40 / 62
36
しおりを挟む
「うわぁ…たくさん人がいるんですね。もう夕方なのに…」
「ほら、ティ…ティシュアはぐれてしまうから…手、手を」王様は私に手を差し出した。
私はそれをそっと握る。
「はい、アインス様」
「ほら、あっちが入口だ」王様は私の手をギュッと握るとゆっくりと入口に向かい歩き出す。
「お前は何もせずとも良いから…黙ってついてこれば」王様に私の緊張が伝わったのかそう小さな声で言われた。
私はまさにどうしたら良いのかわからず胸がドキドキしてしまっていたのでホッと安堵の息を吐く。
大きな扉が壁一面に何枚も並んでいる。
私がどこから入ればいいのかしら…!と思っているとドアマンがその一つを美しく流れるような動作で開けてくれた。
王様がそこをくぐるので私もいそいそと着いていく。
中は木製の床、木製の壁、木製の天井と全てが木で統一されていてオレンジ色の灯りが優しく中を照らす。
…劇場なんて初めてだわ。
王様と一緒でなければ…右も左もわからなかった…
入口の直ぐ側には受付ゲートがあってその中にいる人にチケットを渡す。パチリと穴が開けられてまたそれは王様の手元に戻ってきた。
「外に出る時に必要なんだ」
私の視線を感じたのか王様がそう言った。
「そうなんですね」王様は胸ポケットにチケットをしまうと中央階段を進む。これもまた木製で艷やかな表面に彫られた模様が美しい。
階段には一段一段絨毯が敷き詰められていて
私はそれを踏みしめる。
落ち着いた木の色合いに臙脂色が溶け込んでいてまるで元から対であったかのようだ。
階段を上がるとまたしても扉があって、少し重たそうなそれを王様が開ける。私は先に入るよう手で促されて扉を潜るとすぐそこに二人掛けのソファが見えた。
両サイドには小さなテーブルがあり、既に軽食と飲み物が並べてある。
「わあ…バルコニーみたいですね」
私がソファの前に立つと眼の前には今まで見たこともない位に大きなカーテンがある。私は思わずバルコニーの縁に手をついて下を見下ろした。カーテンの前には小さな椅子が等間隔にたくさん並んでそれはチェスのボードのようだ。
「わあ…」
後ろからシャ…と小気味よい音がしたので振り返ると王様が扉の前にあるカーテンを閉めてくれている。「落ちないように気をつけろよ」王様は少し慌てたように私の側まで来るとソファに座らせた。
「凄く高い席ですね」
「…ああ、大衆席というわけには流石にいかんからな…」王様は瓶の栓を抜くと二つのコップそれぞれに中身を注いでいる。
「お酒でございますか?」
「ああ、弱いのにしてもらったから…」
私はそれを受け取ると口をつけた。
「甘い…」おいしいわ。
「……そうか」
王様はソファにもたれると足を広げてぐいっとそれを一気に飲み干した。「………本当だ。甘いな。……なんて甘いんだ」
私はなんだかその言葉が寂しげに聞こえたので俯く。
王様…なんだかいつもと様子が違う…
何かあったのかしら…
私はどうしたら良いのかわからなくてテーブルにのったプレートの上からチーズをピンで刺し王様の口元へ運ぶ。
「お酒を注いでくださったので…お返しです。ふふ」
「…そうか…」
王様は私の肩を抱くと口を開けたので私はそこにチーズを寄せた。「どうぞ?」「ああ」
王様はそれを口に含むと別の瓶からお酒を自分のコップに注いでいる。
「それは?」
「これは…度数が高いから………俺用だ」そう言って一気に飲み干した後私にそっとキスをした。
「………苦い」
「俺には苦い位がちょうどいいんだ…何もかも」
「ん…」
王様はそう呟くと舌を差し込んでくる。
苦かった舌先が私の唾液と合わさって甘くとろけるような心地になった。王様の吐く息で…私も酔ってしまいそう。
鎮静剤を持ってくればよかった…さっき服んできたのに…全く効いている気がしない…
でも…お酒と相性が悪いかしら…?お酒と服まないほうがいい?
だから効果が切れてしまったの?
王様は私の腰を強く抱くと硬くなった男性器を押し付けてくる。
私は鎮静剤を飲んでいるのにも関わらず性的興奮を感じて陰部がギューッと切なくなって混乱する。
変なの…
鎮静剤が効いてない…
私たちが離れると舌先同士が糸で繋がった。
それは淡いオレンジ色の下でキラリと輝く。
「ティシュア…」
「アインス様…もう一度…」
「わ、わかった…もう一度…もう一度な…」王様は私が寄せた唇にもう一度吸い付くと舌を差し込んでくる。
甘く蕩けそうな心地なのは…お酒のせいかしら…
王様に包まれて私は見えなくなってしまったのではないかしら。大切なものに触れるような優しい手付きで王様は私の頬に触れた。「ティシュア…」私も手をのばすと王様に触れた。
大きくて…
うっすらとある頬にかすめたような傷跡をなぞる。
「気になるか」
「……戦った跡です」あなたが国を護るために戦った跡だ。「気になります…あなたの勲章だから」「俺のこの傷を…勲章と呼ぶか…ははは」王様は目を伏せると笑った。
「勲章だわ。あなたが命を掛けて護ったものへの」
私は少し寂しそうにしている王様がなんだか愛しく感じてそっと抱きついた。彼は私の背に回していた手に力を込める。
「あなたは戦って取り戻した。傷だらけになって」
「ティシュア…」
「誇りに思います。私の夫は…素敵な人だわ」
私は王様に抱きつくとキスをした。
「ほら、ティ…ティシュアはぐれてしまうから…手、手を」王様は私に手を差し出した。
私はそれをそっと握る。
「はい、アインス様」
「ほら、あっちが入口だ」王様は私の手をギュッと握るとゆっくりと入口に向かい歩き出す。
「お前は何もせずとも良いから…黙ってついてこれば」王様に私の緊張が伝わったのかそう小さな声で言われた。
私はまさにどうしたら良いのかわからず胸がドキドキしてしまっていたのでホッと安堵の息を吐く。
大きな扉が壁一面に何枚も並んでいる。
私がどこから入ればいいのかしら…!と思っているとドアマンがその一つを美しく流れるような動作で開けてくれた。
王様がそこをくぐるので私もいそいそと着いていく。
中は木製の床、木製の壁、木製の天井と全てが木で統一されていてオレンジ色の灯りが優しく中を照らす。
…劇場なんて初めてだわ。
王様と一緒でなければ…右も左もわからなかった…
入口の直ぐ側には受付ゲートがあってその中にいる人にチケットを渡す。パチリと穴が開けられてまたそれは王様の手元に戻ってきた。
「外に出る時に必要なんだ」
私の視線を感じたのか王様がそう言った。
「そうなんですね」王様は胸ポケットにチケットをしまうと中央階段を進む。これもまた木製で艷やかな表面に彫られた模様が美しい。
階段には一段一段絨毯が敷き詰められていて
私はそれを踏みしめる。
落ち着いた木の色合いに臙脂色が溶け込んでいてまるで元から対であったかのようだ。
階段を上がるとまたしても扉があって、少し重たそうなそれを王様が開ける。私は先に入るよう手で促されて扉を潜るとすぐそこに二人掛けのソファが見えた。
両サイドには小さなテーブルがあり、既に軽食と飲み物が並べてある。
「わあ…バルコニーみたいですね」
私がソファの前に立つと眼の前には今まで見たこともない位に大きなカーテンがある。私は思わずバルコニーの縁に手をついて下を見下ろした。カーテンの前には小さな椅子が等間隔にたくさん並んでそれはチェスのボードのようだ。
「わあ…」
後ろからシャ…と小気味よい音がしたので振り返ると王様が扉の前にあるカーテンを閉めてくれている。「落ちないように気をつけろよ」王様は少し慌てたように私の側まで来るとソファに座らせた。
「凄く高い席ですね」
「…ああ、大衆席というわけには流石にいかんからな…」王様は瓶の栓を抜くと二つのコップそれぞれに中身を注いでいる。
「お酒でございますか?」
「ああ、弱いのにしてもらったから…」
私はそれを受け取ると口をつけた。
「甘い…」おいしいわ。
「……そうか」
王様はソファにもたれると足を広げてぐいっとそれを一気に飲み干した。「………本当だ。甘いな。……なんて甘いんだ」
私はなんだかその言葉が寂しげに聞こえたので俯く。
王様…なんだかいつもと様子が違う…
何かあったのかしら…
私はどうしたら良いのかわからなくてテーブルにのったプレートの上からチーズをピンで刺し王様の口元へ運ぶ。
「お酒を注いでくださったので…お返しです。ふふ」
「…そうか…」
王様は私の肩を抱くと口を開けたので私はそこにチーズを寄せた。「どうぞ?」「ああ」
王様はそれを口に含むと別の瓶からお酒を自分のコップに注いでいる。
「それは?」
「これは…度数が高いから………俺用だ」そう言って一気に飲み干した後私にそっとキスをした。
「………苦い」
「俺には苦い位がちょうどいいんだ…何もかも」
「ん…」
王様はそう呟くと舌を差し込んでくる。
苦かった舌先が私の唾液と合わさって甘くとろけるような心地になった。王様の吐く息で…私も酔ってしまいそう。
鎮静剤を持ってくればよかった…さっき服んできたのに…全く効いている気がしない…
でも…お酒と相性が悪いかしら…?お酒と服まないほうがいい?
だから効果が切れてしまったの?
王様は私の腰を強く抱くと硬くなった男性器を押し付けてくる。
私は鎮静剤を飲んでいるのにも関わらず性的興奮を感じて陰部がギューッと切なくなって混乱する。
変なの…
鎮静剤が効いてない…
私たちが離れると舌先同士が糸で繋がった。
それは淡いオレンジ色の下でキラリと輝く。
「ティシュア…」
「アインス様…もう一度…」
「わ、わかった…もう一度…もう一度な…」王様は私が寄せた唇にもう一度吸い付くと舌を差し込んでくる。
甘く蕩けそうな心地なのは…お酒のせいかしら…
王様に包まれて私は見えなくなってしまったのではないかしら。大切なものに触れるような優しい手付きで王様は私の頬に触れた。「ティシュア…」私も手をのばすと王様に触れた。
大きくて…
うっすらとある頬にかすめたような傷跡をなぞる。
「気になるか」
「……戦った跡です」あなたが国を護るために戦った跡だ。「気になります…あなたの勲章だから」「俺のこの傷を…勲章と呼ぶか…ははは」王様は目を伏せると笑った。
「勲章だわ。あなたが命を掛けて護ったものへの」
私は少し寂しそうにしている王様がなんだか愛しく感じてそっと抱きついた。彼は私の背に回していた手に力を込める。
「あなたは戦って取り戻した。傷だらけになって」
「ティシュア…」
「誇りに思います。私の夫は…素敵な人だわ」
私は王様に抱きつくとキスをした。
38
お気に入りに追加
1,150
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる