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工事の人にはやかんにお茶を、ナキコの皆には握り飯と汁物を……
「トメちゃん!」
「イト!元気そうだね」
トメは額の汗を拭うとこちらに駆けてきて荷物を持つのを手伝ってくれた。
みんなで廃材に座りながら握り飯を食べる。
イトも久しぶりにゆっくりとした昼食だ。
「イトは外の人だから……祭り行くの?」
「祭り?」
トメはイトの口の端についた米粒を取ると口にそれを入れた。
「ほら、チイレ祭り」
「チイレ祭り?」
「この前は人面様が北から南へ移動する祭りでしょ?今回はその人面様に血を入れる祭り!ヤタイが出るってよ?それに先に誘われた人と絶対に行かなきゃ行けないんだって」
「ヤタイ……」
「まあ、私も知らないけど……ヤタイ」
「へー?はははは!トメちゃんしってるかと思った」「あはははは!知ったかぶりしたの!何にも知らない!だってナキコだもの」「あはは!私も」イトとトメは二人で笑い合った。
ねえ、もし行けたらヤタイなんだったのか教えて?
トメがそう言ったが……(多分無理だろうな……)とイトはぼんやりしながらお盆を持って歩いた。
だってどうやって外に出ると言うのか……
お金もないし、それにどこでやっているのかもわからない。
勝手口をそっと開けてなんとなく居間を覗くと
サツキが仰向けになったシュンスケの腰に乗っている現場を見た。
イトはお盆を落とさないようにするのが精一杯でカタカタとロボットのように流しにそれを置いた。
(シュンスケは皆の物、シュンスケは皆の物……)
ガチャガチャと洗い物をしているとサツキが「わ!」とイトに驚いたような声を上げた。「あちゃー!イトさん……見た?」
「……あー……見ました」イトは嘘をついてもなー……と手を動かしながら正直に言った。
「げー、どこから見てた?キスしてるの見た?」
軽い調子でサツキがそう言うのを聞いてイトは内心頭を金槌で殴られたような気分になった。
「それは見ていまいです……」
ショックすぎて滑舌が崩壊した。
「あはははは!そっか!ま、気にしないでよ!うちら兄妹みたいなもんだからさ!」
イトは外の世界は近親相姦が当たり前なのか……と絶望した。
「……あ、はははは、そうなんですね、ははははは」
「イ、イト!?」シュンスケが慌てたように台所に駆け込んできた。「あー、私から話しておいたから」
サツキがケラケラとそう言うと「そ、そうか?イトはあの……」
「あー……、私気にしてません!」シュンスケがイトの表情を探るように見てきたのでイトはそう答えた。
シュンスケはホッとしたように表情を和らげると「それは……よかった」と呟いて一旦玄関から出て行ったシュンスケだったが、少し間を置いて戻って来たので少しだけイトとシュンスケは二人きりになった。
シュンスケはイトの手を握ると「ほ、本当にアイツからちゃんと聞いたか?」と尋ねてきたので「二人は兄妹みたいなものだと……」とイトは答えた。
シュンスケは肩の力を再び抜くと「ちょっと、過激になってしまっただけなんだ」とイトに告げた。
(過激に!)
「そ、そうでしたか……」
なんだかイトはシュンスケの手が汚らしく感じたのでさり気なく手を振り払う。その時、ちょうどシュンスケの背後で硝子戸が開いて般若が登場した。
しかしイトは全然よくなかったので般若からチクチクとなぜ二人で玄関にいたのか問い詰められている間、頭の中をシュンスケとサツキの事がずーっとグルグルしていたのだった。
(あれは何をしていたんだろう……シュンスケは誰とでもキスをするの!?)イトは実際に見てしまうのと想像するのとでは心に大きなダメージの差があることを知った。
次の日、朝シュンスケは起きてこなかった。
イトは泣きそうな気分で石炭を納屋から運んで泣きそうな気分で部屋を温めている間にポロポロと泣いた。
(シュンスケはもう私よりサツキさんが良くなっちゃったんだ。だからもう朝の支度を手伝ってくれないんだ…)
この前はきっと男女の交わりをしていたに違いない。
今考えるとサツキさんは軽く腰を揺らしていた気もするし……
イトは不謹慎にもシュンスケが入ってきた心地よさを思い出して子宮をキュンキュンさせてしまった。
(いいな……サツキさんはシュンスケのを入れてもらえたんだ)
イトは炬燵から行火を取り出すと泣きながら石炭を入れた。
ぽかぽか温かい火がイトの涙を揺らす。
イトはしくしく泣きながらお米を洗って水に浸して、それが終わったら残飯を集めて、しくしく泣きながら鶏のお世話をしてくるぶしを鶏に食べられた。
くるぶしを食べられつつ、しくしく泣きながら小屋を箒で掃いていると鶏が集まってきた。
「……ずずっ……」鼻をすする音が生々しい。
コッコッコッコッ……と静かに鳴きながら鶏がイトの周りをぐるぐる囲う。「ごはん……あっちだよ?」イトはズルズルと涙と鼻水を啜りながら鶏を撫でた。
鶏たちはコッコッ……コッコッ……と鳴きながらイトに寄り添ってきたのでイトはまたしくしくと泣いた。
初めからイトには何もなかった。
ナキコだったから誰にも相手にされていなかった。
ナキコ同士少し交流もあったが、ナキコは無い人なので存在していなかった。
シュンスケと結婚してもそうだった。
どうせ姉の代わりの元ナキコだ。
相手にされるはずがないのだ。
でも違った。
シュンスケはイトを人間として扱ってくれたのだ。
イトは人間になってしまった。
人間としてシュンスケからたくさんのものを貰った。
何もないのが今までは辛くて寂しかった。
何か欲しいといつも思っていた。
人間になってしまった。
ナキコから人間に。
イトは今貰えたものが全て指の隙間からスルスル滑り落ちて行く気がした。手に入れて幸せを知ってしまった分、イトの悲しみは大きかった。
「こんな気持ちになるのなら……いらなかった……」
イトはしくしく泣きながらそう言うと鶏に身を寄せた。
鶏は本能なのかなんなのかイトの頭をツンツンツンツン突付いたのでイトはなんだか面白くて泣きながら笑った。
「トメちゃん!」
「イト!元気そうだね」
トメは額の汗を拭うとこちらに駆けてきて荷物を持つのを手伝ってくれた。
みんなで廃材に座りながら握り飯を食べる。
イトも久しぶりにゆっくりとした昼食だ。
「イトは外の人だから……祭り行くの?」
「祭り?」
トメはイトの口の端についた米粒を取ると口にそれを入れた。
「ほら、チイレ祭り」
「チイレ祭り?」
「この前は人面様が北から南へ移動する祭りでしょ?今回はその人面様に血を入れる祭り!ヤタイが出るってよ?それに先に誘われた人と絶対に行かなきゃ行けないんだって」
「ヤタイ……」
「まあ、私も知らないけど……ヤタイ」
「へー?はははは!トメちゃんしってるかと思った」「あはははは!知ったかぶりしたの!何にも知らない!だってナキコだもの」「あはは!私も」イトとトメは二人で笑い合った。
ねえ、もし行けたらヤタイなんだったのか教えて?
トメがそう言ったが……(多分無理だろうな……)とイトはぼんやりしながらお盆を持って歩いた。
だってどうやって外に出ると言うのか……
お金もないし、それにどこでやっているのかもわからない。
勝手口をそっと開けてなんとなく居間を覗くと
サツキが仰向けになったシュンスケの腰に乗っている現場を見た。
イトはお盆を落とさないようにするのが精一杯でカタカタとロボットのように流しにそれを置いた。
(シュンスケは皆の物、シュンスケは皆の物……)
ガチャガチャと洗い物をしているとサツキが「わ!」とイトに驚いたような声を上げた。「あちゃー!イトさん……見た?」
「……あー……見ました」イトは嘘をついてもなー……と手を動かしながら正直に言った。
「げー、どこから見てた?キスしてるの見た?」
軽い調子でサツキがそう言うのを聞いてイトは内心頭を金槌で殴られたような気分になった。
「それは見ていまいです……」
ショックすぎて滑舌が崩壊した。
「あはははは!そっか!ま、気にしないでよ!うちら兄妹みたいなもんだからさ!」
イトは外の世界は近親相姦が当たり前なのか……と絶望した。
「……あ、はははは、そうなんですね、ははははは」
「イ、イト!?」シュンスケが慌てたように台所に駆け込んできた。「あー、私から話しておいたから」
サツキがケラケラとそう言うと「そ、そうか?イトはあの……」
「あー……、私気にしてません!」シュンスケがイトの表情を探るように見てきたのでイトはそう答えた。
シュンスケはホッとしたように表情を和らげると「それは……よかった」と呟いて一旦玄関から出て行ったシュンスケだったが、少し間を置いて戻って来たので少しだけイトとシュンスケは二人きりになった。
シュンスケはイトの手を握ると「ほ、本当にアイツからちゃんと聞いたか?」と尋ねてきたので「二人は兄妹みたいなものだと……」とイトは答えた。
シュンスケは肩の力を再び抜くと「ちょっと、過激になってしまっただけなんだ」とイトに告げた。
(過激に!)
「そ、そうでしたか……」
なんだかイトはシュンスケの手が汚らしく感じたのでさり気なく手を振り払う。その時、ちょうどシュンスケの背後で硝子戸が開いて般若が登場した。
しかしイトは全然よくなかったので般若からチクチクとなぜ二人で玄関にいたのか問い詰められている間、頭の中をシュンスケとサツキの事がずーっとグルグルしていたのだった。
(あれは何をしていたんだろう……シュンスケは誰とでもキスをするの!?)イトは実際に見てしまうのと想像するのとでは心に大きなダメージの差があることを知った。
次の日、朝シュンスケは起きてこなかった。
イトは泣きそうな気分で石炭を納屋から運んで泣きそうな気分で部屋を温めている間にポロポロと泣いた。
(シュンスケはもう私よりサツキさんが良くなっちゃったんだ。だからもう朝の支度を手伝ってくれないんだ…)
この前はきっと男女の交わりをしていたに違いない。
今考えるとサツキさんは軽く腰を揺らしていた気もするし……
イトは不謹慎にもシュンスケが入ってきた心地よさを思い出して子宮をキュンキュンさせてしまった。
(いいな……サツキさんはシュンスケのを入れてもらえたんだ)
イトは炬燵から行火を取り出すと泣きながら石炭を入れた。
ぽかぽか温かい火がイトの涙を揺らす。
イトはしくしく泣きながらお米を洗って水に浸して、それが終わったら残飯を集めて、しくしく泣きながら鶏のお世話をしてくるぶしを鶏に食べられた。
くるぶしを食べられつつ、しくしく泣きながら小屋を箒で掃いていると鶏が集まってきた。
「……ずずっ……」鼻をすする音が生々しい。
コッコッコッコッ……と静かに鳴きながら鶏がイトの周りをぐるぐる囲う。「ごはん……あっちだよ?」イトはズルズルと涙と鼻水を啜りながら鶏を撫でた。
鶏たちはコッコッ……コッコッ……と鳴きながらイトに寄り添ってきたのでイトはまたしくしくと泣いた。
初めからイトには何もなかった。
ナキコだったから誰にも相手にされていなかった。
ナキコ同士少し交流もあったが、ナキコは無い人なので存在していなかった。
シュンスケと結婚してもそうだった。
どうせ姉の代わりの元ナキコだ。
相手にされるはずがないのだ。
でも違った。
シュンスケはイトを人間として扱ってくれたのだ。
イトは人間になってしまった。
人間としてシュンスケからたくさんのものを貰った。
何もないのが今までは辛くて寂しかった。
何か欲しいといつも思っていた。
人間になってしまった。
ナキコから人間に。
イトは今貰えたものが全て指の隙間からスルスル滑り落ちて行く気がした。手に入れて幸せを知ってしまった分、イトの悲しみは大きかった。
「こんな気持ちになるのなら……いらなかった……」
イトはしくしく泣きながらそう言うと鶏に身を寄せた。
鶏は本能なのかなんなのかイトの頭をツンツンツンツン突付いたのでイトはなんだか面白くて泣きながら笑った。
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