【R18】聖なる☆契約結婚

mokumoku

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「聖女は子ができにくい。だから東で聖女が増えることは子どもが減ることに等しかったのね。だから本当は東としても聖女を最小限におさえたかったの。まあ、子ができにくい原因はこの場合恐らく貧血のせい。毎日たくさん血を流すから」


セラフィナはそう言うと物語の続きを話し始めた。

東に百人いた子どもがいつしか五十人になり、五十人いた子どもが二十五人になり、二十五人いた子どもな十二人になった。

国が頭を抱えていると

東の端っこで、光輝く子どもが生まれたと報告があった。


王様は藁にも縋る思いでその子どもを神の前に置くと、神はもうこの子以外に東の聖女はいらない。と言ってくださった。

そうして他の聖女たちは普通の生活に戻り、また子どもが増えて街には活気が戻りました。


めでたし

めでたし




「……その子どもが君だと?」
「……わからない。私は生まれてからずっと教会にいたから。父も母も知らない。だから生まれた時のことも知らない」
セラフィナは窓辺に立つと彼女に光が降り注いでいるような錯覚にクライドは陥った。
彼女の肌は白く、まるで彼女自身が発光しているように見えた。

「私も初めはたくさんの聖女とともに夜のお勤めをしていた」



いつも通り馬車に乗り、聖堂に座り込むと皆、胸を開けさせる。
いつ来るかわからない痛みを想像して黙り込んでいるとポタポタと出血が始まった。

その血は真っ赤な大理石に落ちるとすぐに消える。


「……え?」


一人の聖女が声を上げて立ち上がった。

彼女の開いた胸からは血が垂れていない。
その場にいた聖女全員が思った。

彼女はもう任務を終えたのだ。と


神が彼女の血を拒否したのだ。



一人の聖女は嬉しそうに上がった口元を慌てて隠すと服を着直し、また静かにその場に座った。

(いいな……)

セラフィナは痛みに顔を歪めながらその聖女を羨んだ。





「そうしてまた一人……また一人と聖女は減っていった。そして結局夜のお勤めは私一人になったのよ。嫌だったな……」
「……そうか……」
「蚊に刺されたことがある?」
「……蚊?ああ」クライドは聖騎士になってから生まれて初めて蚊に刺されたことを思い出す。宮殿の守られた環境から放り出されて色んな経験をした。
「蚊はね、刺す時の痛みを忘れさせるために痒みを感じる毒を注入するの。神様が……私たち東の聖女に与える力も……きっと同じようなものよ」
セラフィナは窓の側にじっと蹲る蜘蛛に手をかざすと、先程まで死も間近な様子だった蜘蛛はカサカサと慌ててその場を去った。

クライドはそれを見て目を見開く。
(……詐欺師では……)
「私、まだ明るいからなんでも治せるの。怪我はない?」


クライドはそう言うセラフィナを無言で背後からギュッと抱き締めた。
「……西がどんな考えかは知らない。東の考えも……でも、私はもう聖女は辞めたいのよ……痛いんだもの……こんな力もいらない」
「……そうだな」
セラフィナの横顔は涙を流さず泣いているように見えた。





悲しみの塊だ。
人生は。
悲しみが一つになってできている。



「ほら、セラフィナ。腹が減ったのではないか?朝食を食いに行こう」クライドはセラフィナの頭に頬を寄せるとそう言った。
「……うん、そうだね」
クライドの顔を見上げたセラフィナの顔は朝日に輝いてキラキラと美しかった。
まるで、辛いことなどないように美しかった。





「おはよう、クライド、セラフィナ様」

クライドとセラフィナは既に食事を終えてカップを傾けているオリビアに挨拶を返すとクライドが隣に座るセラフィナの腰を抱いた。
「セラフィナ?ほら、なにが食べたいんだ?ここに無いものならばシェフに作ってもらおうか?」
「んー?肉!」
「そうか~肉か~肉な~肉は何の肉がいいんだ?セラフィナは~」クライドはセラフィナの答えに目尻を下げるとデレデレし始めた。何かがツボに入ったようだ……

オリビアがぽかんとそれを見ている。
セラフィナはクライドよりは冷静だったので顔を真っ赤に染めると「あー……あの……ちょっと仲良くなりまして……」と俯き弁明した。


クライドはセラフィナの頭を撫で回すと「そうなんでごございますよ。オリビア様……私と妻は相思相愛なことが判明いたしまして……それはもうラブラブなのでございます」とオリビアに言った。

オリビアは少し間を置いてから「……そう」と呟くと涙をポロポロと流して「よかった」と言った。
セラフィナはクライドを突き飛ばすとリリスからハンカチを受け取りオリビアの側に立ち、渡した。

「大丈夫ですか?」
「……だ、大丈夫……大丈夫。ごめんなさいね」

オリビアが涙を拭う。

そしてポツリと「クライドが女性を愛することができるようになるとは……」と笑いながら泣いた。


オリビアは知っていた。

神様に気に入られていたオリビアは不老不死を与えられていた。
ずっと側にいるように……

しかし、それはとても辛い人生だった。


自分がすることは毎日毎日祈りを捧げること。
他に娯楽はない。


オリビアの前に何度も何度もクライドは現れた。
毎回同じ理由で、同じようにオリビアの住む屋敷に現れた。

「今日から聖騎士をさせていただくクライドです」と

クライドの他の聖騎士も、毎回毎回同じように、同じ間隔で現れたのでオリビアは(この世というのは輪っかのようなものなのかもしれない)と思い始めていた。

そして彼らは皆、老い、亡くなっていった。




どの者もみんな、諦めたような顔で亡くなって…そしてまた廻ってオリビアの下に現れた。


しかし今回は違ったのだ。

セラフィナという女性とクライドは結婚した。

形だけとは言え、それはオリビアの中で驚くべき変化だった。
修正しなければ……と抵抗したが、それは無駄だったようで二人は身体を結んだ。



「よかった……幸せになりますよ。二人も、私も、世界も」


オリビアは泣きながらそう笑って言った。
何かが変わるような、そんな気がして笑った。
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