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「キヨさんー!」
イトの声に黄色い着物に髪を美しく結い上げた女性が振り返る。
「イト!出て来れたか!よかったなぁ」
「持たせた?ごめんね」
イトは肩でゼエゼエと息をすると後ろを振り返る。
灯りがポツポツと道を照らしている。
「オレが女だってみんな知ってたか?」
「うん!お義父さんもお義母さんもだから良いって言ってくれたと思う!」
「まあ、若い大工はあそこにはオレしかいないからな」キヨは着物の両袖に腕を入れるとうん、うん、と頷いている。
「キヨはなんで大工に?女の人珍しいよね?」
「……いや、オレは親方に助けてもらったんだ」キヨは真っ直ぐ前を見てそう言った。「動けなくなって…なくなりそうだったオレを……親方が助けてくれたんだ。回復するまで休ませてくれて……こうして気色悪いべべも着せてくれる……頭が上がんねえよ、だからたまにこうして親方がしんどい時手伝いに来てるんだ」キヨは顔を歪ませると着物の襟を軽く引っ張り「うえー」と舌を出した。
イトはそんなキヨを見てどんな顔をしていいかわからなくて曖昧に笑った。
「……そんな顔すんなよ。幸せな話だ。オレは自由になったんだ!これは、ハッピーエンド!笑うんだ、そういうときはさ!」キヨは両手を広げるとイトの脇をくすぐった。
「ギャーハハハハハハ!」
「はははは!イト!面白いか!」
「や、や、やめ……ギャハハハ!」
「人面様かぁ、いるのかねぇ?そんなもの……ただの面を被った変人なんじゃねえのか?」
キヨはイトをくすぐるのに飽きたようで手を頭の後ろで組むとのんびりそう言った。
「人面様じゃないけど……何か護ってくれるものはいるかもしれない。私ね、ナキコの頃…沢山助けてくれた友人がいたの」イトはなんとなくそう呟いた。
「お前が先に助けたんじゃないのか?……その友人を」
「……どうだったかな?覚えてない…
でも、あの時の私にできることは水を飲ませてあげるくらいだよ。……助けになるかな?」
灯りがポツリ、ポツリと道を示している。
「……イト、お前はナキコだった。でも……今は違う」
「……うん……」
「言いなりにならなくていいんだ。嫌なら逃げたって」
「……うん」
「幸せになる。お前は……イトはかわいいよ」
ちょうどその時、灯りが途切れてヤタイが現れた。
「ほら、イト!あそこにお焼きがあるよ!」
「オヤキ?見たい!見たい!」
屋台は簡単な屋根があるだけのお店でイトはワクワクした。
どのお店も灯りをたくさん灯している。
「約束だからね!どれがいい?しょっぱいのもあるよ?」
「えーと、えーと!えーと、えとえと……甘いの」
ザザザ……
放送の音が乱れた。
突然消えた祭囃子に皆、なんとなく耳を傾けた。
「迷子のお知らせをいたします。ホウジョウ イト ホウジョウ イトという20代の女性を探しております。真っ白な肌に艷やかな髪で……ぷ、と、とてもとてもとてもとても可愛らしい女性だそうで……ふふふ、あ、す、すみません、水色の着物が世界一似合う……ふ、ふふふ」
アナウンス係の人が思わず笑っている。
「はははは、へんなのー」
「イト……あんたのことなんじゃないの?この放送……」ケラケラと笑うイトをキヨが馬鹿を見るような目で見てる。
「え?私ホウジョウイトっていうの?」
その時成人男性が騒ぎ立てるような声が聞こえたのでイトは(恥ずかしい大人がいるもんだ)とそちらを見た。
「あ、あの!女性を見ませんでしたか?すごく可愛らしいのですぐわかると思うんです!!」
その男は人混みの中誰かを探しているようであたり構わず声を掛けているようだ。
「この村で一番かわいくてキレイなんです!それが俺の妻でして!」
(なんと恥ずかしい男だ……妻がかわいそう)
イトが妻に同情しているとその男はなんとシュンスケではないか!
「…………」
「あ!いた!いた……いましたー!いました……イトぉ……捨てないでぇ……」
「ひ、人違い!人違いです!」
「イト……俺がお前を見間違えるわけがないだろうぅうう……なんであんなに冷たい態度を取るんだあ……うぅ……ううー」シュンスケはイトの着物の裾に縋りつくとしくしく泣き始めた。
遠巻きに人々がこちらに注目している……
あれがとてもとてもとてもとても可愛らしい女性、ホウジョウイトさんよ……と
「うわーーーーー!」イトの顔から火が出た。
「キヨ……ごめんね」
イトはシュンスケを引きずると人気のないところまでやってきた。キヨは気にすんなよ、とお店の人がくれたというお焼きを半分に分けてくれた。
キヨはそれだけではなく腕に大量の食べ物を抱えている。
他も勧められたがイトはあまりたくさん食べられないのでおやきだけを貰った。
イトはそれを更に半分に割るとシュンスケの前に差し出して「どうぞ」と言った。彼はべそべそと泣きながらそれを受け取ると「う……あ、ありがとう……じょ、女性だったのか…………でも……君は出て行くのだろう……」と再び泣き出した。
イトは自分の隣に座るようにシュンスケに言うとそっと背中を撫でた。「……出て行かないです……」とシュンスケに言って彼の鼻水をハンカチで拭う。
「え?」
「出て行っても行くところが……ありません」
「…………で、出ては行きたいのか……」
「……」
「……」
二人は向き合うと暫し無言になった……
「そらぁ、他に女がいるような旦那じゃあなぁ」キヨがパクパクとお焼きを食べながら呑気に言った。
「ええ!?」
イトは肩をビクつかせた。
シュンスケが変な声を出したからだ。
「おめえのことだろ!旦那め、こんなかわいい嫁さんがいるのに他の女に現ぬかしやがってぇ。お前はイトの旦那失格だ!屑め!お前なんかにイトをやるんじゃなかった」キヨはどっかりとあぐらをかくと食べかけのお焼きを利用してシュンスケを指している。
シュンスケが不思議そうな顔をしていたのでイトが「あのー……この前……サツキさんとキスをしたり……交わったりしてましたよねぇ?」と言うとシュンスケが絶望したような顔でイトを振り返った。
イトの声に黄色い着物に髪を美しく結い上げた女性が振り返る。
「イト!出て来れたか!よかったなぁ」
「持たせた?ごめんね」
イトは肩でゼエゼエと息をすると後ろを振り返る。
灯りがポツポツと道を照らしている。
「オレが女だってみんな知ってたか?」
「うん!お義父さんもお義母さんもだから良いって言ってくれたと思う!」
「まあ、若い大工はあそこにはオレしかいないからな」キヨは着物の両袖に腕を入れるとうん、うん、と頷いている。
「キヨはなんで大工に?女の人珍しいよね?」
「……いや、オレは親方に助けてもらったんだ」キヨは真っ直ぐ前を見てそう言った。「動けなくなって…なくなりそうだったオレを……親方が助けてくれたんだ。回復するまで休ませてくれて……こうして気色悪いべべも着せてくれる……頭が上がんねえよ、だからたまにこうして親方がしんどい時手伝いに来てるんだ」キヨは顔を歪ませると着物の襟を軽く引っ張り「うえー」と舌を出した。
イトはそんなキヨを見てどんな顔をしていいかわからなくて曖昧に笑った。
「……そんな顔すんなよ。幸せな話だ。オレは自由になったんだ!これは、ハッピーエンド!笑うんだ、そういうときはさ!」キヨは両手を広げるとイトの脇をくすぐった。
「ギャーハハハハハハ!」
「はははは!イト!面白いか!」
「や、や、やめ……ギャハハハ!」
「人面様かぁ、いるのかねぇ?そんなもの……ただの面を被った変人なんじゃねえのか?」
キヨはイトをくすぐるのに飽きたようで手を頭の後ろで組むとのんびりそう言った。
「人面様じゃないけど……何か護ってくれるものはいるかもしれない。私ね、ナキコの頃…沢山助けてくれた友人がいたの」イトはなんとなくそう呟いた。
「お前が先に助けたんじゃないのか?……その友人を」
「……どうだったかな?覚えてない…
でも、あの時の私にできることは水を飲ませてあげるくらいだよ。……助けになるかな?」
灯りがポツリ、ポツリと道を示している。
「……イト、お前はナキコだった。でも……今は違う」
「……うん……」
「言いなりにならなくていいんだ。嫌なら逃げたって」
「……うん」
「幸せになる。お前は……イトはかわいいよ」
ちょうどその時、灯りが途切れてヤタイが現れた。
「ほら、イト!あそこにお焼きがあるよ!」
「オヤキ?見たい!見たい!」
屋台は簡単な屋根があるだけのお店でイトはワクワクした。
どのお店も灯りをたくさん灯している。
「約束だからね!どれがいい?しょっぱいのもあるよ?」
「えーと、えーと!えーと、えとえと……甘いの」
ザザザ……
放送の音が乱れた。
突然消えた祭囃子に皆、なんとなく耳を傾けた。
「迷子のお知らせをいたします。ホウジョウ イト ホウジョウ イトという20代の女性を探しております。真っ白な肌に艷やかな髪で……ぷ、と、とてもとてもとてもとても可愛らしい女性だそうで……ふふふ、あ、す、すみません、水色の着物が世界一似合う……ふ、ふふふ」
アナウンス係の人が思わず笑っている。
「はははは、へんなのー」
「イト……あんたのことなんじゃないの?この放送……」ケラケラと笑うイトをキヨが馬鹿を見るような目で見てる。
「え?私ホウジョウイトっていうの?」
その時成人男性が騒ぎ立てるような声が聞こえたのでイトは(恥ずかしい大人がいるもんだ)とそちらを見た。
「あ、あの!女性を見ませんでしたか?すごく可愛らしいのですぐわかると思うんです!!」
その男は人混みの中誰かを探しているようであたり構わず声を掛けているようだ。
「この村で一番かわいくてキレイなんです!それが俺の妻でして!」
(なんと恥ずかしい男だ……妻がかわいそう)
イトが妻に同情しているとその男はなんとシュンスケではないか!
「…………」
「あ!いた!いた……いましたー!いました……イトぉ……捨てないでぇ……」
「ひ、人違い!人違いです!」
「イト……俺がお前を見間違えるわけがないだろうぅうう……なんであんなに冷たい態度を取るんだあ……うぅ……ううー」シュンスケはイトの着物の裾に縋りつくとしくしく泣き始めた。
遠巻きに人々がこちらに注目している……
あれがとてもとてもとてもとても可愛らしい女性、ホウジョウイトさんよ……と
「うわーーーーー!」イトの顔から火が出た。
「キヨ……ごめんね」
イトはシュンスケを引きずると人気のないところまでやってきた。キヨは気にすんなよ、とお店の人がくれたというお焼きを半分に分けてくれた。
キヨはそれだけではなく腕に大量の食べ物を抱えている。
他も勧められたがイトはあまりたくさん食べられないのでおやきだけを貰った。
イトはそれを更に半分に割るとシュンスケの前に差し出して「どうぞ」と言った。彼はべそべそと泣きながらそれを受け取ると「う……あ、ありがとう……じょ、女性だったのか…………でも……君は出て行くのだろう……」と再び泣き出した。
イトは自分の隣に座るようにシュンスケに言うとそっと背中を撫でた。「……出て行かないです……」とシュンスケに言って彼の鼻水をハンカチで拭う。
「え?」
「出て行っても行くところが……ありません」
「…………で、出ては行きたいのか……」
「……」
「……」
二人は向き合うと暫し無言になった……
「そらぁ、他に女がいるような旦那じゃあなぁ」キヨがパクパクとお焼きを食べながら呑気に言った。
「ええ!?」
イトは肩をビクつかせた。
シュンスケが変な声を出したからだ。
「おめえのことだろ!旦那め、こんなかわいい嫁さんがいるのに他の女に現ぬかしやがってぇ。お前はイトの旦那失格だ!屑め!お前なんかにイトをやるんじゃなかった」キヨはどっかりとあぐらをかくと食べかけのお焼きを利用してシュンスケを指している。
シュンスケが不思議そうな顔をしていたのでイトが「あのー……この前……サツキさんとキスをしたり……交わったりしてましたよねぇ?」と言うとシュンスケが絶望したような顔でイトを振り返った。
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