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「でもイトさん?サツキさんも来るようよ?」台所で二人きりになると義母がそっと囁いてきた。
「え?いいんですかね?私後ろにコッソリついて回りますね!あまり目立たないように!」
義母の言葉にイトは味噌汁をかき混ぜながらそう言って笑った。
(あー!楽しみ……)
「でもイトさん?お出かけする服は持ってるの?こんな……みすぼらしい格好では……ねぇ?」義母はゴミをみるような目でイトを見るとそう言った。
イトはその時初めて
『服を買いに行く服がない』を自覚したのだった。
(えー?この格好じゃ駄目なの!?お出かけ……ハードルが高い)
イトはガックリと項垂れた。
(じゃあ一生無理だよー!だってこれが一番上等なんだもん…!なーんだ……残念。でも仕方がないかー……)
「シュンスケ?イトさんはやっぱり行かないって」
「え?なぜ?」
「それがねえ……服がこれより上等なものはないからお出かけは遠慮する……ですって?まあ、そうよねぇ、女性だもの……」
イトは朝食の場でがっくりと項垂れた。
(あーあ、行きたかったなぁ……)
「……服くらい買ってやれ」
いつもはいるかいないかわからないくらい存在感のない義父がぽつりと呟いた。
「え?」
「妻の服くらい買ってやれ」
「……だから今回買おうかと……」
「じゃあ出かける服はどうする?嫁に恥をかかせるのか?それとも嫁が恥ずかしいと感じている服で行かせるのか」
「…………」シュンスケは義父の強い口調に思わず無言を貫いている。(あ、あのー!別に私は恥ずかしくないんだけどなー)と言う雰囲気でもなく……
「第一……誘われていない」
義父はそうぽつりと言った。
「みんなで……と言っていたが私は誘われていない」義父はとても寂しそうに唇を尖らせた。
「すみません父さん、勿論父さんも一緒に……当然行くと思ってたんですよ…申し訳ない」シュンスケは義父に向かって軽く頭を下げるとイトの方を見て言った。
「外出用の服は……買ってあるんだ。サイズがわからんから和装だが……すまん、言うタイミングが……その、どうやって渡そうかと…」
「え?いえいえ……私に新品の服なんて」
「もう買ってしまったから気にするな、後で着てみてくれ……」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ……
(ああ、嫌な音……きっと般若の歯を擦り合わせる音に違いない……そのまま歯が減って、寿命が縮まるといいんだけど)
「こ、こんな上等な物を……いただいて……」
イトは今まで着たことがないくらいしっかりした生地の着物に動揺した。
上等すぎて着方が間違えているような気がする……
「……似合うな」シュンスケはそう言うとイトにコートを着せた。
首元がモコモコしていて温かい……
「すまんな、勝手に買って……」
「ええ!?全然……なんだかすみません。ありがとうございます」
シュンスケも今日はいつもより上等そうな着物を着ている。
仕事に行くときはいつも洋装なのでなんだか違和感がある。
「旦那様もお似合いですね」
「…………」
イトが軽口を叩くとシュンスケは黙ってしまった。
(あー!ごめんごめんごめん!間違えた!あー!ムズい!外の世界ムズい!)
イトが謝ろうと口を開くと玄関の扉が開く音がした。
「サツキさんでしょうか?行きましょう」イトはシュンスケに部屋から出るように促すと襖を後ろ手で閉めた。そこにすかさず義母がやってきて(二人きりの時間が長かったかな?)とイトが内心自分の浅はかさを悔やんでいると
「イトさん、シュンスケと何かしてないでしょうね……」と義母が言ってきたのだ。
「……なにか?なにをするんですか?旦那様と私が?」イトがいつもと形式が違う義母からの質問にぽかんと口を開けると義母は顔を真っ赤にして俯いた。
「お義母さん?え?なに?なんで顔を赤くしているのですか?なんで?」
「や、やめなさい!端ない!ほら!行くわよ!」
「え?なんで?なに?なになに?」
イトは義母と義父を交互に見たけれど義母は顔を真っ赤に染めて義父は苦笑いしている。
(……?なに!?外の世界むずー!)
「イトさん!早く来なさいな!ったくもー!トロ臭いんだからー!」
義母は商店街の入口でキョロキョロしているイトに手招きすると嫌な感じのことを言った。イトは義母をよりイライラさせるためにゆっっくり歩くことにしたのだ。
「罰が当っちゃった?」
そんな嫌がらせをしているといつの間にか人の波に飲まれて一人ぼっちになってしまった。
イトはガヤガヤとたくさんの人が行き交う商店街で少し絶望したが、(どうせ迷子になってるのは変わらないんだし)と呑気に商店街を探索することにした。
「わー……床は……畳じゃなーい」
イトは地面を観察すると石のようなもので出来た床を踏みしめた。(やっぱり夢は想像を越えてはこないけど……現実って知らないことばかりだ!)イトはそれに感動すると商店街を眺めた。
沢山の建物がくっついて並んでいる。
イトは一番最初にあるお肉屋さんを外から眺めた。
(ぶ、た、に、く)
(ぎ、ゆ、う、に、く)
(片仮名?読めない!)
ガラスのケースのようなものにお肉がたくさん入っている。
(またお肉屋さん?)
イトはそう思って隣の店を見たけれど店名が片仮名と漢字で読めない。(さっきのお店は(に)(く)漢字だったからわかりやすかったのになぁ)イトがひょこっとそのお店を覗くとどこからともなく成人男性が騒いでいる声がする。
「いやいやいやいや!大人!大人の女性なんです!いやいやいや!子どもではなくて!」
「子どもじゃない?大人ですか?では自宅に帰っているんじゃないの?」警護員であろう人が困っている。
「か、帰れない……帰れないんです彼女は!ああ……ゆ、誘拐!誘拐されていたらどうしよう……あああああ!」
「だーかーら……落ち着いてくださいな。成人女性なんですよね?」
イトは(なんて恥ずかしい男性なのかしら?私なんて迷子になった成人女性だけどこんなに落ち着いているというのに)そんな恥ずかしい大人はどんな顔をして喚いているのだろうか見てやるとしよう……と振り返るとそれは思いっきりシュンスケだった。
「え?いいんですかね?私後ろにコッソリついて回りますね!あまり目立たないように!」
義母の言葉にイトは味噌汁をかき混ぜながらそう言って笑った。
(あー!楽しみ……)
「でもイトさん?お出かけする服は持ってるの?こんな……みすぼらしい格好では……ねぇ?」義母はゴミをみるような目でイトを見るとそう言った。
イトはその時初めて
『服を買いに行く服がない』を自覚したのだった。
(えー?この格好じゃ駄目なの!?お出かけ……ハードルが高い)
イトはガックリと項垂れた。
(じゃあ一生無理だよー!だってこれが一番上等なんだもん…!なーんだ……残念。でも仕方がないかー……)
「シュンスケ?イトさんはやっぱり行かないって」
「え?なぜ?」
「それがねえ……服がこれより上等なものはないからお出かけは遠慮する……ですって?まあ、そうよねぇ、女性だもの……」
イトは朝食の場でがっくりと項垂れた。
(あーあ、行きたかったなぁ……)
「……服くらい買ってやれ」
いつもはいるかいないかわからないくらい存在感のない義父がぽつりと呟いた。
「え?」
「妻の服くらい買ってやれ」
「……だから今回買おうかと……」
「じゃあ出かける服はどうする?嫁に恥をかかせるのか?それとも嫁が恥ずかしいと感じている服で行かせるのか」
「…………」シュンスケは義父の強い口調に思わず無言を貫いている。(あ、あのー!別に私は恥ずかしくないんだけどなー)と言う雰囲気でもなく……
「第一……誘われていない」
義父はそうぽつりと言った。
「みんなで……と言っていたが私は誘われていない」義父はとても寂しそうに唇を尖らせた。
「すみません父さん、勿論父さんも一緒に……当然行くと思ってたんですよ…申し訳ない」シュンスケは義父に向かって軽く頭を下げるとイトの方を見て言った。
「外出用の服は……買ってあるんだ。サイズがわからんから和装だが……すまん、言うタイミングが……その、どうやって渡そうかと…」
「え?いえいえ……私に新品の服なんて」
「もう買ってしまったから気にするな、後で着てみてくれ……」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ……
(ああ、嫌な音……きっと般若の歯を擦り合わせる音に違いない……そのまま歯が減って、寿命が縮まるといいんだけど)
「こ、こんな上等な物を……いただいて……」
イトは今まで着たことがないくらいしっかりした生地の着物に動揺した。
上等すぎて着方が間違えているような気がする……
「……似合うな」シュンスケはそう言うとイトにコートを着せた。
首元がモコモコしていて温かい……
「すまんな、勝手に買って……」
「ええ!?全然……なんだかすみません。ありがとうございます」
シュンスケも今日はいつもより上等そうな着物を着ている。
仕事に行くときはいつも洋装なのでなんだか違和感がある。
「旦那様もお似合いですね」
「…………」
イトが軽口を叩くとシュンスケは黙ってしまった。
(あー!ごめんごめんごめん!間違えた!あー!ムズい!外の世界ムズい!)
イトが謝ろうと口を開くと玄関の扉が開く音がした。
「サツキさんでしょうか?行きましょう」イトはシュンスケに部屋から出るように促すと襖を後ろ手で閉めた。そこにすかさず義母がやってきて(二人きりの時間が長かったかな?)とイトが内心自分の浅はかさを悔やんでいると
「イトさん、シュンスケと何かしてないでしょうね……」と義母が言ってきたのだ。
「……なにか?なにをするんですか?旦那様と私が?」イトがいつもと形式が違う義母からの質問にぽかんと口を開けると義母は顔を真っ赤にして俯いた。
「お義母さん?え?なに?なんで顔を赤くしているのですか?なんで?」
「や、やめなさい!端ない!ほら!行くわよ!」
「え?なんで?なに?なになに?」
イトは義母と義父を交互に見たけれど義母は顔を真っ赤に染めて義父は苦笑いしている。
(……?なに!?外の世界むずー!)
「イトさん!早く来なさいな!ったくもー!トロ臭いんだからー!」
義母は商店街の入口でキョロキョロしているイトに手招きすると嫌な感じのことを言った。イトは義母をよりイライラさせるためにゆっっくり歩くことにしたのだ。
「罰が当っちゃった?」
そんな嫌がらせをしているといつの間にか人の波に飲まれて一人ぼっちになってしまった。
イトはガヤガヤとたくさんの人が行き交う商店街で少し絶望したが、(どうせ迷子になってるのは変わらないんだし)と呑気に商店街を探索することにした。
「わー……床は……畳じゃなーい」
イトは地面を観察すると石のようなもので出来た床を踏みしめた。(やっぱり夢は想像を越えてはこないけど……現実って知らないことばかりだ!)イトはそれに感動すると商店街を眺めた。
沢山の建物がくっついて並んでいる。
イトは一番最初にあるお肉屋さんを外から眺めた。
(ぶ、た、に、く)
(ぎ、ゆ、う、に、く)
(片仮名?読めない!)
ガラスのケースのようなものにお肉がたくさん入っている。
(またお肉屋さん?)
イトはそう思って隣の店を見たけれど店名が片仮名と漢字で読めない。(さっきのお店は(に)(く)漢字だったからわかりやすかったのになぁ)イトがひょこっとそのお店を覗くとどこからともなく成人男性が騒いでいる声がする。
「いやいやいやいや!大人!大人の女性なんです!いやいやいや!子どもではなくて!」
「子どもじゃない?大人ですか?では自宅に帰っているんじゃないの?」警護員であろう人が困っている。
「か、帰れない……帰れないんです彼女は!ああ……ゆ、誘拐!誘拐されていたらどうしよう……あああああ!」
「だーかーら……落ち着いてくださいな。成人女性なんですよね?」
イトは(なんて恥ずかしい男性なのかしら?私なんて迷子になった成人女性だけどこんなに落ち着いているというのに)そんな恥ずかしい大人はどんな顔をして喚いているのだろうか見てやるとしよう……と振り返るとそれは思いっきりシュンスケだった。
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