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番外編2〜もしも〜

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「ねえ、意外と浴衣って暑いよね…ケイタくん知ってた?」迎えに来たケイタの前に現れたのは浴衣を着たマリだった。ケイタは(天使だ…!)と内心思ったけれど声と顔には全く出なかった。
「…そうなんすか?」
「うん…そうなの」
マリのうなじには髪の毛がしっとりと貼りついていてケイタはくらくらしてしまう。なんてかわいらしいんだマリさん…なんだかいい香りがするし…一生幸せにするんだ…!
ケイタはバッキバキにしながらそう誓った。

「ねえ道わかる?私わかんないの」マリはヘラヘラと笑いながらそう言うとごく普通にケイタの手を握った。ケイタはますますバッキバキになったので猫背になって歩くことにしたようだ。
「あ、あの…電車で…」
「電車?えー?ケイタくんと電車?やったー!楽しみだね」マリはとても嬉しそうに笑うとケイタを見上げている。マリは徒歩で通える高校にしてしまったのを後悔する程電車通学に憧れていたのだ。特に彼氏と電車通学なんて夢中の夢だったのだ。
一方ケイタはマリと仲良くなる前は電車通学をしていたのでその恐ろしさを知っていた…そう、朝の電車は恐ろしいのだ。

そして今日は花火大会…車内は混み合うに違いない。
ケイタは邪な思いに支配されてバッキバキだ。「…いてて!痛い!ケイタくん!」ケイタが興奮のあまり強く握ったマリの手が悲鳴を上げている…
ケイタは立ち止まりマリの顔を正面から見つめると「マ…マリさん!お、俺のことは呼び捨てに…」と言った。
「…え?えー!わ、わ、わ、わかった!えへへ。私のこともマリって呼んで?」マリは小首を傾げるとケイタを見たのでケイタのケイタからはケイタ汁がたくさん出て下着がビチャビチャになった。



「ママママママママリ」
「えへへ、ケイタ!」
駅のホームはケイタの思惑通り人で溢れていた。
ケイタはマリとはぐれないようにしっかりと手を繋ぎ「お、俺から離れないで…」と言うとマリは「わかった!」とぴったりくっついてきた。



………

……


ご褒美!!今まで真面目に生きてきたからこれはご褒美だ!!ケイタは心で血の涙を流しながら自身もマリに寄り添った。いい香りがする…
しかし彼はあまり表情筋が動かないタイプだったのではたから見ると少し不機嫌そうに猫背で歩く青年に見えるのであった。

ニコニコ幸せそうに歩く若い女性と不機嫌な若い男性の組み合わせにすれ違う人々は若干心配になった。あのカップルは大丈夫なのだろうか…と

当の本人たちはマリは大好きなケイタと居られて幸せを感じていたしケイタは表情筋が動かず口下手なだけで心の奥底からマリを溺愛していたので全然平気だったのだが。

「うー」
「マリ大丈夫?」

ケイタは扉付近の場所を確保するとマリを扉側に押しやって壁に腕をついた。それでも小さなマリは苦しそうだ。思わず心配になり声を掛ける。「……大丈夫…」「本当?苦しい?」ケイタはマリの顔を覗き込む。
「キャー!ち、違うの…私、ケイタが近くてドキドキしちゃう!」マリはそう言うと固く目をつぶっている。ケイタは胸と股間をドキドキさせながら、一生大切に護って行こう…そう誓った。
「……俺も……」
「え?」
「俺もドキドキします…マリ…」
「ケイタも?じゃあ私たち二人でドキドキしてるね。ははは!ねえ?どうしたらドキドキ治るかな?苦しい」マリは胸にそっと手を置いた。ケイタはマリにもっと密着したい気持ちをぐっと押さえて「……ど、どうでしょうか…」と呟いた。
マリは「あ!」と一言声を上げるとケイタに抱き着いて「こうしたらいいかもー!なんちゃってー!」と楽しそうに笑った。
ケイタはバッキバキだったのでそれがマリに当たりいつ指摘されるかドキドキだったがマリはただケイタの胸に頬を寄せて「ケイタいい匂い…」と呟くだけだった。
マリは呑気にしているがケイタは増えたドキドキが股間にも伝染しただけで苦しさは加速していった。
しかし彼は幸せだった…苦しくても時が止まる事を願う位彼は幸せだった…
ケイタにとって至福の電車タイムはあっという間に終わってしまった。「電車混んでたねーこんなに混んでたら大変だ!私徒歩通学でよかったよー!じゃないとぺちゃんこになってたかも!でもケイタなら大丈夫だよね!背が高いもん!」マリはペラペラと一気に話すとケイタを見上げた。ケイタはそんなマリがかわいらしかったのでこっそりガン見していた。そんな時に目が合ってしまい内心かなり彼は動揺したがそんなケイタの様子にマリは一切気付くこともなく「ケイタって鼻高いねー!いいなー!」と呑気に言った。
ケイタはマリと電車通学することになっていた世界線も悪くない…いや、めちゃくちゃいい、むしろ今からそうならないだろうかと考えていたけれどいつしか理性が負けてなんだか如何わしいことをしてしまう予感がして(やはりこれでよかったのだ…)と静かに頷いた。


「マリお菓子買う?」
「買う買う!」コンビニの前でマリが嬉しそうに笑った。ケイタは自分の財布の中身を想像して、また長期休暇には部活が終わったら短期バイトをしようと心に決めていた。
マリが食べたい物を全部買ってあげよう…

「なんでも買っていいよ」
「えー!……じゃあ……これ」マリは控えめな様子で一つのグミをとった。カラフルなくまのグミだ。
ケイタはもはやそれすらもかわいらしいかったので脳がグニャグニャになった。しかし彼は表情筋が動かないタイプだったのでケイタ以外誰もその感情には気付くことはなかったのだ。

「じゃあ私もお返しにケイタに買ってあげる!」
「いや、いいッス…」
「なんで?私今バイトしてるからお金持ちなんだよー!ケイタは何が好きなの?なんでもマリさんが買ってあげるよ!」マリはドン…と拳で胸を叩くとにっこり微笑んだ。
ケイタが心の中で(俺が好きなのはマリ…あなたです)と思いながら缶コーヒーを手に取り「自分で買うから大丈夫…また今度はマリが出して」と彼女の手をぎゅっと握った。

「えー?」

そんなケイタの内心はつゆ知らずマリは申し訳なささに思わず疑問形の声を上げるのだったが(またこうしてデートしてくれるってことだからいいか!)とにっこり笑った。





「あー!ケイタ!ケイタ!始まっちゃうよー!」
「マリ…転ぶよ」
ケイタには走れない事情があったのだが、そんなことは知らないマリが早く早くと先を行く。ケイタはマリが転ぶのでは?と気が気ではなかった。
なぜかマリは転ぶような気がするのだ。
なんだか彼女はそんな気がする…
「ワー!」案の定躓いたマリをケイタは腕を掴んで救出する。
「危ないよ。マリ」ケイタは自分と全然違うマリの柔らかさに内心興奮していた。「ケイタって固くて…私と全然違うよね。助けてくれてありがと」マリはおっちょこちょいな自分が恥ずかしいのと頼もしく腕を支えてくれたケイタがかっこよくて顔を赤くした。
ケイタはそれだけでもう白米が三杯食べられる程嬉しかったのだが、彼は表情筋があまり動かないタイプだったのでそれは誰にも伝わらずまた言葉にもならなかった。
マリは全然気にしていない様子で先ほどのケイタのかっこよさを何度も繰り返し脳内再生して身体をクネクネさせていたのだった。

「……あ」

人混みの中でマリがクネクネしてそれをケイタが興奮しながらガン見している間にパーンと花火が上がる音がした。

ケイタはマリが上げた声に空を見上げた。
夜の空に花が咲いてパラパラ落ちた。
「あー…ごめん!私のせいで始まっちゃった」マリは空を見上げながら申し訳なさそうに眉を下げている。
ケイタはまた上がった花火に照らされたマリの顔をずっと眺めた。こうしてずっと一緒にいられたなら俺は世界で一番の幸せ者だと自称できるだろう。と思いながら「マリのせいじゃないよ」とポツリと呟き額にキスをした。

なんのことはない。
彼女のツヤツヤとした額が愛おしくてたまらなかったからだ。

ケイタは次の瞬間に目を丸くして自分を見つめるマリと目が合った。ケイタが思わず謝ろうと口を開くと「ケイタ…顔真っ赤だよ!珍しい!」と目を瞑ると口を尖らせたので二人は人混みの中花火をバックに初めてのキスをした。

それはただ触れ合うだけの幼いものだったがそれでもケイタを興奮させるには充分だった。








二人はそれからデートを重ねてマリは高校を卒業した。
二人の関係は時折キスをする以外はプラトニックなものでよく周りからからかわれた。
「ケイター!!」
「マリ」
ケイタは部活を引退してからというものマリの仕事が終わる頃には職場の前で待機するというルーティンが出来上がっていた。
夜道を独り歩きさせる不安も然ることながら、何よりもマリに変な男が寄り付かないようにしたかったのだ。

「んー…」
マリが就職してからというもの…二人のキスは触れ合うだけのものから舌を絡み合わせるものへと変わっていた。
ケイタはマリが時折漏らすため息にも似た声に興奮して鼻息が荒くなっていくのを感じた。
同級生で彼女がいる男子は皆、もう初体験をすませている。
来月18歳になるケイタはそろそろ自分もいいのではないか…そう考えていた。
マリが立っていられない位に腰を砕けさせた頃にケイタはようやく口を離す。そして彼女を抱きしめると首すじの匂いを嗅いだ後「マリ…夏休み泊まりで旅行しない?」と提案するのだった。

ケイタはもうバッキバキだった。
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