらサイモンの隣に座ると「ありがとうございます、私…エスコートしてもらえるなんて初めてです」と頬を赤らめた。
サイモンが「へえ?ハルヴァさん可愛いのにね?」とおどけたように言ったのでハルヴァはクスクス笑いながら「…そんなこと言ってくれるのはサイモン様だけです」と満更でもない気分になった。
馬車は道が悪いのかガタガタと大きく揺れている。
「いや、本当だよ。今、彼氏いないの?俺立候補しちゃおうかなぁ」
「ええ?あははは!」
「本気本気!ハルヴァさんのためならもう戦地に行かないように俺出世しちゃおうかなぁ」
「えー?えへへへへ」(え?私のために?)ハルヴァがご機嫌になっていると「見苦しい…やめろ」と向かい側から声が掛けられた。
ハルヴァはその恐ろしい声に姿勢を正すと、ディオスと仲睦まじく座るキミアナが窓の外を眺めながら「目障りだ」と言った。
(こ、怖すぎる…)
ハルヴァはその後懲りずに話しかけてくるサイモンとの一切の会話をやめて、ガタガタと地獄のような馬車は道の悪い道路を進んで行った。
「ハルヴァさん、気を付けて」
サイモンはハルヴァに立つように促して馬車から先に降りると手を差し出してくれた。
「わー、ありがとうございます」ハルヴァがお姫様になった気分に目をキラキラさせていると「ははは!お姫様、さあ俺がエスコートを」とそのまま手を握った。
「う、えー!えへへへへ」
「はー?あはははは!」
「あ、あの…初めてで…その、男の人と手を繋ぐのは…」ハルヴァは顔を真っ赤にしながら言った。
「あ、そうなんだ!俺はねぇ、めちゃくちゃたくさんの女の子の手を握ってるから!慣れてるから!任せてよ」
ハルヴァがサイモンの心強い言葉ににっこり笑うと「……で、今日はどこに行くの?なぁ?キミアナ!ディオス?」とサイモンは爽やかに二人を振り返った。
「お久しぶりです、大佐」
二人は敬礼をするとそう述べた。
「もうたいさでは」「ない」「あのころも」
ジョンは少し項垂れて首を振った。どうやら二人はかつてジョンと働いていたようだ。
「いえ、私の中の貴方様は大佐でございます」
キミアナが凛とした声でそう言うとジョンがゆっくりと話し出した。
「そうか」「では」「わたしの」「めいれいを」「きいてもらう」ジョンはそう言うとゆっくり二人を見上げた。
「父さん元気だった?」
ディオスとキミアナが帰ってから、一人の青年がジョンを訪ねてやってきた。彼は目元だけを開けて顔に布を巻きつけていたので恐らく今まで戦争に行っていたのだろう。
青年はジョンの前に椅子を引き寄せてドカリと腰を下ろすと口もとの布を引き下ろした。
「いきてた」「よかった」
「死なないよ、父さんより先には」青年は口もとだけで笑うと、軽口を叩き「どうしたのさ…明日空けとけって…」そう言った。
「ジョンさん、どうしたの?」
そこにひょっこりとハルヴァがやって来た。
青年は軽く会釈をする。
「こんにちは。ジョンさん、息子さん?口もとが似てるね」ハルヴァはそう言ってニコニコ笑いながらジョンの前に膝をついた。
「そう」「むすこ」
「父がいつもお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ。この前ジョンさんがいなかったら本当大変だった…あ、そう言えばあの後どうなったの?私のこと、帰らせてくれたよね?明日やだなー…」
「そう」「はるばも」「おとこをつれて」「いくことに」「なった」
「え?」
「あ、まさかそれで俺、呼び出された?」青年は頭に被った布をスルスルと外しながら笑うとジョンが「そう」と言った。
彼は大きな瞳と高い鼻を持っていてかなりの美青年だ。
素顔を晒した青年は爽やかに笑うと「なーるほどね!俺はサイモン、明日よろしく」とハルヴァに挨拶をした。
ジョンは「なにか」「あるな」「なんだ」「それは」と小さな声で言った。それは誰にも届かなかったであろう。
ハルヴァはサイモンが差し出した手をそっと握ると「よ、よろしくお願いいたします」と頭を下げて(は、初めて男の人の手を握った!)とコッソリ胸をドキドキさせていた。
「ハルヴァさん!おはよう!」
当日、颯爽とサイモンはやって来て玄関でハルヴァの手をとった。「お、おはようございます。あの、まだディオス様とキミアナ様はいらしてなくて…」
今日はハルヴァの家にディオスが迎えに来ることになっている。
「ははは!だろうね、早いもんな!マナー違反だ!俺は!ははは!」
サイモンはそう言うと笑うとそっとハルヴァの腰を抱いた。
「え?あの…」
「……俺のことを見上げて、ハルヴァさん…」
「え…?」ハルヴァは戸惑いながらも言われた通りサイモンを見上げた。
その時ボキボキと妙な音がしたのでそちらを向くとディオスとキミアナが寄り添い合うように立っていて、ハルヴァは胸が苦しくなり俯いた。
「ハルヴァさん、俺の隣にどうぞ」サイモンは馬車でもしっかりとハルヴァをエスコートしてくれて、スマートに自身の隣に誘導してくれた。
ハルヴァはなんだかムズムズする気持ちを抱えながらサイモンの隣に座ると「ありがとうございます、私…エスコートしてもらえるなんて初めてです」と頬を赤らめた。
サイモンが「へえ?ハルヴァさん可愛いのにね?」とおどけたように言ったのでハルヴァはクスクス笑いながら「…そんなこと言ってくれるのはサイモン様だけです」と満更でもない気分になった。
馬車は道が悪いのかガタガタと大きく揺れている。
「いや、本当だよ。今、彼氏いないの?俺立候補しちゃおうかなぁ」
「ええ?あははは!」
「本気本気!ハルヴァさんのためならもう戦地に行かないように俺出世しちゃおうかなぁ」
「えー?えへへへへ」(え?私のために?)ハルヴァがご機嫌になっていると「見苦しい…やめろ」と向かい側から声が掛けられた。
ハルヴァはその恐ろしい声に姿勢を正すと、ディオスと仲睦まじく座るキミアナが窓の外を眺めながら「目障りだ」と言った。
(こ、怖すぎる…)
ハルヴァはその後懲りずに話しかけてくるサイモンとの一切の会話をやめて、ガタガタと地獄のような馬車は道の悪い道路を進んで行った。
「ハルヴァさん、気を付けて」
サイモンはハルヴァに立つように促して馬車から先に降りると手を差し出してくれた。
「わー、ありがとうございます」ハルヴァがお姫様になった気分に目をキラキラさせていると「ははは!お姫様、さあ俺がエスコートを」とそのまま手を握った。
「う、えー!えへへへへ」
「はー?あはははは!」
「あ、あの…初めてで…その、男の人と手を繋ぐのは…」ハルヴァは顔を真っ赤にしながら言った。
「あ、そうなんだ!俺はねぇ、めちゃくちゃたくさんの女の子の手を握ってるから!慣れてるから!任せてよ」
ハルヴァがサイモンの心強い言葉ににっこり笑うと「……で、今日はどこに行くの?なぁ?キミアナ!ディオス?」とサイモンは爽やかに二人を振り返った。
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