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「え?なにこれ?誰から?」
仕事から帰るなりお手伝いさんから手渡された手紙にハルヴァはキョトンとした顔を向けた。
「…あの、それが…お名前がなく」
「…うーん…悪口が書かれているかも…私メンタルが弱いので捨てておいてもらえる?ほら…私…人に嫌われがちだから…」
ハルヴァはしょんぼりするとそう言って手紙をお手伝いさんに渡した。
ハルヴァは婚約者を筆頭に嫌われている。
サラは気にせず仲良くしてくれるが、看護長には「のろま」「男好き」と毎回怒られるし他の年上の看護係からも仕事の手順を聞いたら「なんであなたに教えなきゃならないの?」と言われる始末だ。
周りも見て見ぬふりをしてるので恐らくハルヴァがそう言われても仕方がない人物としてみんなに認識されているのだろう。
「あれは言われちゃうよね」と
(仕事ができない私が悪いんだけど…やっぱり辛い)
ハルヴァはそんな中ミスをしないように…とやってはいるのだが、看護長や他の看護係の人を前にするとミスを連発するのだ…そして更にそのミスがミスを生み…ミスのねずみ講パーティーが開催されてしまうのである。
ハルヴァの職場での評価は『使えない馬鹿な女』だ。
サラは「そんなことないよ。ババア共くたばれ」と慰めてくれるけど…ハルヴァはお豆腐メンタルなのでなかなか上手く割り切ることができないでいる。
(特にディオス様と婚約したら酷くなったような…)
ハルヴァはふとそんな考えが思い浮かんでしまい慌てて首を振った。そんな妄想に逃げても仕事ができない事実は変わらないのだ。
冷たくされたくなければ仕事ができるようになればいい、そうわかってはいても…話しかけるたびに冷たく突き返される現状にハルヴァはため息をついた。
(何もかも上手くいかない…仕事も、私生活も…)
しかもおまけに婚約者と全く仲良くないハルヴァに誰が嫉妬するというのか。
現に職場の先輩はハルヴァに聞こえるように「この前訓練場でディオス様に冷たくあしらわれていたわよ」「かわいそう…あ、聞こえちゃうよ…シー」と気も使われてしまう始末なのだ。
今まではそれもあまり気にしていなかったのだけれど…ハルヴァはなんだか突然全てが恥ずかしくなってしまった。
(みんなの目には滑稽に見えていたんだろうな)
距離を取ろうとしている婚約者に空気を読まずに追いすがる私…あの状況で「私!この人に望まれて婚約したんです!」と声高に言ったとて「嘘乙!」と言われてしまうだろう。
最早今すでに嘘だったような気がしている。
妄想なのでは?と
そんなささやかな妄想を握り潰す事実が発覚した。
「ハルヴァ?いいの?大丈夫?あんたの婚約者…この前女の人と二人きりで歩いてたよ?」
昼食を摂るハルヴァとサラの前にやってきた先輩は机に手をついてハルヴァを覗き込むとそう言った。
「え?あ、そ、そうですか」
ハルヴァはどういう反応をすればいいのやらわからなくて困惑した。(これは…どんな感情?どういった顔をすればいいのやら…)
するとハルヴァの反応に先輩は眉を顰めながら「は?いいの?すっごく美人な、兵士服を着た女の人だったけど?ま、あんたとの婚約なんて結局隠れ蓑だったのかもね。相手の女性結婚してたりして!女兵士って結婚早いし」先輩はそう吐き捨てると他の人たちとケラケラ笑いながらその場を去った。
「はー?なんだアイツ…ねえ?ハルヴァ大丈夫?」
すっかり動きを止めてしまったハルヴァにサラがそう話しかけると想像したよりずっとスッキリした顔のハルヴァがぼんやりと先輩が歩いて行った方向を眺めていた。
「……大丈夫?」
「あ、うん。……そうだったんだ」
心配したサラがハルヴァの顔を覗き込むと彼女は頬を少し染めながら「よかった…だから私と婚約したんだ!」と元気に言った。
ハルヴァはこの得体のしれない婚約から解放されてなんともスッキリした心地になった。
そもそも「なぜ自分なのだろう?」と何度思ったことだろう。
(それも全部『隠れ蓑』として使うためならば理解できる!)
婚約してから今までのディオスの態度も本来好いてもいない女性に対してなのだからあのような態度にもなろう、と言うわけだ。
訓練場に来るのを嫌がっていたのもお相手が女性兵士なら当然だろう。自分といるところを見られては隠れ蓑だと知っていても相手は嫌な気分になるものだ。
ハルヴァは清々しい気持ちになった。
もうこれで悩まなくてすむのだ。
今までは『なんで嫌われてしまったのだろう』と気に病んでいたし、気持ちを取り戻したいと躍起になっていたが、なんということはない。彼は元々自分の事など好きではなかったのだ。
(よかったー!)
ハルヴァがニコニコしながら食事を口に放り込むのをサラは心配そうに眺めている。
「ねえ?サラ…私年をとってディオス様が死んで再婚するときに本当の恋をしようかな?」
「ええ!?……そ、そう?それでいいの?」
「…う、うん!楽しみ!それまで修行だと思って我慢する!後50年もしたら…私も男の人に好かれるような素敵な女性になっているんじゃないかな?長生きしよう!健康に気をつける!」
ハルヴァは目をキラキラ輝かせて、同じ年になったであろう退役軍人との恋に思いを馳せた。
仕事から帰るなりお手伝いさんから手渡された手紙にハルヴァはキョトンとした顔を向けた。
「…あの、それが…お名前がなく」
「…うーん…悪口が書かれているかも…私メンタルが弱いので捨てておいてもらえる?ほら…私…人に嫌われがちだから…」
ハルヴァはしょんぼりするとそう言って手紙をお手伝いさんに渡した。
ハルヴァは婚約者を筆頭に嫌われている。
サラは気にせず仲良くしてくれるが、看護長には「のろま」「男好き」と毎回怒られるし他の年上の看護係からも仕事の手順を聞いたら「なんであなたに教えなきゃならないの?」と言われる始末だ。
周りも見て見ぬふりをしてるので恐らくハルヴァがそう言われても仕方がない人物としてみんなに認識されているのだろう。
「あれは言われちゃうよね」と
(仕事ができない私が悪いんだけど…やっぱり辛い)
ハルヴァはそんな中ミスをしないように…とやってはいるのだが、看護長や他の看護係の人を前にするとミスを連発するのだ…そして更にそのミスがミスを生み…ミスのねずみ講パーティーが開催されてしまうのである。
ハルヴァの職場での評価は『使えない馬鹿な女』だ。
サラは「そんなことないよ。ババア共くたばれ」と慰めてくれるけど…ハルヴァはお豆腐メンタルなのでなかなか上手く割り切ることができないでいる。
(特にディオス様と婚約したら酷くなったような…)
ハルヴァはふとそんな考えが思い浮かんでしまい慌てて首を振った。そんな妄想に逃げても仕事ができない事実は変わらないのだ。
冷たくされたくなければ仕事ができるようになればいい、そうわかってはいても…話しかけるたびに冷たく突き返される現状にハルヴァはため息をついた。
(何もかも上手くいかない…仕事も、私生活も…)
しかもおまけに婚約者と全く仲良くないハルヴァに誰が嫉妬するというのか。
現に職場の先輩はハルヴァに聞こえるように「この前訓練場でディオス様に冷たくあしらわれていたわよ」「かわいそう…あ、聞こえちゃうよ…シー」と気も使われてしまう始末なのだ。
今まではそれもあまり気にしていなかったのだけれど…ハルヴァはなんだか突然全てが恥ずかしくなってしまった。
(みんなの目には滑稽に見えていたんだろうな)
距離を取ろうとしている婚約者に空気を読まずに追いすがる私…あの状況で「私!この人に望まれて婚約したんです!」と声高に言ったとて「嘘乙!」と言われてしまうだろう。
最早今すでに嘘だったような気がしている。
妄想なのでは?と
そんなささやかな妄想を握り潰す事実が発覚した。
「ハルヴァ?いいの?大丈夫?あんたの婚約者…この前女の人と二人きりで歩いてたよ?」
昼食を摂るハルヴァとサラの前にやってきた先輩は机に手をついてハルヴァを覗き込むとそう言った。
「え?あ、そ、そうですか」
ハルヴァはどういう反応をすればいいのやらわからなくて困惑した。(これは…どんな感情?どういった顔をすればいいのやら…)
するとハルヴァの反応に先輩は眉を顰めながら「は?いいの?すっごく美人な、兵士服を着た女の人だったけど?ま、あんたとの婚約なんて結局隠れ蓑だったのかもね。相手の女性結婚してたりして!女兵士って結婚早いし」先輩はそう吐き捨てると他の人たちとケラケラ笑いながらその場を去った。
「はー?なんだアイツ…ねえ?ハルヴァ大丈夫?」
すっかり動きを止めてしまったハルヴァにサラがそう話しかけると想像したよりずっとスッキリした顔のハルヴァがぼんやりと先輩が歩いて行った方向を眺めていた。
「……大丈夫?」
「あ、うん。……そうだったんだ」
心配したサラがハルヴァの顔を覗き込むと彼女は頬を少し染めながら「よかった…だから私と婚約したんだ!」と元気に言った。
ハルヴァはこの得体のしれない婚約から解放されてなんともスッキリした心地になった。
そもそも「なぜ自分なのだろう?」と何度思ったことだろう。
(それも全部『隠れ蓑』として使うためならば理解できる!)
婚約してから今までのディオスの態度も本来好いてもいない女性に対してなのだからあのような態度にもなろう、と言うわけだ。
訓練場に来るのを嫌がっていたのもお相手が女性兵士なら当然だろう。自分といるところを見られては隠れ蓑だと知っていても相手は嫌な気分になるものだ。
ハルヴァは清々しい気持ちになった。
もうこれで悩まなくてすむのだ。
今までは『なんで嫌われてしまったのだろう』と気に病んでいたし、気持ちを取り戻したいと躍起になっていたが、なんということはない。彼は元々自分の事など好きではなかったのだ。
(よかったー!)
ハルヴァがニコニコしながら食事を口に放り込むのをサラは心配そうに眺めている。
「ねえ?サラ…私年をとってディオス様が死んで再婚するときに本当の恋をしようかな?」
「ええ!?……そ、そう?それでいいの?」
「…う、うん!楽しみ!それまで修行だと思って我慢する!後50年もしたら…私も男の人に好かれるような素敵な女性になっているんじゃないかな?長生きしよう!健康に気をつける!」
ハルヴァは目をキラキラ輝かせて、同じ年になったであろう退役軍人との恋に思いを馳せた。
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