8 / 44
8
しおりを挟む
「お…おい!」
「ギャー!やっぱり気付きますよねぇ!すみませんすみません」ハルヴァは背後から掛けられた声に怯えながら土下座した。
「……そ、そんなことはしなくていい。昨日いつ帰った?」ディオスは土下座するハルヴァに触れようとした手を引っ込めて代わりに腕を組んでそっぽを向いた。
「へー?じゅ、18時位?ですかね…あ、あの」ハルヴァは顔を上げると目を泳がせた。怒られるかなぁ…と思ったからだ。
「……なに?く、くそ…おい…いいか…これから買い物に行くからちょっと待っていろ。そこから動くなよ?勝手に帰るな…いいか?す、座っていろ…椅子に!必ず俺は戻ってくるから!」
「へ?……わ、私も行きます?」
「あ、当たり前だろ…」ハルヴァはディオスが顔を真っ赤にして怒っているので(帰りたい…)と思いながら立ち上がり椅子に座った。
「…ま、待たせたな、では行こうか」
ディオスはハンカチで手を拭いながら歩いて来るとハルヴァの隣に立ちそう言った。
「あ、いえ、はい」
ハルヴァが立ち上がってもディオスは歩き出さないので「あのー…」とハルヴァは声を掛けた。
どこに行けば良いのかもわからない…
ディオスは硬く握った拳を開きズボンに擦りつけるようにすると「……手でも…つ、繋ぐか」と息も絶え絶えな様子で言ってきたのでハルヴァは笑った。
「え!?あははは!それはいけませんよー!」
「な?そ、そうか?」
「はい!あははは!面白い!私と手を繋ぐなんて!そんなバカな!見られたら困るじゃないですかー!」
「……そうだよな。そんなことは…してはならんよな。俺は…そうだった…すまん」ディオスはそう言うと再び軽く拳を握り手を身体の横に下ろした。
(ディオス様ったら面白い冗談を言うものだわ)
「…………」
「…………」
気まずい沈黙の中、ハルヴァが胃をキリキリさせていると頭に挿した花に視線を感じたので触れる。
「あ、これですか?これは患者さんが」
「……野草じゃないか、俺だったら店で買った高い花をプレゼントする」
「…あ、そうですよね。あはは、私はこれで嬉しいので…」
「……そんなもの…なぜつけてる?外したらどうだ」
「え?仲が良い患者さんからいただいたので…」ハルヴァはディオスの言葉にショックを受けた。(似合ってないのかなぁ…ジョンさん優しいから素敵だ、と言ってくれたのね)
立ち上がるディオスについて行く。
馬車に乗ると向かい側で仏頂面をしているディオスが脚を組みながら「……仕事辞めてはどうだ?」と不機嫌そうに言った。
(あ、この前余計なこと言ったからかな?)
「大丈夫です」ハルヴァはディオスが心配してくれているのか、とにっこり微笑んだ。
それに仕事を辞めたとしてどうなるのだ…また、新しい職場を探す必要があるしトラブルは自分が仕事ができないのが原因なのだからどこに行っても同じだし変わらない、とハルヴァは思った。
(それならサラがいる所がいいし)
「……」
「……」
(気まずいなぁ…)
「お…女はどんな店がいいんだ」
「どんな店?服ですか?宝石ですか?それとも食事?」
馬車から降りるとすぐそこで待っていたディオスが腕を組みながらそう言った。
「わからん…何が欲しい?服と宝石が欲しいのか?花は?腹が減ったのか?」
「え?ひ、人によるかと…お花はすぐに会うのなら買っていかれて大丈夫ではないでしょうか?ごはん時なら食事に行かれてもいいかもしれませんね」
「じゃ、じゃあ花は?花を買ってやる!それを挿したらどうだ!?」
「え!?萎れてしまうのではないですか?挿したら?頭にですか?それは素敵ですが…お花は今は買われない方がいいかと…」
「……む…難しいな…今は飯時か?」
ハルヴァはディオスからそう尋ねられて広場にある時計を見上げた。時刻は18時だ。
「あー、確かに夕飯時かもしれませんね」
「……」
「……」
「じゃ、じゃあっ!飯だな!飯!何が食いたい?」ディオスは顔を真っ赤にするとパチンと手を叩いた。
「え?わ、私?私ですか?えっと…えとえと…」ハルヴァはなんだか緊張して食欲がなかったので何も考えつかなかった。
「あ、あの…!ディオス様の行きたい所を提案してみてはどうですか?何か食べたいものとか…」
「お、俺?俺か?………………」ディオスは腕を組むと熟考しているのか眉にシワを寄せて目を閉じた。
「……に、肉と酒だな…」(海賊みたい!)
「あ、あの!まあ、今日は!お店に行ってみてはいかがでしょうか?えーと…あの、大体の女性は宝石は嬉しいと思います!服だとサイズがあるから…一緒に来ないと難しいですよね」このままではディオスと恋人の食事が海賊の晩餐になってしまう!と感じたハルヴァは慌ててそう提案した。
「……?そ、そうか…腹は減ってないか」
「……?わ、私?そうですね、今は特に…あの、あそこら辺りが宝石店なはずなので!行きましょう」ハルヴァとディオスは互いに首を傾げながら次は宝石店に向かうことにした。
週末だからか、街は人で溢れている。
ハルヴァはディオスを案内するように前を歩いた。
人混みの中、背の高いディオスは頭一つ出ているのできっと相手の女性も探しやすいだろうなぁとハルヴァは思っていた。
(私も背の高い人とお付き合いしたい!……便利だから…ディオス様…私のためにも女性兵士様とのデート…頑張ってくださいね!うん、……応援しよう!)
ハルヴァは心の中でそうエールを送ると宝石店のドアをそっと開けた。
「ギャー!やっぱり気付きますよねぇ!すみませんすみません」ハルヴァは背後から掛けられた声に怯えながら土下座した。
「……そ、そんなことはしなくていい。昨日いつ帰った?」ディオスは土下座するハルヴァに触れようとした手を引っ込めて代わりに腕を組んでそっぽを向いた。
「へー?じゅ、18時位?ですかね…あ、あの」ハルヴァは顔を上げると目を泳がせた。怒られるかなぁ…と思ったからだ。
「……なに?く、くそ…おい…いいか…これから買い物に行くからちょっと待っていろ。そこから動くなよ?勝手に帰るな…いいか?す、座っていろ…椅子に!必ず俺は戻ってくるから!」
「へ?……わ、私も行きます?」
「あ、当たり前だろ…」ハルヴァはディオスが顔を真っ赤にして怒っているので(帰りたい…)と思いながら立ち上がり椅子に座った。
「…ま、待たせたな、では行こうか」
ディオスはハンカチで手を拭いながら歩いて来るとハルヴァの隣に立ちそう言った。
「あ、いえ、はい」
ハルヴァが立ち上がってもディオスは歩き出さないので「あのー…」とハルヴァは声を掛けた。
どこに行けば良いのかもわからない…
ディオスは硬く握った拳を開きズボンに擦りつけるようにすると「……手でも…つ、繋ぐか」と息も絶え絶えな様子で言ってきたのでハルヴァは笑った。
「え!?あははは!それはいけませんよー!」
「な?そ、そうか?」
「はい!あははは!面白い!私と手を繋ぐなんて!そんなバカな!見られたら困るじゃないですかー!」
「……そうだよな。そんなことは…してはならんよな。俺は…そうだった…すまん」ディオスはそう言うと再び軽く拳を握り手を身体の横に下ろした。
(ディオス様ったら面白い冗談を言うものだわ)
「…………」
「…………」
気まずい沈黙の中、ハルヴァが胃をキリキリさせていると頭に挿した花に視線を感じたので触れる。
「あ、これですか?これは患者さんが」
「……野草じゃないか、俺だったら店で買った高い花をプレゼントする」
「…あ、そうですよね。あはは、私はこれで嬉しいので…」
「……そんなもの…なぜつけてる?外したらどうだ」
「え?仲が良い患者さんからいただいたので…」ハルヴァはディオスの言葉にショックを受けた。(似合ってないのかなぁ…ジョンさん優しいから素敵だ、と言ってくれたのね)
立ち上がるディオスについて行く。
馬車に乗ると向かい側で仏頂面をしているディオスが脚を組みながら「……仕事辞めてはどうだ?」と不機嫌そうに言った。
(あ、この前余計なこと言ったからかな?)
「大丈夫です」ハルヴァはディオスが心配してくれているのか、とにっこり微笑んだ。
それに仕事を辞めたとしてどうなるのだ…また、新しい職場を探す必要があるしトラブルは自分が仕事ができないのが原因なのだからどこに行っても同じだし変わらない、とハルヴァは思った。
(それならサラがいる所がいいし)
「……」
「……」
(気まずいなぁ…)
「お…女はどんな店がいいんだ」
「どんな店?服ですか?宝石ですか?それとも食事?」
馬車から降りるとすぐそこで待っていたディオスが腕を組みながらそう言った。
「わからん…何が欲しい?服と宝石が欲しいのか?花は?腹が減ったのか?」
「え?ひ、人によるかと…お花はすぐに会うのなら買っていかれて大丈夫ではないでしょうか?ごはん時なら食事に行かれてもいいかもしれませんね」
「じゃ、じゃあ花は?花を買ってやる!それを挿したらどうだ!?」
「え!?萎れてしまうのではないですか?挿したら?頭にですか?それは素敵ですが…お花は今は買われない方がいいかと…」
「……む…難しいな…今は飯時か?」
ハルヴァはディオスからそう尋ねられて広場にある時計を見上げた。時刻は18時だ。
「あー、確かに夕飯時かもしれませんね」
「……」
「……」
「じゃ、じゃあっ!飯だな!飯!何が食いたい?」ディオスは顔を真っ赤にするとパチンと手を叩いた。
「え?わ、私?私ですか?えっと…えとえと…」ハルヴァはなんだか緊張して食欲がなかったので何も考えつかなかった。
「あ、あの…!ディオス様の行きたい所を提案してみてはどうですか?何か食べたいものとか…」
「お、俺?俺か?………………」ディオスは腕を組むと熟考しているのか眉にシワを寄せて目を閉じた。
「……に、肉と酒だな…」(海賊みたい!)
「あ、あの!まあ、今日は!お店に行ってみてはいかがでしょうか?えーと…あの、大体の女性は宝石は嬉しいと思います!服だとサイズがあるから…一緒に来ないと難しいですよね」このままではディオスと恋人の食事が海賊の晩餐になってしまう!と感じたハルヴァは慌ててそう提案した。
「……?そ、そうか…腹は減ってないか」
「……?わ、私?そうですね、今は特に…あの、あそこら辺りが宝石店なはずなので!行きましょう」ハルヴァとディオスは互いに首を傾げながら次は宝石店に向かうことにした。
週末だからか、街は人で溢れている。
ハルヴァはディオスを案内するように前を歩いた。
人混みの中、背の高いディオスは頭一つ出ているのできっと相手の女性も探しやすいだろうなぁとハルヴァは思っていた。
(私も背の高い人とお付き合いしたい!……便利だから…ディオス様…私のためにも女性兵士様とのデート…頑張ってくださいね!うん、……応援しよう!)
ハルヴァは心の中でそうエールを送ると宝石店のドアをそっと開けた。
1,929
お気に入りに追加
2,418
あなたにおすすめの小説
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
あなたの嫉妬なんて知らない
abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」
「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」
「は……終わりだなんて、」
「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ……
"今日の主役が二人も抜けては"」
婚約パーティーの夜だった。
愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。
長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。
「はー、もういいわ」
皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。
彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。
「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。
だから私は悪女になった。
「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」
洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。
「貴女は、俺の婚約者だろう!」
「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」
「ダリア!いい加減に……」
嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる