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「星を見てたのか」
私が寝室のバルコニーに出て星を眺めていると王様が後からやってきた。「…はい、綺麗だったので」今日は満天の星空で…先ほどまでベッドで待っていたのだけれど、我慢できず外へ出てしまった。
こちらは夜だと言うのに肌寒さは全くなく、温い風が吹いている。「すごく綺麗…」私はあまりの美しさにそう呟いた。あっちでも寒さで空気が澄んでいたので星が美しかったけれど、私はあまり予算がなかったので防寒着が貧弱すぎて寒さが痛かったのよね…
セドリックがよく自分の上着を羽織らせてくれたけど「寒くないですか?」と震えを耐えながら耳先を赤くするセドリックを見てなかなか長く星空を楽しむことはできなかった。
でもここでは外でも眠ることができそう。
「ふふ…」
「王妃は星が好きか」王様は手に持っていたグラスとワインをサイドテーブルに置くと寝室から出て行った。「……?」何か気分を害するようなことを言ってしまったかしら…
私は一気に不安に襲われてバルコニーの手すりに背をつけて王様が出て行った扉を見た。
そこは開け放たれていて夜なのでどこまでも暗闇が続いているように見える。私はなんとなく得体の知れない恐怖を感じて腕を擦る。
「怖い…」
「大丈夫か?」暗闇からソファを持ち上げた王様が現れた。
「ひ…」王様はどでかいソファをなんのこともないように持ち上げながらこちらにやってくる…ちなみにソファは二人がけだ…私が思いっ切り引いていることに気付いているのかいないのか、王様はドスンとバルコニーにソファを置くとグラスやらを乗せたままサイドテーブルを運んできた。
「何してるんだ?座れ、王妃よ」私は言われるがままにソファへ崩れ落ちるように座る。王様も私の隣に座ると「ほら」とグラスを渡された。
「え?」
「飲まんか?」王様は片手で持ったワインの注ぎ口をこちらに向けるとそう言った。私は注ぎやすいようにグラスを近寄せると「い、いただきます」と答えワインを注いでもらう。
「ほら」されるがままグラス同士をカチャンと合わせる。
王様は背もたれに手をもたれかけながら「ふん…まあ、悪くないな」と空を見上げて言った。
私はグラスを回した後口を付ける。
いい香り…
「あまり強くないだろう。甘めにしておいたが…ゆっくり飲めよ?」「…はい…」なんだろう…
私は王様の行動の意図が汲めず戸惑ってしまう。
「ん…」パチパチする!
「はは、発泡ワインは初めてか?アルコール度数が低いのがこれしかなくてな。口に合わないか?」王様は笑い声を上げると立ち上がり「つまみを持ってこよう」と言った。
「あ、あの…私が…」慌てて立ち上がろうとする私を手で制すと「今日は俺が動きたい気分なんだ」と部屋を出て行った。私はなんだか不安な気分で足をブラブラさせた。
端ないから止めなさいと言われたり、幼げでいいと言われたり…どうしたらいいかわからないこの癖は矯正の結果一人きりのときに出る癖として残った。
王様が残していったグラスをぼんやりと見つめ、ワインのボトルをまじまじと眺めた。よその国には暗殺用に一つの口から異なる液体を出せるポットがあるらしい。
「………普通だわ」
「どうした?」いつの間にか背後にプレートを2枚持った王様が立っていて私に声を掛けた。
「あ…い、いえ…発泡を見て…いました…ふふふ…」
「王妃は発泡が好きか?はははははははは!そうか!今度炭酸水とやらを食事で出してもらうか?東の水源で汲めるらしいからな!あ、………旅行でもするか?東の方へ…し、し、し、新婚旅行というか…………はははははははは!はははははははは!はははははははは!」
「旅行は行かなくても大丈夫ですので…お気遣いありがとうございます」旅行なんて行ったら自慰行為ができなくなっちゃう!
「そ、そうだよな。はははははははは…冗談だ…」
王様はそう呟くように言うとコトリとプレートをテーブルに置いた。チーズとナッツ、乾いたフルーツが盛り付けてある。
私はピンでチーズを刺すと口に運んだ。
コクがあって美味しいチーズだ。
少しクセがあるけれど、ワインの香りと混ざるととても心地よい後味に代わる。「…うまいか?」「はい」とても美味しい。
このワインのために盛り付けられたプレートだわ。
「あー…あのな。あのー…」
「はい」
「あのー…あのー…あのー…な、あのー」王様は同じ用語を繰り返しながら自分でワインのおかわりを注いでいる。私が手を出すとやんわりとした態度で制される。
「あの、あの、あのあのあの…………………そろそろ国民に向けて王妃をお披露目したいのだが…」
「あ、はい」そう言えばお披露目されていないわね。必要ないからしてなかったのかと思っていたけれど…こちらにもそのような風習はあるのね。
「ただ王宮のバルコニーに立つだけだからあまり気負いしなくとも良い、お前は立っているだけで良い」
「はい」
王様はグラスをゆっくりと回してそれを見つめている「そ、それでな」「はい」「服をな」「はい」「あの、ふ…二人で決めたくてな」「はい」「デザイナーがな」「はい」「み、店に来たほうがサンプルが多いとな」「はい」
「……………」
「……………」
「………だから明日二人で街へ」
「む…無理です」街に二人で行くなんて!絶対の絶対に無理…!別々の馬車なら大丈夫かもしれないけど…前みたいに馬は絶対に無理…!同じ馬車も無理!!襲って斬り殺されてしまうわ!!
「そ、そうか…そうだよな。そ、そうだよな…はは…はははははははははははははははは!そうだよな!すまんすまん!街へ二人きりで出掛けるなど!それはなあ?ははははははははいやだよな!はははははははは!じゃ、じゃあ俺が一人で決めて来よう!…はははははははは…はは…どんな色がいいとか…あるか?はは…」
「私こちらのしきたりがよくわかりませんので…王様がお決めくださいませ。私はどんなお色でも構いませんので」私は王様の方を向くと頭を下げた。
人前に出るのは苦手だなぁ…
「はははははははは!わかったわかった!お前に似合いそうな物を選んでやろう!はははははははは!はははははははは!まあ、お前はかわいらしいからなんでも似合うだろうがな!!…………はははははははは!なんてな!はははははははは!!はははははははは!かわいらしいからなんてなぁ!そんななあ!はははははははは!」
「ふふ…」何を騒いでらっしゃるのかしら?
はーあ…私も街に行ってみたいなぁ。
お買い物ならここでもできるけど…
「ほ、ほら…今日も手を繋ごう」
「健康になりますか?」王様はそろそろ寝ようと私を寝室に誘うと手を出してそう言ったので私は健康法の効果が出たのか尋ねる。
「あ…ああ…そうだな。健康のためだから仕方がない。我慢してくれ…」王様はそう言うと私の手を握る。月明かりが室内を照らすと王様が少し不安そうな顔をしてらしたので「ふふ…そうではなくて…健康にはなりましたか?という質問でした」と私は笑う。
「あ、そ、そうか…そうだな。け、健康というよりは…その、し…幸せになるという感じかもしれんな、なーんて…ど、どうだ?王妃?お前は効果というかその…」私は王様の声を聞きながら瞼が下がっていくのを抗わず受け入れる。
「幸せ…」よく眠れるから…幸せかもしれない。
「し…幸せ…?そ、そうか?そうか?はははははは…そうか…お前も…そうか…」
「……」
「眠いか?……すまん、静かにしような。ははは…」
………
……
「え!?王様が街へ行っている間にですか!?」
「しー!静かにして…イブお願い…私街へ行ってみたいの。王様がいると一緒にお出かけしなきゃいけなくなってしまうし…私そうすると男性と密着してしまうから…落ち着いていられないの…」私は胸の前で手を組みながらイブに懇願した。
今日王様は式典の服を買いに出かけるから…その間に私もコッソリ街へ出たい!
「お願い…ダメ?」
「し、しかし…その間に王妃様に何かございましたら…」
「護衛は?護衛をつけるとか…」
「うーーーん…!」その護衛と仲良くなってあわよくば恋仲になってしまうかも!キャー!
「はじめまして王妃様」
「はじめまして」
私はイブに聖堂へと連れ出されると
一人の聖職者と対面させられた。
中性的で美しい様子の男性にお勉強を思い出した私はソワソワしてしまう。なんだか胸にモヤモヤしたものが広がっていく…
「ご安心ください。王妃様、私かれこれもう200年程生きておりますゆえ…女性にはもうあまり興味がないのですよ」
「え?」
私は驚き顔を上げる。
どう見ても20代の青年だからだ。
「神殿長様はご冗談が上手くて…話半分に聞いて大丈夫だと思いますよ」イブがコソッと私に耳打ちした。
…半分でも100才!!
……見えない。
それに…私今何もお話してないわ…私のあちらでの生活は誰も知らないはずなのに…
私はなんだか救われた気がして神殿長の顔を見上げた。
「王妃様…御辛いですね。その指輪は外されないのですか?」彼は私の指輪をさしてそう言う。「あ…これは実家から外さないように言われておりまして…」「なるほど、いつでも外していいと思いますよ?」「……でも…」私が戸惑う様子を見せると神殿長は手を左右に振り「まあ、強制はできませんので…」と静かに言った。
「街へ出たいのですか?」
「は、はい!あの…街を歩いてみたくて…私、一度も街へ出たことがないので」聖堂には美しい光が射し込んでいて目が霞むくらいだ。
神殿長はゆっくり頷くと「では私がお供しましょう」と言った。「え?」
「あー街なんて500年振りだなぁ」
「え?」
さっき200年程生きているって言ったのに!?
私が寝室のバルコニーに出て星を眺めていると王様が後からやってきた。「…はい、綺麗だったので」今日は満天の星空で…先ほどまでベッドで待っていたのだけれど、我慢できず外へ出てしまった。
こちらは夜だと言うのに肌寒さは全くなく、温い風が吹いている。「すごく綺麗…」私はあまりの美しさにそう呟いた。あっちでも寒さで空気が澄んでいたので星が美しかったけれど、私はあまり予算がなかったので防寒着が貧弱すぎて寒さが痛かったのよね…
セドリックがよく自分の上着を羽織らせてくれたけど「寒くないですか?」と震えを耐えながら耳先を赤くするセドリックを見てなかなか長く星空を楽しむことはできなかった。
でもここでは外でも眠ることができそう。
「ふふ…」
「王妃は星が好きか」王様は手に持っていたグラスとワインをサイドテーブルに置くと寝室から出て行った。「……?」何か気分を害するようなことを言ってしまったかしら…
私は一気に不安に襲われてバルコニーの手すりに背をつけて王様が出て行った扉を見た。
そこは開け放たれていて夜なのでどこまでも暗闇が続いているように見える。私はなんとなく得体の知れない恐怖を感じて腕を擦る。
「怖い…」
「大丈夫か?」暗闇からソファを持ち上げた王様が現れた。
「ひ…」王様はどでかいソファをなんのこともないように持ち上げながらこちらにやってくる…ちなみにソファは二人がけだ…私が思いっ切り引いていることに気付いているのかいないのか、王様はドスンとバルコニーにソファを置くとグラスやらを乗せたままサイドテーブルを運んできた。
「何してるんだ?座れ、王妃よ」私は言われるがままにソファへ崩れ落ちるように座る。王様も私の隣に座ると「ほら」とグラスを渡された。
「え?」
「飲まんか?」王様は片手で持ったワインの注ぎ口をこちらに向けるとそう言った。私は注ぎやすいようにグラスを近寄せると「い、いただきます」と答えワインを注いでもらう。
「ほら」されるがままグラス同士をカチャンと合わせる。
王様は背もたれに手をもたれかけながら「ふん…まあ、悪くないな」と空を見上げて言った。
私はグラスを回した後口を付ける。
いい香り…
「あまり強くないだろう。甘めにしておいたが…ゆっくり飲めよ?」「…はい…」なんだろう…
私は王様の行動の意図が汲めず戸惑ってしまう。
「ん…」パチパチする!
「はは、発泡ワインは初めてか?アルコール度数が低いのがこれしかなくてな。口に合わないか?」王様は笑い声を上げると立ち上がり「つまみを持ってこよう」と言った。
「あ、あの…私が…」慌てて立ち上がろうとする私を手で制すと「今日は俺が動きたい気分なんだ」と部屋を出て行った。私はなんだか不安な気分で足をブラブラさせた。
端ないから止めなさいと言われたり、幼げでいいと言われたり…どうしたらいいかわからないこの癖は矯正の結果一人きりのときに出る癖として残った。
王様が残していったグラスをぼんやりと見つめ、ワインのボトルをまじまじと眺めた。よその国には暗殺用に一つの口から異なる液体を出せるポットがあるらしい。
「………普通だわ」
「どうした?」いつの間にか背後にプレートを2枚持った王様が立っていて私に声を掛けた。
「あ…い、いえ…発泡を見て…いました…ふふふ…」
「王妃は発泡が好きか?はははははははは!そうか!今度炭酸水とやらを食事で出してもらうか?東の水源で汲めるらしいからな!あ、………旅行でもするか?東の方へ…し、し、し、新婚旅行というか…………はははははははは!はははははははは!はははははははは!」
「旅行は行かなくても大丈夫ですので…お気遣いありがとうございます」旅行なんて行ったら自慰行為ができなくなっちゃう!
「そ、そうだよな。はははははははは…冗談だ…」
王様はそう呟くように言うとコトリとプレートをテーブルに置いた。チーズとナッツ、乾いたフルーツが盛り付けてある。
私はピンでチーズを刺すと口に運んだ。
コクがあって美味しいチーズだ。
少しクセがあるけれど、ワインの香りと混ざるととても心地よい後味に代わる。「…うまいか?」「はい」とても美味しい。
このワインのために盛り付けられたプレートだわ。
「あー…あのな。あのー…」
「はい」
「あのー…あのー…あのー…な、あのー」王様は同じ用語を繰り返しながら自分でワインのおかわりを注いでいる。私が手を出すとやんわりとした態度で制される。
「あの、あの、あのあのあの…………………そろそろ国民に向けて王妃をお披露目したいのだが…」
「あ、はい」そう言えばお披露目されていないわね。必要ないからしてなかったのかと思っていたけれど…こちらにもそのような風習はあるのね。
「ただ王宮のバルコニーに立つだけだからあまり気負いしなくとも良い、お前は立っているだけで良い」
「はい」
王様はグラスをゆっくりと回してそれを見つめている「そ、それでな」「はい」「服をな」「はい」「あの、ふ…二人で決めたくてな」「はい」「デザイナーがな」「はい」「み、店に来たほうがサンプルが多いとな」「はい」
「……………」
「……………」
「………だから明日二人で街へ」
「む…無理です」街に二人で行くなんて!絶対の絶対に無理…!別々の馬車なら大丈夫かもしれないけど…前みたいに馬は絶対に無理…!同じ馬車も無理!!襲って斬り殺されてしまうわ!!
「そ、そうか…そうだよな。そ、そうだよな…はは…はははははははははははははははは!そうだよな!すまんすまん!街へ二人きりで出掛けるなど!それはなあ?ははははははははいやだよな!はははははははは!じゃ、じゃあ俺が一人で決めて来よう!…はははははははは…はは…どんな色がいいとか…あるか?はは…」
「私こちらのしきたりがよくわかりませんので…王様がお決めくださいませ。私はどんなお色でも構いませんので」私は王様の方を向くと頭を下げた。
人前に出るのは苦手だなぁ…
「はははははははは!わかったわかった!お前に似合いそうな物を選んでやろう!はははははははは!はははははははは!まあ、お前はかわいらしいからなんでも似合うだろうがな!!…………はははははははは!なんてな!はははははははは!!はははははははは!かわいらしいからなんてなぁ!そんななあ!はははははははは!」
「ふふ…」何を騒いでらっしゃるのかしら?
はーあ…私も街に行ってみたいなぁ。
お買い物ならここでもできるけど…
「ほ、ほら…今日も手を繋ごう」
「健康になりますか?」王様はそろそろ寝ようと私を寝室に誘うと手を出してそう言ったので私は健康法の効果が出たのか尋ねる。
「あ…ああ…そうだな。健康のためだから仕方がない。我慢してくれ…」王様はそう言うと私の手を握る。月明かりが室内を照らすと王様が少し不安そうな顔をしてらしたので「ふふ…そうではなくて…健康にはなりましたか?という質問でした」と私は笑う。
「あ、そ、そうか…そうだな。け、健康というよりは…その、し…幸せになるという感じかもしれんな、なーんて…ど、どうだ?王妃?お前は効果というかその…」私は王様の声を聞きながら瞼が下がっていくのを抗わず受け入れる。
「幸せ…」よく眠れるから…幸せかもしれない。
「し…幸せ…?そ、そうか?そうか?はははははは…そうか…お前も…そうか…」
「……」
「眠いか?……すまん、静かにしような。ははは…」
………
……
「え!?王様が街へ行っている間にですか!?」
「しー!静かにして…イブお願い…私街へ行ってみたいの。王様がいると一緒にお出かけしなきゃいけなくなってしまうし…私そうすると男性と密着してしまうから…落ち着いていられないの…」私は胸の前で手を組みながらイブに懇願した。
今日王様は式典の服を買いに出かけるから…その間に私もコッソリ街へ出たい!
「お願い…ダメ?」
「し、しかし…その間に王妃様に何かございましたら…」
「護衛は?護衛をつけるとか…」
「うーーーん…!」その護衛と仲良くなってあわよくば恋仲になってしまうかも!キャー!
「はじめまして王妃様」
「はじめまして」
私はイブに聖堂へと連れ出されると
一人の聖職者と対面させられた。
中性的で美しい様子の男性にお勉強を思い出した私はソワソワしてしまう。なんだか胸にモヤモヤしたものが広がっていく…
「ご安心ください。王妃様、私かれこれもう200年程生きておりますゆえ…女性にはもうあまり興味がないのですよ」
「え?」
私は驚き顔を上げる。
どう見ても20代の青年だからだ。
「神殿長様はご冗談が上手くて…話半分に聞いて大丈夫だと思いますよ」イブがコソッと私に耳打ちした。
…半分でも100才!!
……見えない。
それに…私今何もお話してないわ…私のあちらでの生活は誰も知らないはずなのに…
私はなんだか救われた気がして神殿長の顔を見上げた。
「王妃様…御辛いですね。その指輪は外されないのですか?」彼は私の指輪をさしてそう言う。「あ…これは実家から外さないように言われておりまして…」「なるほど、いつでも外していいと思いますよ?」「……でも…」私が戸惑う様子を見せると神殿長は手を左右に振り「まあ、強制はできませんので…」と静かに言った。
「街へ出たいのですか?」
「は、はい!あの…街を歩いてみたくて…私、一度も街へ出たことがないので」聖堂には美しい光が射し込んでいて目が霞むくらいだ。
神殿長はゆっくり頷くと「では私がお供しましょう」と言った。「え?」
「あー街なんて500年振りだなぁ」
「え?」
さっき200年程生きているって言ったのに!?
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