【R18】フォルテナよ幸せに

mokumoku

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「お、お嬢様!!」
「リリー!リリー!!」朝、ホールでソワソワとリリーの到着を待っていたフォルテナは彼女の到着に思わず駆け寄って喜んだ。リリーはフォルテナの側にいたクロードに深々と頭を下げると「旦那様、本日は私の勤務地変更の命を出してくださり誠にありがとうございます」と涙目で言った。
「お嬢様、希望は伝えていたのですが中々願い通りにならず……こんなに遅くなってしまい申し訳ありません」リリーはフォルテナをギュッと抱きしめるとそう言ったので「平気、平気よ。リリー……来てくれてありがとう」と涙をこぼした。

「あ、そうでございました。あちらからお手紙をいただきまして……」リリーは涙を拭いながら自分の荷物をゴソゴソとまさぐった。
そこから一通の手紙を出すとフォルテナに渡した。
クロードが手帳にペンを走らせた。

『俺も一緒に見ても?』

「一緒に?いいですよ」
フォルテナはキョトンと言った。
宛名が実の弟からだったし……
「弟からなので」
フォルテナがクロードを見上げてにっこりそう言うとクロードはぽかんと口を開けた後顔を真っ赤にした。

『そうでしたね』

「私も弟に会ったことがないので……実感はあまりないんです。旦那様なら尚更ご存じないのは仕方がないわ」フォルテナは机からレターナイフを取り出すと開封しようと封筒に当てた。
クロードが横から手を伸ばすとレターナイフに触れたので「……?開けてくださいますか?」とフォルテナが聞く。
クロードはコクコクと頷くとフォルテナの代わりに封筒を開封した後、彼女に中身を渡した。

『お姉様お久しぶりです。
いかがお過ごしですか?
あなた宛の手紙を見つけたので送付いたします』

事務的な内容に思わず笑ってしまう。
「弟はまだ15程で……なのにこんなにしっかりとした文章を書けるのね。ふふふ…」
「…………」
クロードから妙な空気を感じたのでちらりとそちらを見る。
彼は愕然とした顔で封筒の中に入った封筒を眺めていた。

「あ……うふふ。北の方の民芸品をご存じですか?木彫りの人形の中に更に一回り小さい人形が入っているのでございます」フォルテナは場を和ませようとそう言った。
少し大きめの封筒の中に封筒が更に入っているのがマトリョーシカにそっくりだ。

クロードはフォルテナを見つめると手帳にペンを走らせている。

『開けてみて』

「あ……はい。どちら様からかしら……あら?開いているわ」
フォルテナが宛名を確認するとそこにはよく知った名前が記入されていた。

『クロード・フローレス』

それは隣にいる夫の名前だった。
まだ独身だった私に宛てた夫からの手紙……

「どういうこと……?」
フォルテナが混乱しているとクロードが『読んで』と促したので中を見る。二枚ほどの便箋には美しい文字が並んでいる。
クロードは口をパクパクさせると俯いて手帳に再び文字を書いている。
『俺達はお互い勘違いしていたのかも』
『とにかくそれを読んでみて』

「……わ、わかりました」
フォルテナはなんだか不思議なこの結婚の真相がわかるような気がして便箋に目を落とした。








――俺はそもそも結婚する気などなかったんだ。――


でもひょんなことから自分が家を継ぐことになってしまった。
子を作らなければ……俺は頭を抱えた。





「クロード……お前も大変だったな」
退職の旨を伝えるとその後隊長から呼び出され気の毒そうに声を掛けられた。
「……はい」
両親と兄を亡くしたことを言ってくれているのだ。と思う。
いまいち家族を亡くしたという実感がなかった。
自分があまり家族の一員だという気分になったことがなかったからだ。両親と兄、そして俺。

俺はいつも家族から分離された存在だった。
両親と兄、俺と使用人。
虐待されていたわけではないし充分な教育も受けさせてもらい騎士にまでなった。しかし子どもの頃からいずれ出て行く人間なのだ。とお互いに感じていた。
血の繋がった他人だ。
両親のことも兄のこともよくわからない。あまり接触した記憶がない。
血の繋がった他人が一度に三人亡くなった。
気の毒だな…とは思う。
俺が昔のことを思い出してぼんやりしていると人情に厚い隊長が俺の肩をポンポンと優しく二度叩いた。悲しみに放心しているのかと心配を掛けてしまったのか……
「すぐ職務から離してやりたいが……既に決まっている任務はこなしてもらう必要がある。機密事項故に人を変更できん。……すまんな」
「……いえ平気です」
正直に言うと騎士の仕事は辞めたくなかった。
今まで努力して手に入れたものを離したくはなかった。

これから始まる屋敷の管理や領主の仕事……
そちらの方がよっぽど嫌だった。




「いいか気付かれてはならん」
「はい」


最後の任務は高貴な方々の屋敷の警備だった。
この方たちがかなり高貴の方で王家と繋がりがあった為、屋敷の配置などを我々が記憶する必要があるので今までの勤務成績順に上位の者と口が固いものを厳選し一人一人警備対象の主が面接をして選ばれた人員だった。
選ばれた時は誇らしかった。
世間に認められた気がしたものだ。


屋敷内にスパイがいるのでは?と疑った屋敷主が内密に俺達を屋敷に潜入させたのだ。普段着ている騎士服を脱ぎ、クロードは掃除夫の格好をして屋敷に泊まり込みの使用人として潜入した。
仲間との情報伝達方法はすれ違い様にこっそり文を書いた小さな紙を渡すのみ。任務中は直接接触してはならないルールだった。
一週間後調査報告を家主にする。
そういう任務だった。

クロードは極力印象を残さぬよう大きな身体を縮めてあまり口数の多くない掃除夫を演じた。まあ、彼は元々普段からあまり口数の多いタイプではないのだが……その口数の少なさも今回の任務に選出された理由の一つだろう。
ある時クロードは掃除用具を片付けようと倉庫に入った。任務六日目の朝だった。様々な情報が集まり明日で任務が終わる。少し油断していたかもしれない。
そうするとなんという運命のいたずらか。
人が一人だけ入ることができるであろう空間であるこの倉庫にある掃除用具入れ……いつもなら手を伸ばして掃除用具をそこに収納する。
しかしその日に限って奥がグチャグチャと乱れていたのだ。
一時的に勤めている勤務地とは言え、いやだからこそクロードはしっかりしたかった。
自分が去った後だらしないと思われるのは嫌だったのだ。
クロードは身を小さくして掃除用具に入った。その時、掃除用具の前に一時的に立て掛けておいた用具がグラリと倒れ扉がバタン……としまった。
「いかん……」
クロードは若干閉所恐怖症だった為内心焦りつつ、狭いこの空間では身体を回転させることができないので、後ろ向きのまま肘で扉を開けようと押した。
「…………」開かない……

クロードは全身の毛穴が開く心地がした。
ゾゾゾ……と嫌な想像が働く。
任務最終日の前日、クロードは狭い掃除用具入れに閉じ込められた。
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