2 / 44
2
しおりを挟む
「え?なにこれ?誰から?」
仕事から帰るなりお手伝いさんから手渡された手紙にハルヴァはキョトンとした顔を向けた。
「…あの、それが…お名前がなく」
「…うーん…悪口が書かれているかも…私メンタルが弱いので捨てておいてもらえる?ほら…私…人に嫌われがちだから…」
ハルヴァはしょんぼりするとそう言って手紙をお手伝いさんに渡した。
ハルヴァは婚約者を筆頭に嫌われている。
サラは気にせず仲良くしてくれるが、看護長には「のろま」「男好き」と毎回怒られるし他の年上の看護係からも仕事の手順を聞いたら「なんであなたに教えなきゃならないの?」と言われる始末だ。
周りも見て見ぬふりをしてるので恐らくハルヴァがそう言われても仕方がない人物としてみんなに認識されているのだろう。
「あれは言われちゃうよね」と
(仕事ができない私が悪いんだけど…やっぱり辛い)
ハルヴァはそんな中ミスをしないように…とやってはいるのだが、看護長や他の看護係の人を前にするとミスを連発するのだ…そして更にそのミスがミスを生み…ミスのねずみ講パーティーが開催されてしまうのである。
ハルヴァの職場での評価は『使えない馬鹿な女』だ。
サラは「そんなことないよ。ババア共くたばれ」と慰めてくれるけど…ハルヴァはお豆腐メンタルなのでなかなか上手く割り切ることができないでいる。
(特にディオス様と婚約したら酷くなったような…)
ハルヴァはふとそんな考えが思い浮かんでしまい慌てて首を振った。そんな妄想に逃げても仕事ができない事実は変わらないのだ。
冷たくされたくなければ仕事ができるようになればいい、そうわかってはいても…話しかけるたびに冷たく突き返される現状にハルヴァはため息をついた。
(何もかも上手くいかない…仕事も、私生活も…)
しかもおまけに婚約者と全く仲良くないハルヴァに誰が嫉妬するというのか。
現に職場の先輩はハルヴァに聞こえるように「この前訓練場でディオス様に冷たくあしらわれていたわよ」「かわいそう…あ、聞こえちゃうよ…シー」と気も使われてしまう始末なのだ。
今まではそれもあまり気にしていなかったのだけれど…ハルヴァはなんだか突然全てが恥ずかしくなってしまった。
(みんなの目には滑稽に見えていたんだろうな)
距離を取ろうとしている婚約者に空気を読まずに追いすがる私…あの状況で「私!この人に望まれて婚約したんです!」と声高に言ったとて「嘘乙!」と言われてしまうだろう。
最早今すでに嘘だったような気がしている。
妄想なのでは?と
そんなささやかな妄想を握り潰す事実が発覚した。
「ハルヴァ?いいの?大丈夫?あんたの婚約者…この前女の人と二人きりで歩いてたよ?」
昼食を摂るハルヴァとサラの前にやってきた先輩は机に手をついてハルヴァを覗き込むとそう言った。
「え?あ、そ、そうですか」
ハルヴァはどういう反応をすればいいのやらわからなくて困惑した。(これは…どんな感情?どういった顔をすればいいのやら…)
するとハルヴァの反応に先輩は眉を顰めながら「は?いいの?すっごく美人な、兵士服を着た女の人だったけど?ま、あんたとの婚約なんて結局隠れ蓑だったのかもね。相手の女性結婚してたりして!女兵士って結婚早いし」先輩はそう吐き捨てると他の人たちとケラケラ笑いながらその場を去った。
「はー?なんだアイツ…ねえ?ハルヴァ大丈夫?」
すっかり動きを止めてしまったハルヴァにサラがそう話しかけると想像したよりずっとスッキリした顔のハルヴァがぼんやりと先輩が歩いて行った方向を眺めていた。
「……大丈夫?」
「あ、うん。……そうだったんだ」
心配したサラがハルヴァの顔を覗き込むと彼女は頬を少し染めながら「よかった…だから私と婚約したんだ!」と元気に言った。
ハルヴァはこの得体のしれない婚約から解放されてなんともスッキリした心地になった。
そもそも「なぜ自分なのだろう?」と何度思ったことだろう。
(それも全部『隠れ蓑』として使うためならば理解できる!)
婚約してから今までのディオスの態度も本来好いてもいない女性に対してなのだからあのような態度にもなろう、と言うわけだ。
訓練場に来るのを嫌がっていたのもお相手が女性兵士なら当然だろう。自分といるところを見られては隠れ蓑だと知っていても相手は嫌な気分になるものだ。
ハルヴァは清々しい気持ちになった。
もうこれで悩まなくてすむのだ。
今までは『なんで嫌われてしまったのだろう』と気に病んでいたし、気持ちを取り戻したいと躍起になっていたが、なんということはない。彼は元々自分の事など好きではなかったのだ。
(よかったー!)
ハルヴァがニコニコしながら食事を口に放り込むのをサラは心配そうに眺めている。
「ねえ?サラ…私年をとってディオス様が死んで再婚するときに本当の恋をしようかな?」
「ええ!?……そ、そう?それでいいの?」
「…う、うん!楽しみ!それまで修行だと思って我慢する!後50年もしたら…私も男の人に好かれるような素敵な女性になっているんじゃないかな?長生きしよう!健康に気をつける!」
ハルヴァは目をキラキラ輝かせて、同じ年になったであろう退役軍人との恋に思いを馳せた。
仕事から帰るなりお手伝いさんから手渡された手紙にハルヴァはキョトンとした顔を向けた。
「…あの、それが…お名前がなく」
「…うーん…悪口が書かれているかも…私メンタルが弱いので捨てておいてもらえる?ほら…私…人に嫌われがちだから…」
ハルヴァはしょんぼりするとそう言って手紙をお手伝いさんに渡した。
ハルヴァは婚約者を筆頭に嫌われている。
サラは気にせず仲良くしてくれるが、看護長には「のろま」「男好き」と毎回怒られるし他の年上の看護係からも仕事の手順を聞いたら「なんであなたに教えなきゃならないの?」と言われる始末だ。
周りも見て見ぬふりをしてるので恐らくハルヴァがそう言われても仕方がない人物としてみんなに認識されているのだろう。
「あれは言われちゃうよね」と
(仕事ができない私が悪いんだけど…やっぱり辛い)
ハルヴァはそんな中ミスをしないように…とやってはいるのだが、看護長や他の看護係の人を前にするとミスを連発するのだ…そして更にそのミスがミスを生み…ミスのねずみ講パーティーが開催されてしまうのである。
ハルヴァの職場での評価は『使えない馬鹿な女』だ。
サラは「そんなことないよ。ババア共くたばれ」と慰めてくれるけど…ハルヴァはお豆腐メンタルなのでなかなか上手く割り切ることができないでいる。
(特にディオス様と婚約したら酷くなったような…)
ハルヴァはふとそんな考えが思い浮かんでしまい慌てて首を振った。そんな妄想に逃げても仕事ができない事実は変わらないのだ。
冷たくされたくなければ仕事ができるようになればいい、そうわかってはいても…話しかけるたびに冷たく突き返される現状にハルヴァはため息をついた。
(何もかも上手くいかない…仕事も、私生活も…)
しかもおまけに婚約者と全く仲良くないハルヴァに誰が嫉妬するというのか。
現に職場の先輩はハルヴァに聞こえるように「この前訓練場でディオス様に冷たくあしらわれていたわよ」「かわいそう…あ、聞こえちゃうよ…シー」と気も使われてしまう始末なのだ。
今まではそれもあまり気にしていなかったのだけれど…ハルヴァはなんだか突然全てが恥ずかしくなってしまった。
(みんなの目には滑稽に見えていたんだろうな)
距離を取ろうとしている婚約者に空気を読まずに追いすがる私…あの状況で「私!この人に望まれて婚約したんです!」と声高に言ったとて「嘘乙!」と言われてしまうだろう。
最早今すでに嘘だったような気がしている。
妄想なのでは?と
そんなささやかな妄想を握り潰す事実が発覚した。
「ハルヴァ?いいの?大丈夫?あんたの婚約者…この前女の人と二人きりで歩いてたよ?」
昼食を摂るハルヴァとサラの前にやってきた先輩は机に手をついてハルヴァを覗き込むとそう言った。
「え?あ、そ、そうですか」
ハルヴァはどういう反応をすればいいのやらわからなくて困惑した。(これは…どんな感情?どういった顔をすればいいのやら…)
するとハルヴァの反応に先輩は眉を顰めながら「は?いいの?すっごく美人な、兵士服を着た女の人だったけど?ま、あんたとの婚約なんて結局隠れ蓑だったのかもね。相手の女性結婚してたりして!女兵士って結婚早いし」先輩はそう吐き捨てると他の人たちとケラケラ笑いながらその場を去った。
「はー?なんだアイツ…ねえ?ハルヴァ大丈夫?」
すっかり動きを止めてしまったハルヴァにサラがそう話しかけると想像したよりずっとスッキリした顔のハルヴァがぼんやりと先輩が歩いて行った方向を眺めていた。
「……大丈夫?」
「あ、うん。……そうだったんだ」
心配したサラがハルヴァの顔を覗き込むと彼女は頬を少し染めながら「よかった…だから私と婚約したんだ!」と元気に言った。
ハルヴァはこの得体のしれない婚約から解放されてなんともスッキリした心地になった。
そもそも「なぜ自分なのだろう?」と何度思ったことだろう。
(それも全部『隠れ蓑』として使うためならば理解できる!)
婚約してから今までのディオスの態度も本来好いてもいない女性に対してなのだからあのような態度にもなろう、と言うわけだ。
訓練場に来るのを嫌がっていたのもお相手が女性兵士なら当然だろう。自分といるところを見られては隠れ蓑だと知っていても相手は嫌な気分になるものだ。
ハルヴァは清々しい気持ちになった。
もうこれで悩まなくてすむのだ。
今までは『なんで嫌われてしまったのだろう』と気に病んでいたし、気持ちを取り戻したいと躍起になっていたが、なんということはない。彼は元々自分の事など好きではなかったのだ。
(よかったー!)
ハルヴァがニコニコしながら食事を口に放り込むのをサラは心配そうに眺めている。
「ねえ?サラ…私年をとってディオス様が死んで再婚するときに本当の恋をしようかな?」
「ええ!?……そ、そう?それでいいの?」
「…う、うん!楽しみ!それまで修行だと思って我慢する!後50年もしたら…私も男の人に好かれるような素敵な女性になっているんじゃないかな?長生きしよう!健康に気をつける!」
ハルヴァは目をキラキラ輝かせて、同じ年になったであろう退役軍人との恋に思いを馳せた。
1,894
お気に入りに追加
2,405
あなたにおすすめの小説

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」
ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。
学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。
その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる