13 / 44
13
しおりを挟む
「お久しぶりにございます、大佐」
「お久しぶりです、大佐」
二人は敬礼をするとそう述べた。
「もうたいさでは」「ない」「あのころも」
ジョンは少し項垂れて首を振った。どうやら二人はかつてジョンと働いていたようだ。
「いえ、私の中の貴方様は大佐でございます」
キミアナが凛とした声でそう言うとジョンがゆっくりと話し出した。
「そうか」「では」「わたしの」「めいれいを」「きいてもらう」ジョンはそう言うとゆっくり二人を見上げた。
「父さん元気だった?」
ディオスとキミアナが帰ってから、一人の青年がジョンを訪ねてやってきた。彼は目元だけを開けて顔に布を巻きつけていたので恐らく今まで戦争に行っていたのだろう。
青年はジョンの前に椅子を引き寄せてドカリと腰を下ろすと口もとの布を引き下ろした。
「いきてた」「よかった」
「死なないよ、父さんより先には」青年は口もとだけで笑うと、軽口を叩き「どうしたのさ…明日空けとけって…」そう言った。
「ジョンさん、どうしたの?」
そこにひょっこりとハルヴァがやって来た。
青年は軽く会釈をする。
「こんにちは。ジョンさん、息子さん?口もとが似てるね」ハルヴァはそう言ってニコニコ笑いながらジョンの前に膝をついた。
「そう」「むすこ」
「父がいつもお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ。この前ジョンさんがいなかったら本当大変だった…あ、そう言えばあの後どうなったの?私のこと、帰らせてくれたよね?明日やだなー…」
「そう」「はるばも」「おとこをつれて」「いくことに」「なった」
「え?」
「あ、まさかそれで俺、呼び出された?」青年は頭に被った布をスルスルと外しながら笑うとジョンが「そう」と言った。
彼は大きな瞳と高い鼻を持っていてかなりの美青年だ。
素顔を晒した青年は爽やかに笑うと「なーるほどね!俺はサイモン、明日よろしく」とハルヴァに挨拶をした。
ジョンは「なにか」「あるな」「なんだ」「それは」と小さな声で言った。それは誰にも届かなかったであろう。
ハルヴァはサイモンが差し出した手をそっと握ると「よ、よろしくお願いいたします」と頭を下げて(は、初めて男の人の手を握った!)とコッソリ胸をドキドキさせていた。
「ハルヴァさん!おはよう!」
当日、颯爽とサイモンはやって来て玄関でハルヴァの手をとった。「お、おはようございます。あの、まだディオス様とキミアナ様はいらしてなくて…」
今日はハルヴァの家にディオスが迎えに来ることになっている。
「ははは!だろうね、早いもんな!マナー違反だ!俺は!ははは!」
サイモンはそう言うと笑うとそっとハルヴァの腰を抱いた。
「え?あの…」
「……俺のことを見上げて、ハルヴァさん…」
「え…?」ハルヴァは戸惑いながらも言われた通りサイモンを見上げた。
その時ボキボキと妙な音がしたのでそちらを向くとディオスとキミアナが寄り添い合うように立っていて、ハルヴァは胸が苦しくなり俯いた。
「ハルヴァさん、俺の隣にどうぞ」サイモンは馬車でもしっかりとハルヴァをエスコートしてくれて、スマートに自身の隣に誘導してくれた。
ハルヴァはなんだかムズムズする気持ちを抱えながらサイモンの隣に座ると「ありがとうございます、私…エスコートしてもらえるなんて初めてです」と頬を赤らめた。
サイモンが「へえ?ハルヴァさん可愛いのにね?」とおどけたように言ったのでハルヴァはクスクス笑いながら「…そんなこと言ってくれるのはサイモン様だけです」と満更でもない気分になった。
馬車は道が悪いのかガタガタと大きく揺れている。
「いや、本当だよ。今、彼氏いないの?俺立候補しちゃおうかなぁ」
「ええ?あははは!」
「本気本気!ハルヴァさんのためならもう戦地に行かないように俺出世しちゃおうかなぁ」
「えー?えへへへへ」(え?私のために?)ハルヴァがご機嫌になっていると「見苦しい…やめろ」と向かい側から声が掛けられた。
ハルヴァはその恐ろしい声に姿勢を正すと、ディオスと仲睦まじく座るキミアナが窓の外を眺めながら「目障りだ」と言った。
(こ、怖すぎる…)
ハルヴァはその後懲りずに話しかけてくるサイモンとの一切の会話をやめて、ガタガタと地獄のような馬車は道の悪い道路を進んで行った。
「ハルヴァさん、気を付けて」
サイモンはハルヴァに立つように促して馬車から先に降りると手を差し出してくれた。
「わー、ありがとうございます」ハルヴァがお姫様になった気分に目をキラキラさせていると「ははは!お姫様、さあ俺がエスコートを」とそのまま手を握った。
「う、えー!えへへへへ」
「はー?あはははは!」
「あ、あの…初めてで…その、男の人と手を繋ぐのは…」ハルヴァは顔を真っ赤にしながら言った。
「あ、そうなんだ!俺はねぇ、めちゃくちゃたくさんの女の子の手を握ってるから!慣れてるから!任せてよ」
ハルヴァがサイモンの心強い言葉ににっこり笑うと「……で、今日はどこに行くの?なぁ?キミアナ!ディオス?」とサイモンは爽やかに二人を振り返った。
「お久しぶりです、大佐」
二人は敬礼をするとそう述べた。
「もうたいさでは」「ない」「あのころも」
ジョンは少し項垂れて首を振った。どうやら二人はかつてジョンと働いていたようだ。
「いえ、私の中の貴方様は大佐でございます」
キミアナが凛とした声でそう言うとジョンがゆっくりと話し出した。
「そうか」「では」「わたしの」「めいれいを」「きいてもらう」ジョンはそう言うとゆっくり二人を見上げた。
「父さん元気だった?」
ディオスとキミアナが帰ってから、一人の青年がジョンを訪ねてやってきた。彼は目元だけを開けて顔に布を巻きつけていたので恐らく今まで戦争に行っていたのだろう。
青年はジョンの前に椅子を引き寄せてドカリと腰を下ろすと口もとの布を引き下ろした。
「いきてた」「よかった」
「死なないよ、父さんより先には」青年は口もとだけで笑うと、軽口を叩き「どうしたのさ…明日空けとけって…」そう言った。
「ジョンさん、どうしたの?」
そこにひょっこりとハルヴァがやって来た。
青年は軽く会釈をする。
「こんにちは。ジョンさん、息子さん?口もとが似てるね」ハルヴァはそう言ってニコニコ笑いながらジョンの前に膝をついた。
「そう」「むすこ」
「父がいつもお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ。この前ジョンさんがいなかったら本当大変だった…あ、そう言えばあの後どうなったの?私のこと、帰らせてくれたよね?明日やだなー…」
「そう」「はるばも」「おとこをつれて」「いくことに」「なった」
「え?」
「あ、まさかそれで俺、呼び出された?」青年は頭に被った布をスルスルと外しながら笑うとジョンが「そう」と言った。
彼は大きな瞳と高い鼻を持っていてかなりの美青年だ。
素顔を晒した青年は爽やかに笑うと「なーるほどね!俺はサイモン、明日よろしく」とハルヴァに挨拶をした。
ジョンは「なにか」「あるな」「なんだ」「それは」と小さな声で言った。それは誰にも届かなかったであろう。
ハルヴァはサイモンが差し出した手をそっと握ると「よ、よろしくお願いいたします」と頭を下げて(は、初めて男の人の手を握った!)とコッソリ胸をドキドキさせていた。
「ハルヴァさん!おはよう!」
当日、颯爽とサイモンはやって来て玄関でハルヴァの手をとった。「お、おはようございます。あの、まだディオス様とキミアナ様はいらしてなくて…」
今日はハルヴァの家にディオスが迎えに来ることになっている。
「ははは!だろうね、早いもんな!マナー違反だ!俺は!ははは!」
サイモンはそう言うと笑うとそっとハルヴァの腰を抱いた。
「え?あの…」
「……俺のことを見上げて、ハルヴァさん…」
「え…?」ハルヴァは戸惑いながらも言われた通りサイモンを見上げた。
その時ボキボキと妙な音がしたのでそちらを向くとディオスとキミアナが寄り添い合うように立っていて、ハルヴァは胸が苦しくなり俯いた。
「ハルヴァさん、俺の隣にどうぞ」サイモンは馬車でもしっかりとハルヴァをエスコートしてくれて、スマートに自身の隣に誘導してくれた。
ハルヴァはなんだかムズムズする気持ちを抱えながらサイモンの隣に座ると「ありがとうございます、私…エスコートしてもらえるなんて初めてです」と頬を赤らめた。
サイモンが「へえ?ハルヴァさん可愛いのにね?」とおどけたように言ったのでハルヴァはクスクス笑いながら「…そんなこと言ってくれるのはサイモン様だけです」と満更でもない気分になった。
馬車は道が悪いのかガタガタと大きく揺れている。
「いや、本当だよ。今、彼氏いないの?俺立候補しちゃおうかなぁ」
「ええ?あははは!」
「本気本気!ハルヴァさんのためならもう戦地に行かないように俺出世しちゃおうかなぁ」
「えー?えへへへへ」(え?私のために?)ハルヴァがご機嫌になっていると「見苦しい…やめろ」と向かい側から声が掛けられた。
ハルヴァはその恐ろしい声に姿勢を正すと、ディオスと仲睦まじく座るキミアナが窓の外を眺めながら「目障りだ」と言った。
(こ、怖すぎる…)
ハルヴァはその後懲りずに話しかけてくるサイモンとの一切の会話をやめて、ガタガタと地獄のような馬車は道の悪い道路を進んで行った。
「ハルヴァさん、気を付けて」
サイモンはハルヴァに立つように促して馬車から先に降りると手を差し出してくれた。
「わー、ありがとうございます」ハルヴァがお姫様になった気分に目をキラキラさせていると「ははは!お姫様、さあ俺がエスコートを」とそのまま手を握った。
「う、えー!えへへへへ」
「はー?あはははは!」
「あ、あの…初めてで…その、男の人と手を繋ぐのは…」ハルヴァは顔を真っ赤にしながら言った。
「あ、そうなんだ!俺はねぇ、めちゃくちゃたくさんの女の子の手を握ってるから!慣れてるから!任せてよ」
ハルヴァがサイモンの心強い言葉ににっこり笑うと「……で、今日はどこに行くの?なぁ?キミアナ!ディオス?」とサイモンは爽やかに二人を振り返った。
1,906
お気に入りに追加
2,402
あなたにおすすめの小説

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20

『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら
黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。
最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。
けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。
そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。
極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。
それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。
辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの?
戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる?
※曖昧設定。
※別サイトにも掲載。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました
ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる